2005年の読書記録*10月



容疑者Xの献身/東野圭吾★★★★★
文藝春秋
「さまよう刃」に続いて読んだけど、一気読み!! あっという間に読み終えてしまった!! 「天才ガリレオ」の湯川シリーズ。と言っても前作はたしか、短編集だったと思うので、今回はスルーするつもりだったけど、長編と聞いて読みたい!と思いました。湯川のひととなりを知ってるかどうか、この作品にはあんまり関係がないように思うので、この作品だけ単発で読んでも全然かまわないと思う。実際、前作をそれほどは覚えてないわたしも、すっごく楽しめました。 「さまよう刃」「容疑者Xの献身」の2冊はpageoneのらむちゃんにお借りしました。ありがとう〜。 湯川は物理系の学者、今回犯行に手を染めたのは数学者(ほんとは高校の先生だけど)、物理vs数学ってところでしょうか。 物語は、主人公の数学の先生石神の隣に住む母娘の犯した殺人を、石神がかばうと言うもの。それを例の湯川が謎解きに挑戦すると言う感じです。最初に犯人がわかってるので、コロンボみたいでしたね。 もちろん、理数系のまったく理解不能なわたしにも、石神の生徒に語る数学の意味や、湯川との会話などわからないなりに、心地よく流れ込んできた感じ。このあたりの読ませ方はやはり「さすがに東野さん(こればっかりだけど)」 事件の「真実」はなんとなくわかったんだけど、そこに持っていくまでの石神の決意などは想像を上回るもので、ここまでだったとは!!かなりの衝撃だった。 それにしても、彼の気持ちは重いよ〜。普通ここまで思われたらちょっと気持ち悪いよ。はっきり言って。 でも、気持ち悪いと思いながらも、石神の気持ちに涙が止められなかったね。泣けた!! 石神の気持ちに思いを馳せる湯川にもすごく好感が持てたし、この二人の関係もよかった。 オススメですね!!



さまよう刃/東野圭吾★★★★★
朝日新聞社
久しぶりに東野さんの作品を堪能した感じ。「黒笑小説」もよかったけど、「幻夜」以来の衝撃作品だった。 少年たちに、娘を惨い方法で殺された父親が、法の裁きの前に自分で制裁を下すことを選ぶ…。日本と言う法治国家で、あだ討ちは許されない。犯罪は司法の手に委ねるべきである。理屈では分かっていても、その相手が「少年法」に守られた存在だったら…。 復讐に燃える父親に、読者の何割が「やめておきなさい」と思っただろうか。 その結果のもたらす不幸な結末が見えていても、どうしても父親に肩入れせずにいられないのではないだろうか。 それもこれも、東野さんのストーリー展開と人物の心理描写の巧みさのせいではないかと思う。 本書では、少年法の必要性よりも、抱える矛盾や問題点に焦点を当てるためかことさら、行われた犯罪がひどいものに仕立ててある。読んでる側も辛いぐらい。女の子の母としては自分の娘がこんな犯罪に遭わないように祈りたい。が、それ以上に男の子を持つ母親として、どうか息子がこんな獣のような行為に手を染めないように…、その思いのほうが強かったかな。 「結末」にはやりきれないものが残るが、読み応えという部分でものすごく満足の作品でした!「密告」の真実も意外性があってびっくりさせられて、東野さんさすが!と思った。



