2003年の読書記録*1月



羊たちの沈黙  トマス・ハリス
満足度
お薦め度
★★★
あらすじ 「レッド・ドラゴン」の続編。
同名映画の原作。
感想 映画が強烈に印象に、残っているので小説はそのおさらいと言う感じだった。
映画よりも内面描写が細かくて、クラリスの心情が細部に渡り描かれていて、その分臨場感があった。
ただ、クラリスも、その上司もそして、とうにレクターもみんなとっても頭が良いので、会話も頭の良い人たちの会話となっていて、理解するのが一苦労だった。と思うのは私だけかな?





闇の子供たち  梁石日  開放出版社
満足度
お薦め度
★をつけることは出来ません。
あらすじ 舞台はタイのバンコク。
テレビや冷蔵庫を買うお金ほしさにたった8歳くらいで(うちの娘も8歳です)親に売られた子供たちは、売春宿で幼児性愛嗜好者のために働かされ、中にはエイズとなり道端やゴミ処理場に、ゴミ同然に捨てられる。
そして、幼児たちは性の奴隷としてだけではなく、その臓器提供のために命を求められる。
そんな子供たちを救いたいと、現地の社会福祉センターでNGOの活動をする人たちの戦いを描く。
感想 こういう本は「禁忌」って言うか読んではいけない、とか読んだことを人に言ってはいけないような気分にさせられるのだけど、私だけかな。
これは、フィクションだけどこういう事は本当にあるんだと思う。
主人公たちの悩みのひとつに「世間の無関心」があるけれど、確かにこういう事を朝のワイドショーなどで流していたら目のやり場に困るような気になるだろうし、自分たちに何ができるかが分からないから、見てみない振りしてしまうのではないだろうか。
子供たちを食い物にする小説の中の登場人物たちに感じた不快感嫌悪感は、そのまま実は「見てみないふり」しようとする自分にも向けられる感情なのではないか。
主人公の訴えは、著者の訴えたいこと。
「これはひとつの問題ではなく、世界が直面している戦争、難民、差別、虐殺、途方もない犯罪その他あらゆる問題が集約されている。問題は見ようとしないものには存在しないも同然。世界が陥っている矛盾はやがて、自分たちをも脅かすことにもなりかねない」と。
現地では「外国人」でありながらも、国を超えて子供たちのために生きようとする主人公の姿に、少しだけ救われて読み終えた。





アトランティスのこころ(上・下) スティーブン・キング 新潮文庫
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お薦め度
★★★★
あらすじ ボビーは母親と二人暮しだが、その母親の愛情に植えてもいた。
ある日同じアパートの階上に風変わりな老人テッドが越してきて、母親はいい顔をしなかったが、ボビーはその老人から本や友情や父親のような愛情を与えられた。
そのテッドが恐れていたのが「黄色いコートの下衆男たち」だった。それはなぜか・・・。
という、あらすじの「黄色いコートの下衆男たち」から始まり、物語はボビーの下を離れ、ボビーを取りまく人たちの物語「アトランティスのハーツ」や「盲のウィリー」などが語られ、巡りめぐって、またボビーの元に還ってきて終わる・・という、連作短編(中篇あるいは長編)集となっている。
感想 昔よく聞いた音楽を久しぶりに聞いたりすると、当時の思い出がどぉ〜っと押し寄せてくる。その時には、当時の暑さ寒さや匂いさえもいっしょに思い出されたりする。
キングの小説はそういう部分を読者に味わわせてくれる小説だと思う。
特に私が好きだったのは「アトランティスのハーツ」で、これはボビーのGFのキャロルが、当時付き合っていたピートが後になって60年代を語る・という物語だ。
「わたし」という一人称で思い出話をしているこれは、私には郷愁感たっぷりで、特に泣けるような物語でもないけれど、胸が締め付けられるような気がした。
ベトナム戦争のことも書いてあり(というよりも、それが60年代なのかも)後の「なぜぼくらはヴェトナムにいるのか」などでも感じるけれど、アメリカ人のベトナムに対する思いが垣間見えて感慨深かった。
ホラーではないキングも、とってもいいのである。





