2006年の読書記録*8月



Lady,GO/桂 望実 ★★★★
幻冬社
恋人から突然振られてしまった、主人公の南玲奈。勤め先の派遣会社からも仕事の終了を言い渡される。次の派遣先はなかなか決まらず、そのうちに部屋のエアコンも壊れてしまい…。そんなとき、友達のキャバクラ嬢から一日体験で仕事をしてみないかと誘われた。キャバクラの一日体験は「タイニュー」と呼ばれる。お金欲しさにタイニューしてみた玲奈だったが、肌に合わないと感じたのだが、思いがけず同級生の姉の泉がキャバクラ嬢をやっていると知り、泉のススメで泉の店でもタイニューをする事になる。泉は店での名前を美香として、以前の地味なイメージからは考えられない転身を遂げているのだった。

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この後、主人公の玲奈は「みなみ」と言う源氏名で泉(美香)と同じ店「クリップ」でキャバクラ嬢として働き始める。地味で自分に自信が無い玲奈が、キャバクラ嬢という仕事を得て、段々と自分を磨き変わってゆく姿をジワジワとじっくり描いてある。 イライラするような性格の玲奈。なにかにつけ自分を卑下しオドオドし、人の目を気にしてばかりいる。家庭環境がそう言う風に玲奈をしたという設定なのだけど、読んでいてこの玲奈には何度もイライラさせられた。特に時々出てくる呟きのような「〜〜〜なのかな。」という章の締めくくりにはイラーっ!(笑) サクセスストーリーとしては成功していると思うし、玲奈を嫌いではない。応援したいと思いながら読んでいたんだけど、物語り全体が奇麗事過ぎる気がする。キャバクラの全部がこんな上質の店ではないだろうし、キャバクラ嬢のすべてがこんな向上心のある人たちばかりでもないだろう。とは思うが、読んでいる最中はここにも「人生の美学」「真に美しい女とは」などの薀蓄が見え隠れして「ほほ〜〜なるほど」と言う気分に。 ただ、あまりにも綺麗にまとまりすぎてて、小説としてはパンチに欠ける気がする。そこそこ面白いけどなんだか少し物足りないと言うところか。 桂さんにはやっぱ、少年を主人公にした物語を書いてもらいたいなぁ。「死日記」や「ボーイズ・ビー」みたいな。今回も一番よかったのはオカマのケイだもんね。羽田の人となりにももうちょっと突っ込みが欲しかった。 あさみさんにお借りしました。ありがとうございました。



サウス・バウンド/奥田英朗 ★★★★
角川書店
伊良部シリーズで奥田さんのほかの作品も読みたくなり、大勢の人の感想を読ませていただいたり、オススメしていただいたりして、この作品を読んでみた。 気持ちの良い小説だった。スカッとするような。 しかし、ちょっと前はあったのだ。「学生運動」なんかをを取り上げた小説が。でも最近はとんと見ない。ので、近年にはすごく珍しい類の小説だと思った。ややもすれば敬遠しがちな内容になってしまいそうだけど、そこが奥田さんの上手いところ。敬遠どころか、かえって真剣にそう言うことを考えさせられたから。 奥田さんの魅力は登場人物(主人公)の内面描写が見事なこと。 第一部は、二郎が不良に絡まれたり、元過激派の父親のもとで起きる騒動に巻き込まれたりする様子を、小学生の日常に絡めながら描いてあるのだけど、主人公が小学6年生なので、修学旅行を楽しみにしていたり、女体に興味があったりという年齢相当の感情の起伏などがとってもリアルに描かれている。 ドラマチックな展開になって緊迫した場面にも「ウサギ小屋の掃除」なんかをしなくちゃならなかったりっていうのが妙にリアルで笑えたり。 不良との対決、そのなかで友達との関係、体制に反対する父親の姿、お嬢だった母親、いろんなことが一気に押し寄せて、それでも自分をしっかりと持ち、ちゃんと成長してゆく二郎が愛しい。 ともだちとの関係もすごく清々しく、男の子っていいなと思う。 友達との別れの場面は泣けた!! このまま終っても良かったと思うけど、第2部は第2部でまた魅力あり。 自然の中でのサバイバル同然の暮らしをしていくうちに、勃発するリゾート建設との抗争。その中で父親への見方が変わり見直していく様子、読者も一緒に味わうことになる。 どこに行っても騒ぎの中心の父親一郎。 だけど、素朴な西表の人たちとの暮らしの中で、何が大事なのかを考えれば父親のことが段々と理解できるようになっていくのだ。 雄大な自然の中で、のびのびと暮らす二郎たちの姿にエールを送りたくなる、そしてこの島しかなかったら戦争は起きないという言葉に深い感銘を受けた。 アカハチって知らなかったんですが、今度読んでみたいなと思う。南にアカハチ、北にツキノエって感じだったのだろうか。俄然興味が湧きました。 ラムちゃんからお借りしました。ありがとう♪



空中ブランコ/奥田英朗★★★★
文藝春秋
伊良部シリーズ第2作。 これも、「イン・ザ・プール」に続き、一気に読んでしまった。 面白かった〜〜!!

