2003年の読書記録*11月



ドロレス・クレイボーン/S・キング★★★★★
文春文庫
ヴェラ・ドノバン・・・ 富豪で老いた痴呆気味のこの雇い主が死んだとき、疑われたのは家政婦であるドロレス・クレイボーンだった。
取調室で、ドロレスはヴェラを殺したことは決して認めなかったが、30年前に夫を殺害した事を唐突に認めた。
30年前に何があったのか、ヴェラは本当に殺されたのではないのか・・・

映画の「黙秘」の原作です。
黙秘では、キャシー・ベイツが主人公を演じていたが、キング自身彼女を想定して物語を書いたらしい。
この、邦題のとおり映画ではキャシー扮するドロレスが(肝心なことは)黙秘していた記憶があるが、原作では黙秘どころか真実に向かって何もかも、包み隠さず延々と一人でしゃべっている。
正直言って映画の内容は断片でしか覚えてないけど、印象的なシーンが蘇ってきた。
でも原作の方が面白かったな〜。
最初こそこのおばさんの饒舌ぶり(一冊丸ごとドロレスのおしゃべり、しかも、雇い主のオシモの話、粗相の話が汚い・・・)に辟易して、読むのをやめようと思ったのだけど(笑)話が30年前の夫殺害の真相に迫るあたりから面白くなって一気読み。
映画の場面が思い浮かんできたけど、肝心なクライマックスのシーンは映画でこんなシーンあったっけ?という具合に忘れており、その分は単純に文章だけの面白みを味わえたし。
たとえば、(→ネタバレ開始)だんなを井戸に突き落として、それが這い上がってくる場面とか・・これ、読んでてぞくぞくしました。どうして、井戸ってこんなに怖いんでしょ・・というか、日本だけじゃないのね、井戸に対する恐怖って(笑)
この辺の描き方って、さすがホラーの第一人者と言う感じで、ミステリーと言うよりもホラー!!怖かった〜〜〜
それと、日食!
日食って神秘的なイメージと言うよりも悪魔的なイメージって感じ。
日食の日に夫を殺す・・なんちゅうかその発想!見事だ!キング!って感じ。
それをいつもは憎たらしい雇い主が示唆してくれたというところも、女同士の奇妙な友情を感じて言っちゃ悪いけどワクワクした。
でも、結局命張って守った「家庭」も、それが原因でギクシャクしちゃうんだよね。
そのままにはして置けない・・最善の方法と言うか、これしかない!と思って夫殺害に手を染めたのに、娘の気持ちがそのために離れていって・・・じゃあ、どうしたらよかったの?といわれても答えは無いわけで・・最後には殺してもいなヴェラ殺害を疑われるし・・
額がつるつるで触りたかったからといって、暴力、アル中、娘に性的虐待・・という、ダメンズの見本みたいな男と結婚したがために・・・
この主人公には同じ女性として同情してしまうわ。
でも、キャシーベイツほんとうに似合っていたよ。
キングとしては異色の心理ミステリー・・・と、書いてあったが私的にはかなーり面白かった。
映画ももう一度見たくなりました!
キングラー魔団の借り本、ありがとうございました〜♪



』 吉田修一 
東京湾景/吉田修一★★★★
新潮社
東京湾岸の船着倉庫でフォークリフトを駆って働く亮介は、ネットの出会い系サイトを通じて「涼子」と知り合った。
何度かメールをするうちに実際に会うことになった涼子が選んだ場所は、羽田空港。
ぎこちなく話したあと、性急にそれ以上を求める亮介に、一旦ひいてしまう(?)「涼子」だったが・・・
東京湾をはさんで進められるおしゃれなドラマのような感覚で読めた。
現代の恋愛を如実に描いた感じのラブストーリー。
ネットで出会う、と言う始まりもそうだけど、初っ端からの「タメグチ」や、いわゆる「ふたまた」をかけていたり、キモチが通じているとか精神的にどうこうとか言う前にまず体の関係。
ちょっと、おねーさんはついてゆけませんかも。
でも、主人公二人の心の中のジレンマが、ひしひしと伝わってくる。
本当は信じたいのに踏み込めない。
なにを信じていいかわからない。
なにをどう伝えてよいのかわからない。
大事な事は言葉に出来ない。
今の若い人たちの恋愛ってこんな感じなんじゃないだろうか。
登場人物たちのやり取りもリアルな印象を受けた。
本来、作家が描いているほど登場人物たちは、思考も含めて饒舌ではないのでは?
寡黙な亮介は、その辺にいる等身大の若者そのもの。
探りあいながらも、そろそろと近づいていく二人の心にドキドキさせられた。
(→ネタバレ?開始)作家さん、連載打ち切りは違反でしょう!!!



