壁紙はゆこりんさんの素材お借りしました。
2002年の読書記録・7月



ワイルド・スワン 上・中・下   ユン・チアン  講談社文庫
満足度
お薦め度
★★★★★
あらすじ 1900年代の中国。怒涛の時代を生きた祖母、母、そして「私」の3代の女性の過酷な運命。
感想 たった70年間のこと。この本に描かれているのはたった70年間の事に過ぎない。なのになんて激しい時代なんだろう。
清朝滅亡⇒日本による満州侵略⇒中国共産党の台頭⇒国共内戦⇒中華人民共和国設立⇒大飢饉⇒文化大革命⇒毛沢東死去・・・
かいつまんでもこんなに!!
お隣の国なのになんて何にも知らなかったことか!!
特に毛沢東に関しては驚きの連続だった。毛沢東による社会は倫理も正義もない憎悪だけの社会。破壊された町、破壊された文化財の数々(もったいなーい!!)、人間の絆をぶち切り家族をも崩壊させる・・・そんな文化大革命。盲信の恐怖を余すところなく描ききっている。
そんな中でもおたがいを思い合う、著者の祖母、両親、きょうだいの愛情の深さと清廉で高邁な信念、それを貫く潔さ(切ないまでに)にも泣かされる。
ともかく、この本を読んだら「プライバシーと言う概念があり(中国にはないんだって)衣食住が安全に確保されて、読みたい本が自由に読めて、言いたい事が自由に言えて、行きたいところに自由に行けて、綺麗な清潔なトイレを使うことが出来て、家族が一緒に暮らす事ができる・・・って素晴らしい。」って思う。
この当然のような「権利」は一歩間違うと手からすり抜けてしまうのかもしれない。
「何のとりえがなくても、自分だけの人生を生きることが出来たら・・・」と平穏な人生を切望する著者の言葉が重かった。

この時代を生きた当事者が語る肉声の迫力もさることながら、理路整然とこれだけのことを順をおって描ききる著者の力量にも驚く。
漢字使いも「さすが漢字発祥の地!」という感動があった。

あと、余談だけど、その後キョウダイがみんな華々しい活躍をしている中でただ一人、平凡な人生を選んだ長女の小鴻さんに長女気質を感じ、ちょっと感慨深かった。





ブスのくせに!  姫野カオルコ  新潮社
満足度
お薦め度
★★★
あらすじ 姫野さんの辛口エッセイ
感想 「みんな、どうして結婚していくのだろう」は途中で挫折中だけど、こちらはもっと面白く読めた。映画の話なども多かったから、知っている映画のことで盛り上がる気分で読める。ただし、徹底的にこうと決め付けたら・・・たとえば、男性があるタイプの女性に対してどういう感情を持っているか、とか・・・徹底的にその線で責めるかと思えば、こっちが「やな女だね〜」と思うようなヒトを別の角度から弁護してみたり、なかなか一筋縄では行かないのである。





夏の庭 The Friend  湯本香樹実  新潮文庫
満足度
お薦め度
★★★★
あらすじ 主人公の木山と、友達の山下、河辺の3人は小学校の6年生。人が死ぬ・ということに突然興味が湧いた。そんな時「死に近い」と思われるおじいさんを発見して、探偵よろしく見張りをして、おじいさんの死を見届けようと言う事になった。
そんな風にして知り合った、老人と少年たちの心の交流。出会いと分かれがほのぼのタッチで描かれている。
感想 初めて身近なものの死に触れたのは、小学校3年生の時の祖母の死だった。
そんな事を思い出しながら読んだ。
おじいさんの死を待つ3人が、おじいさんと知り合う事で、それまでにない「何か」を得ていくと同時に、友達のほかの二人の事も知らない部分を発見していき、仲間間の友情をも深めていく。そして、おじいさんも子供たちと知り合ったために「変化」していく。その変化が面白い。
主人公の小山の感性は好感が持てて、友達を大事にしたり、年寄りにぞんざいな医師に反感を持ってみたり、そういう細かい人物描写が巧く描かれている。
ラストでは泣きました。すごくすごく泣きました。





