2003年の読書記録*12月



燃えよ剣 全2/司馬遼太郎★★★★
新潮文庫
幕末、新撰組、土方歳三というあまりにも有名な人物の生涯を描いた「超・有名作品」
幕末も、新撰組も初めてなら、司馬遼太郎さんもはじめて。
それだけでも、新鮮なのに、中学の教科書に載っている程度の歴史しかしらない私にとって、ここに描かれている奥深い幕末の描写は、何もかも新鮮な驚きにみちていた。
(武士の姿で、洋傘→コウモリ傘をさしたりね・・これって、想像するだけでも変だよね??)
恥ずかしながら、尊皇攘夷というコトバが中学時代から「難しいなー」と思っていたんだけど、それもそのはず、この本でようやく「尊王」「攘夷」「倒幕」「開国」などなど、いろーんな思想が複雑に絡み合っていて、とてもとても1行2行の説明では理解できないのがあたりまえだとわかった。
私なんて、単純に「幕府vs朝廷」みたいに思っていたんだけど・・。
これって、やっぱり、足利尊氏vs後醍醐天皇の影響だったのかな?
でも、そうじゃなかった!
幕府も「尊王」だったのね!!
そして「尊王」は必ずしも「倒幕」ではなかったんだね。
なんか、目からうろこ状態・・。何をいまさら?って感じ??

明治維新・・なんと言う大変な時代だったんだろう。
ものすごいエネルギーの渦の中で、人びとは溺れたりあがいたり、立ち向かったり・・そして、とんでもなく多くの犠牲を伴いつつ現代の日本を築いてきたんだなぁ・・と思うと、感無量です。
この本は、新撰組の立場から、主人公土方歳三の目を通して幕末を描いてあるので、もっと他の視点からもこの時代を知りたいと思った。
たまたま、家には「最後の将軍(同じく司馬遼)」があったので、間髪いれずに読み始めている次第。
新撰組と、土方歳三については何所のサイトを見ても悪くかかれたものはない。
この本での彼はとても、男らしく魅力的に描かれているが、「かっこいい〜!!」と、言い切るには彼の生涯はあまりにも血なまぐさすぎるような気がする。
斬る事が生きること、というこの人の人生はあまりにも悲しく感じられて・・。
ただ、他の新撰組の人たちが、なんか勘違い?を犯していくのに対して、いつまでも信念を持って幕府のために戦う姿は胸を打つ。
この人を実際に目の当たりにしたことがある人が、後にその様子を語り継いだ言葉が生々しく残っているのも、近世ならではの面白さだろう。
そういう証言集・・みたいなのも、読んだらきっと面白そうだな。
沖田宗司も、なかなか魅力的だった。山南氏暗殺の場面では切なくて涙が出た。
「幕末」・・・・禁断の扉を開けたかもしれない。
はまっていく人の気持ちがとても、よくわかる私です。

ちなみに、歴史って、うちの娘なども「大嫌い!!昔のことを勉強して何になるの?」などと、理屈をこねて避けたがるんだけど、(もっとも、娘に言わせると、どの科目も「勉強して何になるん?」だけど)私もその気持ちは大いにわかる。
ただ、自分の興味のある時代の事なら、こうして本を読んだりして勉強??したくなるものなのだ。
うちらにとっての「フランス革命」とかね・・。
授業では満遍なく、時代を一通り習う事も大事だと思うけど、興味のある時代を「選択」で、授業を受けられるようにしたらもっと子供たちも歴史に興味が湧くかもしれないのにね。
で、過去の歴史から未来を読んで、今後の指標としていかなくてはいけない・・だから歴史を習うのは大事なんだと・・そういうことがおぼろげにわかってくるのは、もっと年をとってからだもんね?
少なくとも、私は最近・・。
学校の授業も、もっと考えたらいいのにねぇ・・・(おばさんのつぶやきになってるよ〜)



最後の将軍/司馬遼太郎★★★★
文藝春秋
おもしろい人だったんだね〜。この、ラスト将軍、徳川慶喜っていうひとは!!
すっごくユニークな人なので、引き込まれて読んでしまった!
ユニークでパワフルで、アクティブでアグレッシブ。
もう、全然それまでの貴族たちとは大違いで、なーんでも自分で出来た人なんだって。
その上頭もすっごく切れて、まさに「意外性の塊」
私の好きなタイプです!!(爆)
これまた私の先入観だったんだけど、それまで300年維持してきた徳川幕藩体制を、一代でつぶした情けない将軍・・みたいな感じで思っていたんだけど、大違い。
大政奉還に至るまでの、複雑怪奇な成り行きの中で、諸外国に狙われていた日本を「たったこれだけの混乱で新体制にした」と言う功績の大きさ。そんなこと、全然知りませんでした。
特に、大政奉還を決める時、幕閣の面々にその必要性をこんこんと、といていく場面などは圧巻。
今で言うならさしずめ、一室に閉じ込めて商品買うまで家に返さないぞ!っていう感じのマルチ商法か、はたまた、カルト教団のマインドコントロールか・・。
そういうことをやっちゃうこの将軍、すごく面白い!!
この本って、数ある司馬遼さんの幕末関連本の中でも、かなり印象が薄い作品だとか?
でも、まだ、幕末2冊目のわたしにとっては、おもしろかったし、幕末ガイドブックのように明治維新の成り行きの一幕がわかったみたい。
これから、幕末に挑戦!と言う人にはお勧めじゃないかな?

