2003年の読書記録*10月 |
クライマーズ・ハイ/横山秀夫★★★★★
文藝春秋 |
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誰もが覚えているだろう、あの事故。 1985年、御巣鷹山日航機墜落事故。 でも、メディアからしか情報を知る手段はなかった。 現場では窺い知る事が出来ない、たくさんの事実や事情感情があふれていたんだなー・・と、いまさらながら思ったし、読めば読むほど、「そうだったのか」「そんなことが・・」と、ただ驚き頭が下がった。 新聞社内部の、確執や対立の中で主人公が翻弄されている様子も、読み応えがあったけれど、私は主人公が息子とどう向き合ってよいか分からない不器用な父親であるところに、いちばん強く引かれた。 現代と事故当時の二重構造のストーリー展開。 それが見事に調和していて、どちらにも緊迫感があり、どちらの先をも急がせる。 とっても、読み応えありました。 人生に同じ場面は、二度とない。 その一瞬一瞬にどう反応できるかで、人の生き様は決まるのだ。 そんな主人公のつぶやきが印象的だった。 暗い話であるにも拘わらず、作中人物たちのその後の人生が読後感を前向きな力強いものにしている。 泣きながらも、爽やかな気持ちで、本を閉じる事が出来た。 ↓ネタばれ? ネタばれと言うか、私が何処で泣けてきたか、書きましょう。 「今」主人公は、友達の忘れ形見と一緒に難しい登山に挑戦しようとしている。 そこで、久しぶりに会うその燐太郎との会話で、昔を振り返るのだが、当時自分が自分の息子に対して不器用すぎた事への悔恨を語る。 「過去」の、事故当時にもその様子が描かれていて、主人公の切なさが悩ましいの。 これは、今、夫と長男の関係に悩んでいる身で読むと、身につまされて泣けてきた。 まだ、先は長い時点でもうすでに、ちょっと本を置いてベソベソと泣いてしまったよ。 結局、ラストで、息子の父親への愛情の印として「ハーケン」が登場するのだが、ここでもぐわーっ!!と、涙が出た。 それから、主人公が職場を追われそうになる時の同僚たち・・これも泣けましたね。 そもそも、この事故を目の当たりにして、主人公や現場記者たちの感受性が豊かに描かれてて、すぐに目頭を押さえたり、涙があふれたりと、そのへんの人間性が愛しい。読んでるほうにも感染してくる。 作者の横山氏自身、人間的に優しく深みのある人ではないだろうかと感じた。 常々、宮部みゆきさんなんかも、そう感じてるけど同じような印象を受けた。 久しぶりに、どわーっと泣けましたなー。うんうん。 と言うわけで、今年のお気に入りに追加です。 |
separation/市川たくじ★★★
アルファポリス |
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同級生だった悟と裕子は親の反対を押し切って結婚。 しあわせに暮らす二人に訪れた、不幸の予感。 裕子の体がどんどん、時間を遡行して若返っていくのだ。 このまま行けばいずれ裕子は・・・。 不思議なストーリー展開。 文章のもつ独特の優しい感じが、登場人物たちの心情をよく表していて泣かされる。 残りの時間が限られているという事を、切なく受け止めできる限り愛し合う二人の姿がいじらしく感動的だった。 ただ、素直に泣いて、泣いて泣いて あとはあまり心に残らない。そんな感じはしたけど。 でも、この本が持つ意義・・ネットで12万人の読者を得てついに出版されたという新しい、読書の形。 これはすごく大きな意味があるのではないだろうか。 これからも、こうして若い作家が育つのはいいのではないかと思った。 |
マッチメイク/不知火京介★★★
講談社 |
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大手プロレス団体のスターが試合中に、死んだ。 しかも、蛇の毒で。 主人公「俺」は、事件の真相を追う。 死んだプロレルラーが現役の国会議員でありリングネームは「ダリウス佐々木」 ほかにも、「信州」と言う名のレスラーがいたり、よく知らないけど、モデルはいるんだろうな・・と言う感じ。 多分、プロレスが好きな人が読んだらすっごく面白いと思った。 試合内容などもかなりの力筆で描かれてて、きっと迫真の文面なんだろうと思ったけど、なんせ、こっちはあまり興味がない分、試合やトレーニング風景が長いので、読むのがちょっと苦痛・・・。 犯行の動機や、方法もいまいち、ピンとこなくて申し訳ないくらいでした。 でも、主人公と本庄との友情とか、主人公が「門番」としての役目に向かってまい進しようとするところなど、読み応えはあった。 著者経歴を見たら、すごくいろんな仕事をされてて、経験豊か。 こういう人は、自分の経験を生かして、またきっと面白いものを書いてくれるはず。 次に期待したいと思う。心から。 |
