2006年の読書記録*5月



マドンナ/奥田英朗★★★★
講談社
遅ればせながら、奥田さんのユーモア系は、初めて読みました。 食わず嫌いは、いけません!! すっごく面白かったです! でも、そう言えば表題の『マドンナ』は例の回覧雑誌『小説現代』で読んでいたわ。展開に記憶があったもん。

『マドンナ』
自分の部署に自分の好みの女子社員が転属になってきて、その女の子を「好きになってはいけない」と戒めながらも、彼女との妄想にふけったり?彼女に近づく男子社員に嫉妬したり、奥さんにバレバレになってたり…そんな妙齢の課長の心理を見事に面白おかしく哀切も含めて描いてありました。 実際に彼女とどうこうなりたいわけじゃない、でも、欲望に絡めとられて思わず自分を見失う、案外誰でも経験あるのでは?わたしはありますよ〜。無論対象はテレビや銀幕の中だったり二次元だったりするんだけど。(たまにスーパーのおにいちゃんという三次元だったりもしたなぁ…その人がレジを打ってる隣のレジに並びましたね。その人のレジには恥ずかしすぎて並べなかった記憶が(爆))本人はイタって真剣だし、この課長の気持ちもよく分かっておもしろかった。 林真理子さんなんかもこう言う心理描写には長けてるので、ふっと彼女の小説を思い出したりしました。
『ダンス』
スナフキンという異名をとる、孤高の戦士浅野。浅野本人は凛としてるのに、嫉妬半分心配半分で勝手にヤキモキして余計な世話を焼いてしまう主人公芳雄。浅野がすごく好ましくて、この一話が一番すき。運動会の場面ではウルウルっときた。案外心配されてるのは芳雄のほうだったのだ。 息子との確執もこの年代ではないほうがおかしいと言うものであろう。 奥さんが海外旅行に行きたいと言うくだりもよかったなぁ。奥さん頑張れというかんじでした。
『総務は女房』
これも面白かった。特に、奥さん。『ダンス』のときよりももっと奥さんがパワーアップ。もっと言うたれ!!!と、拍手喝采してしまったよ。
『ボス』
ここまで来てちょっと中だるみの感がある一話でした。展開もちょっと間延びしていたような。でも、山崎まさよしに入れ揚げる奥さんの気持ちは良く分かる。ライブはダンナなんかと行きたくないよねぇ(笑)
『パティオ』
自分の親の高齢化と照らし合わせて胸に迫るものがある作品。 妻に先立たれた父親を訪ねるシーンは泣けた。寺の坊さんと奥さんのバトル?も面白かった(笑)
翔ままにお借りしました。ありがとうございました♪



