2004年の読書記録*12月



走る!漫画家-漫画原稿流出事件/渡辺やよい★★★★★
創出版
ある日、この漫画家の元にファンから一本のメールが届いた。それは「あなたの原稿がヤフーオークションに出ています」と言うもの。驚きながらもとりあえず自分で落札する渡辺やよい氏。そして、出品者が原稿を「まんだらげ(大手古本屋)」で購入したことを知る。まんだらげにはまだまだ自分の原稿が売られていると知り、原稿を返してくれるように頼んでみるも「警察に盗難届を出して受理されたら、盗品として原稿は返すし、持ち込んだ人間も誰かを教える」とのこと。そこで、警察に駆け込むがこの「盗難届」が、全く受理されない。原稿を取り戻すためにまさに、走る漫画家!!
驚いたのは漫画家には原稿の著作権はあっても、所有権は無いのだ。
大量の漫画の原稿がこうして行方不明になっているらしい。そりゃ、復刊ドットコムでみんなの要請があっても実現もしないというわけ??
そして、この著者渡辺氏。 描いている漫画はエロ漫画、通称レディコミの女王と言われる渡辺氏だがその実生活は実直そのもの、朝は4時に起きて家族が起きるまでの時間で仕事(官能漫画や官能小説の執筆!)そして、家族が保育園や仕事に出かけた後はまたひたすら仕事や犬の世話。夕方からはまた子どもの世話や家事をこなして夜は9時半には眠りにつく。時には剣道を教えている夫のバーベキュー大会にお付き合いして子守りや運転手になったり、時には保育園の他の子どもを母親の迎えが遅い時には預かったり、時には発表会のピアノ演奏をしたり・・・ただでさえ、目が回るような生活をされているのに、その上にこんな事件の中心になって奔走されている。そのパワフルぶりには圧倒された。
「レディコミ漫画家と一緒にそんな活動は出来ない」とか、「あんな原稿まで守らなくてもよいのでは」、などと卑劣な事も言われながらも頑張った渡辺さんに心からの拍手を・・・そして、優しく思いやりのあるご主人と子供さんたちに敬意を表すものである。
関連サイトはこちらすがやみつる氏のサイトはこちら



幸福な食卓/瀬尾まいこ★★★★★
講談社
ある日突然その一家の父親が「今日から父さん、『父さん』をやめるよ」と宣言。
驚く主人公、佐和子。だけど6歳年上の兄の「直ちゃん」は「それも良いね」などと鷹揚だ。
一見平和そうな家庭だけど実はそれぞれが心に傷を持っていた。
傷を持ちながらも互いに優しい思いやりある家庭の何年間かを佐和子の目を通して描く。

瀬尾さんの作品は2作品目だけど、やはり良いです。
登場人物たちの魅力が何より光っていると思う。どの人も優しくて好感が持てるし、すごく感情移入しやすい。
この作品の家族も、思い合う姿がとても好ましい。
誰も怒鳴ったりキレたりすると言う場面がなくて、本当に心地よい。
読み終えた後優しい気持ちになれるのだ。
↓ネタばれ
第一章では、佐和子の初恋?は相手の転校と言う分かれで幕引きとなったがさりげない文章に、別れの情感がでており感動的だった。別れって、人が死ぬ場面よりも私の場合「ツボ」なのだけど、今回もかなりグッと来た。
しかし、やはり「死ぬ」ほうが哀しかった。どうしてこんな仕打ちを佐和子にするのだ、この著者は!と、憎い気持ちになりそうだったが、その後の家族が、表面上はさりげないながらも実はとっても佐和子に気を使ったり佐和子のことを考えてそれなりに傷ついていたりして、そう言う描写がじーんと胸に沁みた。そして何よりも小林ヨシコの優しさ(これまたよく見ないと優しいと分からないのだが、確実にそれは「思いやり」であり)が読むもののハートを掴むと思う。
ボロボロ泣きました。
これはオススメです!



