2003年の読書記録*2月



対話編  金城一紀  講談社
満足度
お薦め度
★★★
あらすじ 「恋愛小説」「永遠の円環」「花」の短編3作品。
どれも、「命」がテーマ。
感想 久しぶりの金城さんの単行本なので、期待したけど、正直言って最初の2編はいまいちだった。
でも、「花」に関してはすごくよかったです。
病気を抱えた主人公が、元弁護士の老人の思い出に付き合うというストーリー。
読み始めは、ストーリー的におセンチすぎると思ったけど、だんだん引き込まれた。
最後はしっかり泣かせてもらった。
最後まですごくセンチメンタルだけど、それがストレートに訴えてきて胸にパンチ食らったみたい。





フライ,ダディ,フライ  金城一紀  講談社
満足度★★★
お薦め度 ★★★★
あらすじ 何の変哲もない一回のサラリーマン、妻と娘をこよなく愛する、ごくごく普通のサラリーマンの「私」47歳。
ある日、娘が怪我をした。
怪我をさせた相手側に誠意は感じられず、それどころか罪の意識もない。
それよりもなお許せないのは・・・。
そして、中年サラリーマンの「私」がとった行動とは?
感想 「GO」以来の長編だ。
待ってました、って感じです。
でも、ここに出てくるのは「ゾンビーズ」の面々。
これが、主人公を差し置いて光ってるような気がする。
だって、一番かっこいい朴舜臣が今回前面に出てきて、楽しませてくれるんだもん。
娘のためにがんばるおとーさんを鍛える役目だ。
いわゆる「ロッキー」おっさんバージョンというところで、盛り上がるのだ。
でも、どうしても初めてゾンビーズを読んだ時に比べたら色あせて見えてしまう。
シリーズはちょっとずるい。キャラクターの魅力に頼ってるような気がするのだ。
そうは言っても、ゾンビーズがでてきた時は思わぬ再会に、心が躍ったんだけどね♪





深追い  横山秀夫  実業之日本社
満足度
お薦め度
★★★★
あらすじ 三つ鐘所という、警察署の中でおきる事件簿。短編集。
感想 長編だと信じて読み始めたので、表題作「深追い」が、唐突に終わってしまったので拍子抜けしてしまった。
でも、短編とはいえ、どれも心に鬱屈や暗い過去を持つ警察官が主人公で、力作と思う。
初出一覧を見たら、順番にだんだんとよくなってきているのが分かる。勢いのある作家だと言うことではないだろうか。
とくにラスト2編はよい作品で「仕返し」は、先を急がせる魅力があったし「人ごと」は最後にジーンとしたし、心に残る。
一番好きなのは「訳あり」。この本の作品はどれもいわゆる「中途半端な終わり方が、読者の想像力を助長する」のが魅力のひとつと思うんだけど、「訳あり」はすっきりと終わっておりさわやかな読後感であった。





夜を賭けて  梁石日  NHK出版
満足度
お薦め度
★★★★
あらすじ 戦後十数年、大阪の焼け野が原はほとんどなくなりつつあった。
が、大阪造兵廠は、まだまだ瓦礫の山が作る廃墟だった。
その周辺にバラックを建てて、行く所のない朝鮮人たちが住み着き、ひとつの部落を作った。
住人たちは生きる糧を求めて、大阪造兵廠廃墟に鉄くずをひろいに夜ごと繰り出す。
強制連行によってつれてこられたと言うのに、戦後の法改正によってたちまち日本を追われることになった彼らの、悲痛な叫びの物語。
感想 無関心とか無知という名の罪を痛感した。
戦争が終わっても、朝鮮の人たちのご苦労と言うのは計り知れないものがある。
作品の中に出てくる朝鮮人の収容施設の「大村収容所」とは、日本のアウシュビッツとまで言われたそうだ。
知らなかったの一言ですんだら警察は要らない。
深く考えさせられる。





殺人症候群  貫井徳郎  双葉社
満足度
お薦め度
★★★★
あらすじ 家族や恋人を惨殺されても、相手が未成年だったり精神障害の判定を受けたりすると、加害者は罪に問われない。
問われたとしても、少年の場合、厚生施設に形だけ収容されてすぐに元の生活に戻ったりする。
たとえそうでも、もしも、自分の罪を自覚して深く反省していればそれで良いのかもしれないけれど、反省どころか罪の自覚もなかったりすると、被害者の気持ちはたまらないだろう。
その上、現在の法律では、少年が起こした事件の場合、加害者の人権は徹底的に保護されるのに対して、逆に被害者の人権はまったく守られない。
このような理不尽を法が許す場合、やり場のない怒りの行き着く先は。
私刑は、許されるのか?
感想 全編通して描かれる、理不尽な事件にこちらまで引き込まれた。
ここに書いてあるような事件に本当にあったら、法律で犯人が罰せられない場合、やはり自分の手を汚しても・・・と言う気持ちになるだろうと思う。
主人公や登場人物の怒りややりきれなさ、そして、自分のしている事は正しい事なのか?と言う葛藤が痛いぐらい伝わってきた。
まさにこの葛藤の部分が作者の一番言いたい事だったのではないだろうか・・・。
私も、私刑は反対(その立場にないから言える事かもしれないけど)
ではどうしたらいいのか?今の法律を変えて、犯罪者がもっときちんと罰を背負うべきだと思う。
最初は、登場人物の多さに戸惑ったけど、きちんと背景とともに書き分けられていて読みやすかったし、 二つの事件のつながりというか、トリックはさすが貫井さん。やられた!と思った。





