2002年の読書記録*12月



殺人全書  岩川隆 光文社文庫
満足度
お薦め度
★★★★★
あらすじ 明治から昭和までの殺人事件の数々を800ページに渡り延々とレポート。
感想 ただ、作者の根気と情熱に感心する。
800ページと言う長さもすごいが、取材に十数年かけたと言うのもすごい!
殺人について語るなんて、ホラーチックだと思うかもしれないけど、違うんである。
ここに描いてあるさまざまな殺人にはそれぞれのドラマがあり、時代背景によって動機や殺人方法もいろいろだ。
それを、とっても細かく丁寧に取材してきっちりと整然とレポートしてあるところに、この本の値打ちがあるのだと思う。
読むだけでハラワタが煮えたぎるほど許せない、憎い犯人もいれば、その顛末に同情して泣かずにおれない犯人もいる。
この長い作品の感想を一言で書くのは難しいが、全編にあるのは著者の「人」に対する「情」だと思う。それが読み手にひしひしと伝わり、殺人の惨さをただ興味本位に書いてあるのではないのがわかる。
作者の意図がみごとに私にははまったので、そうそう、そのとおりです!と、うなづいたあとがきをご紹介たいと思う。
「人が人を殺すと言うのは間違いなく最高の悪だが、そこには人と人とのぎりぎりの状況が現れており、人間のおかしみや不思議や恐ろしい暗部が垣間見え、人間が生きるとはどういうことか、喜びや悲しみとは何か、と言うことから始まって時代や文明のことまで深く考えさせてくれる」
2003年の〆本を飾るにふさわしい、すばらしい1冊だった。





16の殺人ファイル  ヒュー・ミラー  新潮文庫
満足度
お薦め度
★★★
あらすじ 過去半世紀に起こった凄惨な殺人事件を法科学の立場から事件の解決に貢献する、科学者たちの姿を描く。
感想 死体の写真が冒頭からびびらせてくれる。
ほんの些細な手がかりから、犯人を突き止めていく様は見事だった。
死体が流した「血溜まり」の形からさえ、疑問を感じて犯人逮捕へと導く。
アメリカ的というのか、淡々と筋を追い描かれているのが、無機質的なかんじで余計に殺人の寒々しさを感じた。





葡萄物語   林真理子  集英社文庫
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お薦め度
★★★★
あらすじ 葡萄農園の「嫁」映子。さまざまなしがらみの中で諦めるように日々を暮らしていたが、あるとき映子の葡萄農園に、東京からやってきた男が現れたことで、映子の暮らしは大きく変わるが・・・。
作者お得意の「結婚外恋愛」を、珍しく切ないタッチで描く秀作。
感想 この作者の描く女というのは、たいていの場合あんまり同調も同情もできないことが多いのだけど、今回はちょっと違うのだ。
主人公は葡萄農園を持つ夫と暮らしているが、子供がないために同居している姑に何かとつらい言葉をかけられる。
夫が守ってくれるかというと、夫婦の仲はどちらかというと冷めておりそれも望めず。
田舎であるがゆえに人の目や詮索も厳しく、自由といっても狭い範囲でしか得られない。
姑のたった一言にも、その言葉に隠れる真意を探り、気を使い顔色を伺うようにして生活している。
田舎での暮らしの窮屈さ、子供ができないことで強いられるいやな思い・・・などなど、「経験したんかい!!」というぐらい心理描写に長けている。
何よりも、そんな暮らしの中で知った甘美で切ない恋心。思慕が募り発展していく映子の心のうちを見事に描いていて、きっと同じ経験をした人は「そうそう・・そうなのよね」と思うのではないだろうか。
あまりに、女のいやな部分を見せられる感じで、ちょっと引いてしまう人も中にはいるかも知れない。でもそれって、この作者の持ち味だと思う。
それでも、夫以外の恋人ができて(今までのように「ばっかじゃん!」と思うタイプの恋愛ではないので、決して)その成り行きには切なさと悲しさとときめきがあり、読者は疑似体験できるはず。
切ないです、とっても。





