2005年の読書記録*2月



関東大震災/吉村昭★★★★★
文藝春秋
1973年発行の本でした。
吉村氏の作品は今年ももっと読んでいきたいと思っている。
タイトルのとおり、関東大震災について描かれたもの。
地震発生の恐怖はもとより、その後の大火災の恐怖、火から逃げるために飛び込んだ池や川での溺死、などなど、生々しい迫力で描かれていた。
そして人々のパニック…こういった状態になったときの人間の心理の恐ろしさが順を追って書かれていてぞっとする気持ちで読んだ。無秩序の中で、醜い行動に走る人たちも大勢いたようだし、各種様々な流言飛語、それをあやつるかのような扇動者たち、それに惑わされて暴徒と化す人々、朝鮮人が暴動を起こすと言う噂を信じて、各地で自警団が結成されたが、その自警団の暴走(実際には朝鮮人の暴動と言うのはなんの根拠もなかったのだけれど)は警察や軍部をもしのぐ勢いであったようだ。
軍部もその状態を利用して社会主義者を始末(大杉栄)
そのほかにも衛生面での問題が山積みであり、物価は高騰し、それに漬け込んで利益をむさぼる人間も出て、まさに空前絶後の混乱。
地震は近年も哀しい被害を出しており、決して過去の事と傍観できるものではない。震える心地で読み終えた。



主婦は踊る/青木るえか★★★★★
角川文庫
強烈カリスマ主婦!青木るえかのエッセイ第2段!
前回のとき、「掃除」「鼻血」などのキーワードでちょっと引いてしまった読者の方も、今回は大丈夫。えぐい描写はあまりない。(多少はあるかも)
やっぱ、るえかって面白い!って言うか、仲間意識を持たずにはいられない部分も多々あり…たとえば、通帳の管理がずさんなあたりや、ナメクジを素足で踏んだ体験とか…赤の他人とは思えないぞ、るえか!(何のこっちゃ)食べ物の事を書いた文章は相変わらず面白い〜!!一読の価値ありですぞ。
大まかにわけて、今回のエッセイは3部作に分かれている。
第一部は「主婦の嘆息」と題して、味覚、整形、電話、進物、苦悩…などなどについてるえか節で考察を披露している。
第二部は「主婦と生活」として、日記風のエッセイだけど、これは本当にHP「日刊三宅伸」に書いているWEB日記なんだそうだ。いや、日記とはかくあるべし?自分のサイトの日記もこれぐらい書けたらなぁ〜…。というのはあまりにも僭越だけど、せめてこの発想の少しでも良いから私にあったら…。と憧れてしまうような日記である。
さて、今回なんと言っても面白かったのが第3部の「主婦と体育」から「主婦と情熱」「主婦と情熱その後」の一連の連作エッセイ。
子供のころ運動が苦手だったるえか氏は、学校から卒業する事すなわち体育からの開放であり、体育からの開放は精神の開放であったと書いている。しかし、40になったとき、ダイエットの為にスポーツクラブに入会して嵌ってしまうのだが、その後のくだりは目が離せない展開なのだ。
すこし、ご紹介するとですね。るえか氏は「代謝を良くすれば食べても太らない、リバウンドもしない」という「代謝神話」に基づいて甘い物を食べながらジムに通っていたので、体重は減るどころか増えつづけていたそうだ。そりゃそうだよ、だって、むいた甘栗が大好きなんだそうだけど、晩ご飯を作りながら一袋(一袋っつってもファミリーパックですよ!)、朝ご飯に一袋と、食べつづけていれば誰でも太るよ!たとえ運動していたとしても!!
しかし、そんなおでぶ生活に終止符が??そのきっかけは???この先は是非ともご一読をば♪ (あさみさん、ありがとう♪)



