2002年の読書記録*11月



纏足(てんそく)  馮 驥才(ふうきさい)  小学館文庫
満足度
お薦め度
★★★
あらすじ 類まれなる「金蓮」(見事に小さな足のこと)を持つ美少女 「戈香蓮(かこうれん)」は、貧しい家の娘でありながら、その「金蓮」ゆえに名家に嫁ぐ。しかし、そこで繰り広げられたものは、「纏足」をめぐる醜い争いと、数奇な運命だった。
感想 「縛って!!もっと強く!!」と叫ぶ少女。ちょっと危ないですな。
纏足って、ご存知と思うけど1000年以上も続いた中国の習慣で、女性の足は小さいほどいいということで、まだまだ成長しきらない4〜5歳のうちから足を縛って、成長を止めるのだ。
結果「三寸金蓮」と言って、三寸=約9センチ。これが大人の女性の足のサイズで、4寸ともなるともう、大足なんである。(わたしなんかどうなるの?)
これは後宮の風習で、女官たちを拘束する意味合いと、男たちの性的玩具としての意味合いやら、いろいろと理由はあるらしい。が、足が大きいとそれだけで嫁ぎ先もなく、嫁いだとしても婚家でむちゃくちゃいびられたらしい。
「なんてかわいそうな」と、当時の女性に同情を禁じえないんだけど、当の本人たちはそれを幸せと信じて自ら望んで纏足に励むのだ。
主人公香蓮も、初めて足を縛ったときはその激痛にもだえ苦しむのだけど、それが自分の幸福につながると知っては、誰にも負けない「小足」を目指して「もっと強く縛って!誰よりも強く!」と野望に燃えて足を縛るのである。その結果、香蓮の名は「金蓮」として、天津で知らぬものはないほど轟きわたる。
しかし、時は残酷。西洋の新風が吹き抜けると、纏足は前時代的な悪習として「負け組み」に成り下がる。
その対極「自然足の会」の会長は誰か・・。
纏足に生き纏足そのものの人生を送った香蓮の人生に、いつも時代も女は男の目を気にして生きているのではないだろうかと、哀れを感じつつ、逆に天晴れも感じるのだった。





デッドゾーン  スティーブン・キング  新潮文庫
満足度
お薦め度
★★★★
あらすじ ジョン・スミスは高校教師だったが、ある事故で4年以上の昏睡状態に。
長い昏睡から目覚めたジョンは、自分に不思議な能力が宿っているのを知る。
ジョンと、元恋人やジョンの両親、いろいろな人を巻き込んでジョンの能力はどこへ行くのか。
感想 突如サイキックとなってしまった青年の心の戸惑いや、使命感それから逃げたいと思う気持ち、入り乱れるジョンの心中を余すところなく描いていてグッド。
キングのすばらしいところ。
彼はホラー作家として怖いものを書かせたら右に出るものはいない・・と言うような言われ方をしているが、私としては断然「人間の内面の切ない部分を描かせたらナンバーワン」と言いたい。
ジョンは覚醒後、サイコメトリングの能力を授かったわけで、そのドラマ性も確かに大きく面白い。ただのサイコメトラーとはちょっと違い、未来までも見えてしまうんである。
未来がわかったなら、人はどういう行動をとるか?
人類普遍のテーマであろう(マジで?)。たしかに、そこの部分のストーリー展開も面白いんである。
しかし、読者はその苦悩にあえぎ、なおかつ昏睡がもたらしたさまざまな悲劇に苦しみ悲しむ主人公の姿にこそ、共感を覚えるのではないだろうか。
ラスト、ああいった形の終焉以外に、考えられる形はなく、なんだかほっとしてしまった。





亀裂  アンソロジー  角川ホラー文庫
満足度
お薦め度
★★★★
あらすじ 阿刀田高(知らないクラスメート)・高橋克彦(大好きな姉)・荒俣宏(シム・フースイ)・景山民夫(ミッドナイト・ラン)・鈴木光司(浮遊する水)・綾辻行人(再生)・山崎洋子(備えあれば憂いなし)・・・以上7人の手によるホラーの競演。
感想 この中で一番好きだったのは、綾辻さんの「再生」と、山崎洋子さんの「備えあれば憂いなし」の2作品である。
ネタばれは避けたいので、多くはいえないけど、ただユーレーが出てくるホラーじゃなくて、発想が見事だと思うのだ。
「再生」:「自分のどこが傷ついても、すぐにまた再生する」という、蛸のような女性と恋愛した大学教授は、おいおい、ある秘密を知ることになる。そして病気になってしまった女性のために、狂気めいた行動に出る。
恋人の「再生する」という言葉を信じて。
ぞっとするのである。
「備えあれば憂いなし」:肌のための銀行がある。としたら、あなた、使いますか?
若いころの肌を「貯金」しておいて、年とともに衰えた肌に預けておいた「貯金」をおろすのだ。すると、肌がたちどころに若返る、というもの。
女性作家ならではの、女性心理を見事に表した傑作だと思う。
「浮遊する水」:映画「仄暗い水の底から」の原作でした。前に読んだけど、これも、なかなか陰気でぞぞーっとして、好きだなー。


