2005年の読書記録*8月



秘密/作家12人★★★★
角川文庫
吉田修一、森絵都、佐藤正午、有栖川有栖、小川洋子、篠田節子、唯川恵、堀江敏幸、北村薫、伊坂幸太郎、三浦しをん、阿部和重…の12人の作家によるオムニバス。
一つのストーリーを、A面B面ひっくり返すように、視点を変えて綴られる短編集。短編も短編、ひとつの小説が3〜4ページ×2編、という短さ。
個性が凝縮されてる様で面白かったです♪
特に好みは有栖川有栖「震度四の秘密―男」「震度四の秘密―女」。トリッキーなストーリーで本格派ならではの面白みがあり、さすがと思いました。と言っても私は本格は苦手だしこの人の作品も読んだ事ないんだけど。でも、読んでみたいなと思わせられた。
小川洋子「電話アーティストの甥」「電話アーティストの恋人」は、どこか「博士の愛した数式」のような空気をはらむ、色にたとえるのならセピアな感じの物語。これも好き。
唯川恵「ユキ」「ヒロコ」。この人のこういう毒っぽいところが好きなんです。女同士の水面下の争い、いいですね〜♪
森絵都「彼女の彼の特別な日」「彼の彼女の特別な日」。考えてみれば私にとっては、これが森さんの『児童書』じゃない小説の初読み。The Endの先に想像を遊ばせられる素敵な物語。
北村薫「百合子姫」「怪奇毒吐き女」。意外性がないような気もするけど、ちょっとコメディな感じで好きでした。

さて、この本、それぞれの作家先生のサイン(もちろん印刷ですが)入り。このセンセーはこんな字を書くのだね、と、結構興味しんしんで見たけど、「小川」って、書きにくそう。佐藤正午さんのサインはローマ字か?何文字?篠田節子さん、美しい女らしい文字。堀江さん、男の人の文字?と思うぐらい繊細な感じの字。一番好みは森絵都さん。文字も好みですわ。

みかんさんにまわしていただきました。ありがとう♪



さよならバースディ/荻原 浩 ★★★
集英社
田中真は「霊長類研究センター」で、3歳のオスのボノボ(ピグミーチンパンジー)のバースディを中心とする「バースディ・プロジェクト」のスタッフである。
ボノボによる言語実験は、安達助教授によってすすめられていたが、その安達が自殺してからは田中真が実質上の管理者となっていた。
実験の進捗状態を発表するための、見学会も行われたが大成功を収め、見学者たちは田中と「会話」するバースディを見て拍手と賛辞を送るのだった。
しかし、見学者の一人である科学雑誌の記者、神田はなにやら意味ありげな様子で田中に近づいてくるのだった。
そして、思わぬ事件が真を打ちのめす…。事件の目撃者はバースディ??果たして真実は??
おぎりん、笑いなしバージョン。
私の好みかそうでないかというと、好みではなかった。
バースディに惜しみない愛情を注ぐ主人公田中の気持ちが、とても感じが良くて2人?のやり取りを微笑ましく見守る気持ちになったり、真の前にたまに現れて「バースディを森へ返せ」と主張する林原を通して、類人猿を実験に使うことへの葛藤など、そのほかにも色々と問題を提起しており読み応えはあったのだけど。
ともかく、「猿との会話」という時点で「猿の証言(北川歩実)」とかぶってくるので、否が応でも比べてしまう。「猿の証言」の衝撃があまりにも大きかったので(と言ってもかなり前に読んだのでほとんど忘れてるんだけど…でも、チンパーソン…衝撃だったのだ)正直言ってインパクトにかけました。
結局そう言うことね( つまりはやらせ?)、と、どこかで思いながら読んでしまった私もひねくれてると思うけど、意外性はなかった。この場合この「意外性のなさ」こそ正しいという気もするが…。
ミステリーとしても物足りなかった。「 安達助教授の死」 にもっと何かがあるのかと思っていたのに何もなかったのも中途半端。っていうか、そもそも(ちょいネタばれ⇒)由紀が自殺したってことに反感を覚える。なにもそこまでする必要はなかったんじゃないかなぁ。死ぬほどの事かな〜。
最後のDVDにプログラムされた「会話」はちょっと意外性がありまぁまぁ納得できたけど、でもラスト、そこで終わるの?という気持ちになった。
本来なら感動する場面だと思うけど、私はちょっと物足りなかった。
残念!!




出口のない海/横山秀夫★★★★★
講談社
新聞広告に担がれてふらっと入った映画館では、「あの大戦」をアメリカ国民の目から見たドキュメンタリー映画を放映していた。「ジャップ」「パールハーバーは騙し打ち」という言葉の連続に傷ついて、今は80になった剛原は席を立とうとした。が、その時、老人が見たのは人間魚雷「回天」のような一瞬の映像…。それは剛原にとある一人の男を思い出させた。「並木」。彼は剛原と同じ大学で同じ野球部に属し、そして、回天と運命をともにした男。
たまたま、映画館にいた同級生の北は剛原を懐かしい喫茶店「ボレロ」に誘う。当時彼らの溜まり場だった喫茶店…。そして、二人の意識は当時に飛ぶのだった。
戦時下の制限された環境で、それでも野球に打ち込む大学生たち。でも、戦争の影は大きく彼らにまとわり続ける。
学生と言う立場を重荷(引け目)にさえ感じさせられる当時の状況。命を捨てることが美徳であった時代。自ら志願して人間魚雷に乗り込む若者たち…。狂気の時代のあまりの悲しさを、野球に打ち込む大学生たちの姿をとおして描いている。
野球が好きな人たちなら今の世の中にもたくさんいます。おりしも甲子園で高校野球も始まります。でも、当時の彼らはそれさえも諦めなければならなかった。 こんな時代が繰り返されてはならない、物語からひしひしと伝わる思い。
人間の命をいったいなんだと思っているのか…。憤りを通り越して悲しさと虚しさが残る。
タイトル「出口のない海」の意味を考えると、胸が塞がれる。ボールを握りながら、死を意識する並木の心情に涙が止まりませんでした。

クーのお母さんからお借りしました。ありがとうございました!



/★★★★
感想