収録作品
●空中ブランコ
●ハリネズミ
●義父のヅラ
●ホット・コーナー
●女流作家

「空中ブランコ」 スランプのブランコ乗りの物語。自分の姿を直視しようとせず失敗の原因を他人に求めて一人焦る主人公。サーカス団に入り込み、空中ブランコを体験して、やっぱり主人公を振り回し、結局主人公は自ら飛べない原因に気付いてゆく。 伊良部先生の空中ブランコ、見てみたい!! イマドキのサーカス団の内部って(組織)こんな感じなのね、という新発見もあり。主人公と、ライバルの和解は胸が温かくなる。

「ハリネズミ」 先端恐怖症のヤクザの話。 この設定からして面白い。そしてまたヤクザなんかには全然動じない伊良部先生が(マユミ看護婦も)すごく頼もしく見えてくるから不思議。

「義父のヅラ」 医学部の同窓会に出席した主人公。かれもまた精神科の医師。義父のヅラをはずしてみたいと思う欲求と戦っている。 同窓会で伊良部先生が、同窓生たちに悪口の餌食にされてるシーンでは、めちゃくちゃ頭に来てしまう。なんで?不思議(笑) ミエミエのヅラって、こっちも困るんですよねぇ。夫のかつての上司が、久しぶりに会ったときヅラをやめてて、頭に手をやりつつ「はずしたぞ!」と言ったらしい。こう言う爽快感がある作品(なんのこっちゃ)

「ホット・コーナー」 コントロールに狂いが出たプロ野球の内野手。ルーキーに対する嫉妬と焦りからストレスが講じたものらしい。のらりくらりととんちんかんな事を言いながらも、きっちり患者に口を割らせて原因を追求する伊良部先生の見事さ!届けてるのかはたまた、真に腕のたつ精神科医ってことなのか…。と言うところがミソですね。

「女流作家」 自分の書く物語が、過去の作品の焼き直しではないかと言う強迫観念にとらわれて書けなくなった女流作家の話。 これ、「ガール」の流れのような…。伊良部先生との掛け合いがまた面白いけど、それ以上に作家としての内面描写が見事。いい物を書いても売れない。売れないけどいいものが書きたい。その葛藤から、スランプに陥り、立ち直るまでを描いてあるけれど、最後に主人公が悟った部分は感涙でした。マユミ看護婦の態度も。世の中、良いものを作っても売れないことのほうが多いのかも。マスメディアに乗せられて安易に作品を選んでいるのは、あんたたちだよ、と指差されたようでハッとさせられた。 この話が2冊通して一番よかったな。

「空中ブランコ」「イン・ザ・プール」はkigiさんにお借りしました。ありがとうございました♪



イン・ザ・プール/奥田英朗 ★★★★
文藝春秋
伊良部総合病院の地下にある「神経科」の、ドアを開けると中からは「いらっしゃーい」と甲高い、場違いな歓迎の声が聞こえる。 そこには色白で不潔そうなデブの中年医師が、茶髪で無愛想な看護婦と患者を迎える。そしてまずは一本、注射をうつ。 なぜならばこの伊良部医師、患者の注射シーンが大好きで、何かと理由をつけてはすぐに注射する。そしてそれを興奮気味に間近で見つめる。看護婦らしからぬ看護婦マユミは露出狂なのか、いつも太ももをちらつかせながら無愛想に注射する。 そんな神経科で、患者は半信半疑(というか、殆ど通いたくないと思いながら)伊良部のペースに巻き込まれて翻弄されるうちに、問題の本質におのずと気付き、だんだんと、癒されていくのだ。

収録作品
●イン・ザ・プール
●勃ちっ放し
●コンパニオン
●フレンズ
●いてもたっても

いったい何が原因で体調が悪くなったのかわからない、表題作の「イン・ザ・プール」の患者は、伊良部のひと言からプールに通うようになって、一見体調が良くなったようだが、実は別の「依存症」を併発しているだけのこと。しかし、伊良部に翻弄されることで、自身の悩みには冷静になっていったのだろう。伊良部のはちゃめちゃな思考と行動がおかしく、ぐっと引きつけられる第一作目。

