2005年の読書記録*7月 |
第三の時効/横山秀夫★★★★★
集英社
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mocoちゃんの感想を見て「読むぞ」と思った本作。
骨太で深い味わいの、読み応えのある短編集でした! F県警強行班捜査係を舞台に、捜査一係=一班の朽木、捜査二係=二班の楠見、捜査三係=三班の村瀬。圧倒的な検挙率を誇るF県警切っての「常勝軍団」。類稀な資質を持つ警察の男たちの活躍を陰に陽に描く。 ●沈黙のアリバイ ●第三の時効 ●囚人のジレンマ ●密室の抜け穴 ●ペルソナの微笑 ●モノクロームの反映 以上の6編から成っている連作短編集で、それぞれの章で個性豊かな面々が活躍するのです。事件を追うストーリー展開も読者を逸らさずスピーディーで、どの話もオチがありふれてなくてはっとさせられる。読み応えがありました。 しかし、それより人物の個性がすごく魅力的に描かれているのです。一見冷酷無慈悲、無骨で無愛想、競争意識丸出しに事件にがっつく刑事魂の塊!…と思いきや、実際には決してそれだけじゃない。「出来る」だけじゃなく「分かる」男たちなのだ。鋭い推理や洞察で人を唸らせるばかりではないところに、読者はやられるのではないでしょうか。 「第三の時効」は評価が高いけどそれもうなづける面白さ。でもなんとなく「囚人のジレンマ」みたいな物語も好き。「ペルソナの微笑」も面白かった。いや、どれも面白かったです。未読の方ぜひともオススメします。 |
ラストサマー トラベリング・パンツ3/アン・ブラッシェアーズ★★★★
理論社
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ついにこれで最後なのでしょうか? もうこの4人の少女たちに会えないと思うと寂しい気持ちになる『ラストサマー』。やはり、それぞれがそれぞれの夏を過ごし、成長してゆく過程が爽やかに優しく描かれています。 何が魅力的なのか…、とっくにパンツの話じゃなくなっています。れっきとした少女たちの物語。 彼女たちはお互いを大事に思い尊重している、甘えない、依存もしない。でも、ずっと繋がっている。繋がっていることが心のよりどころとなっているのです。そのバランスが絶妙で心地よいのです。 レーナ、美術の道を目指す過程で色々とトラブルを抱えながら道を切り開いてゆこうとする姿が描かれています。 ティビー、ブライアンとのことが大きな問題になってきています。 ビー(ブリジッド)少年たちのサッカーコーチとしてまたしても合宿(ちっともじっとしてないですね。彼女は)そしてエリックと再会します。はたしてトラウマは克服できるのか? カルメン、今度こそ、理想のBF現る? ↑ これらはほんとに触り部分だけなので、ぜひとも3作通して読むことをオススメしたいです。かつて少女だった女性たち、そしてかつて母親の娘であった女性たち、今現に娘であり母親であるすべての女性にオススメです。 こう言う本を読むと「本好きでよかったなぁ」と心から思います |
セカンドサマー トラベリング・パンツ2/アン・ブッラシェアーズ★★★★
理論社
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『トラベリング・パンツ』続編です。
映画と違い、すっきりと爽快なだけのエンディングを迎えなかった原作は、その一年後の夏の4人とジーンズの物語を描いていきます。 …ということで、ちょっと『トラベリング・パンツ』のネタばれが少々含まれることを先にお知らせしておきますね。 まず、ブリジッド。傷心のうちにこの一年を過ごした彼女は、かつての明るさを失い、サッカーも、走ることもやめて7kgも太ってしまう。自慢のブロンド(バナナ色の!)も泥のような色に染めて、一見かつてのブリジッドの面影はない。そんな彼女を心配そうに見守る3人。 しかし、ブリジッドが父親の書斎で見つけた手紙が、ブリジッドに行動を起こさせた。その手紙は、アラバマに住む母親の母親、つまりビーのおばあちゃんからの手紙で、5年も前に出されたものから順に、一年前の「いつでもいいから遊びに来て」という手紙まで4通あった。父親がそれを自分の判断でビーに見せなかったのだ。ビーはアラバマに行くことにした。 ティビー以外このメリーランド州のセベスタで夏を一緒に過ごすはずの少女たち。急遽予定変更となったセカンド・サマーの物語は、遠いアラバマで自分と向き合うビーを中心に。それぞれの出来事を織り交ぜながら。 ビーはアラバマで素性を隠して、おばあちゃんのグレタのところに潜り込む。最初はバイトとして。そこで母親の過去の写真を見たり、祖母の口から語られる母親の話を聞いたりしながら、だんだんと「回復」してゆくのだけど、その祖母とのやりとりが非常に心癒される。元気なビーが見たい。そんな読者に応えるように、だけど、無理なく自然にもとのビーに戻っていくのが生き生きと描かれている。 ティビーはヴァージニアのオープンカレッジの映画製作プログラムの合宿授業に参加する。クールなアレックスと言う男の子と知り合いになったティビーは、作りたい映画とは違う映画を作ってしまう。