2005年の読書記録*9月



四千万歩の男(蝦夷編)/井上ひさし★★★★
講談社
「日本歴史文学館」の22巻23巻。
まずは蝦夷編、ということで、図書館にはこれしかなかったのでとりあえず読んでみた。
伊能忠敬の偉業については、こちらに詳しいのでごらん下さい。
当時の風物、活躍した人物、歴史的なできごと…いろいろと、面白おかしく登場して飽きないで読めるのだ。なんせ、行く先々でいろんな事件が起こり巻き込まれ、時にはホームズ張りの推理や洞察力を働かせて見たり、時には「ワルモノ」をギャフンと言わせたり。水戸黄門?と思うような部分もあった。面白かったことは面白かったけど、期待していたよりも脚色が多かったかな?
なんせ、伊能忠敬が日本を歩き回ったのは17年間にも及ぶのに、蝦夷編(一年間)だけで600ページ。しかも蝦夷には一度ならず二度も行くし、このままで行くと作者いわく80年以上かかるとのこと。
私としては600ページ…1000ページくらいは行ってもいいから、一生をまとめたものを読ませて欲しいかも。
といことで、本当に伊能忠敬の人生を知りたい場合は、以前ご紹介したマンガをおすすめします。 こちら



主婦の旅暮らし/青木るえか★★★★★
角川文庫
「主婦とだんなの生活」
「本の生活」
「主婦の旅暮らし」
「主婦の旅暮らし 武生編」の4編からなる強烈エッセイ第3弾!!

どれも相変わらず唸るほどの妙文なのだけど、特にすきなのは「主婦とだんなの生活」の中の「だんなの土産」と言う章。
今までベールに包まれていた、るえかチャンのだーさまが堂々登場!!なに?こんな人?すごい、るえかに劣らず強烈なインパクト…!!!
この夫婦は猫が好きで、賃貸マンションであるにもかかわらず猫を飼ってるんだけど、2匹まではいいらしい。3匹になると家の中がすさんでくると言う。3匹になると「3ネリ体制確立」と言って「厳戒令発令」のごとく警戒するらしい。
ん?
ネリってなにかって?
これが、るえか家での猫の呼び名なのだよ。うちらが「猫」と言うところ、このご夫婦は「ネリ」と言ってるらしいよ。
そのあたりの顛末から、3ネリ体制になったいきさつまでを描いたこの「だんなの土産」の章は読み応え100%!何度読んでも釣り込まれる文章、読むたびに訪れる新鮮さ。
るえかチャンの文章は私をひきつけてやみません。大好き!!
みかんさんにまわしていただきました。ありがとうございました!!



子どもたちは夜と遊ぶ/辻村深月★★★
講談社NOVELS
狐塚孝太を中心に、C大学の月子、恭司、木村浅葱、秋先生…それぞれが自分たちの学生生活を送っていたのだけど、凄惨な連続殺人事件が世を騒がせるように。犯人は「i(アイ)」と「θ(シータ)」…。「i」と言えば、孝太や浅葱が留学権を争った論文の仮の優勝者なのだが、この二人はおなじ人物なのだろうか?
殺人事件の惨い魔の手は、孝太の身辺にも忍び寄り…。

メフィスト系の作品は苦手なのに、知らずにお借りしたので、内心「読めるかな?」とおっかなびっくり読み始めた。最初の登場人物の紹介みたいなページが長かったのと、冒頭の猟奇殺人事件が本編にどう絡んでくるのか、そこまで読みづらかったけどそのあとはかなりハイペースで読めました。
大学内の人間関係や、猟奇事件の行方などなど、釣り込まれたし面白かった。「i」はともかく「θ」が過去に体験した悲惨な出来事にも読ませられたし、そのあたりはかなり楽しませて(読み物として)もらったと思う。一気にグイグイ読みました。
でも、これって、一種の叙述トリック?。一種のと言うか、歴然?
ストーリー内の主要人物が、ずっととある勘違いをしているのだが、読者である自分もその視点にのっとって、同じように勘違いしていることに気付いたとき「やられた〜〜!!」と思うよりは「そんなあほな!」と突っ込む気持ちのほうが大きかった。どう考えてもそれは無いでしょ。「葉桜の季節に君を思う」よりも、もっと「ありえない」と言う気持ちが大きかった。普通ありえないでしょ。ね?ね?しかも、タイトル「子どもたち」って…誰?
でも、ドラマや映画になったら面白そうな感じかもね。

あさみさんにお借りしました。ありがとうございます!



厭世フレーバー/三羽省吾★★★★
文藝春秋
突然、リストラの果てに家を出てしまった父親。
残された家族が何を思い、どう暮らすのか、それぞれの視点でつづるオムニバス。

最初は14歳の男の子ケイの物語。これが結構引き込まれる。文体が完全に一人称のぼやきみたいになってて、すっごく自然。14歳の頭の中って確かにこんな感じかも、17歳の考え方って結構こんな風だと思う…と、違和感がなくて釣り込まれたのだ。
「27歳」長男のところでは、やはり一家を支える長子の、責任感と重圧にもがく内面描写に胸打たれた。わかる!共感!一瞬先の大戦で日本がしてきたことを肯定するくだりがあり、しかも、その描き方にとても反発を覚えたのだけど…最後まで読んだら、なるほど〜って。
結局この家族は、一家の主を失ったことで変わっていくのだが、その変化の様子をそれぞれの視点を通して描いてる。でも、一つ一つを読んでみてもその変化はそんなに分からないのだ。ほかの人物の視点も合わせてみると、確かに変化が感じられる、面白い構造にも唸らされた。
ラスト、結構さわやかなのです。読後感グッド!