ZOO/乙一★★★
集英社
↑ 字面が面白い・・・
ひさしぶりの乙一さん。なんか、グロイとかいまいち、とかの風評を聞いたような気がしたので、トラキチさんのところでレンタルさせていただいた。いつもありがとう、トラキチさん!!
今まで読んだ乙一さんは、暗くて不気味な中にも人間の切なさ哀しみを描いてあり、グロイにもかかわらず、そこが読者をひきつけるのだと思ったが、今回の短編集は切ない系からお笑い系まで幅広いジャンルでちょっとびっくりした。
発想の突飛というか、よくそんなことを思いつくなぁと感心させられるのはいつもの事だけど。
不気味と言うと「SEVENS ROOM」が一番?ともかく、衝撃的な作品。一読の価値あり?
誰が?何のために?なぜ?どうして?という、全体的に不明瞭なところがまた一段と不気味さを増す。
切ない系と言えば「ひだまりの詩」かな。映画の「フラバー」思い出しました。ロボットの「心」というつながり。
「カザリとヨーコ」は乱歩の短編集のような陰気さがあってこれも好きです。
「So−far」もよかったしお笑い系の「血液を探せ!」「おちる飛行機の中で」なども楽しめる。
私が一番すきなのは「神のことば」
主人公は不思議な声の持ち主で、声に出した願いは実現するのだ。
このため、かれの母親はサボテンを猫だと思い込み棘に傷つきながらも頬擦りしたりしている。
世界とのかかわりに悩みもがきながら、迎えた結末、そして、主人公のその結末の捉え方。。。唸ってしまった。そして、やはり切ないのでした。



炎と氷/新堂冬樹★★★
祥伝社
またしても、「闇金」に手を出してしまった・・・。
金融関係は、利鞘がどうの・・よくわからないのにー・・と思ったけど、これは結構読めた。
著者との出会いも「無間地獄」という、闇金の物語だったし。
主人公の世羅にしても、その親友でありライバルでもある若瀬にしても、そしてそれを牛耳ろうとする○くざのひとたちにしても、ぜーーーーったいに係わり合いになりたくない!!ぜーーーーーったいにお近づきになりたくない!!て人たちの標本のような本です。
これを読んだら、何があっても街金、闇金には手を出さないぞ!!という気持ちになるのではないだろうか?
そして、そういうものについ手を出したくなるような賭け事や、ブランド漁りなどは、ぜったいに止めておこう!!と言う気持ちにも・・。
もう、怖い怖い怖い!
世羅は「炎」のような男で、圧倒的な暴力に物を言わせるタイプ。
片や若瀬は「氷」のような男で、冷徹非道に物事を深く考えて処理するタイプ。
その二人はもとは親友だったんだけど、あることがきっかけで袂を分かつ事に・・。
勝つのはどちらだ?
ここに描いてある凄まじいまでの暴力、えげつなく悪趣味のきわみです。
が、 迫力とスピード感はすごかった・・。
相変わらず疲れるけど。
でも、きっとまた次も読んじゃうんだろうな。著者の本。