グドリャフカの順番/米澤穂村★★★★
角川書店
クドリャフカの順番―「十文字」事件
古典部シリーズ第3段。 ついに例の「カンヤ祭」と呼ばれる神山高校文化祭当日がやってきた。 文集「氷菓」も出来た。無事に…とは言えないけれど。 実は予定よりもかなり多めに出来上がってしまったのだ。 それを三日間で売らねばならない。 相変わらず省エネ主義の折木奉太郎も、千反田えるに振り回されながらも、なんとか文集を売る方向でがんばってる…。 今回はトランプの、スペード、クローバー、ダイヤ、ハートというマークを使ってそれぞれ、折木奉太郎、福部里志、伊原摩耶香、千反田える、の4人の視点でストーリーが展開していくので、かなり面白かった。 特に、千反田の天然が私は好き〜。面白いねあの子(笑) もちろん4人ともが個性的で面白いんだけど…。 本作では文化祭と言う、少しだけ非日常のこの期間の様子がすごく楽しそうに描かれていて、自分の高校時代を少し思い出してしまった。(少しと言うのは、うちらの高校の文化祭がこんなに洗練されたものではなかったので)この楽しさが全編にあり、それがなんと言っても魅力であろうと思う。 その上に「文集は売れるのか」とか「料理競争」とかと言うハラハラした部分もあり、特に、漫画研究会の伊原摩耶香と、センパイが、「面白いと感じること」について激論を戦わせるシーンがあるんだけど、漫画好きとしても、そしてこうしてサイトに感想らしきものをアップしている立場から言っても、この二人のディスカッションはとっても興味深く面白かった!勉強になったと言うかね。 このように、「事件」だけじゃなく、いろんなところで読者をそらさずに、一気読みさせる魅力がある。 そして肝心の「事件」これが、また、しょーもない事件なんだね。 それでもなんか「なぜ?」「だれが?」と言う疑問を晴らしたくて一気に読ませる!!生臭い事件じゃないのに、一生懸命に読んでしまうのです。 やっぱり私がひねくれてるのか知らないけど「そこまでする?」とか「回りくどすぎる」とかは思ってしまうのだけど、それを差し引いても作品はとっても面白かった!! あさみさんにお借りしました。ありがとう〜〜♪ 「氷菓」「愚者のエンドロール」の2作品は本作品の序章とも言えますね。



天使のナイフ/薬丸 岳★★★★★
講談社
なんかの書評を読んでて(朝日新聞だったかな?) 「面白そう!!」と、早速ネットで図書館に予約しようとしたら17人待ち。 うわーと思いながらもそれでも読みたいので、予約しようとした。 そしたら、「この本は予約済みです」だって…。 で、それが先日回ってきた。なんと、ワタシ一番乗りだったみたい。(しおりの感じから見て)忘れてて嬉しさ倍増♪ 肝心の内容ですけど…。 面白かった!!! 14歳未満の犯罪は裁かれないと言う「刑法第41条」。 その対象の少年たちに妻を殺されて、残された幼い娘と過去に苦しみながら生きる喫茶店のマスターが主人公。 被害者の人権は司法からもマスコミからも世間からも守られないのに、罪を犯した少年たちの人権だけは声高に守られることに疑問を感じている。そんなときにある事件がおきる…。 少年法の抱える矛盾や問題点を鋭くえぐる力作で、今年度の乱歩賞を受賞しているのだけど、巻末の各選考委員たちの選評を見ても、ダントツで受賞しているのが分かる。 実は私は半分ほどまでは、それほど作品に「引力」を感じなかったのだけど、まさに後半になってからの、グイグイと引き込む力、物語の構成や展開、圧倒されるような結末に、ただひたすら「すごい!」と思った。 これはオススメです!! ぜひともご一読を!!



破軍の星/北方謙三★★★★★
集英社
時は南北朝の動乱時代の初期、北条幕府が倒れて間もなくの頃。
主人公は北畠顕家、もともとは伊勢地方の公家さんです。北条幕府が倒れ後醍醐天皇の親政が始まると、わずか16歳にしてその才能を見込まれ陸奥守に命じられた。小さな反乱が相次ぐ陸奥で、顕家はその軍事的才能を開花させ、陸奥を着実に平定していく。
が、鎌倉では足利尊氏・直義兄弟が後醍醐天皇第一の皇子である大塔宮を暗殺。そして顕家を警戒して斯波家長を北に遣わす。足利にとって顕家のいる東北が脅威となっていたのだ。
顕家は朝廷(後醍醐天皇)の命を受けて足利討伐に起った新田義貞に続き、西へ向けて進軍するのだった。それは進軍そのものが戦であるような強行軍だった。そして…。
登場人物が多かったのと、戦シーンが多かったので物語に入り込みにくく、集中できるまで130ページくらいじっと我慢の子であった。
でも、「顕家上洛⇒尊氏との直接対決」あたりから俄然面白くなってきて、最後は大感動!これもまた泣きました。