屋根裏部屋の花たち   V・C・アンドリュース
    扶桑社ロマンス
満足度
お薦め度
★★★★★ 
あらすじ 1950年代のアメリカ。幸せな家族(両親と4人の子供)に「父親の死」という悲劇が襲う。4人の子供を一人で育てられない母親は、実家に身を寄せる事にする。でも、父と母には秘密があった。そして、そのために、その苗字から「ドーラギャンガ―ドールズ」と呼ばれた美しい4人の子供たちは母親の実家の屋根裏部屋での生活を強いられる事になる。
感想 とにかく奇抜な物語だ。屋根裏(豪邸の広大な屋根裏)に閉じ込められた兄弟たちがどうなっていくのか気になって、どんどん先を急ぎたくなるのだ!
実は大富豪の母親の実家。 母親は昔、あることから父親の怒りに触れ、勘当され、相続権を失った。夫亡き後母親は相続権を取り戻すために実家に戻る決意をするのだが、子供たちの存在を隠す必要があるというのだ。
そしてこの「母親」といったら、見目形はどんな女性もかなわないほど美しく魅惑的であるのに、その性質の悪さは今までに読んだどんな物語の女よりも悪い。
この女のために、かわいい子供たちがどんなヒドイ目に会うかと思うと、憎まずにはいられない。
それに比べて子供たちの健気な事! 子供は、長男クリス14歳・長女キャシー12歳そして4歳の双子コーリィとキャリー。この子供たちが、どんなに健気に屋根裏部屋での生活をすごしていくか。
そして、ラストの展開はとにかく晩ご飯の仕度が迫っていようが、たとえこれが深夜も2時を回っていようが、本を閉じる事が出来ないくらいだった。(私の場合)
映画化されており、昔見た記憶があるが、すっかり忘れていて展開に驚いた。もう一度映画も見たいな!!
もう少しネタばれの展開を書きますので、興味のある方ドラッグしてどうぞ。
驚くのは、祖母が子供を完全に幽閉してしまいまったく誰の目からも隠す事に成功している事だ。ある程度の年齢の子供でさえ、一所にじっとしているのは困難なのに、この双子のキョウダイはたったの4歳なのだ。祖母と言うのは厳格なうえに人間味のない冷血で、子供たちを閉じ込める事に抵抗がないらしい。ただし、食べ物と生活用品はキッチリ与える。
そんな環境から一刻も早く救い出して欲しいと子供たちの期待は母親に集中するのだが、母親は自分を支えてくれる存在なしには自立できない人間で、そんな自分を嘆きつつも、本当の意味での自立を目指す事をせずひたすら父親が自分を許し相続権を当てにしているのだ。
そのため子供たちがここから出してと、屋根裏を「訪問」する母親に向かって、矢の催促をしても「私だって苦しいのよ」「誰よりもあなたたちを愛しているわ」といいながら、いつもいつもごまかしのお土産でお湯を濁すようにのんべんだらりと言い逃れして、自分は、自分だけは豪勢な生活に戻っていくのだ。
「訪問」は毎日であったのが3日に一度になり、1週間に1度になり・・・段段と疎遠になっていく。 このあたりの微妙にしてすばやい母親の変化は見ものである。双子などはだんだんと母親の認識さえ失っていくのだ。双子にとっては長子の二人が父であり母であった。
長子二人だけならば何とか逃げることも出来ただろうが、幼い双子を連れては難しい。それに何よりも、子供はやはり母親を信じているのだ。「いつかはママがここから出してくれる」そう信じて、我慢に我慢を重ねている。
そうしていったいどれだけの年月がここで過ぎていくのか、信じていた母親の「愛」とはどれほどのものだったのか。急展開のラストはきっと読むものの心を引きつけて離さない。





満足度
お薦め度
★★★★
あらすじ
感想