人生激場/三浦しをん★★★★
妄想炸裂エッセイ。
同感した部分がいくつか…。
まず。ヒッキーこと宇多田ヒカルのプロモで、自分の曲を歌いながらお皿を洗ってるという映像を覚えておられるだろうか。あのプロモを見て「ヒッキー!皿の裏!!」と、思ったのは私だけではなくてこの著者もそう思った。同感。
次にモーニング娘。のメンバーがテレビで平気で「うちのお母さんが…」などと、コメントするのを「うちの母が」と言えるように事務所に注意するようなマトモな大人はいないのだろうか…と、モー娘たちの環境を心配している。環境まで心配するほど私は親切心はなかったが、ある程度の年になったら「うちの母」と言いましょうと私も痛切に思う。同感。
同感できない部分もある。 三浦さん、胸毛フェチなのだ。サッカーのワールドカップ、ネットのメンバーたちでも盛り上がり記憶に新しいような懐かしいような…。あの時三浦さん、胸毛を見ていた?理想の胸毛とは??
何にしろ面白エッセイである。



竜馬がゆく(2〜3)/司馬遼太郎
文藝春秋文庫
この巻で印象的だったのは土佐藩の実態。
むかしは今と違っていろんな格式を重んじたり、上下の差が歴然としていたとは思うけど、ここまでだったとは!(上士になると本人は日傘をさせるけど家族は日傘をさせない、郷士は本人すら日傘をさせない…とかね)戦国の世からの流れで幕府にたいしての思いもそれぞれ違ったり、ページ数の分だけ丁寧に書いてあって「ふむふむ、そうなのか〜」と思う事が多かった。
2巻で竜馬は脱藩するけど、ここでも、乙女姉さんや家族の気持ちが切ない。
竜馬の旅立ちのために犠牲になった人が多いのも、やむをえないとしても…。
勤皇の志士たちの活躍も、一人一人丁寧に書いてあるけど、「後年○○により、死んだ」みたいに、若くして死んだ人ばかりなのでそれが切ない。 特に寺田屋事件の時の薩摩の志士たちの壮絶な最期が涙をそそった。
それと、冒頭、桑名に竜馬が寄ったんだけど、そこで、桑名の鹿田伝兵衛という指南役に「桑名藩に仕えてみないか」と、誘われている。「きゃー。そうしてそうして!」と、一瞬言いたかったが、そんなわけないのであった。竜馬も「桑名くんだりで一生を終わらせない」と言う思いがあった。たしかにそうだけど、「くんだり」とは…(苦笑)ちょっと寂しかったり。



バッテリー2・3/あさのあつこ★★★★
教育画劇
中学生になった巧たち。野球部にはいるけど、あの性格が災いして飛んだことに…。
誰にも体に触れて欲しくない、触れられたら邪険に振り払う。それが母親でさえ。
教師であろうと、校長であろうと 監督であろうと、自分が自分の野球をすることを邪魔する奴は許さない!
いやー。まったく怖い子どもだ。
今はもう、巧の鼻っ柱を誰か折る奴はいないのか?と、そんな不埒な気分でしか読めない。
野球は一人では出来ないんだ、と言う事をどうして分かってくれないの?
野球は、「ピッチャーが押さえればOK」たしかにそうかもしれないけど、豪の気持ち、監督の気持ちがダイレクトに伝わり、巧に対してイライラしてしまった。
中学の野球部に海音寺と言う名キャプテンがいて、この人がとってもいい。
ちょっとは影響受けてみろ!巧!って思った。



バッテリー/あさのあつこ★★★★
教育画劇
あまりに評判が良いので、とりあえず1巻だけ借りてみた。
主人公は今春中学に上がる12才の少年だ。並外れた野球選手であるらしい。それが、父親の転勤で妻の実家に住むことになった。そこにいた妻の父親は、昔高校野球の監督で何年も自分の率いるチームを甲子園に送り出した名監督だった。

この、主人公の「巧」みたいな子どもが私の子どもだったら疲れるだろうな〜っていうのが、パッと浮かんだ感想。若干13歳で、もう自分の実力をきちんと認識していて、他人にも自分にも厳しい。(まぁ、私が育ててそう言う子供になるとは思わないけど)
親は自分を理解していないといっては腹立ち、理解しようとすると跳ね除ける・・・難しい子どもだ。しかもかなりおませだしね(精神年齢が高すぎると思う)
傲慢で、生意気で、他人に冷たく、いちいち言う事がキツイ!!・・・好きになれないなぁ、この主人公・・・。と思いながらのスタートだった。
そこに登場する、地元の「豪」という少年。彼もまた才能ある野球少年で、キャッチャーとして「バッテリー」を組む事になるのだが、そこから物語は私にも面白くなった。
ひとえに巧の周囲にいる子供たちが魅力的なせいだろう。
「豪」とっても、良い奴!優しいし、飄々として包容力があって、洞察力があり人の事を考えて上げられる少年。巧と豪とどっちが好き?ときかれたら断然「豪」だよね!
そして、巧の弟「青波(せいは)」。これがまた良いキャラなのだ。癒し系だ。彼は今度小学校4年生になるんだけど、とっても病弱。なので母親に守られてやっとの事で生きてきた・・・という感じ。
思うに巧の「とんがり具合」はこの弟に「母親はお前に譲るけど、野球だけは俺のもんだ」みたいな部分もあるのだろうな。(理解してくれないと苛つくと言う事は、理解して欲しいと言う事の裏返し?)もちろんそれだけではない、天賦の才能というのが前提だけど。
なので、読みどころとして一番は、巧が豪や青波とどう向き合っていくか、その中で巧がどう成長していくかということかな?この巧の「とぎんとぎん」にとんがった性格がどうなるのか。気になるところ。
1巻ではまだまだ、嫌な奴です。でも、最期にちょっと「いい奴になってきた?」って感じのところを見せて2巻へ。続きも読みたくなるうまーい終わり方。