メリーゴーランド/荻原浩★★★★
新潮社
イキナリだけど「探偵ナイトスクープ」の「パラダイス」ってご存知?
その「パラダイス」さながらの、とっても意味不明で不気味なイメージ(私にはそう思えた)の赤字テーマパーク(第三セクター)「アテネ村」の再建に関わる部署に転属になった公務員、遠野啓一。いわゆる体裁第一、体面第一の「お役所体質」の中で、子供に誇れるように自分なりにできることをやろうとするのだが、立ちはだかる壁は大きかった…。

「明日の記憶」「僕たちの戦争」「神様からひと言」に続き4作品目です。正直に言えば、同じジャンルのサラリーマンコメディとしては「神様からひと言」の方が面白い。なによりも「神様から…」に出てきた「篠さま」のような素敵で魅力的なキャラがいない…いや、劇団「ふたこぶらくだ」の座長さんなどは確かに魅力的な登場人物だったけど、やっぱ篠さま(すっかりファン♪)にかなうとはいえない。
そうは言っても、「お役所しごと」「お役所気質」は充分リアルに描かれていて、さもありなん!って感じだ。ユーモラスには書いてるけれど・・・。まぁ、今時の役所はずいぶん態度も良い感じに変わってきてると思うけどね(と、思わずフォローしてしまう。公務員が知り合いにいるわけでもないのに)
この物語ではGWのアテネ村のイベントを企画するのが主人公に課せられた使命なんだけど、石頭の上司たち相手に、むかしの劇団仲間に声をかけて乗り切っていく(自分も昔取った杵柄を引っ張り出したりして)様子が面白かった!相変わらず脇役たちの活躍が面白い!
面白いけれど、ハッピーエンドって感じじゃなく、ちょっぴり虚しさも残る。(妻のやったこととかも)でも、虚しくても夜空には星が輝き、太陽は登り明日はくる。頑張ろう!と、思えるラストが好きです。
(あさみさん、ありがとう♪)



家族狩り・全五部作('04)/天童荒太★★★★
新潮文庫
数年前、95年版の「家族狩り」を読んだ。今回読んだのは、それをもとに書き換えられた…というよりも、もっとそれを膨らませて現代の事情にも通じる物語にしたと言ったほうが良いか。
事情を知らずに読んだ私は、タイトルは同じでも物語は別か、あるいは「続編」と思っていたので、最初は正直言って拍子抜けしました。見覚えのある描写、登場人物、忘れていたけれど徐々に思い出し、ラストも犯人などは覚えていてあまり新鮮な気持ちで読むことは出来なかった。95年版を読んでなくて、これを最初に読んだらきっともっと感動しただろうと思う。
そうは言っても感動しなかったかと言うとそんなことは全然なく、これだけの長さに書き変えただけの意義はきちんと受け取れたと思う。登場人物の個々の事情背景がきっちり綿密に書き込まれていて凄く読み応えがあった。前作がどちらかと言うと「猟奇事件」が全面に出ていたのに対して、こちらはその家族間や、社会への問題提起が主となっているように感じる。
特に高校の美術教師の須藤浚介の変化は見事に描かれていて、自分が暴力事件の被害者にあってからの気持ちの変化など手に取るように感じられて、感情移入がしやすかった。
それぞれの登場人物が家庭に何がしかの重いものを抱えていて、それが日本の現代の家族のあり方を問う問題提起として痛いほど伝わる。浚介の両親が浚介を育てながら伝えてきた言葉たち、浚介の教え子の亜衣が感じている、あるいは、山賀たちが訴える社会の矛盾や問題点が大きくのしかかる。私はそれらのどれに対してきちんと目を向けているだろうか?目を覆いたい、見てみぬ振りをしたい、気がつかなかったことにしたい…世の中はそんなことだらけ。ラストを読み終えたとき、浚介や馬見原を通しては希望のあるエンディングが用意されていて、読者はほっとできるかもしれない。でも本当の意味での「解決」は何もないと言えるのではないか?それはこれから「もっと問題に対して真剣に向き合わねばならない」という著者の問いかけだと思った。
(ぴょんさん、ありがとう♪)