清の最後の皇帝「ラストエンペラー」の溥儀も最後は普通の人としてひっそり亡くなったようで、その身の没落振りを見ると胸が痛かったけど、同じような感じがした。
でも、それでも前向きに生きたみたいでそのエネルギーは見習いたいもんだ。
・・結局私って、インテリが好きなんだよね〜・・。多分(爆)



接近/古処誠二★★★★
新潮社
太平洋戦争末期の沖縄の様子が描かれています。
日系のアメリカ兵が、スパイとして沖縄に入り込んでいるという設定なんだけど、それが誰かわからない。
怪我をした兵隊をかくまう主人公の少年が、村人たちとその兵隊たちとの間に立ちながら、時折出現する遊兵(脱走兵)たちの中で、一体誰がスパイなのかわからず悩んだりするうちに思わぬ結末へ。
少年の目を通して、日本兵のずるさや沖縄の人たちの日本への信頼が裏切られていく過程が描かれていて、かなりきつい問題作となっている。
ここに描かれてる戦況はかなり、悲惨でむごい。
沖縄と聞くだけで、国内で唯一の地上戦があった所、そして、犠牲になった土地というイメージがあり胸が痛むが、読めばもっと胸が痛みます。
でも、こういうのは読んだほうがいいと思う。
「戦争って嫌だ」と言う気持ちを忘れないためにも。

うちの祖父も、日本兵として沖縄で戦死した。
昭和16年生まれの母は、記憶にも無いだろう。
本書の中で兵隊は「頼もしい神兵は真面目に死ぬ。残るは利己的な神兵のみ」と書かれている。
うちの祖父はどうだったんだろう。
終戦間際に死んだらしいから、利己的なほうだったんだろうか・・。
なんて考えると、悲しくなる。
かといって、真面目に死んだとしてそれならいいかというと、全然そんな事はなくて、どう考えても戦争になんか行って欲しくなかった・・と思う。
かなり、きつい作品でした。
でも、母には読ませられないな〜



ワイルド・ソウル/垣根涼介★★★★★
幻冬舎
戦後の海外移民者たちの悲惨な歴史を通して、日本政府のありかた、ひいては現代の日本人へもモラルや価値観の再確認を問う意欲作。

主人公の衛藤は、1961年親戚中からお金を無心して、新婚の妻と実弟を連れてアマゾンに移住した。
政府が言うには、農業用地の開墾、灌漑用水、住居などほぼ完備しているというのだ。
しかし、そこに到着して唖然呆然愕然慄然!
一ヶ月以上の船旅を終えて着いたアマゾンの入植地には、家などはおろか畑も見当たらない、ただの密林だった。
衛藤たちの地獄がはじまる。
と、こういう始まりなので、すっごく興味シンシンで読み進む。
はっきり言ってアマゾンに移住した人がいる事すら知らなかった。
いまだと、「そんな無謀な」と思うけど、当時は当地の情報も手に入らなかっただろうし、政府に「こうこうですよ、いいですよ」と言われて信じてしまったんだろうな・・
なんでも、戦後帰国者などが相次ぎ、その数630万人も国内の人口は増え、そのせいでひどい食糧難に陥った日本。
政府が苦し紛れに出したのか、口減らし政策??それが、海外移住募集だったらしい。
どんなむごい生活が、向こうで待っているか、それは本書を是非読んでいただきたい。
事実に基づいて描かれてるはず。
ひどいです。
政府は国民をなんと思っていたのか。
あまりにもむごすぎる!
40年も前の怨恨を背負った、主人公たちが何をするのか・・。
それも見ものですけど、登場人物たちがすごく魅力的に描かれてて、重い暗いテーマだけどつぶされる事無く読めると思う。
特に途中からの主人公、ケイと貴子の関係がにくいぐらいよろしい。
この二人の恋愛部分だけ見ていても、かなり読める一冊だ。
ラストが、決してこの問題を根本的な解決になってはいないし、どちらかというと、「本当の戦いはこれから」ということだと思うし、よしんばもしも、解決できたとしてもこの人たちが苦しんだ過去は無くならないし、時間は戻らないし、亡くなった人たちも帰らない。そう言う意味では、作品としてもう一つ、突っ込んで欲しかったような気がしなくも無いが。

