2005年の読書記録*7月



ざ・ちぇんじ 上・下/氷室冴子★★★★★
集英社文庫
「なんて素敵にジャパネスク」に続いて、氷室さんの平安コメディ?を読みました。
これは「とりかえばや物語」という古典をアレンジした物のようだけど、私は恥ずかしながらその原点を知らないので、比べる事は出来ないが、後書きで書かれているところによると「設定以外は変えてしまった」との事である。が、これがまたものすごく楽しいストーリーになっている!
つまりは男と女がそれぞれに入れ替わるという話しなんだけど、平安の世の中ならでは(女は御簾の中に隠れて?て、滅多に姿を見せなかったり、男とて、雄々しいよりも優雅なしぐさなどが美徳とされる時代…そして、結婚とは男が女の元に通う「通い婚」であること…などなど)の特徴をうまく生かして、うま〜く練られた展開に凄い説得力があるのだ。
女でありながら「元服」がしたいという娘の綺羅が結局、宮廷に出仕をすることになって、そのうえ結婚まで!!かたや、男なのに「尚侍」にならされたり…え?まさか、それはないでしょう!と言う展開に見事はまりました!
どう考えても「ここまで行ったら万事休す」だよね、と思うような展開も、綺羅(本当は女の方)が、その機転で切り抜けていく…なんとなくやはり「ジャパネスク」の「瑠璃姫」を連想してしまうよね。どっちも元気一杯前向きで、とっても気持ちのよい素敵なキャラですね♪
ストーリ中の「恋愛」に関して言えば、帝と綺羅のじれったい思い違いのあるようなずれてるジェラシーや片想いににやけつつ(氷室さんは読者をにやけさせるのがお上手なのよね〜!!)実は男のほうの綺羅の展開もにやけ度高くって、もう、こういうの大好きです♪♪

mocoちゃんにお借りしました。ありがとう〜♪



女系家族/山崎豊子★★★★★
新潮文庫
昭和30年代、大阪は船場の大商家、矢島商店の主・矢島嘉蔵が死んだ。 残された遺言に従って、莫大な財産が分けられる。
大豪商、旧家、女系家族という特殊な世界で繰り広げられる骨肉の争いの行方はいかに…。
美しく着飾った絢爛豪華な美形姉妹、上品で優雅なものごし、すぐれた審美眼、気高いプライド…しかし、その実態は金銭への飽くなき強欲を恥ずかしげもなく晒す守銭奴。
自分に権利があるものは「かまどの灰」一粒たりともとも、他へはやるまいと言うあさましい執念。
「それだけ、取り分があるのに、まだ足りないの??」と、姉妹を責めるコトバのなんと空々しい、「同じことをアンタに聞きたいワイ」と何度突っ込みを入れたことか。
登場人物すべてが、あまりにも自分の遺産・利権に執着するのが…最初は重くってちょっと読むのがキツかったんだけど、だんだんと「財産」の行方が気になり始め、後は加速ついて一気に読めた。
ひと言に「遺産」と言うけど、不動産から、株券、店の権利、売上、骨董に山林…。それらの査定の仕方や、一体どれを取れば一番自分に「得」になるかなど、微にいり細を穿ったような描写が非常にタメになりました…。役立つとは思えないけど(苦笑)。
それにしても、出てくる登場人物のほとんどすべてが「きらい」なのに、何故にこんなに面白かったのか。
ということは、この人たち「魅力的」だったのかもしれない。そして、まるで当事者になったように骨肉の争いの方向を、どうしても見届けなければ気がすまくなってしまうのだ。
きらいだけど、色っぽくてよろめいてしまったのは、長女藤代の踊りのお師匠さんの芳三郎。この人と長女藤代の艶かしい関係がよかったわー。「わかさん、なにをしはりますのんでっか…」「ちょっとの辛抱でおます。おとなしゅうにしてておくれやす。」みないな…。
「ひたひたと寄せてくる芳三郎の妖しい官能の流れ…」みたいな…。
直截的な表現がなくてもめちゃくちゃ「いやらしい感じ」で
おましたわぁ。ふうっ、ふうっ、ふうっ(←笑い声)