壊れるもの/福澤徹三★★★
幻冬舎
中年サラリーマンの英雄が家族とともに住む場所は、とある新興住宅地に格安で手に入れた中古住宅。
そして、そのときから英雄の歯車が狂いだした?
持ち家を手に入れると左遷させられるというジンクスがある英雄の勤める百貨店。はたして、仕事上のトラブルが続発。家族もなんだか自分に対して冷たい。

中年サラリーマンの「転落系」。
タイトルの「壊れるもの」というのは何だろう。
「幸せ」が壊れるのか。「生活」か。はたまた「自分」か。
中年のサラリーマンを巡る状況って、結構(かなり)過酷なんだということが中々リアルに描かれてる。絶対、こういうこと良くあるような気がする。
先ごろ読んだ「砂漠の船/篠田節子」と、なるほどよく似た感じがあった。家族構成も似てるし、娘が反抗的というのも似てるし、妻の素行も・・。
比べてしまうと、「砂漠の船」に軍配かなー。先に読んだからかも知れないけど。
ただし、ラストがホラーならではの「いやーな感じ」の終わり方なのが、「良い」と思う。
濃い霧がじっとりまとわりつくような終わり方。
壊れたのは結局は・・・。



竜馬がゆく(1)/司馬遼太郎
文藝春秋文庫
今さらストーリーは説明しなくても良いかと思うし、全巻読んだらまた改めて感想アップしたいので、ちょっと心に残る場面など。

のっけから、竜馬に惚れた!!
まず最初、幼い頃は鼻水垂れだったとか、寝小便垂れだったとか(あら、失礼!)おまけにいくら勉強を教えても覚えないので、学校の先生が「もう、教えたくない」とさじを投げたとか・・・そう言う逸話からして親しみ度アップアップ!(笑)
家族がまたよいね。この家族(乙女姉さん)に育てられたからこそこういう「竜馬」が出来上がったのだろうね。
次は竜馬の飄々とした部分。なんてとぼけてておもしろい人なんでしょう!
自分を侮った人に対してマトモに感心してしまったり、桂小五郎の話に感銘うけたことをストレートに表現したりと、素直で嫌味がないったら。
そしてその飄々とした中にある優しさ。これが一番かな。岡田以蔵にお金を貸したエピソード、優しいし男らしい!剣術の試合の時も、相手に幼い子どもがいたり、たくさんの弟子がいたりすると、思わずその立場を考えてしまう。なんて優しいんだ!あなたは!
おっと、忘れちゃいけないのは、日本で一番ってぐらい強かった事!これも大事なポイントね♪
とりあえず、一巻は竜馬の魅力にメロメロになってしまった。
先が楽しみです〜〜♪

この本はラムちゃんからお借りしております。ありがとう♪



砂漠の船/篠田節子★★★★
双葉社
家族と共に地域に根を下ろした生活をする事が幸せに繋がる・・・そう信じて転勤を断りつづけてきた結果、出世コースから完全に外れた男、幹郎。
家族と共にあることに執着するその裏には、幼い頃両親が出稼ぎ労働者であったことが原因であった。自分の子供には自分が味わった寂しさを味わわせまいとして必死に家庭を守ろうとする幹郎。
そんな時、近くの公園で浮浪者が死んだ。その浮浪者は「出稼ぎ労働者」だったのだ。母親代わりに自分たちきょうだいを育ててくれた祖母が死んで故郷に帰る事になった幹郎はそこで死んだ浮浪者の意外な正体を知る。