「勃ちっ放し」は、わたしは女なので分からない苦労が、オトコの人にはあるんだなぁと、思いを馳せてみる。浮気されて離婚に至ったのに、元妻をなじることすらしなかったことが、その「症状」の原因の一つであると思われる。伊良部にけしかけられて元妻のところに行くが、そこでのやりとりに切なくなる一遍。伊良部先生は離婚歴がある!そう言う驚きと、患者に対しての思いやりがちゃんと見えてて、好きなオチの物語。

「コンパニオン」 誰かにストーキングされていると言うコンパニオンの患者。狂気と妄想が紙一重。こう言う人間の「狂気」の話は好きなのです。ブラックな心理ホラーがグッド。

「フレンズ」 ケータイ依存症の少年の心の中の孤独と焦燥感が痛々しい。 結局は自分で自分の心と対峙しなくてはならないと思うが、伊良部先生は見事にその手助けをしている。そして、そのあとのフォローもちゃんと。ラストはあったかいクリスマスになるといいな、と思わせられてジワーンと目頭が熱くなる。これが、この本の中では一番好きな話。

「いてもたっても」 家を出る時に火の始末をしたかどうかが気になって、外出もままならない「強迫観念症」の男。伊良部は人を深刻にさせない天才の持ち味で主人公の悩みを解消してゆく。根本的に解消じゃないとしても、症状と共存してゆく覚悟というか、気構えみたいなものができれば、それだけでも患者は気楽なのでは。患者たちに何のカンのと言われながらも信頼されて、好感を持たれる伊良部の、わたしもファンになりました。



がばいばあちゃんの笑顔で生きんしゃい!/島田 洋七 ★★★★
徳間書店
前作「佐賀のがばいばあちゃん」は、どっちかというと、昭広少年のストーリーだったのだけど、この「笑顔で生きんしゃい!」は昭広少年、というか島田洋七氏の目を通してみた「母・がばいばあちゃん」のストーリーなのだ。 42歳の若さで夫を亡くしたそのとき、がばいばあちゃんには17歳を筆頭に7人の子どもがいたこと、そしてそのうちの1人は怪我のため脳に障害を負っていたこと、だけど、掃除婦をしながら子どもたちを立派に育て上げ誰一人横道にそれることなかったこと、などなど「佐賀の…」ではまだまだベールに包まれていたがばいばあちゃんの人生が垣間見えるのだけど、そのなかなかにタイヘンな人生の中で笑顔を失わず前向きでパワフルでユーモアのある生活をしてきたばあちゃんにまったく、アタマが下がりまくり。 あまりに頭が下がりすぎて涙が出るくらい(笑)。 一番感心するのは、がばいばあちゃんがとっても「きちんとした人」だと言うこと。貧乏でも、ぼろを着てても心は錦、こんな風にきちんとした生き方をするってとっても難しいと思う。でも、それを「きちんと」やってのけてきたのがこのばあちゃんだ。何が大事で何が本当のことかをきちんとわかってて、しかもそれを上手く昭広少年や、自分の7人の子どもたちに伝えられたというのが、すごい。ってか、がばい。 でも、昭広少年(島田洋七氏)も、エラいと思うなぁ。 いくら伝える側が一生懸命伝えようとしても、中にはちゃんと気持ちを受け止められなかったりひねくれて受けとったりする輩だっているわけだし、それを思うと素直に受け取りばあちゃんと一緒に笑顔で生きてきた洋七氏もまた、すごい人だとわたしは思うのだ。キャッチボールだって、いくら投げるほうが上手にボールを投げても、どうしても上手く捕れない人もいると思えば、ばあちゃんの投げたボールを見事にキャッチしていた洋七氏もやっぱりすごい人だと思う。 この二人のステキなキャッチボール、またまた読者を笑顔にしてくれます。



赤々煉恋/朱川 湊人 ★★★★
東京創元社
今回の朱川さん、ちょっとエログロ系では?と思うのはわたしだけ?
●死体写真師
●レイニー・エレーン
●アタシの、いちばん、ほしいもの
●わたしはフランセス
●いつか、静かの海に
の5本からなる短編集。

