2002年の読書記録*4月



ファンハウス   ディーン・R・クーンツ  扶桑社ミステリー 
満足度 ★★★★
あらすじ 子供を殺された男の復讐劇。
しかし、その対象はなんと自分のかつての妻だった。
犠牲になるのは元妻の、現在の子供たち。カーニバルの中のおばけ屋敷を舞台にジェットコースター的な恐怖が降りかかる。
感想 同名映画のノベライゼーション作品だそうだけど、読んでいても「この部分が映画になっているんだろうな」と言う予想がたった。
でも、どちらかと言えばその部分に至るまでのところが文章ならではの読み応えのある仕上がりになっている。
主人公の男が復讐を決意するまでの経緯。元妻が子供たちにストレートな愛情表現を出来ない理由やその痛み(ちょっと「キャリー」とかぶる部分があるが、こちらのほうがあり得そうって思える感じになってる)。鬱屈した子供たちの親への感情・・・。
ホラーだけではなく親子間の問題を抱えた小説としても結構読めた。
だけどやはり第3章のファンハウス内でのこれでもか!という目に合わされた主人公たちの恐怖と言うのは読んでいても伝わってきてかなり怖かった!!
お薦め度 ★★★★





宇宙のみなしご  森絵都  
満足度 ★★★★★
あらすじ 両親が仕事に忙しくって二人きりで寄り添うように生きてきた中学生の姉弟が見つけた楽しみとは、夜中の屋根のぼり!!
ふたりのささやかな秘密の遊びのはずが、ほかの人も巻き込んで結構な騒動になってしまいそう?
感想 どうしてこの作者はこんなにも人の胸を打つ文章が書けるのだろう。
たわいのない話しなのだ。
大きな事件がおきるでもなく、ただ主人公の姉弟の日常でのほんの少し変わった出来事が描かれているだけなのだ。
なのに、こんなに愛しい気持ちで本を閉じる私がいる。
「カラフル」のようにオオナキはしなかったけど、それでも同じくらいこの本が好きだ。ぜひご一読を!!
お薦め度 ★★★★★





暗黒童話  乙一  集英社 
満足度 ★★★★★
あらすじ 事故で左眼と同時に記憶を失った少女が、ある事件の真相を辿っていく。
たどり着いたある男には不思議な能力が・・。死を遠ざける能力・・とでも言うべきか。
だけど男がその能力を使うのは、恐ろしいやり方だった。
感想 スプラッターだった!!すごい!
なのに切なさ、悲しさ、愛しさが全編にあふれている。
記憶を失った主人公の少女が左眼を通して見る「過去」への思慕のせいか・・・。
左眼の記憶に関わる人たちの優しさのせいか・・・・。
作中童話として「アイのメモリー」という童話が登場するが、これがまたすごくよく出来ている。これだけでも充分読む値打ちがあるとおもう。すごく残酷で陰惨な物語なのに、切なくって感動してしまった。これだけでもひとつ感想文が書けるぐらいだよ。鴉の気持ちが悲しく切ないのだ。
本編もホラーなのに切なくて物悲しい・・・しかもラストまで見えない作り。ただのスプラッターじゃなくて幻想的な不思議な物語。
こんなタイプの小説は初めて。読んでよかった〜
お薦め度 ★★★★(ちょっとえぐいよ)





シグナル  櫻井武晴  徳間書店
満足度 ★★★★
あらすじ 主人公・飯村景は不眠症で悩む警視庁の刑事。その主人公の周りで起きる異様な事件。死体はその脳みそだけがどろどろに解けているのだ。その謎を解くうちに主人公の過去が・・・・・・。
感想 電磁波の恐怖は時々耳にする。それを聞いたとき誰でも「怖い」って思うと思う。でも、熱さ喉元過ぎれば・・・で、すぐに忘れる。っていうか考えないようにする。人はみんな目先の便利さや利欲を優先して生きている。その結果人はどこに行き着くのか。濃い霧の中を恐ろしい結果に向かってひたすら突き進んでいる・・・・・それが現代に生きる私たちの姿だ。
そんな事を考えさせられるストーリー。 推理モノとしてはラストが??と感じたけど、途中の電磁波の恐怖を謳った部分なんかは一読の価値あり。すぐに忘れるとしても、時々こういうの読んで思い出したほうがいい。
お薦め度 ★★★★