パンチパーマの猫/群ようこ★★★★
文藝春秋文庫
群さんのエッセイですよー。おもしろい!!
愉快痛快なんですよ。もっと言ってやって!!って、何度心の中で叫んだか。 ちょっと順に、わたしが面白く感じたスポットを拾ってみますね。カッコ内のタイトルは適当につけました。
「手慰みの手芸品」
わたしも手芸関係は大好きで、過去に何回も手作り品をバザーに出してきました。もうやめようかしら(笑) いや、手慰みっていうのはソープ手芸(なつかしーーー!!やった!やったよー。何個も作って、玄関やテレビの上に飾ったよー(爆))とか、実用向きじゃないもののことかな。うちの母も「バザーで売って」と、「よかれ」と思っていろいろ作ってくれるタチなので…。いろいろ考え込んだ。笑ったけども(笑)
「尊敬して欲しい夫」
愛に飢えたお父さんが登場。もっと尊敬して欲しいんです、と心の叫びを涙目で訴える。でも、こう言う家庭のほうが上手く行ってるのですよね。 鬼嫁、なんて言うけど、奥さんが言いたいことを言う家庭のほうが、絶対幸せな家庭だと思う。 だんなさんに遠慮して、口に出さない奥さんはうっぷんが溜まってて決して幸せだと感じてないと思うし、奥さんが幸せと思えないのに家庭が円満なわけが無い。それを思うと奥さんに言いたいことを言わせてるだんなさんってえらいと思うのだけど?
「生まれながらの長老なし」
たしかに、言い得ますよね。でも、ほんっとに「あんた、それでいいと思ってるの?」って若者が多い。この話の中の若者みたいに、いつか「ちゃんと」なってもらいたいと切に思います。
「物忘れ突入元年」
うーん、わたしの物忘れ突入元年は、一体いつだったろうか?もうとっくの昔のその洗礼は受けてるのでいまさら、思い出せませんが。世の中忘れたほうがいいこともあるので、一概にくよくよする必要ないのかも、と思えました。 しかし、こないだ、おにぎりを塩と間違えて砂糖で握ってしまったの。あの時は血の気が引いたよ。これはもう、物忘れの範疇を超えてますけどね。
「汚いジョシコーセー汚ギャル考」
うんうん、と頷くことばかり。うちにも女子高生がいて、この人はごく普通でお風呂もモチロンはいります。友だちにも、こんな汚ギャルはいないのじゃないかなぁ。 でも、「こう言う人たちがブランド品を持ってはいかん」というのは思わずウンウンンと…。「見栄を張るよりも毅然と」には、まさにそのとおりです。と大きく頷くのでした。
「ゴミを持ち込まない主婦」
これねー、自分の家にゴミを持ち込まないために、スーパーなんかで包装やトレイをあらかじめ捨ててから家に帰る、という荒業を使う主婦のことが書かれてますけど。こう言う人本当にいますよ。それがみっともない行為だと思わないのかな〜。自分の家さえ綺麗だったらほかは知らないって言ってるのと同じではないのかなぁ。行楽なんかのときはお弁当箱も持ち帰りが基本です。
「肝の据わった人生を」
わたしも、送りたいのは山々ですが、なんせ肝が小さいし小市民なので…。 また、こう言った爆笑エッセイを読んで笑いながら人生を送りたい、とだけは言えましょう。



14階段
 検証新潟少女9年2ヶ月監禁事件/窪田順生
★★★★
小学館
件の「部屋」に上る階段は14段なのです。
母親は、20年間、その階段を上ることはおろか「見ること」すらも禁じられていたのですと!ヤツに。 見ただけでも殴られたのですって。
冒頭、母親がこれ以上は我慢できない…と言うところで保険所に電話して、保健所の職員が「息子」を拘束し、その時に少女を見つけ、驚いたくだり…そして、警察の信じられない杜撰な対応とその後の捏造までがすごいインパクトでした。
著者が何度も母親にインタビューする中で浮き彫りになる、信じられないこの親子関係。息子を叱ることはおろか、注意することもできず、下僕となり下がった親。
人は社会の中で生きてゆく事を余儀なくされる。
とすれば、親の務めとして、子どもを「社会に適応する人間に育てる」というのは最低限のことじゃないのか。
そして、自分は親としてそれがきちんと出来ているのか…。
かなり考えてしまいます。ちょっと疲れた…。



摘出ー作られた癌/霧村悠康★★★
新風舎
現役のお医者さんが書かれた医療ミステリーで、医学界の現状を告発する内容になっています。
一番著者に聞きたいことは「こう言うことはほんとに、ほんとーーに、ほんとのほんとにあるんですか??」ということ。 ホラーよりも殺人よりも、もっと怖い気がした。