私の知らない日本の過去・・あまりにも多いけれど、本書の中にある「知らないこと自体が罪である」という言葉が、とっても重い問題提起になっている。
お勧め!
ネタバレ↓
途中から、日本政府への復讐劇になる。
その方法が乱暴であって、法にのっとっていないので、ある意味テロだと感じたし、虚しくなった。
が、最後まで読むとちゃーんと、納得できる結末が待っている。
最後も「このままで行くと号泣かな?」と思ったんだけど、そんな湿っぽいありきたりの結末じゃない所がまたいい!!
うーん♪このラスト、むっちゃ好きです!!
松尾の「結末」も、とってもよかった!
山本さんだけ、かわいそうだった。
昔衛藤を裏切った事への罪滅ぼし・・と言う事だったけど、あの場合誰でも山本と同じ行動をとったんじゃないだろうか??
おおもとをただしていけば、結局政府の移民政策の犠牲者である。
この人だけが、本当に哀れで切なかった。


"ITと呼ばれた子"全3/デイブ・ペルザー★★★★★
ソニーマガジンズ
裏表紙に「本書は、米国カリフォルニア州史上最悪といわれた虐待を生き抜いた著者が、幼児期のトラウマを乗り越えて自ら綴った貴重な真実の記録」と書いてある。
この本ってかなり有名になったと思う。
「虐待」のすごさだけが一人歩きしているような印象を受けていたのだけど、実はそうではない!
そこから著者がどのように成長したかというところに、本書の意味があると思う。
しかも「まともに」と言うところがまたすごいのだ。
(大抵のひとはこれほどの虐待を受けたら普通の大人には成長できないだろう・・普通って何だという疑問はあるだろうが、ある意味普通以上のすばらしい人間に成長したのだ)
だから、このシリーズの本当の意味を知るには第2部第3部を読まねば始まらないのである。

虐待が少年に与えた影響は計り知れない。
それをどう自分の中で決着をつけて克服していくか・・
順を追って正直に克明に記された第2部からの手記には圧倒される。
普通はこんな経験をしたら隠したくなるものではないか?
だけど、こういう手記を発表することで、少しでも自分と同じ立場にいる子供たちを救いたいと言うことが著者の目的の一つのようだ。
もう一つは自分が立ち直ったのは、献身的に愛情を注いでくれた里親たちのおかげだと言うこと・・・
これもなにかと、世間的に誤解のある「里親制度」が、こうした子供たちにいかに大事で拠り所となるか・・ということも、著者の言いたいことのようだ。
虐待をする親の大半は自分も被虐待児であったと言う。
でも著者はそれを虐待の言い訳にするべきではない、と主張する。
人間の持つしなやかな強さを著者の中に見るとともに、それは人間なら誰しも持っている強さなのかもしれないという前向きな気持ちにさせられる。
実際彼が、過去の記憶に振り回される事なく自分の息子に惜しみない愛情を注ぐシーンは感無量である。
骨身をけずって被虐待児たちのために献身的に活動する著者に頭が下がる思いです。

ゆっこさんからの借り本。ありがとうございました♪



anego/林真理子★★★
小学館
奈央子は30代前半、有名商社に勤めるOL。同僚たちからは頼りにされる存在。
「anego」と言うのは「お局」を親しみを込めた呼び名でもあろうか。
見た目は華やかで綺麗でかっこ良い独身OL。
しかし、社内では年齢が上がるにつれて不安さが増す立場、男性社員からは便利に使われ、派遣OLからは疎まれ、悩みは多い。
そんな中で決して自分を見失わないように「賢く」生きている主人公がはまった泥沼。
それはハワイで結婚退社した後輩OL夫婦に出会ったときから始まった。
女の情念が恐怖を運んでくる。

今回の主人公は、いつもの林さんの描く馬鹿女とはちょっとだけ違う感じ。
有名商社のベテラン美人OLって言うところが、鼻につくけどそれなりに悩みの中で生きているのが共感できると言えば言えるような。
「あなたたちが思ってるほどお気楽じゃないんだよ」という感じだろうか?
ストーリーの中でも30を越したOLたちがしみじみと自分の立場や、恋愛観結婚観などを語り合ったりするのもリアルに感じた。
結局、林さん流の「不倫」に発展していくのだが、主人公の気持ちのひだの隙間まで、爪楊枝でほじくるように細かく描いてあるのが私は好きなのね。
「断崖・・その冬の」という著書とよく似た感じかな?
「不倫」ってパワーいるんですねぇ!!!それでも頑張っちゃうのが、女のサガ?その辺を描かせたらうまーい林さん。今回も堪能させていただきました〜。

ただ、世間的にも「いい人」な登場人物も著者に内面まで描かせると「嫌な奴」になっちゃうのが不思議。