黒焦げ美人  岩井志麻子 文藝春秋社
満足度
お薦め度
★★
あらすじ 明治が終わり、大正の幕開けとなった年の終わりごろ。
正月を待たずに、主人公晴子の姉の珠枝は殺された。
人目を引く美人であったが、死んだ時は無残な「真っ黒焦げ」の状態。
「黒焦げ美人」と異名をとって、世間をスキャンダルの渦に巻き込んだのだった。
誰が殺したのか?何のために?
感想 岩井さんの文章に共通するものは「陰惨」「淫靡」「禍々しい」と言った感じだろうか。
じっとりと湿った男と女の汗の匂いが漂うような・・・。
今回も独特の雰囲気で、じめーっと、物語が進んでいく。
でも、結構「淫靡」な感じはしなかった。
ちょっと食傷したので、★2こにした。





邪光  牧村泉 幻冬舎
満足度
お薦め度
★★★★
あらすじ 最近、夫の転勤で大阪のあるマンションに越してきたばかりの主婦、真琴。
ある日隣に住んでいるのが、「邪光を放つ人間を惨殺する事で粛清していく」と言う事件で世間を騒がせたカルト宗教の教祖の、一人娘(12歳)だと知る。
周囲はその少女藜子に対して冷たいが、真琴はなぜか放って置けないのだった。
しかし、そのころから真琴の周りで殺人事件が頻発するようになる。
殺人に藜子は関係しているのだろうか?
感想 これは、今回のホラー大賞の特別賞のほうです。
ホラー大賞は「人形(佐藤ラギ)」と言う作品なのだが、抄と書評を読んだ時に、こっちの方が面白そうに思えたのだ。
さて、内容だけど、ちょっとオカルトの味も持ちつつ、人間のエゴを指摘しているようなヒューマンドラマのような部分もあり、私は面白かった。
何よりも、主婦真琴の目を通して物語が進むので、すごく読みやすかったのだ。
さくさくと、一日で読みきってしまったくらい面白かった。
ホラーとして読むよりも、真琴という一個人の気持ち、心の中の深層心理の変化(というか、自分の本当の気持ちに気づいていく過程)が読み応えがあった。
藜子という少女も、怖いのだけど、どこか物悲しい。
ラストは切ないです。切ないもの好きの方にお勧めしたい。確か宮部さんは大賞よりも、こっちを押していらっしゃったよ。





冴子の東京物語  氷室冴子  集英社文庫
満足度
お薦め度
★★★★
あらすじ 私の好きな氷室冴子さんのエッセイです。
感想 氷室さん、やっぱり好きだ〜!と叫びたくなるような一冊でした。
小説家としての生活の裏話も、面白かったけど、それ以外にも意外とミーはーな部分や、結構友達とのクールな付き合い、そうかというと数字が6個並んでいる電話代の請求書のはなし(つまり●十万円の電話代を払っていらっしゃるのね)などなど、どれを読んでも笑いが思わずこみ上げてくる。
なかでも、面白かったのは国鉄マンだったお父上への気持ちなどが、素直じゃない愛情描写で書かれたりして、ジーンと来たし、おばとして姪への「おばばか」ぶりの披露など、家族に対する愛情もさらりと描かれているのがいい感じ。
「いもうと物語」などは、こういうところからできているんだなぁと、再確認した。





冴子の母娘草  氷室冴子  集英社文庫
満足度
お薦め度
★★★★★
あらすじ 長編エッセイ、という珍しい?形のエッセイです。
ともかく、旅行の好きな氷室さんのお母さんを連れての珍道中。
発端はお母さんの弟(氷室さんの叔父さん)が亡くなったこと。
その時から北海道民のお母さんは、先祖探しの旅に、山陰地方に行きたいと思われたらしい。
しかし、その旅行にいたるまでにも、聞くも涙、語るも涙(と、笑い)の紆余曲折があったのだ。
感想 このエッセイの中で一番の出来事は、母親の、娘に対する「結婚しなさい攻撃」によって、親子の断絶に至りそうになる顛末だろう。
「結婚しなさい攻撃」に対して娘は、怒り大爆発。
しかし、親子関係の崩壊寸前で和解に至るのだが、その経緯と、母の情緒あふれる詫び状が泣かせる。
しかも、それをまた冷静沈着に分析しつつ、決して譲らない氷室さんの気の強さと言うかなんというか。
それが見ものなのだ。
このように、崩壊寸前まで行きながらも結局は、何事もなかったかのように(??)「やはり旅行なんて来るんじゃなかった」と、後悔しながらも、親子旅行をしてしまうあたり。
それが遠い先祖から、連綿と続く血のなせる技・・と言うものなのだろうか?
母親に「言いたい事」がない娘と言うのは、この世にどれほどいるんだろう?
これを読んだら、誰しも少なからず、思い当たる所があるのではないだろうか。
中年女必読の書!と思います。