主人公は、新米医師だけど、医療に信念と情熱を持って、真摯な姿勢で取り組み、患者のことも心から思っていて評判もまた上々。 が!! この、主人公、冒頭の乳癌の摘出手術でとんでもないことをしてしまう。それは「左右の乳房を間違えて切り取ってしまう」ということ。 どうしてそんなことになってしまうのか、なかば信じられない、でも、昨今のニュースなんかを見てるとあながち「そんなバカな!」と一笑に付すことは出来ない話です。 主人公の取り返しのつかないことをした混乱や焦燥感と、乳房を間違って切り取られたのが自分だったらと考えたときの絶望感などが、ががーっと押し寄せる冒頭の手術場面にはひざ頭が震える気がして釣り込まれた。 その後の展開は、サブタイトルの「作られた癌」と言う文句が語るとおり、病院側の失敗に対する隠ぺい工作が主体になっていき、前半に比べて失速してしまう。主人公の真摯な姿に救いを見出したい気持ちはわかりますが、でも、ちょっとヒューマニズムが「あまい」かな。ラストはかなり「きれいごと」って感じがした。 でも、いろいろと考えさせられた作品でした。



雨鱒の川/川上健一★★★
集英社文庫
くままにお借りした「雨鱒の川」を読みました。
川上さんの名前はよく聞くのだけど、読むのは初めて。すがすがしいイメージでしたがこの小説もすがすがしかった。
悲劇と言うわけではないのだけど、これは川上版「フランダースの犬」って感じです。のどかな田舎で母親と二人暮し。貧乏だけど、絵を書くことに関しては天才的な才能を持っている心平。唯一の友だちは小百合と言う聾唖の少女。小百合は誰の言うことも聞こえないし、また小百合の言うことを誰も理解できないのだけどただ一人心平だけは、小百合の言葉を解する。それぐらい二人の結びつきは強いのだ。 やがて二人は成長するが、いつまでも子どものままでいたい2人にとって難問が持ち上がってくるのだった。
+++
子供時代のことを描いた第一部。それから10年後を描いた第2部。とっても優しい気持ちが根底に流れる作品です。 第一部では病弱な母親を思う心平に泣かされるし、第2部では年をとって弱ってしまった小百合の祖母への優しさや思いやりにぐっときます。 優しいだけじゃダメなんだよ。と言いたいところも多々ありましたが、あまりにも浮世離れした心平の性格に、文句を言う気も失せてしまうというところ(笑) でも、ふたりの行く末に決して幸せが見えてこないのが寂しい。 物語は決して不幸な終り方をしているわけじゃない、それどころか希望のうちに終えているのだけど、どうしても「フランダースの犬」のような結末につながってしまう気がするのです。生活力がなさ過ぎるからね…。でも、それでもネロとパトラッシュのように2人は微笑んで天に召されていくきはするけど…。