ありがとう大五郎/大谷英之・大谷淳子★★★★
新潮文庫 |
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重度の障害を持つ淡路島の赤ちゃん猿を、写真家でフジテレビの社員でもあるこの大谷氏が家に連れ帰り、家族全員で受け入れ、大五郎が死ぬまでの2年半をまとめた写真と思い出の記録。
これ、むかーし、テレビ放映されました。 私が高校の頃だから今から約15年前でしょうか・・。(さっと、読み流して!!) すごく印象深かったのだけど、あまりに年月が経ちすぎてて・・・・まさかあれでは・・と、思いながら読み進めると、やはり、そうだった。 大五郎の目が、「水平線に沈む太陽のよう」と言うところで、完全に思い出した。 翌日、学校で友達と「大五郎見た?」「見た見た!!可愛かったね!」「泣けたね!」などと、話し合った(なぜか)手洗い場の情景がぱ〜〜っと、思い浮かんできたよ。 私はペットが実は苦手だ。 動物が嫌いかというとそうでもなく、見ている分には「かわいいなー」などと、思うのだけど、感情移入が激しすぎるのか、たとえ魚であっても死んでしまうと泣けてくるので、これがもしも、犬などであれば、その死を想像しただけで、飼うと言う気にはならないのだ。 それを、最初から、3日で死ぬと言われている重度障害児の猿を受け入れたこのご一家には、頭が下がる。 そして、まったく家族と同じに、家族以上に慈しんだ愛情の深さ。 大五郎は愛情を一身に受けて、奇跡的に生き延びる事が出来、また、手足のない体で、最初は想像も出来なかった「動作」もこなすようになる。 「命」「生命力」の不思議・・・そしてそれは、「愛情」と、決して無縁でない、と思わせられる。 ただ、末っ子の4歳の女の子が甘えたい盛りに、大五郎に自分の母親をとられた形になる。 この子が、母親に甘えていると、大五郎がすごい勢いで邪魔をして引き裂くのだ。 母親は、娘の方を見ないで、背中を向けて寝かしつける。 娘は泣きながら寝るというのだ。 まだ、たった4歳でその経験はあまりに辛かったのではないだろうか? 幼い頃の2年半という、短い期間であるというのに、あんなことも、こんなことも・・と、思い出が末っ子の真穂さん自身の手で、描写されてて、そのインパクトの大きさを物語っている。 そのことも含めて、家族は大五郎を受け入れているところがすごいと思うが、博愛精神が強すぎると、どこか、家族を犠牲にする部分があると思い、切なくなった。 でも、それが、子どもたちにとってプラスになって、その後の成長になにかを見出す事が出来たらそれほどすばらしい事はないと思う。 クーのお母さん、ありがとう♪ |
王妃マルゴ/A・デュマ
河出書房新社 |
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映画も、見たつもりだったんですが、なんか、最後まで読んだら、映画のほうのそういう場面に記憶が無い事を発見。 寝てしまったのかもしれない。 でも、原作は面白かったです! 最初は、文体も久々のデュマで、ちょっと読みづらかったんだけど、後半になったら加速した。 歴史的に有名な「聖バルテミーの大虐殺」 これが本当はもっと、えぐいと良かったんだけど(本当にいいのかどうかは別にして)映画でも原作でもちょっと、拍子抜けしたみたい。 そのため、前半だらけてしまったんだけど(読むほうが)後半は、デュマらしい、血沸き肉踊る冒険物の本領に飲み込まれて、ぐいぐいと、読みました。 マルゴの愛人のラ・モルと、ココナスとの友情も確かに良いのだけど、私が一番気に入ったのはマルゴと、形だけの夫アンリとの、奇妙な友情というか信頼関係、これが好きだった。 それだけではなく、マルゴとラ・モルの、恋愛もときめきながら読めた。 最後の別れの場面では、ちょっとうるるん。 何とかならないの?と、じれったく感じて・・。 中世の王室という、特殊な舞台で繰り広げられる、親子の情を超えた権力争い・・・たとえ、自分の子供のうち、一人を死なせても、愛する我が子に権力と地位を与えたいと思う、間違ってはいるけど、母の思い(愛情とは言わない)が、怖いくらいで、とっても迫力があった。 そこまでして守りたかった「ヴァロア家」も、いつしか「ブルボン家」に変わってるし。 まこと、権力というのは儚いものなのかもしれない。 ラムちゃんからの借り本。ありがとうございました〜! |
幻の声/宇佐江真理★★★★
文春文庫 |