そのことで広がる波紋と葛藤を、仲間との友情とベイリーの思い出のちからで乗り越えてゆく。 カルメンは、前作で父親が再婚するけれど、今度は母親に彼氏ができる。自分の母親の恋愛に浮かれて若やぎ華やぐ様子を直視できないカルメン。自分にも言い寄ってくるBFがいるにもかかわらず、母親のことで頭がイッパイになるのだ。彼女にとって大きな味方は、義兄弟のポールだった。 そしてレーナ。わたしには、レーナのことが一番残念です。 レーナはコストスを愛する余り、遠距離恋愛のじれったさや確実なものを実感できないことが辛くて、コストスに別れを告げるのです。 自分で自分のしたことに気付いたときはもう遅く…。 この結末はあまりに辛くて後を引く。 それぞれがそれぞれの夏を、お互いを思いやりながら過ごしていて、やはり心温まる物語です。4人の少女たちが愛しくて可愛くて大好きです。読めば読むほど、惹かれていく物語。 |
トラベリング・パンツ/アン・ブラッシェアーズ★★★★
理論社
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16歳の4人の少女を主人公にした青春ドラマです。 全然体型の違う4人の誰もに、なぜかジャストフィットして、しかもみんながとっても素敵に見える、まるで魔法のジーンズ。 毎年一緒に夏を過ごしてきた4人だけれど、その夏は特別に4人が全然バラバラの場所で夏を迎えようとしています。 元気なプエルトリコ系のカルメンは離婚して離れて暮らす父親のもとで一夏過ごす計画。 美人で内気なレーナはギリシャの祖父母のもとへ妹のエフィと一緒に夏を過ごしに行く。 元気イッパイのバナナ色のブロンド娘ブリジッドはサッカー合宿へ。 そして個性的で映画マニア(撮る方)のティビーはただ一人家に残り、バイトと妹たちの子守りをする。 初めての体験を前に心細い4人の気持ちを励まし、そして心と絆をつなげてくれる掛け橋として、ジーンズは夏の間4人のところを行ったり来たりするのです。 ジーンズが見た4人の夏は、けっして楽しく明るく元気な幸福感に包まれた夏ではないのですが、4人には『sisterhoot』という大きな力がある。どんな辛いときも残りの3人の力を借りれば乗り越えてゆける。 ジーンズの魔法を借りて…。 4人はジーンズの使用法を決めます。 1:絶対洗わない 2:すそを折り返してはダメ。ダサいから。ダサいはき方をしないこと 3:ジーンズをはいているとき「自分は太い」と思わないこと 4:男の子にジーンズを脱がされてはいけない(自分から脱ぐのはOK) 5:ジーンズをはいているとき鼻くそをほじらないこと(掻くのはOK) 6:再会の時夏の思い出をジーンズに刻み付ける 7:夏休み中どんなに楽しくても中間たちに手紙を書く 8:決められた順番でジーンズを送る。守らないと尻たたき 9:シャツ中でベルトはダメ 10:ジーンズを見たらみんなの愛を思い出すこと。友を愛し、自分を愛すること。 +++++++++ 映画を先に見た人と、原作を先に読んだ人、映画しか見てない人、原作しか読んでない人、絶対にこの4パターンに分かれるところだけど(興味ない人は別)、「両方」の人に関しては映画が先か原作が先か、どちらか片方しかないわけです。 わたしは映画が先だった。「ギルバート・グレイプ」のときは、原作はちょっとガッカリした記憶があったけど、こっちは全然ガッカリはしなかった。 設定としては、まず、リーナには仲良の妹がいて、ブリジッドには仲良くはない双子の弟がいます。 コストスは最初は、カルガリス家の仲良です。あるときから険悪になるけれど。 ラストの持っていき方なども結構違います。↓ネタばれするので、どうしても知りたいと思う人は読んでね。 まず、見た目が結構違うのがティビーとカルメン。 ティビーは小さくやせっぽちでそれを気にしているような少女。映画ではスタイルのよい可愛い子でした。 カルメンは、お尻は大きいけれどその他はスタイルがいいイメージ。映画ではお世辞にも美人と言えず、スタイルも太め。お尻だけじゃなかったなぁ。 でも、カルメンもティビーも映画を先に見ちゃったら、あの配役で断然OKと言う感じだけど。特にカルメン。 そして、ティビーとベイリーのこと。ティビーはなかなか病院にお見舞いに行くことが出来ない。怖いのですよね。それを励まし、行きなさいと押すのがカルメン。 逆にカルメンはパパに「わたしはパパに怒ってる」と告げる電話は、自分でかけて、そして結婚式も自分で一人で行きます。 このあたりはティビーとカルメンの立場が逆になっている感じです。 ブリジッドは、映画では爽やかに擬似恋愛に幕引きしたのだけど、原作では微妙な心のゆれを残したまま終っています。それが「セカンドサマー」でも大きな流れになってくるのだけど。 多分映画を先に見たひとは、映画のほうが好きといい、原作を先に読んだ人は原作が好き、と言うのじゃないでしょうか? 原作があるものは大抵原作に軍配が上がることが多いから、その点この作品は両方とも素敵な作品といえると思う。 オススメのシリーズでした♪ |
The Manzai1、2/あさのあつこ★★★★
ジャイブ