火怨 北の燿星アテルイ/高橋克彦★★★★★
講談社
ううう。おいおいおい(←泣き声)泣きました。
こんなに泣かされた本は久しぶり〜!!
最後はもう号泣してしまった。
かっこよかったです〜〜。阿弖流夷(アテルイ)たち。
だいたい、副題の「北の燿星アテルイ」って見ただけで、「ツ・イ・ラ・ク」してしまったんだけど、実際読んでみたらもっと「おち」てしまった。
こんなにかっこいい男がほかにいただろうか?これ、歴史上の実在の人物なんだよね。普段の私は歴史上の人物をあまりに持ち上げた作品を読むと「ほんとにそうだったんか?」なんてひねくれた考えがチラッと頭をよぎるのだけど、今回はそんなことを思うひまもなく物語りにのめりこんだ。

詳しく書くと長くなるので、ざっとご紹介すると、桓武天皇ですよね、その当時の天皇。そいつが、東大寺の大仏建立のために「金」がほしいのよ。それが東北で採れると分かってから、それまで睨みを効かせていただけの東北地方に力ずくで侵略していくのだ。
そこで立ち上がったのが、この阿弖流夷率いる蝦夷軍。
歴史の教科書には、「802年=征夷大将軍・坂上田村麻呂による蝦夷征討」なんて書いてある。そう、結局蝦夷は征討されるわけだ。(征討=反逆者に対して使う言葉)
しかし、そこに至るまでに一体何があり、どういう考えがあったのか、それがまるで「見てきたように生き生きと」描かれてるのが本書なのである。阿弖流夷たちの壮絶な決心。オトコです!!!

朝廷軍は、蝦夷たちを人間とも思ってないくらいに、ひどい扱いだったらしい。
惨殺陵辱はあたりまえ…みたいな。
それに対して、人間としての尊厳を守るために、子々孫々のために立ち上がった阿弖流夷たち。その強さたるや、爽快!ただ強いだけじゃなく、朝廷軍の裏をかき、先の先を読む頭のよさ。これは阿弖流夷の腹心であり義兄でもある母礼(もれ)の役どころが大きいんだけど、この母礼が、阿弖流夷と同じかもしくはそれ以上といってもいいくらいいい男度が高かった!!くー!
また、彼らをつなげてる揺ぎ無き信頼感。これが物語りのもうひとつの主人公とも言えるほどに美しく心打たれるものであった。朝廷という巨大権力に戦いを挑み、一つにまとまる心。
しかし、阿弖流夷のすばらしさは強さと賢さだけじゃない!!
懐がでかいんである!!
たとえ敵兵だとしても、命を無駄にはしないという…自分たちは卑しめられているけれど、仕返し的な考えはちっともなくて、相手をちゃんと尊重し命を大事にする。たしかに「戦」の将として矛盾してるような気はするけど、読んでたら納得!なのだ。
つまり、「優しい」のだよね。
また、彼だけではなくその周囲の男たち―――母礼(もれ)、飛良手(ひらて)、伊佐西古(いさしこ)、猛比古(たけひこ)、取実(とりみ)―――そして物部天鈴(もののべてんれい)…みんなみんなかっこいい〜!!!
あ、かっこいいって言ってもイケメンッて意味じゃないのだ。考え方や行動が男らしいのだ。(でもビジュアル的にもわたしの中ではいい男度=極上なんだけど*ただし、伊佐西古はオチ的…)…誰の名前を思い出しても胸が締め付けられるような気分だ。
朝廷軍を相手にしての戦いは20年以上。(昔なので戦いものんびりしてるのか)その間ずっと彼らを見守ってるわけだから、他人とは思えないくらい身近に感じてしまった。

そしてそして、敵将の坂上の田村麻呂!この人がね!泣けるほどにいい男だった。彼と蝦夷は、戦いを通じてお互いを知り合い、理解しあってゆくという皮肉な関係。
そして生まれる信頼や友情にも似た感情。それがまた泣かせる!
(田村麻呂の側近も、いい男がいるし…御園とか…!)
なんで、こんな戦いが必要だったんだろう。それを思うとやりきれない気持ちになるけど、やりきれなさを忘れてしまうくらい、阿弖流夷たちの友情と潔さ、もろもろのかっこよさに打たれてしまった。

ラストはもう…。
これは実際に読んで頂きたい。
悲しくて切なくて、そしてかっこよくって…。
ツイラクもツイラク。しばらく立ち直れなかったよ。
ひさしぶりにこんなにのめりこんだなぁ〜〜って感じでした。

結局長くなってしまった。^^;