DIVE!! 1〜4巻 森絵都  講談社
満足度
お薦め度
★★★★★
あらすじ タイトルどおり「ダイビング」という割と人に知られる機会のない、地味目のスポーツのハナシ。いわゆるスポ根であります。
感想 全4巻という長編だけど、もうあっという間に読んでしまった。
森さんの文章って、どうしてこんなに暖かいんだろう?
きっと作者自身が暖かい人なんだろうな〜って思う。
文中のユーモラスな部分など読むと「こう言うことを言う人はきっと、教室でも人気者だったんだろうな」って思ってしなう。
なんでもない登場人物の呟きにさえ、じ〜んとしてしまう。
泣ける部分と笑える部分とのバランス感覚が長けているというか、読み手に重いものを背負い込ませないでいて、それで感動させてくれるし、泣かせてくれる、もちろん微笑ませてもくれる、森さんの力量のすごさにただ唖然としてしまう。
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1巻
主人公は中学2年生「知季」全然パッとしない選手だったのが、夏陽子というやり手のコーチのおかげで才能が開花する。
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2巻
主人公は「飛沫(しぶき)」高校2年生。おじいさんがダイブをしていて沖縄から出てきた。この子が一番ドラマチックな感じ。
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3巻
主人公「要一」飛沫と同じく高校2年生、クールで努力家だけど、努力してるところを見せない。ギリギリのふちに立ち孤独の中で実力を発揮する。サラブレッドでもあり、才能に恵まれた選手。
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こんな風に、1巻ずつ主眼がかわる。それぞれの思いがキッチリ描かれ、 主観と客観の微妙な違いを楽しめる、ニクイ演出だ。
でもなんと言っても圧巻は4巻。
ある大きな試合を丁寧に描いていく(10本のダイブを順を追って描いてゆく)ある意味まどろっこしいかもしれないが、作者のすごいところは、ここでは今まで脇役だった登場人物にもスポットライトを当てながら、物語を膨らませて、なおかつ試合展開をスリリングに実況していく。
ここに森さんの、登場人物たち(例え脇役でも)への愛を感じる。
たとえらくだ色のパンツをはいてる、嫌味な感じの選手さえ、森さんは微笑んで見つめているのがわかる。
こんなに愛された登場人物たちが、つまらないドラマを描くはずがないのだ。
試合の様子はスピーディで緊迫感と臨場感に満ち、この目で見てるように手に汗を握りながら、そしてさながら、この子達の身内のような気持ちになり、今まで頑張ってきたもんなぁ!なんて感慨に浸っては、涙を流しながら読んだ。
本を読む醍醐味がこの本にはある。「読書が好きな自分でよかった。」と、心底から思わせてくれる。そんな作品。


オリジナルサイコ  ハロルド・シェクター
     ハヤカワノンフィクション文庫 
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お薦め度
★★★
あらすじ エド・ゲインの成長の過程と犯行のあらまし、逮捕と裁判の様子などなど。
感想 プレイフィールドの屍食鬼、そう聞いてもしも「ぴん!」と来るものがあれば、アナタは相当な通です!!
エド・ゲイン、それはヒチコック監督の名画「サイコ」の主人公「ノーマン・ベイツ」のモデルとなった人物だ。
彼のしたことは、ざっと言ってしまうと、墓を暴き、死体を切り刻み、皮をはぎ、ベストや顔のお面を造ったり、女性の局部や鼻やくちびるといったさまざまな部分を無造作にコレクションしていたらしい。
殺人鬼のように世間では受け止められているかもしれないが、実際に彼が手にかけて殺したのは、判別しただけで2人だけのようである。
しかし、墓を暴いて死体を切り刻むと言う行為は正気の沙汰とは思えない。
そう、彼は精神を病んでいたのだ。
本書では、残虐な行為をした彼への非難とともに、そのように成長してしまった彼への同情も伺える。
何故、こんな風になったのか、なぜ・・。
幼少時代の母親のエディに対する接し方が、モンダイだったようだ。
狂信に近いほどの信仰心、男女の恋愛を邪悪だとする異常心理、はて?どこかで聞いたような?
じつは愛するキング作品の「キャリー」の母親にそっくりだ。
子供の成長過程における母親の接し方で、子供が犯罪者になるか否かが決定する・・・と言われたら、その立場としては、断固講義すべきだとは思うが、でも、そうかもなー・・と思ってしまう部分も確かにある。
そう考えると、このエディ、やはりかわいそうになってくるのである。


満足度
お薦め度
★★★★
あらすじ
感想