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あさのあつこさんの本は「バッテリー」しか読んでなくて2作品目。 「バッテリー」はわたしはちょっと主人公の巧に同調できず、ラストもなんだか消化不良に感じ、失速した感があったんだけど、今回の「The MANZAI」はかなりイケました。 タイトルから想像していたのは、どこかの少年たちが漫才師になりたくて、大阪なんかに出て漫才師への道を歩く物語…なんて、思っていたのだけど、この作品、良い意味で想像を裏切られました。 漫才が好きな少年は出てきますが、中学生のその少年たちの、悩みや恋や、どうして学校に行くのかと言う問題なんかを含めて、ごくごく普通の日常を漫才を通して「人間に何が大事か」という問題提起をしつつ、瑞々しく描いている爽やかな物語なのだ。 主人公の瀬田歩(男子ですよ)、とあることがありまして湊市に母親と二人で引っ越してきた。転校した先の中学に、彼はいた。 彼…秋本貴史。スポーツマンであり、明るくリーダーシップもあり当然女子にもモテる、そんな目立つ存在の彼からいきなり告白される場面から、物語は始まる。 「おれとつきあってくれ」 当然、歩は(男だし)面くらい、拒否反応を示す。 タイトルから推してすぐに分かるとおり、これは秋本貴史が瀬田歩に漫才の相方になってくれ、という申し込みをしているのだ。 漫才をいっしょにやろうと誘われて、歩は嫌がるんだけど、でも秋本との会話が既にボケと突っ込みが満載の漫才になってるんです。 「バッテリー」にも、途中から、ライバルチームのメンバーにこう言う「ポンポン!!」と言葉を操る少年が登場したけど、いつもこう言う会話がすごく生き生きと描かれているのがあさの作品の魅力の一つと思う。 そしてキャラクター。今回登場人物たちがすべていいです。 とくに、秋本。癒し系。天然のボケっぷりとか、おおらかさで、主人公の歩はもちろん、読者も癒されていくような感じ。 歩はここに来るまでに辛い体験があり、それをまだ抱えていて、そのため鎧を着ているような部分があるんだけど、秋本、そして秋本をめぐる周囲のクラスメートたちのおかげで、その鎧を一枚一枚はがしてゆくような、そんな爽快感がある。 そして、転校生の歩がクラスに溶け込み、文化祭の舞台で、秋本と漫才をできるのか…と言う部分を含めて、そこまでが1巻には描かれている。 一見能天気で悩み知らずに見える秋本にしても、なぜそこまで「笑い」にこだわるのか…だんだんと分かってくる2巻では、秋本の持つ決意のようなものが見えてくると共に、読者自身にも「笑う」ことの大切さがひしひしと伝わり、感動すら覚える。 思わず自分と笑いとの関係や、笑いの持つ大きな前向きで明るいパワーについて考えてしまうような、本当に大切なことは実はとっても単純なことなのじゃないか、とか、自分はそれを分かってるのか自問自答したくなるような… 読み終えた後に暖かいものが残る作品でした。 オススメします!! |
世間のドクダミ/群 ようこ★★★★
筑摩書房
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相変わらず面白い!群さんの歯に衣着せぬエッセイです。
ドクダミとは、毒を止める矯めるの意味がある。
群さんがドクダミのごとく、世間を斬る!!
子どもをしつけられない若い母親を斬る!!
年金問題と政府を斬る!!
本を読まず言葉の使い方も知らない若い人を斬る!!
出会い系サイトでとんでもない目に合う人々を斬る!!
挨拶しないのが当然の世間を斬る!!
あー、痛快。
時には例によってギクっとか、ズキン!とか思いつつも、やっぱり愉快痛快な群さんのエッセイなのでした。
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シートン(探偵)動物記/柳 広司★★★
光文社
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シートン動物記の、アーネスト・シートンが主人公で、いろんな事件を解決してゆくお話です。もちろん、動物の生態を知っているからこそ、事件の真実に迫ることが出来ると言う設定。
ミステリーとしてはゆるい!ゆるすぎる!
でも、全体の雰囲気としては結構楽しめるものになっています。
古きよき時代のミステリー(って、どんなのだろう)というかんじで、残忍さやショッキングな事件や描写は一切なくて、ただ、シートン氏の活躍を楽しむと言う…。
落ち着いて、真実を見抜く技量のシートン氏の誠実さと正義感と聡明さに、読者は魅力を感じないでいられないと思う。
登場する動物たちも「狼王ロボ」であったり「銀の星(うちにある、ポプラ社の『シートン動物記』では『銀ぼくろ』ですけど)」であったり「灰色の大熊」であったりと、ミステリー以外にも読みどころがあって楽しめるのです。
子供の頃シートン動物記を読んで面白かったと言う人も、そうではないけど動物モノは好きだと言うお方はきっと楽しめるのでは?
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