2006年の読書記録*3月



砂漠/伊坂幸太郎★★★★
実業之日本社
面白かった!! PCを立ち上げるよりも、本が読みたい!と思わせる面白さでした。 読後も爽やか〜♪ そして、なんだか、ちょっぴり切ない。 時間はあっという間に過ぎていく。そんなせつなさかな? そして、「友だちっていいもんですね♪」って素直に思える。心地よい読後感だった。
ちょっとした叙述トリックが入ってますね。 思わず、前の部分を読み返したよ。そしたら、やっぱり、そう言うことねと納得できる部分が各所に散りばめられてた。 これが、切なさを倍増しにした。 やられました。

+++あらすじ+++

主人公の僕、北村。盛岡出身で、仙台の国立大学に入学。
新入コンパで知り合った同級生に、マージャンに誘われます。
「北」村
「東」堂
「西」嶋
「南」
そして、鳥井の5人がなんとなくひとつのグループになり、行動をともにするようになるんです。 彼らが、騒動に巻き込まれたり、恋をしたり、マージャンをしたりして、繰り広げるキャンパスライフ、青春グラフィティ。

+++

西嶋がすっごく好き。 自分がもしも西嶋の身近にいたら、彼らのように西嶋のよさを分かったかどうかはギモンだけど。きっと「変な人」「嫌味な人」「やたら熱くなって迷惑」なんて思って敬遠するんじゃないかな〜と思う。 でも、そんなうっとおしい西嶋を自然な感じで仲間として尊重している、他のメンバーもいい感じです。 まっとうなことを言ってるのに、明らかに「浮いてる」。 今の日本で、「まっとうなこと」を声高に主張するのは、「普通」とは違うのでは…。 心では思ってても、口に出したり出来ないと思う。 それをやってしまう西嶋は素敵な人です。 はっきり言って、西嶋から…と言うよりも、西嶋の発言に見入ってしまった。

「その気になれば砂漠に雪を降らせることもできる」

この言葉を「ムリだろ」と笑うか、共感できるか…。私は共感できる人間でありたいなと思いました。(それにはちょっとトウが立ちすぎてるけどね)

あさみさんにお借りしました。ありがとうございました♪



チーム・バチスタの栄光/海堂 尊★★★★
宝島社
後半は結構おもしろかったんですけど、前半がそれほど鷲づかみされなくて、辛かったかも。
チーム・バチスタというのは、バチスタ手術を行うためのチームです。
バチスタ手術と言うのは何かと言うと、なんかよくわからないけど、とっても難しい心臓手術らしい。 東城大学医学部付属病院では、アメリカで心臓外科医として活躍していた桐生を招聘して、チーム・バチスタを編成、そして次々と難しい心臓手術を成功させるんですが、あるときから突如3例続けて手術が失敗。
次の手術がマスコミからも注目されている手術なので、病院長は内部調査を依頼する。 そして、その内部調査を依頼されたのが主人公田口。不定愁訴外来専門の医師。

+++++

これが、最初は田口によるバチスタチーム面々の聞き取りから始まってて、最初は事故か事件かもわからないので(考えてみれば、事件でもないのにミステリーにはなりませんよね)容疑者に対する刑事の追及のように緊迫した雰囲気もなく、まったりした感じ。
他の感想を見せていただくと、その人物造形と語り口に魅力あり、と言うことですが、人物像は確かに魅力的で面白かったんだけど、語り口という点では、魅力的だと感じるまではちょっと時間がかかったかな。 平たくストレートに言ってください、みたいな…。 慣れたら「カッコいい文章を書く人だな」と、思えたけどね。
物語が俄然面白くなるのは、厚生労働省の役人白鳥が派遣されてからです。 これがすごく癖のある人物で、でも、頭が冴えてる! 慧眼の持ち主です。 何を言ってるのだか、難しすぎて良く分からないこともありましたが(笑)この人物がすごいということは分かった! 頭の回転が速くて、先まで見通してるという点では、こう言う人大好き!(本の中での話ね) この白鳥と主人公田口とのかけあいがおもしろく、白鳥によって事件がいよいよ白日の下に…。展開がスピーディーで面白かったです!! 白鳥が田口と一緒に最初にするのが、チームメンバーへの聞き取り調査。 つまり、小説の冒頭で行われたことをもう一度再演するんですね。 またするの??同じことを? と、思ったんですが、これが白鳥がいるのといないのとでは大違い。ココからが本当に面白いところでした。 ただ、最後はちょっとあっさりしすぎじゃないかなぁと思ったけど。 でも、白鳥と言う人物はちょっと忘れがたい不思議な魅力のある人です。 かなり印象的。 是非とも、この白鳥をお見知り置きを…!(笑)