今会いにゆきます/市川拓司★★★
小学館
妻の亡き後、5歳の息子と健気に生きる「タックン」
死ぬ前に「雨の降る季節に二人の様子を見るために戻ってくる」と、言い残した妻の澪は、約束どおり6月の雨の中二人のもとへ帰ってきた。
だけど、生前の記憶も死ぬ時の記憶もいっさいない。
奇妙な3人の生活が始まる。
この作者の本は2冊目。
どちらも、「死」と近い物語です。
そしてどちらも、不思議な物語。
人は大事なものは無くしてから初めてその価値やありがたさを知ることが多い。
でもそのときは後悔しても戻ってこなかったり。
それが、大事な「人」なら取り返しがつかない気持ちはとても大きい。
もしも
もしも取り返しがついて、もう一度「会えない」ひとに「会えた」ら?
そんな主人公の気持ちが胸に切なく響いてくるような小説です。
なんか、父一人子一人、父が行動障害を持っているようなくだりから「アイ・アム・サム」を思い出した。



吾妹子哀し/青山光二★★★
新潮社
老齢の作家が、アルツハイマーの妻との生活を綴った物語。
妻の壊れていく様子を、疲れながらも暖かい愛情いっぱいで見守り、かいがいしく世話を焼く姿が感動的。
私もボケたらこんな風に接して欲しい。
今までは遠い将来の事・・というか、違う次元の話であった「ボケ」「アルツハイマー」はもうすでに人ごとではない。
ので、こういう本は胸に迫ります。
知的で芳醇な文章、それでいて読みやすくスルッと頭に入ってくる・・久しぶりに「文学」って感じの文章に出会った感じ(だれさま??)
「無限回廊」という、作品と2本立て。
こちらは、同じく妻との馴れ初めや恋愛時分の思い出話。
文章は例によってすばらしいんだけど、インテリ老人の昔話的な物語が続くので、ちょっと興味の対象外でした。
でも、文章すばらすい。



お父さんエラい!/重松清★★★
講談社
単身赴任二十人の仲間たち

副題の通り、単身赴任の「おとうさん」へのインタビューなどを中心にまとめたルポです。
単身赴任って、日本特有のものなんだね。
海外では家族が離れて暮らすなんて考えられないらしい。
おりしも、「家族とは?夫婦とは?」と言うことを真剣に考える事があったばかりなので、タイムリーに楽しめた一冊。
正直、重松さんの本ではじめての「○」だった・・^^;

この本に紹介されているお父さんたちは、単なる単身赴任というよりはドラマティックに暮らしていると言うか、ルポの対象になりやすいちょっと特殊な感じの単身赴任者が多かったみたい。
たとえば南極に単身赴任とか、大連に単身赴任とか・・
普通の単身赴任でも、仲間となんかの「クラブ」みたいなのを作って「第二の独身生活」を楽しんでいたりする前向きなお父さんたちがいるかと思えば、一人わびしく涙誘われるお父さんもいて、なかなか読み応えあり。
共通して思えた事は「離れている方が夫婦、家族に対して思いやり、愛情が深い」ということ。
そばにいては相手の悪い所ばかりが目に付いて愚痴をこぼしたりするよりは、離れていて相手を切実に求めている方が実際幸せなんではないだろうか?
だとしたら、家族って一体なんだろう?なんて思ってしまったよ。

さて、実は我が家も単身赴任の経験がある。
ホンの半年だったけど・・。
我等夫婦は、実は来年で結婚20年目を向かえる。
10歳で結婚しちゃったからね、大名の政略結婚のように・・。
・・嘘です・・すみません、つまらない戯言を・・・
でも、20年はほんと・^^;
で、20年の中で、離れて暮らしていたその半年が、一番ラブラブだったように思う。
なんせ私ってば「お金なんて要らないから、そばにいて欲しい」などと、本気で(今では考えられないが)思ったことがあったような気がする。気のせいだろうか。・・首筋が痒いのも気のせいだろうか・・・。
いや、まじめな話。
離れてるとそんなものなんだって・・多分。
幸せってなんでしょうね?家族って・・夫婦って・・。
色々としみじみ考えてしまいました。話がそれてゴメンナサイ^^;