グリーンマイル  スティーブン・キング
新潮社(ハードカバー)
満足度 ★★★★★ 
あらすじ 主人公ポール・エッジコムの働く死刑囚監房にやってきたのは2メートルの大男ジョンコーフィー。 彼には人を「癒す力」があった。そのコーフィーがコールドマウンテン刑務所で過ごした日々を描いた映画の原作。
映画ではあまり描かれなかったポールの現在の暮らしも織り交ぜながら、夢と現のように過去と現在を行き来して物語は進む。
感想 癒しの力・・なんて物を持ったために自身は決して幸せになれなかったコーフィーの哀しみと、ポールの職務としての「殺人」に対して抱く哀しみ。
二人の哀しみ=愛が全編にあふれ叙情豊かな美しい物語になっていると思う。
「癒す力」は物語の中で効果的に生きていて物語にミステリータッチを加味する事で飽きさせない、長さを感じさせない。
登場人物もとても魅力的に描かれていて(1人か2人か3人を除いて)みんなダイスキになること間違いなし!
魂の深いところで確認しあう事を「出逢い」と呼ぶなら、グリーンマイルの登場人物たちはコーフィーと真の意味で出会ったといえるだろう。
出逢いの後には必ず別れがある。真の意味で出会えばそれだけ別れも辛くなる。
その辛さを「死刑」という残酷な形で味わう過程の中で起こる様々な出来事が、読むものの心を捉えて離さない。深い感動が待っている。
ところで、読了済みの方へ。どこの部分が一番好きですか?
私はどこが好きでしょうか!?
答えはこちら↓
第一章の「二人の少女の死」の最後。ポールとブルータルがMrジングルズの持っていたクレヨン付の糸車の破片を見つけて二人でこの仕事をやめようと話す場面。
お薦め度 ★★★★★





ナイフ   重松清 新潮社
満足度 ★★
あらすじ 「いじめ」をテーマとした連作短編集。
いじめられる側「ワニとハブとひょうたん池で」
いじめられる子供の親の立場「ナイフ」
いじめる側(傍観)「キャッチボール日和」
いじめられる側「エビスくん」
教師と親との確執「ビタースウィート・ホーム」の5編から。
感想 残酷な話しはダイスキだ。
でも、こういう類の残酷さはちょっと受け付けなかった。
評判の良い本だけど、いじめの描写がとにかくすごい!
親の立場として読んでしまうから「うちの子がこんな目にあったら」と思わずにはいられず、直視できないものがあった。
教えてください。本当にこんな事があるんですか?
子供を学校に送り出すのが怖くなった。

「ワニとハブとひょうたん池で」
5編の中では比較的読みやすかった。いじめと言う現実と、池にワニがいるかもしれないという非現実的な出来事をうまく絡めていた。親の気持ちを考えると泣けた。

「キャッチボール日和」
5編の中で一番胸が悪くなった。二度と読みたくない。この語り手が嫌いだ。

「エビスくん」
いじめられても何故か怒る事が出来ない主人公の気持ちをよく描いてあり、感動できたが、切ないまでもいい子でいようとするこの少年が痛々しすぎる。
いもうとのくだりは 感動して泣いたけど、でもやはり胸につかえるものがある。「実は母親が・・・」の部分は要らないんじゃないのかな。醒めてしまった。

お薦め度 ★★★ほかの人には絶賛だし・・・





真実の絆  北川歩実  幻冬社
満足度 ★★★
あらすじ ある資産家の血を引く子供、同じ遺伝子(DNA)を持つ子供を巡って血眼になる大人たち。
感想 短編集のように細切れだけど、すべてがきちんとつながっていて筋がとおっている。不思議な形式の物語だ。
資産家の子供は誰なのか?男か女か?生きているのかいないのか、それすらわからない。
物語は誰が誰なのかさえ時にはぼかして進んでいくので、ややこしいと言えばややこしいのだけど、作者にしては短いページ数の中に、元来の持ち味の鋭さがあり、読み応えたっぷり。
ラストのオチはさすが北川さん!!
と、唸ってしまった。少々強引な気もするが、伏線があるのでダイジョウブ。
これから読む人に言いたい。
人物相関図を作りながら読んだほうが良いよ(笑)
お薦め度 ★★★