2004年の読書記録*3月



残虐記/桐野夏生★★★
新潮社
女性作家が夫のもとから姿を消す。
残されたのは原稿。
そこには自分が少女の頃誘拐監禁された事件のすべてが描いてあった。
刑期を終えて出所した犯人が、作家に当てて書いた手紙が引き金となり、作家は事件を振り返り文章にしたのだった。

見事に引き込まれました。
誘拐されたのは小学4年生の女の子だった主人公で、監禁は一年以上にわたった。
そのかん犯人と二人きりで何があったのか・・。
そして、誘拐される前と救出された後とでは、彼女がどう変わったか。
あまりにも見事に主人公の心理描写が描いてあり、ものすごい説得力だった。
「小学校の4年ぐらいに誘拐されて、一年くらい監禁されて、助け出されたこどもはきっとみんなこんな風になるのではないだろうか」と思わせられる。
ただし、私は、小説の中でも犯人がどう言う動機でどう言う風に犯行に至ったのか・・ということは、きちんと知りたいほうなので、桐野さんのようにいつも「想像」で終わらせられると消化不良になってしまう。
これは、作中でもある人物が言っているのだけど「自分が欲しいのは『真実』ではない。『真実に迫ろうとする想像』だ」という言葉に、桐野さんの意図を見た気がした。
他の作品でも、「真実」が「想像」によってぼかされて終わる作品があり、あの時もかなりの消化不良となったが、意外にも作品は世間的には好評を博していた。
わたしが読みたいのは「真実」なので、さくさく一気読みしたけど評価は★3つ、ということで。



落花流水/山本文緒★★★★
集英社文庫
主人公の手毬は、わがままに育てられた天真爛漫な子供だった。
しかし、母親だと思っていた女性が死んだ時、それまで「姉」と信じてきた女性こそ本当の母親だと知らされ引き取られていく。
10年ごとに視点を変え・・・
・・ある時は、本人の視点、ある時はその母親、ある時はその娘、あるいは義理の弟正弘・・というように・・
手毬を中心に、母律子、娘姫乃と、女三代の人生を、1967年から2027年までの60年に渡って描く。

なんとも、はちゃめちゃな女性たち・・。
いかにもヤマフミ!!って感じのストーリー展開だった。
結局は全体的に見ると主人公は手毬で、その人生は波乱万丈。
人となりを見ると、3人の中では一番地味で「おばさん」くさいのに、実際にやってることは一番「派手」だ。
各章ごとに視点が変わるが、その分多面的に手毬その他の登場人物を見られるのも、なかなか面白いし説得力が出てると思う。
サクサクッと一気読みしてしまった!
それにしても、一番最初の主人公のマーティル。アンタは何なの。一番得体が知れないのはアンタだよ。最初の印象と違う過ぎるよ・・。
そして、一番身勝手に感じる律子。彼女がなぜか一番わたしには輝いて見えたなぁ・・。
でも、こういう母親にはなりたくないし、こういう母親に育てられるのも嫌だけど・・。

Y's Innのゆっこさんからいただきました。ありがとう♪



六千人の命のビザ/杉原幸子★★★★★
大正出版
日本のシンドラーと言われた杉原千畝氏の奥さんの当時を振り返る手記。
杉原氏は当時外交官として、リトアニアの領事館で、日本経由でアメリカなどに出国しようとするユダヤ人たちに、ビザを発行した。
外務省の許可を取ろうとしたが外務省からは拒否されて、領事館の判断=独断で発行したのである。
このとき寝食を忘れて書きに書いたビザで命を救われた人が、6000人。
これを、著者の幸子さんも杉原氏本人も、どちらかと言うと「ひととしてあたりまえの事をしただけ」という風に書かれている。
しかし杉原氏は、 戦後やっとの思いで日本に引き上げたと言うのに、このことが原因で外務省を解雇されてしまう。
それでも、いっさい恨み言などを口にせず得意のロシア語を生かせる職業に付き生活していく。