初めてこの人の小説を読んだんだけど、巧い!と思った。
なんという皮肉なストーリー展開。最後まで読んだらそこここに散りばめられた布石に感心させられるだろう。どんでん返しと言うのでもないけど、「そうだったんだ〜・・・」みたいな「やられました」みたいな気分になったんだけど、私は。
それに「出稼ぎ」とか「蒸発」だとか、松本清張あたりの小説によくあったような気がする。懐かしい感じで、なおかつ今の家族のあり方を直撃しているような内容だった。
夫、父親である「男」幹郎の視点から描く家庭。それはきっと女の立場から見たら幹郎とは違った物になるはず。妻や娘の気持ちを想像しながら幹郎の「独り善がり」かもしれない「幸せ論」みたいなのに付き合う。世間でもよくいるであろう「家庭の中で浮いてるおとうさん」も、心の中ではこんな風に思ってるのだろうな・・・と主人公に同情してしまう。読んでる限りキライにはなれないタイプだと思う、この幹郎。
でも、自分がこの人の家族だったらどうかな?
自分の信じたものが間違っていたとしたら、それはどこでわかるのか。分かったとしてもそれを認める勇気はあるだろうか。ふるさとは遠きにありて思ふもの、そして悲しくうたふもの・・・なのかもしれない。そう言う気持ちでふるさとを想えると言うことが、結局は「幸せ」な事なのかもしれないね。
色んな要素が交じり合っていて、それでもパンクせずに最期まで一気読みさせられて、なかなかのオススメ作品です!
トラキチさんの「レンタル」でお借りしました。ありがとう♪



追憶のかけら/貫井徳郎★★★
実業之日本社
大学講師の松嶋は最愛の妻を事故で亡くしたばかり。当時妻はあることが原因で松嶋に対して怒り、別居中であった。幼い娘は、別居中に暮らしていた、妻の実家にそのまま残っていて、松嶋が引き取ろうにも状況が許さない。妻の父親は松嶋の勤める大学の教授だった・・・。
そこに舞い込んだ一冊の古い手記。それは、とある作家の遺書であった・・・。

これは上手い!!
手記が出てきたとき、旧字使いで、言葉も古いし、長いし、「こんなの読まないとダメなのか」と、ちょっとゲンナリしたんだけど、その手記を読む主人公と同じように引き込まれて一気読みしてしまった。
そして、手記が終わった時、その中に含まれる「謎」がすごく気になり、主人公の取る行動から今度は目が離せなくなった・・・。

のだが!
概ね好評のこの作品だけど私は後半は好きではなかった。
最後まで読んでみれば「動機」と言うのはあながちありえないことはないと思ったが、そのためにここまでするか?という、違和感。私には現実離れしているように感じる。ありえん!って思ったらもう、あとは気持ちが冷めてしまい・・。もっと他に効率的にできるでしょう・・・とか、思えてくる。
前半がめちゃくちゃ面白かっただけに残念だ。
ちょっとネタばれand辛口→ 最期の手紙も、ああいう手紙を夫に向けて書く妻・・・というのが私の中ではあり得ない(首筋がカユーくなる)ので、それも冷めてしまった。それに、手記の結末はあんがい曖昧だと思うけど、もっとそれをはっきりとスリリングな展開で示して欲しかったように感じた。 好評派のひと、ごめんなさい!!



2004年の読書記録*11月



総統の防具/帚木蓬生★★★★★
日本経済新聞社
ベルリンの壁が崩壊後のドイツ。旧東ベルリンから日本の剣道の防具が見つかる。対戦中に日本からヒトラーに贈られたものだった。
そして一緒に保管されていた古びたノート。それは日本語で書かれた日記のようなものだった。