マイマイ新子/樹のぶ子★★★★★
マガジンハウス
終戦から10年。昭和で言えば30年。周防の国衙で、おじいちゃんおかあさんおばあちゃん、そして妹に囲まれて(おとうさんは単身赴任)自然の中でのびのびと生きている新子ちゃんのほのぼの物語り。

これは著者である高樹のぶ子さんの自叙伝とも言う作品だそうだ。
ご本人は、「赤毛のアン・日本版」を描きたかったといわれているが、私はどちらかというと坪田譲二の世界を思い出した。
常日頃、小説の中に出てくる子供たちがあまりにも大人びた考えを持っていたりするので、なんとなく違和感を感じていた私にはドンピシャリ!「そうそう、子供ってこんな感じだよ〜!!」と、深く納得できるような描き方で、心の底から新子ちゃんが可愛いと思えた!それに妹との扱いの格差を感じて「お姉さんは損だな」なんて考えたりしてしまうあたりにも、共感を覚えたのだった。おもわず「頑張れ!おねえちゃん!」とエールを…(笑)
おかあさんの描き方も、いつも小説に出てくるお母さんと、少し違って、新子におもわず「出て行きなさい!」なんて怒ったりして、ちょっぴり親近感が沸くのだ(笑)。
今の世の中に当然のようにある文明の利器たちや、子供が誰でも持っているおもちゃなどは何もない。かわりにあるのは豊かな自然と家族の結びつきの強さかもしれない。「得たもの」と「無くした物」を、この時代の物語を読むことで現代に生きる読者は痛感するのだと思う。私たちが「無くした」ものに包まれて生き生きと生活する新子ちゃんは、正義感や思いやりにあふれた優しい気持ちの子供に成長している。
戦後間もないころの事で、まだまだ爪あとは拭い切れておらず、たとえばおばあちゃんは弟を広島の原爆で亡くしていて、新子もおばあちゃんと一緒に広島に行くのだが、そこで子供なりに戦争のむごさを感じたり、農地解放の後、小作使用人だった家のものが新子の家の田んぼであった土地を売って商売を始めようとするくだりなどで、新子ちゃんの目を通して当時の人たちの苦悩を垣間見た。
いつか、子供にも読み聞かせたい。あるいは自分でも読んでほしいな、と思わせる愛しさを感じる作品だった。
(クーのお母さんオススメ)



天国はまだ遠く/瀬尾まいこ★★★
新潮社
日々の生活、合わない営業の仕事や人間関係に疲れ果てて体調まで崩した挙句、死ぬ事を考えて「私 =山田千鶴」は旅に出た。日本海地方の鳥取や京都のうんと奥、北を目指して特急に乗り、北へ北へと向かう。そして着いた所は「木屋谷」という山村の「たむら」というひなびた旅館。そこで、千鶴は「目的」を達成しようとするのだが…。

誰でも、人生嫌になることはある。他人から見れば些細な事でも、本人にとっては命を左右するほどの重大事項だったりするというのもある話だ。でも、たとえ頑張った挙句だとしても、自殺を考える主人公にどうしても共感できなかった。しかも、この彼女、どうも発言の一つひとつが無遠慮で失礼だ。これが原因で人間関係悪くしたのではないのだろうかと考えてしまった。なので、主人公に対する好感度は低い。本来なら。
しかし、瀬尾さんの文章は「無遠慮」を「無邪気」に「失礼」を「素直」に見せてしまう。主人公に優しい著者の視線が心地よい。なによりも「たむら」の経営者の田村さんが魅力的だ。ひょうひょうとして些細な事にはこだわらず、突き放しもせず、干渉もせず…。主人公の失礼で無遠慮な言葉にも、全然こだわりもせずに受け答えしている。この人を放してはいけない!主人公にとってはこれぐらいの人でないと合わないのだ!!なんて思ったりした。
のどかな自然一杯の木屋谷で、主人公が生きる元気を取り戻して行く様子がゆったりと描かれていて、やはり瀬尾さんの文章は素敵だな…と、思った。
最後まで「無遠慮で失礼」なんで苦笑いしたけどね。