エログロなのが「死体写真師」と「わたしはフランセス」。これは好きじゃない人もいるのでは?わたしはこう言うグロ系は結構好き。ユーレイとかの話よりも「狂気」の物語だから。人間の心の闇の中の狂気が一番怖いですからね。 朱川さんらしい切ない系ホラーって言うと「アタシの、いちばん、ほしいもの」とか「いつか、静かの海に」とかかな。特に「いつか、静かの海に」は月星人のお姫様の話を作り話と分かってても思わず信じたくなるような切ない話でよかったです。 「レイニー・エレーン」は「東電OL殺人」が元になってる話。先日読んだ「贄の夜会」でも「サカキバラ事件」を元にした人物が登場したし。こう言うのはやってるんですかね。 あさみさんにお借りしました。ありがとう♪



贄の夜会/香納 諒一★★★
文藝春秋
非常に心惹かれるタイトル。 図書館に予約したのは良いけど、お友達からお借りした本がとってもとってもたまってしまい、飽和状態なので、図書館の本を読んでる場合じゃないんですよ。でも、せっかく順番が回ってきたんだから読みたい。でも、読んでる場合じゃない….この二つの気持ちのせめぎあいの中での読書。結果はあんまり芳しくなく。評判ほどは面白く感じませんでした。 冒頭猟奇殺人事件が起き、捜査に加わる孤独な刑事、そして妻を殺された孤独なスナイパーのふたりが、別方面から犯人に迫っていく。 その途中、スナイパーの手がけるヤクザの抗争がまた、警察にも絡んできて。三つ巴と言うか四巴と言うか、フクザツかつ巧妙にずべての事件が絡み、緊迫感のなかにも刑事スナイパーの背景描写がまた読ませる。ふたりの孤独感がひしひしと伝わり胸打たれもする。 ただ、犯人の設定が、世間を恐怖の渦に巻き込んだとある事件の犯人像をそのまま使ってて、ちょっと違和感があったかも。あと心理学者が登場して薀蓄を垂れたり分析したりするんだけど、そこの描写が長くて飽きたのとちょっと真実味が薄かったかな。でも、多分読み応えはあったと思う。途中でやめようかと思ったけど、最後まで読んでよかったなぁと思えた。 ただ、猟奇ミステリーとハードボイルドの融合と言う感じだったけどわたしはハードボイルドの部分は余分だったかも。 とにもかくにも気もそぞろに読んだのであんまり良い感想文も書けず(あ、関係ないか)申し訳ないです…。



佐賀のがばいばあちゃん/島田洋七 ★★★★
徳間書店
映画も良かったけど原作もやはりよかったです。 映画とちょっと違ったのは、昭広少年、夏休みごとに広島に帰っていたんですね。映画ではもうずっと帰っていなくて、お母さんにも何年も会ってないような印象だったので。なので、原作を読んでちょっとホッとした。あまりにもかわいそうだもん。何年もお母さんに会えないなんて言うのは。 原作を読んで思ったのは、文面からあふれる著者島田洋七氏の明るさ。 たしかに文章は決して上手くないのかもしれない、技巧的でもないだろうけれど、その分飾らない明るさがビシバシ伝わってくる!全編に流れる「明るい貧乏」というテーマも、無論読み心地が良いのだけど、それが無いとしてもわたしはシンプルで明るく、勢いがあるこの文面に心地よさを感じた。 現代人がこの本を読み、このがばいばあちゃんの生き方を知り、学ぶべきところはたくさんあると思う。真剣に読めば自分の生活を振り返り赤面する場面も出てくることだと思う。 でも、難しいことは考えず、とりあえずばあちゃんのすごさと明るさを、そしてなによりもユーモアを味わいたい。そして明るく笑いたい! 笑いの中に人の強さ、大きさ、優しさを感じ取り「ああ、人間って良いな」って感じたいものです。 映画も本も、両方オススメ!!



チョコレートコスモス/恩田 陸★★★★
毎日新聞社
一気読みでした。 演劇の世界を描いたものですが、恩田さん、演劇がお好きなのかな。 好きじゃなかったら書けないですよね、ここまで。 実は恩田さんは苦手だったのでお借りしようかどうか迷ったんだけど お借りしてよかったです。 これに気を良くして「Q&A」あたりも読んでみたいです。 「チョコレートコスモス」は演劇の世界を深く描いてあると言うことで「ガラスの仮面」と比較されますが、主人公の造形としては北島マヤに軍配かな。 演劇が好きで好きでたまらない、という気持ちが前面に出ていて「チョコレート…」の天才少女が自分の中での演劇の位置を模索しながら舞台に立っているのとは、どっちが良いというのではないけど、わたしはマヤのほうに感情移入できました。(未完なんで過去形で言うのは変ですが) ともかく、臨場感があふれるオーディション風景なんかは絶品。 オススメです。