あさみさんにお借りしました。ありがとうございました♪



砂漠の薔薇/新堂冬樹★★★
幻冬社
またしても後味の悪い本を読んでしまった。
これは実際に起きた「お受験殺人」として記憶に残る、東京文京区の幼女殺人をモデルとしたストーリー。新堂さんはこの事件をどう「本」にするのか?と、興味しんしんで読んだけども、はっきり言えば読んでる間中気分が良くなくて読後感も悪かった。
主人公が犯行に至るまでの動機付けに「説得力」もなかった。
そもそも、実際の事件を扱ってるのでどうしても「実際の事件のときはどうだったのだろう」「実際の加害者はどう思っていたのだろう」「実際の被害者はどう思っていたのだろう」と、各部分でフィクションである本書と比べてしまい、本書にはのめりこむことが出来なかった。

本書のあらすじ+++

同じ幼稚園を目指している「お受験グループ」に所属する主人公のぶ子。 周囲は裕福でセレブなんだけど自分の家庭は夫が教材の訪問販売をしている、ごく普通生活レベルの家庭。 その彼女が「グループ」の中で浮いていて、イジメみたいな目に合ってる。ことあるごとに彼女をエサに、生活レベルの格差を話題にして、周囲は盛り上がるのだ。 そして公団にある家に戻れば「お受験させる」と言う目で、また公団の主婦たちからもつまはじき。 そんな中唯一の理解者であるかに見える、十和子。彼女はのぶ子の幼馴染であり、グループの中の中心人物であり、メンバーの憧れの人物なんだけど、のぶ子は彼女に心の中にすごい確執を持ってる。 それが高じて、殺人を犯すのだけど…。

+++

ともかく、主人公が子どもを受験させたがったり、お受験メンバーのグループに無理して入ってること自体、読んでて違和感が拭えない。 「そんなに辛いのならやめれば良いのに」と思える。 十和子に対する確執が殺人のきっかけになったのだけど、そこが一番の「説得力の不足」を感じるところ。 実際の事件の加害者も、いろんなサイトで検証や解説を読んでも、はっきりとした動機は伝わってこないのだから、小説ではなおのこと仕方がないことなのかもしれない。 読後の不快感は、考えてみればテーマからして当然と言えるのかも知れず、読んだ自分に「こう言う本を読みたい」と思った罰が跳ね返ってきた、と思っても良いかも。 実際のあの事件にしても、ただひたすら痛ましい。死んだ(殺された)こどもがかわいそうでたまらないし、ご家族の痛みを思うとやり切れません。 それを踏まえて本にするのなら、そこから何か感じるものがあるような作品を期待したかったけど、スキャンダルをそのまま本にした感じだったのかなぁと…。それが後味の悪さの原因かなと思いました。



陰日向に咲く/劇団ひとり★★★★★
幻冬社
わーお♪よかったですよ、これ!