SPEED/金城一紀 ★★★★
講談社
16歳女子高生、変哲のない日常におきた不幸な出来事。それは、家庭教師の「自殺」だった。
だけど、「自殺」なんて腑に落ちない私は家庭教師の死の謎をとこうとして、家庭教師の通っていた有名大学に行ってみた。そこで、知り得たことは、家庭教師は本当に自殺だったのかもしれないと言う事に過ぎなかった。でも、その帰り道、何者かに襲われた私。絶体絶命のそのときに!?
お待ちかねのゾンビーズシリーズ最新版!
こんかいの主人公は女子高生。それも、ゾンビーズの面々にとってはいわくのある、例の女子高だ。
ゾンビーズのみんな→南方、朴舜臣、アギー、山下らは張り切ります。んで、なんか気のせいか、優しいぞ。
そして、事件に向かってみんなで一丸となって…。いいなぁ!!!この岡本佳奈子がうらやましい!!わたしもこのゾンビーズとお近づきになってみたいもんです。マジでそう思わせるものが彼らにはある。
まぁ、ストーリーとしては普通(ゴメンナサ)かな?同じような事件が実際に起きているので、問題提起として興味深くはあったけど、「事件解明」にポイントをおいて読むのではなく、ゾンビーズの活躍を見るのが楽しみなのです。
「非日常」が、目の前に突然現れてそして去って行く。昂ぶりが過ぎ去れば、残るのは倦怠や寂しさ。
そけれども、その後には明るい未来が予感されて、チカラが漲るようなそんな気分の読後感。
オススメです!



レヴォリューションbR(再読)/金城一紀 ★★★★★
講談社
「SPEED」を読んだのを機に、再読してみた。というか、無性に読みたくなった。
たまたま「小説現代」の新人賞を取ったその号を読んで、すごくいい話だな―と思っていたので、思い入れが深いと言うのもある。
で、「フライ,ダディ…」や「SPEED」のような結構深刻な理由じゃなくて、この「レヴォ3」では、彼らがやろうとしている事がめちゃくちゃ、はたから見る限りはバカバカしいんですよ。でも、本人たちは必死なの。それが面白かったのだ。あほな事と分かっていても、ものすごく一生懸命やろうとする彼らが大好きだし、ワクワクして応援したくなるの。それが私にとっての「ゾンビーズ」の姿。
さらに、アホな事をしてるのに、ヒロシの事を思う気持ちは本物で、優しさにあふれてるのだ。あほな事だって、ヒロシのためにやってる部分も大きいのだ。そこが愛しい!!だから彼らの友情やそこにある信頼に、泣かされるのだ。
なので、「フライ…」「SPEED」みたいにすっごく物々しい動機があって目的があるのは、確かに面白いけどやはり「レヴォ3」にはかなわないよね、と思ったりするのだった。
ちなみに、最近は表紙絵の違う「改訂版」が出てるけど、断然!オリジナルのほうが私は好きですね。




酔って候/司馬遼太郎 ★★★
文藝春秋文庫
幕末に「四賢侯」と呼ばれる大名たちがいたそうな。
土佐の山内容堂、薩摩の島津斉彬、伊予宇和島の伊達宗城、越前の松平春嶽の4人(らしい)。
この四賢侯にまつわる短編集。
マンガ「お〜い!竜馬」を読んだあとで、家にたまたまあった本書を読んでみた。
表題作「酔って候」は山内容堂のことを描いています。
幕末モノを読んでると、どうしても「慶喜」が「嫌なやつ」の代表になるらしい(?)けど、わたしはこの容堂のほうが嫌いですね。「竜馬」読んだらどうしても、容堂が憎い。幕末の旋風の中で暴れまくったけど、佐幕にも倒幕にも役に立たなかったひと。
「きつね馬」は斉彬…ではなくて、斉彬の死後の島津久光の話。
久光の文久二年の上洛が維新に及ぼした影響、大軍を率いて上洛して、自分の家士を切り(これは「竜馬」でも泣けるシーンだった)生麦事件を起こしただけ。しかしそれは後で思えば、維新の状況をぐっと緊張させた大きな出来事だったということが皮肉な口調で語られてて興味深かったです。
「伊達の黒船」は伊予宇和島藩が黒船を作ろうとして、白羽の矢を立てたのは町人で、ちょうちんの張替えをしていた嘉蔵というおとこ。メッチャ貧乏だったけど、メッチャ器用だったそうです。
彼が身分差別によって、最下級の待遇しか受けられないながらも、黒船を作っていく過程が面白かった。この章が一番面白かったかな?
「肥前の妖怪」は、四賢侯からちょっとはなれて、肥前佐賀の鍋島閑叟の話。
この幕末の時代に、維新どこ吹く風と言う感じの特異な存在。武器なども凄く進んでいて、この時既に様式銃をとりいれて、蘭学なんぞ時代遅れとばかりにイギリス式に何もかも変更していっている。ここにも「竜馬」のように時代に流されるのではなくて独自の視点を持つことのできる「偉人」がいたのですね。しかしいくら力や知恵があっても「宝の持ち腐れ」て気も…。
司馬さんのあとがきに「賢侯たちは」「喜劇を演じさせられた」とあるのが面白いところです。喜劇ですよ。喜劇。



/★★★★
感想