パイナップルの彼方   山本文緒  角川文庫
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お薦め度
★★★★
あらすじ 世渡り上手なつもりで生きてきた主人公の私=深文、OL。
お局さまのような存在の上司「サユリさん(みんなに煙たがられている)」ともうまくやっていて、恋人ともうまく行っていて、副業のイラストもそこそこ小遣い稼ぎになってて、とっても順調な毎日・・。のつもりが、新人の女の子の登場で少しずつ変化していく。
感想 主人公と2人の友達との関係がまずよかった。
言いたいことを言い合えてちょっぴりシニカルな眺め方をしていても、結局大事に思いあっているという感じが、すごくよかった。
深文はある登場人物に最後に言われるんだけど、読んでいても「クールで人に内面を決してさらさない」ところがあり、そういう点に少々イラつかせられるというか、はらはらさせられるというか・・。
そのうち痛い目にあっても知らないよ〜・・という感じだった。
恋人が好きならもっと甘えたり頼ったりしたらいいのに・・そのうち逃げられてしまうよ、なんて思わせられる展開なのだ。
そんな主人公が結局は人間らしく見えてきて、ほっとするのはやはり友達との会話だった。
こんな風に思い合える友達がいるなんて、幸せなことだとほろり。
山本女史の描くラストはいつも、ベターハーフな感じ(これは唯川恵氏のタイトルだけど)がして、心からよかったね〜といえる展開が少なくて、それはそれでいいんだけど、このラストは珍しくすっきり。ハワイの青空(見たことないけど)が見えるようなすがすがしい読後感が残った。





日曜日の夕刊  重松清  毎日出版社
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★★★★
あらすじ ほのぼの系の短編12編からなる作品集。
感想 「ナイフ」でめげて読めなかった重松さんに、チャレンジしてみた。トラキチさんのお勧めです。
中で一番よかったのは、最後の「卒業ホームラン」
これは文句なし、とっても感動した。
少年野球を率いる監督と、そのチームでずっと補欠だった息子とが、小学生最後の試合、それで監督も引退するので親子にとって最後の試合をするという物語。
すごく巧みな心理描写で、監督の気苦労(自分の子供を差し置いてもよその子供に気を使わなければならないところなど)手にとるように伝わってきた。
子供を思う気持ちと監督としてチームを率いていくという自負の間に立って、本当にご苦労様なのだ。
息子も補欠でも気落ちしないでがんばるあたりが、胸に迫ったし、ラストなどは涙涙だった。
本当に感動した。短編でここまで泣かせるなんて、さすがファンが多いはずだと思うのだ.
が!!
「すしくいねぇ」という短編。これは子供の誕生日のプレゼントを買いに町に出た家族が、けんかをして泥沼になったところに、テレビ番組のスタッフに呼び止められ、高級すし屋さんに行き、マナーもわからず右往左往する様を視聴者に笑われる、という企画に参加する羽目になる・・というもの。
ちょっと、これはだめだった。「ナイフ」と同じ読後感。
胃の中で石をぐりぐりこすり合わせてるような不快感が残った。
でも、「卒業ホームラン」には及ばずとも、ほかの作品たちはすごくよかったので、そして、ここまで不快感を覚えるのも私だけだろうから、ほかの皆さんにはお勧めです。





西の魔女が死んだ  梨木香歩  小学館
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★★★★
あらすじ まいは13歳。授業中にママが迎えにきて車に乗ると「魔女が死んだ」と聞かされた。
魔女というのは、ママのお母さん。まいのおばあさんだ。
まいはおばあさんのところで暮らした日々のことを思い出す。
感想 登校拒否だったまいは、おばあさんのところで暮らすことになった。
その暮らしの中でまいが見たもの感じたもの、おばあさんへの想いなどを美しい自然を背景に生き生きと描いてある。
都会でなくても今の暮らしはみんな均一に便利だが、それはモノに頼った暮らしだ。
でも、まいのおばあさんは果物を自分で摘み、ジャムをことこと煮て作る。洗濯も機械を使わず自分でする。古着から新しいエプロンを作る。朝は早く起きて夜はきちんと寝る。あたりまえのようで難しいその、シンプルさを守っている。 つまり「健全」ということか。
人間にとって大切な、だけど現代人が忘れてしまった「健全」を、思い出させながら、 便利な日常とはかけ離れた暮らしの中で、見つけられる大事な何かを訴えているのではないだろうか。
学校の勉強よりも大切なことが、世の中にはこんなにもたくさんあって、もっと余裕を持って生きていきたいなーと思わせられる作品だ。
まるで、萌えるような緑が読者を包み込んでいるような、そんな森林浴でもしている気分で読めるのも魅力。
おばあさんが大好きで、おばあさんの役に立とうとするまいがとってもいじらしい。かく言う私も家では手伝いなんてしぶしぶしていたが、祖母の手伝いは心からやったもんな〜。
自分のことを思い出して懐かしくってじ〜んとした。
派手なドラマはないけれど、心温まるお話です。





満足度
お薦め度
★★★★
あらすじ
感想