人道的にとてもすばらしい人で、「シンドラーのリスト」のように感動させられるが、本書はそれだけではなく、著者一家の「外交官」としての生活の様子や、この一家がどのように戦争中を生き延びてきたかが描かれている「サバイバル」的な部分もとっても興味深かった。
とくに、ある時、幸子さんはたったひとりでドイツ軍人たちに取り囲まれてしばらくそこで生活を余儀なくさせられたのだけど、捕らえられたその瞬間の恐怖感とか緊迫感とか経験した人でなければできない描写が生々しい迫力だった。
幸子さんが暮らしている間、ドイツ軍人たちはとても紳士的に接したそうだ。
そしてある時の銃撃戦で 幸子さんの隣で、幸子さんに紳士的に優しく接したドイツ軍曹が死んでいたときなどは「たとえ、ナチスといえど、人は人。なんで人同士が殺しあったりしなければならないんだろう」という虚しさが伝わってきた。
日本政府は杉原氏を冷遇したが、当時助けられたユダヤ人たちは恩義を忘れず、のちに国民的英雄として扱う。
人として大切な事は、国境民族の差別なく命を大切にすること、そしてされること・・ごくあたりまえの事が特異なことだったこの時代に改めて憤りを感じた。






葉桜の季節に君を想うということ/歌野晶午★★★
文藝春秋
私も、だまされました!
どんな風にだまされるのかが、本書で一番の楽しみでしょうね!
気持ちいいくらいに騙された!
しかし・・(以下本音トーク)
時間のずれを隠して最後にあっと言わせる手法は今までもあったので、ひょっとすると読みなれた読者は騙されないのかな?
ともかく、わたしが「騙された」と言いつつ星が3つなのはやっぱり「・・んな、あほな!」って気がするから。
わたしは、最近お気に入りの「オダジョー」を主人公にして、さくらを仲間由紀江ちゃんくらいにして読んでたので。ネタが分かった時は正直がっかりしてしまった。
というと、この年齢の方には申し訳ないけど、正直なとこ・・。
それで、本筋はと言うと結局「蓬莱倶楽部」に制裁が加えられる前で終わってるんだよね??
それも消化不良かな・・と思う。

でも、
時代背景を取り入れたつじつまあわせは見事でした。



私は薬に殺される/福田実★★★★★
 幻冬舎
薬の副作用で、社会生活が送れなくなったというばかりか、どんどんと症状は進行して、治る見込みもなく、ただ「死」を待つのみ・・。
こんな過酷な状況の中で、けっして事を曖昧にせず、正義のありかたや残される家族への補償を求めて、行政を相手に闘う孤独な著者の、まさに血のにじむような手記。

バリバリのエリート企業戦士が、ある健康診断をきっかけに飲みだした高脂血症予防薬「メバチロン」と「ベザトール」の服用によっておこる副作用「横紋筋融解症」という、読んで字の如く体内の筋肉が解けてなくなる症状(ほか、多数の体調不良)に苦しめられている。
すっごく頭も切れて仕事も超一流だった著者だからこそ、自分ひとりででも、こうなった事の原因を突き止め、本来弱者の見方であるはずの「行政」「医療」のあり方を厳しく追及していて、なにもかも、教えられる思いで読んだ。
社会の仕組みとして「営利優先」ということの恐ろしさが痛感させられる。
本書の中の一例をあげれば、ある薬は「高コレステロール値が220以上で投薬」という基準だったが(欧米では300)副作用の懸念からある年に「240」に引き上げられたそうだ。
ところが、これでこの薬の「売上げ」が激減したため、再び「220」に戻されたと言う。
これは、製薬会社と医学界の結託による筋書きが感じられる、と著者は訴える。
ほかにも、いかに今の社会が弱者にとって生きにくい世の中かが、著者の目を通して訴えられている。
こういうのって、人ごと。。と思いがちだけど、いつ何時自分の身に降りかかるか分からない災難で、そのとき自分に何ができるかを考えると、 「絶望」・・誰でもそうなってしまうだろう、こんな時は。
でも、この著者は決してあきらめず「今の自分にできること」を「でき得る限り」成し遂げようとしている。
その気迫にも圧倒され、この著者のすごさに頭が下がる。
薬害エイズ訴訟で有名になり、議員にもなったK氏の名前もここに出てくるが、その党のK代表とともにこの著者のことは知らんふりしてるようだ。ちょっとがっかり。
医者も弁護士も頼りにならない。
たったひとりで「薬害」と闘うと言う事の「孤独」「無力」・・・そういうことが、怒りを込めた口調で綴られて、ほんとに怖くなった。

「あるとき突然、皮膚の下で筋肉が
 『スーっ』と、解けてなくなるのを実感」

怖いよね?



/★★★★
感想



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