手記の持ち主は、ドイツ人の父親を持つためにそのドイツ語の能力を買われ、ベルリンの武官事務局で働く事になった香田光彦。当初の任期は3年の予定だった。
香田の目を通して、ナチズムの恐怖、戦争に突入して廃墟となっていくベルリンの移ろいと、光彦自身の哀しみや虚しさを描く。
日本の戦争被災者の物語は良くある(この前も「少年H」を読んだばかり)が、ドイツの人々を日本人の目から見たものと言うのが、異彩を放っているのでは。
ドイツ国内の戦争の始まりから、狂気によって突き進んでいく様子が、敗戦までの時の流れとともに丁寧に描かれていて読み応えがあった。
ベルリンの町が破壊されていく様子は、空襲のひどさを語り伝えられてきた日本人にとっても戦慄モノで、独裁政権の恐ろしさがここでも浮かび上がる。
帚木さんの作品の特徴として、登場人物の清廉さや真面目さ、情の深さなどがあるんだけど、この作品でもそれはもちろん一番の魅力だった。
香田の関わったドイツの人たちもとても魅力的な人ばかりで、彼らとの友情がとっても 良いのだ!特に私のお気に入りは「ヒャルマー爺さん」。(うるるる…)
われわれ日本人は、自分たちのことを棚に上げて、ナチスの批判をしてしまう。ヒトラーに追従していったドイツ国民をも同じように非難しがちではないだろうか?
でも、本書に描かれたように、もちろん戦争に反対した国民もいただろうし、ホロコーストに目を背けたドイツ人もいたのだろう。
他国に対してした仕打ちが、結局自分たちの身に降りかかる。天に向かって唾を吐くようなものだという虚しさ。
「あたりまえのことがあたりまえでなくなる」それが戦争の恐ろしさ。私たちはいま、なおの事これを胸に刻み付けなければならないのではないだろうか??
大事な人を、建物や品物も思い出も何もかもなくしてしまう。
この作品は、本当に戦争の虚しさ、そこに生れる狂気の恐ろしさ、犠牲となる人々の悲しさなど、余すところなく伝えてあると思う。
最後は、もう例によって涙なくしては読めない。読み終えた後、その後の香田に思いを馳せてみればまたまた切なくなりため息。
単行本で600ページ以上、長いけどそれだけの読後感は得られます。オススメ。



深川恋物語/宇江佐真理★★★★
集英社文庫
深川を舞台に繰り広げられる6つの切ない恋物語。

「下駄屋おけい」
「太物屋(反物)」の娘、おけいには思い人があるが、大店の娘であるおけいの恋は思うようにはならない。親の勧めるままに釣り合いの取れるような縁談を受けようとするおけいだったが…。
身分違いの恋…というと、現代ではあまり聞かれないように思うが、江戸ならではの切なさが描かれていて良かった。
「がたくり橋は渡らない」
自分を裏切った女に復讐を誓った信次は、その相手のおてるの家に向かう。しかし、おてるは留守で代わりに隣に住む一風代わった夫婦に声をかけられ…。
好きなのに、どうしても添い遂げられない切なさと、赤の他人にも優しい下町情緒とが胸を打つ作品。
「凧、凧、揚がれ」
凧は男の子の遊び、そう決められていた当時、女の子でも凧に魅せられたおしゅんが嫁ぐことに。そこで花嫁を乗せた船がとおる時おしゅんの為に凧を揚げることになった。そこにはおしゅんを彷彿とさせるような、凧好きの少女おゆいがいた。
どうしてもスイカの凧を揚げるんだ!という、おゆいの気持ちに泣かされました。
「さびしい水音」★★★★★
本書中で一番好きな作品。
絵を描くのが好きな女房を持った男の、どこかで微妙にずれてしまった人生を描く。
この、微妙なズレが刻々と上手く描かれていて一番引き込まれた。なんとかならんのか…と思うような小さな事の積み重ねで壊れる何かもあるのだ。
表題の意味がわかったとき、胸が詰まった。
「仙台堀」
乾物問屋の手代、久助は仕事は真面目で信用のおける男だが、晩生で煮え切らない男であった。
ちょっとイライラッとさせられた。優しいのと、気が弱いのとは別だよね。

「狐拳」★★★★★
「さびしい水音」と並んで本書中で私のお気に入りになった作品。
玄人女であったおりんが育てた前妻の子ども新助が入れ込んでいる吉原の妓、小扇。
新助のために引き取る事になったが、すんなり行かない。それには理由があった。
ラストももちろん良いのだけど、おりんが今の亭主と一緒になった件もとてもよかった。
女としてちょっと泣けてしまった。



ダレン・シャン11/ダレン・シャン★★★
小学館
18年の時を経て、ダレンはふるさとに帰る。
そこでもやはり、バンパニーズに翻弄されるダレンたち。
ふるさとで昔の友達や、家族に出会うがすんなり名のれるわけもなく…そして、久しぶりに姿を見た妹のアニーには、ある事実があり、ダレンを打ちのめす。
初めのころの勢いとか、わくわく感見たいなものがなくなってきているような気がしないでもないが、12巻で終わりとのことなので、頑張って読むぞ。