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髪結いの伊三次は、店を持たず(持てず)依頼があれば出向いて髪を結う「廻り髪結い」。 その傍らで、同心の不破に見込まれて十手を持たない手先を務めていた。 恋人のお文は芸者をしている。 江戸の浮世のしがらみと情を、細やかに描いて珠玉の連作短編集。 うーん、髪結い伊三次・・なかなか、かっこいい♪ おもわず、自分の美容師君を想像しながら読んでしまったぞ(笑) 5つの短編のうち、同心不破が主人公の物語、恋人のお文が主人公の物語との2編を除いて、あとの3編が伊三次が主人公。 捕り物もの・・としては、おもしろいのかどうか、ちょっと分からないのだけど、この人の描く情緒豊かな義理人情の物語は、私のツボを刺激する。 特に、この恋愛がね・・・。 髪結い伊三次・・なので、当然恋人の髪も結うのだけど、この二人にとって「髪結ってやる」というのは、すなわち「ことに及びましょうぞ」というサインであり、お文は、伊三次がそのせりふを言うと「うれし・・」と、男勝りを振り捨てて、伊三次の胸元に・・ この辺の描き方って言うのが、ストレートに描いてあるよりもうんとうんと色っぽく艶っぽい。 好きですわ〜(笑) でも、中で一番好きだったのが、伊三次の子供の頃の思い出を絡ませて描いてある「備後表」 伊三次の辛い生い立ちを影で支えた「おっかぁ」のために、伊三次頑張る! 涙なくしては読めませんでした。 おもわず、伊三次の母親・・・みたいな気分になっちゃったのは不覚だったけど(笑) 是非とも、続けて作品を読みたい作家さんとなりました。 これも、クーのお母さんから送っていただきました。ありがとうございました^^ |
斬られ権佐/宇江佐真理★★★★
集英社 |
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みかんさんから、いただきました。 ありがとう^^ 仕立て屋の権佐は、顔には大きな傷が一筋、そして、全身に88箇所の傷跡を持つ。 その傷は、妻のあさみをたすけようとして出来た傷だった。 瀕死の重傷から、命を吹き返し、その後仕立て屋の傍ら与力数馬の下で小者として働く権佐。 愛娘のお欄、弟の弥須らと織り成す切ない捕り物、江戸情話。 切ない話でした。 連作短編の形をとりながら、ストーリーは確実に、ある結末に向かっている。 「幻の声」でもそうだったけど、「捕り物」としてミステリーの要素ではさほど楽しめるとは思えない。 しかし、そこにあるヒトとヒトとのふれあい、人情、それがぐっと心に迫るのだが、この権佐はなおのことそれが強かった。 個人的には「兄」と言う立場で、弟の弥須を見守るところ、そしてまた、弟の弥須も兄を頼りながらも助け合っているところが、じーんとした。 また、妻のあさみのしっかりしているところとか、娘のお欄のおませでかわいいところなど、ほほえましくもあり、却ってそれが切なくもあり・・・・。 向かう結末には涙を誘われる。 権佐に、「男の中の男」を見た。 |
晩鐘/乃南アサ★★★★★
双葉社 |
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「風紋」から、7年。 当時高校生だった真裕子は25歳になり、住宅メーカーで働く毎日。 でも、事件の傷跡はいえるどころか、父親や姉にたいする許しがたい気持ちは澱のように沈殿して、浄化される事はない。 そして、片や、事件の犯人である高校教師の家族にも辛い出来事が待ち受けていた。 一つの殺人事件のなかで、どれだけ多くの人が傷つき打ちのめされるのか、 決して被害者だけではなく、犯罪を犯した人間の家族もまた、辛い思いを余儀なくされる。 本当の意味での加害者は・・・深い問題提起はなまなましくて、暗い重い作品であるのに、どうしても、忘れられない作品である。 「風紋」も、すごく重くて暗かった。 当時、痛々しくて見ていられなかった真裕子は、それなりに成長しているのだが、殺人という特殊な形で母親との縁を断ち切られた後遺症が、癒えるどころかますます大きくなっているのがまた痛々しい。 答えてくれるはずもない母親に向かって「ねぇ、ママ・・」と話し掛ける真裕子に涙を誘われた。 しかし、今回はなんと言っても、殺人加害者側の子供たちの立場。 帯に書いてある言葉 「君が謝ることなんかじゃない。 誰も君を責めていない」 この言葉が、どうか、この子の心に届きますように・・・・。 クラハイに続き、これも、今年のお気に入りに追加。 あさみさんにお借りしました。ありがとうです。 |
タイトル/作家
小学館 |
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文字
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