この物語の魅力はなんと言っても、顕家という人。若くして天才的な頭脳と行動力。公家にして、武家をも倒す優れた軍略を披露。そしてひとたび関われば武士をもひきつけるカリスマ性。決して一時の感情に身を任せることなく、遠い先まで見通す先見の眼力…「火怨」で言うと阿弖流夷と母礼をあわせたような人物だ!
その顕家が「破軍」と言うタイトルのごとく、負けなしの快進撃を続けるのだ。カッコいいのだ!
そして顕家は、公家であるがために普通の武士たちにはない苦悩を強いられます。武士たちは「先祖代々の領地を守り抜く」と言う大義があり、死をかけてそれに従うのだけど、顕家は純粋に朝廷のために尊氏と戦う。だけど、あまりにも身勝手、腐りきった廷臣…というか朝廷そのものに段々と絶望していく。それでも、やはり朝廷のために戦うのは、勤皇一筋の父親親房から受けた教育(すりこみ?)のたまものであったろうか…。そこでの顕家の苦悩が読者の心を打つのだ。
苦悩の末に顕家が選んだ「夢」とは…。「夢」に向かって駆ける顕家の姿に涙がだーだーと流れました。

また、尊氏や弟義直、斯波家長という「敵」武将たちも、一部許しがたい行動はあるもののとても魅力的で(義直の目を通して「分析」される尊氏のカリスマ性にも納得)願わくば彼らと戦わずに…と願わずにいられなかった。
味方としても楠正成や如月(忍)、結城宗弘、南部師行、伊達行朝、遠藤忠村などなど、そしてそしてなんと言っても山の民安家(あつか)一族、秀通、正道、利通…とんまで間抜けでここ一番に弱い新田義貞、みんないい男そろいで愛しかった。

歴史の1ページ「南北朝の動乱」。この物語の直後に足利尊氏は征夷大将軍に任命される。(そしてその後、尊氏は弟義直を討つのだが)その陰にこうして生きて死んでいった男たちがいたのだ…、そんな思いにしばし浸ることが出来た。



東京タワー
  オカンとボクと、時々、オトン/リリー・フランキー
★★★★
扶桑社
著者自身の自叙伝になるのだろうか。今はマスコミで活躍している(らしい)この人のサクセスストーリー…ではないけれど。
小倉の不良息子で何をしても長続きしない父親と、筑豊の炭鉱の町に呉服屋の娘として生まれた母親が結婚し、著者が生まれるがまもなく夫婦は別居。タイトルの「時々、オトン」と言うのは、父親とはたまにしか暮らしたことが無いと言うこと。3人そろって暮らした記憶さえあまり無いのである。正式に離婚もせずにかといって寄りを戻すわけでもく、ずっとその形で暮らしてきた「家族」。
そんな中で、親子や家族のあり方を問いながら、母親との生活を振り返る。著者の社会人としての成功うんぬんよりも、母親について語る一冊です。

幼い頃からの暮らし振りを丹念に描いてあり、時代的にも共感する部分もあり、面白かった。著者が学生になってからの生活は、結構すさんでいて、私は自分の息子がこうしてすさんでいるのでは?と心配になったりしました(笑)。
この「オカン」、こう言う父親のせいで(?)貧乏暮らし、でもお金が無いことを愚痴りも嘆きもせず、著者が欲しいと言うものは何でも惜しまず買い与える。自分の物は何も買わなくても。
お箸の持ち方はメチャクチャでもいい、行儀も特に注意はしない、ただ、作ってくれた人の気持ちをいちばんに考えて食べるべし。−−−行儀とは自分のための世間体ではなく、料理人に対する敬意を持つマナーである。
価値観や美意識と言うのはもちろん人それぞれ。この親子に共感する部分もあれば反発する部分もあり。でも、一人の母親として読んでみると、やはりこの状況で息子一人をこのように育て上げたことはすごいと思う。同じ母親として尊敬せずにいられない。そして、息子(著者)の母親に対す思いも感動的で、自分の息子にもこの著者のように母親を思う気持ちがあるのだろうか、多少なりともあってほしい…と思ってしまう。特に母親が病気になってから、死に至るまでの描写は圧巻。自分もその場面にいるような臨場感で、涙が抑えられなかった。 思わず自分の死に際と言うのを想像してしまいました。
今私はこの著者を恥ずかしながら全然知らないのだけど、今度TVチェックしてみようかと思う。

あさみさんにお借りしました。ありがとうございました♪