檻のなかのこ  トリイ・ヘイデン  早川書房
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★★★★★
あらすじ 8年間誰とも口を利かず、机の下にもぐって出てこない少年とセラピストとして関わることになった著者との2年以上にわたる格闘の記録。
何度も失敗して最初から始めて・・と言うことを繰り返すうちに、亀の歩みのように遅々としてではあるがすこしづつ事態は好転してゆき、そして別れるまでがただのレポートではなくとっても人間臭い視点で語られる。感動です。
感想 著者と関わるようになって、少年ケヴィンは見る見る社会性を取り戻していくが、ちょっとしたきっかけで瞬く間に元に戻ってしまう。
何度も何度も裏切られたり失望したりしても、また最初からはじめようとする著者の根気よさと愛情・・というか懐の深さにはただただ、頭が下がる思いだ。
ケヴィンにしても、実は虐待の過去がありそれがそもそもの原因で、とっても痛ましいのだけど、克服していく様子が感動的だ。
ちょくちょく起こす問題行動も、あとでそれらのどれもこれもにそれなりの理由があるのが分かる。
でも、たいていの人はそれがわかる前に「問題児」とレッテルを貼ってあきらめてしまうのではないだろうか?
決してあきらめずケヴィンと向き合っていくうちにその理由がわかるのだが、読者はケヴィンに大いに共感するとともに、著者の熱意に胸を打たれるだろう。
「シーラ」の時はその偉業に瞠目しながらもなんとなくシーラとのかかわりに物足りなさを感じた私だったけど、今回このケヴィンに対する著者の取り組みには、本当に一から十まで頭が下がった。
おきまりの「別れ」も、淡々と描いてあるがこれまでの道のりを思うと涙なしには読めないのだった。
個人的には「シーラ」よりも完結が明確な所がドラマティックでこっちのほうが好き。





ファースト・プライオリティー  山本文緒  幻冬舎
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★★★★
あらすじ なんと31の短編集。それぞれの主人公はみんな31歳の女性である。
感想 ファーストプライオリティー、それは「最優先」という意味である(らしい)
誰しも自分なりの最優先を持っていて、言い換えればそれは「価値観」ということであると思う。
31人の女性のまったく違う価値観をそれぞれ、リアルに描いてある。
エッセイ並に短編なのだけど、それぞれがきちんとまとまっていて、短編ゆえに深く考える前に話も終わり、次々とさくさく行っちゃうキレのよさ。
飽きずにこれだけの短編を読ませるなんて、さすがですね。





最後の記憶  綾辻行人  角川書店
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★★
あらすじ 主人公の波多野森吾の母は若年性の痴呆症。その痴呆症は遺伝すると思われる。主人公はそれが自分にも遺伝するかも、そしてそれはもう始まっているのかも・・・という思いにおびえてる。その恐怖を取り除くために波多野は、元同級生の唯といっしょに母の出生の秘密を探るべく旅に出たのだった。
感想 うーん。
久しぶりの綾辻さんだったけど・・。
実際痴呆症というのは、もうすでにしゃれでなく身近に迫りつつある問題なので、こういう形のフィクションではリアリティに欠けてしまって、あまり面白くなかった。
痴呆症とホラーの融合って感じの本書だけど、「現実」のほうが痴呆症に関しては恐怖を感じるので、ホラーは私の中で「痴呆症への恐怖」に負けている。
知り合いの話とか聞いていると本書を読んでいても迫力負けしてるような気がしたし。 すんまそん。