作品は、社会からはみ出した感じのプチ不幸の人たちを主人公にした5つの連作短編集。
主人公同士のつながりは「袖振り合うも他生の縁」というやつ?使い方違ってたらごめんなさい。
直接つながりはなくとも、人生って他人と少しずつリンクしてるんだなぁと思わせるところに「生きると言うことは一人じゃないってこと」というメッセージがあるようで、心がほっこりします。

それぞれの短編はもちろん独立してて、それらがどれもするする読ませられてぐっと来るものばかり。強いて言えば一番最初の「道草」は、最後まで読んでみれば一番インパクトに欠けたかも。 ごく普通のサラリーマンがホームレスになる、って言う話なんですが。 それ以降の話はどれも、すごく好きなものばかり。
中には自分の体験談も入ってるのじゃない?と思うような、駆け出し芸人の話もあったり、アイドルに入れ揚げる男の話もあったりで、それがあっさりした飾り気のない、魅力的な文章で読ませる!!
ともかく、内面描写が上手いです。すべての話が一人称で描かれてるんだけど、その心理描写がすっごくリアリティがあった。
たとえばカードローンで多重債務者になってる男の話があるんだけど、男は「カードを使って未来の自分から借金する」と考えてるのだ。それが妙にツボにはまって可笑しかったです。発想が面白いよねぇ。
一気に読めて、かなりオススメ♪ こう言うのを読んでしまうと、とても得した気分になります。
あさみさんにお借りしました。ありがとうございました♪



激流/柴田 よしき★★★
徳間書店
タイトルからして、ものすごい「激流」を想像してしまったけど、思ったほどの事はなかったなぁ。ついつい、すっごいのを期待してしまったんだけど…。
ミステリーと言うよりも、中学時代の同級生が中年になってから、ひとつの事件をきっかけに再会して、成長した大人同志として旧交を深めると言う、平たく言えば「同窓会モノ」というかんじでした。
彼らは、中学3年の修学旅行で同じ班だったのだけど、途中で班の仲間がひとり、疾走してしまうんです。みんなそれを抱えて大人になります。それぞれ出世したり落ちたり這い上がったり、色々な人生を生きてるんですが、あるとき、疾走した級友の名前でメールが届く。「私を覚えていますか?冬葉」と。
おりしも、ひとつの殺人事件でその班のひとりの名前が挙がり、担当する警視庁の刑事もまた班の一人であったと言う偶然が重なり、そのことがきっかけで班のメンバーが再会する、そして真実に近づいてゆくのですが…。

編集者となってる圭子や、歌に作家活動にと(いったんはスキャンダルにまみれながらも)活躍している美弥なんかの半生がなかなか興味深く読めました。
貴子の人生もかなりハードなんですが、もうちょっと彼女の背景を読みたかった。中途半端な気がしました。
肝心のミステリーとしての結末は…ちょっと期待はずれでした。
とくに、貴子関連の殺人の犯人に至っては…。
冬葉のこともそうなんだけど、これだけ長い割にはいまいち平凡な結末だったんじゃないかと言う気がしています。



暗い日曜日/朔 立木★★★
角川書店
前作「死亡推定時刻」と同じ「リンメイ先生」のシリーズと言うことで、ひじょーーーーーに期待してしまいましたが…。残念ながら、期待叶わず。

と無下に言い切るほど、面白くないとも思わないんですけど(文章が読みやすいのでネ)どうにも全体的にマッタリ感が拭えないままに終わりまで来てしまった、かな。

まず、ストーリーを簡単にご紹介すると、今回リンメイ先生の手がけた事件は「高名な芸術家が痴情のもつれの果てに、愛人を殺した」と言う事件です。
リンメイ先生はこの被疑者にいたく魅せられて友情も感じ、彼のためにできることをしようと努力するのですが、何が残念かと言うと、リンメイ先生と同じように被疑者に魅力を感じることはなかったと言うこと。
前作「死亡推定時刻」では、小林被告の冤罪を晴らそうとするリンメイ先生と同じ気持ちで、読みすすめることが出来、こころからリンメイ先生を応援し、小林君の「その先」が気になって、読むのを止められないほど鷲づかみにされた読書意欲。しかし、今回は被疑者に対しては「結局『浮気』してたんでしょ…。」という冷めた気持ちが去らず、事件の解明に関してもそれほどは興味を引かれませんでした。
ミステリーとしても、たいしたトリックや驚くような真実があるわけでもないし、「タイトルからして」←ネタばれになってると思う。
結局、愛人に殺されたとされる女を巡っての愛憎劇として、ミステリーと言うよりは「恋愛モノ」として捕らえたほうがしっくり来る感じかなと、思いました。



/★★★★
感想