梅咲きぬ/山本一力★★★★★
角川文庫
+++あらすじ+++
宝暦から寛政にかけて、江戸深川の料亭「江戸屋」を舞台に、4代目女将として成長してゆく玉枝の姿を、江戸の町が目に浮かぶような臨場感あふれる文体で、情緒豊かに描きます。 玉枝は幼いうちから母親であり3代目女将である秀弥に、女将としての心構えを事あるごとに教え込まれる。言葉だけではなく、本物の女将としてのその場その場でのやり方を、肌で体験し習得していく玉枝は、大人にさえも思いつかないようなことを考えては、大人を驚かせる。周囲の暖かな愛情と人情に見守られ、女将としての資質を充分に発揮させながら成長してゆくのだった。
+++感想+++
一言で言うと人生の美学がぎゅっと詰まったような一冊です。
子どもは親の背中を見て育つと言うけれど、ここに出てくる秀弥と玉枝の親子関係はまさにそれ。こっちまで秀弥の姿や言葉を通じて、玉枝と同じように導かれる気分だし、また秀弥の気持ちになって玉枝を見守る気分でもある。その秀弥や稽古事の師匠春雅や福松、使用人の市蔵らの言葉の一つ一つが、読んでて「うっ!!」となることばかりなのだ。
「人をうらやんだり僻んだりすることは、自分の母親をいやしめること」
「玄関を綺麗にしている家は万に一つの間違いもない」
「髪がなんぼ綺麗でも爪が汚かったらわやや」
「いやしい心根で人に物をねだるのは恥。だけど目上の人が示してくれる好意に心底から感謝して受けるのは目下のものの義務」
「身の丈を超えた贅沢は世間の笑いものにもなり暖簾に傷もつける」
「質素とみすぼらしいのは別。派手さのみを求めてはいけないが、女将としての立場的な体裁は整えるべき」
「たとえ相手に非があってもあからさまにそれを言い立てたてず、物言いには充分気をつけること。あいての誇りを傷つけないこと」
などなどなど…。
どれも、心にずっしり来るフレーズばかりでした。
それらを見事に自分の中でこなして、身に備えてゆく玉枝の姿にも驚嘆し感服させられるけれど、秀弥の女将として、母としての、何事に対しても揺ぎ無い信念を持った真摯で誠実な姿にはもっと感動した。 その女将秀弥を中心とした江戸屋のチームワークで、ちょっとした困難や厄介事は見事にクリアしていったり、機転の利いた玉枝の知恵が発揮されるところなどは胸がすくようだった。 また、女将への玉枝の思慕にも胸が詰まる想いだったし、師匠春雅と福松夫婦の、玉枝に対する思慮深い愛情と思いやりがよかったし、なによりこの夫婦関係がまた泣かせる。泣けました。 ひっそりとした玉枝の恋がまた切なかったけれど、それを乗り越えて女将としてこれからも、江戸屋を守っていくであろう未来に心からのエールを送りたい。そんな読後感の本でした。 くままからお借りしました。ありがとうございました!



ラッシュライフ/伊坂幸太郎★★★
集英社
+++あらすじ+++
泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場――。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。
以上 Amazonから+++
ストーリー紹介が難しいので、Amazonのそのまま引っ張って来ました。 この本もかなり評判が良いですね。
わたしも読んでるときは面白かった。
黒澤なんて、すっごく好み。渋くてクールで無精ひげが似合う、もうちょっと年取らせたオダジョーみたいな感じ?こう言う人好きです。 うらびれた豊田もよかった。ダサくて、無気力で、陰気だったけど物語の中で替わってゆく豊田に好感が持てました。 合間に描かれる不可思議な出来事が最後にストン、ストンと収まるところに収まり、全体を見てみればまるでよく出来ただまし絵のよう。それは見事と思いました。 ただ、わたしの理解力がなかったので、は?アレはどうなったんだっけ?これは結局どういうことだったのだっけ?と、行きつ戻りつしてようやく全貌が分かった感じで、物語の面白さを味わうと言うよりも、ピースをはめ込む作業に疲れた感じ。 一度読んだだけで「スッキリ!!」と分かったらきっと「面白かった!!」って言い切れたのだろうな。ちょっと自分がふがいなく思いました。



シャイロックの子供たち/池井戸潤★★★
文藝春秋
銀行家から作家に転身ということで、銀行内の実体を鋭くえぐる問題作。 ほかの作品もこんな感じなのかしら。わたしは初読みでしたが、文体や視点は好みでした。 でも、この作品については、びみょーーーーーと、思います。 印象としては「連作短編のつもりだったけど、急遽長編ミステリーに変えました」というかんじ。 読み始めたときは「長編」と思ってたので、「連作短編集」と分かった(思った)ときはガッカリした。わたしはこう言うタイプの作品はノンストップの特急とか、せめて急行で読みたい。 でも、各駅停車の短編集だったのかとガッカリしたのだ。 しかし、途中からいきなり「やっぱり『特急』長編ミステリーです」と言われてもねー。今更スピード出されても、目的地につく時間は、普通列車と変わらないよ〜〜という感じでしょうか。 それなりに面白かったけど、取り繕った感じが否めなかったなぁ。 結末は最初っから考えてたものではなくて、途中で進路変更したんでしょ?と、ちょっと納得が出来なかった。 「もやっとボール」を投げたい!!