アフリカの瞳/帚木蓬生★★★
講談社
国民の10人に1人がHIVに感染。毎日200人の赤ん坊が、HIVに感染したまま生まれてくる国。ここではエイズという絶望すら、白人資本に狙われる…。いまわれわれに生命の重さを問う衝撃作。(「MARC」データベースより)

率直に感想を述べると、前作「アフリカの蹄」のほうが感動した。
せっかくアパルトヘイトが撤廃されても暮らしは一向に良くならず、エイズが蔓延。
国のお粗末なその場しのぎの、子供だましのような政策や、エイズに苦しむ人たちを食い物にする企業のあり方を告発するという、帚木さんらしいヒューマニズムはちゃんとこの作品にも生きているというのに、イマイチのめり込むような感じがなかったのはなぜだろう。
「差別」という、大きな「敵」に立ち向かった前作と比べて、今回の「敵」はウィルスだ。もちろん、その周囲には「人間」の「敵」もあるんだけど、それが分散していて私的には誰を一番の悪者にしたら良いの?という中途半端さがあったように思う。勧善懲悪を好むのは単純だと思うがそのために盛り上がりに欠けたような気がするのだ。それと、作田の周りに集まる人が善人で揃いもそろって前向き過ぎる。拍子抜けするぐらいなのだ。そこのところが捻りがなくて不満もあり。
でも、アフリカにはびこるエイズの実態を知るためには、ぜひともオススメしたい作品だ。
個人的なことを言うと、忙しい時期に読んだせいかもしれない。そして本もさっさと返してしい手元にない状態で書いているのであまり参考にならない感想となったと思う。お許しを。



漂流/吉村昭★★★★★
新潮社
江戸末期、土佐のとある港からたった30キロのつもりで出港した船が、遭難してしまい、今で言うなら「沖ノ鳥島」に漂流した。その主水(乗組員のことをこう呼ぶように書かれていた?)のひとり長平の気が遠くなるような漂流記。

これは実話を元にしてかかれた作品だ。実際に江戸年間、鎖国政策のために船を遠方までの航海に耐えるような改良をさせなかったらしい。先進国の技術が鎖国によって導入されなかったのも大きな理由らしいが、ともかく難破、遭難が多かったらしい。 そして、それらの記録も残っているという。長平はそんな中の一人である。
文句なく面白かった!
この長平の行く末、心理状態、またしても「見てたんですか?」「インタビューしたんですか?」と言いたいぐらいの綿密な描写。
想像だけで(もちろんきっちり、調べての事だからこそだろうけど)これだけリアルに描けるなんて、小説の醍醐味を感じる。
海やその辺のものだけ使って漆喰を作り、池を作っていく場面などは思わず「覚えておこう!」という気持ちにさせられた(苦笑)。
好きじゃない人にはオススメしないが、私の好みだった。
「キャスト・アウェイ」も、人によってはつまらないと思う人もいるらしいが私は楽しめたので、そういう人は読まれてみてはいかがかと思います。
以下ネタばれで内容を少しご紹介。↓
沖ノ鳥島に漂着した長平たちは、そこが無人島であり水もなく草木もあまり生えない所だとわかり、その上、自分たちの前にも同じように漂着した人らがいて、その死体(白骨化)を見ては絶望に陥る。
しかし、季節がよかった。というのは「アホウドリ」が、島を埋め尽くすほどにおり、長平らはその肉を生のまま食べ命を繋ぐ。(火種がなかった)
アホウドリは渡り鳥だ。長平はアホウドリの落ち着かない様子から、渡り鳥であることを察し、干し肉を作り夏場をやり過ごす。気付かずにアホウドリが渡ってしまったら間違いなく餓死。
しかし、トリの肉のみの編食は体に害を与え、仲間は栄養不足(脚気とか?)で結局死んでしまう。
一人取り残されてまたもや絶望する長平も、生きるという決心をして生き延びる。
数年後、大阪の船乗りたちが漂着する。
そして、またその数年後今度は工具などをたくさん持っている鹿児島の船乗りたちが漂着する。
それによって、長平たちは船を作り脱出するという光明を見出すのだった。
まずはふいごを作る所から…。そして流木をひたすら待つ事、気が遠くなるような年月が過ぎていくが…。
キャスト・アウェイのトム・ハンクスも、戻れたからといって決してみんなが喜ぶわけではないし、自分も幸せになったわけではないところがとっても切なかったけど、本作品も同じような感じ…。
せっかくやっと生きて戻れたのに…。なんでだろうね。



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感想