ジャンヌ・ダルク暗殺  藤本ひとみ  講談社
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お薦め度
★★★★★
あらすじ 売春宿を切り盛りする若手のやり手婆で、もと娼婦のジャンヌ。
彼女は神を信じない。
でも、片や神の啓示を受けて国王のために命をささげようとする後の「ジャンヌダルク」
ジャンヌダルクのオルレアン奪回の陰には、実は娼婦ジャンヌとの関わりが重要な鍵を握っていた??
藤本女史お得意の、大胆仮説の歴史モノ。
感想 久しぶりに藤本さん、堪能させてくれました♪
(出版は2001年の終わりごろだけど)
この主人公娼婦ジャンヌは、持ち前の頭のよさと大胆さ強さでのし上がるべく、野望に燃えて、全身一部の隙もなく完全武装しているのだけど、こういう人物を描かせたら著者はとーっても、うまい!読ませる!!
冷静に考えたら当時の宮廷が、この娼婦ジャンヌのような女の言うことを聞くわけないのでは?とも思うのだけど、それが結構ありそうに描いてあるのも著者の力量ではないかと思う。
本書の前に「ジャンヌダルクの生涯」という、歴史エッセイも手がけられているので、それとあわせて読むともっと真実の「ジャンヌダルク」に迫ることが出来ましょう。
時の勢力の狡猾で残酷なこと・・これはいつの時代も純真無垢なものを利用していくのでしょうね。

ところで、ここにジャンヌダルクの頼りがいある総司令官として登場する「ジル・ドゥ・レ」
有名な「青ひげ」のモデルとなった彼。ここでは後の冷酷非道さの片鱗を垣間見せながらも、武勇に優れた武将として登場する。
もちろん頭もキレていて、娼婦ジャンヌとのやり取りもただの駆け引きだけでなく、同士として心通わせあうのだけど、これがまたかっこいい♪
ひさびさ、本の中のいい男度90%ぐらいの掘り出し物。

藤本さんには是非ともこの、ジルドレの後年を血なまぐさく描いて欲しいものだ。
ちなみに、ほかに著者に是非とも描いて欲しいのは「エリザベート・バートリー(黒衣の伯爵夫人)」と「カトリーヌ・ド・メディチ(聖パルテミーの大虐殺・これは著者の本「預言者ノストラダムス」の続編として)」などがあります。もっと、こういう歴史もの期待している作者なのだ。





血と骨  梁石日
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お薦め度
★★★★
あらすじ 昭和のはじめから戦後まで、斉州島からの出稼ぎ労働者の「金俊平」の、一生を通して、踏みつけられても立ち上がり、たくましく命の限り生きる在日朝鮮の人々を描く。
感想 びっくりするほど、ひどい男です。この主人公の「金俊平」。
ここまですさまじい悪の権化のような男が主人公の小説は読んだことがありません。

ともかく、酒と女と博打に明け暮れる毎日。
少しでも気に入らないことがあると、暴れて家一軒でも破壊してしまう勢いだし、相手に対しても殺しかねない勢い。耳に齧り付いて、引きちぎり、その耳を食べてしまう・・なんて、おっそろしいことも。
傷ついて立ち直れない時も、自らの糞尿にまみれて身動きすらしない、という型破り。
で、その後始末をするのがたった一人の友達「高信義」。
こんな男のためにどうしてそこまで・・・と言うくらい、人がいいのだ。
この物語の主人公は「金俊平」と言うよりは、「金の持つ毒気」と「それに当てられて振り回された人たち」と言えるのではないか。
かわいそうなのはこの男と結婚した「英姫」だ。
何の因果で・・繰り返される暴力と理不尽。しょっちゅう暴れては家財道具を壊すし、よその土地で女と暮らしたりするのに、たまに帰ってきてはそのためのお金の無心。
妻は暴力を振るわれるよりはと、何も言わず女と暮らすためのお金を差し出す。そのお金も身を粉にして働いて得たなけなしの財産だ。
もっとかわいそうなのはこどもたち。
この男の唯一誉められる点は、自分の子供を犯さなかったことぐらいではないか?
それぐらい、ひどい素行の持ち主なのだ。
いつかはこの男も改心するのだろうと期待しながら読むんだけど・・・。

でも、この本の中に描かれている金を取り巻く人たちの、強さたくましさに、引き込まれた。
当時の朝鮮からの労働者たちの生活も、すごく生々しく再現してある。
日本の中でどんな辛酸をなめたとか、戦争にたいする思いとか。
途中であまりの金のひどさに投げ出したくなった本書、2段構えで500ページ以上、結局止められなくなり後半は一気読みしてしまった。

*「闇の中の子供」の衝撃が、この作者への興味を沸きたて、次の本を借りたくなったので選んだのがこれでした。