2007年の読書記録*1月



独白するユニバーサル横メルカトル/平山夢明き★★★
光文社
うーん。すごい独特の世界観。 グロイです。
最初は「乙一」サンっぽいのかなと思ったけど、切なさみたいなのはない、ひたすらグロで残酷。なので、やはり独特かな。
目玉をくりぬいたり、手足をもいだり、切り刻んだり・・・と、そういう描写がリアルに描かれているので、これはかなり読者を選ぶ本だと思います。そういうのが好きな人はこの本を気に入るだろうし、グロやスプラッタが嫌いな人は読まないほうが良いです。

短編集ですが「Ωの聖餐」が一番好きです。
オチの数行でノックアウトされた感じ。衝撃があります。
「オペラントの肖像」は、何がなんやら?って感じ・・・。
「卵男」は知っている漫画に似ている気がした。
「すさまじき熱帯」はドブロクが意味不明。
「独白するユニバーサル横メルカトル」は、主人公が可愛くなってくるから不思議。
「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」、これが全編通して一番エグイと思う。
そういうのに比べたら一番最初の「ニコチンと少年」は生ぬるいと言うか平凡だったなぁ。



使命と魂のリミット/東野圭吾★★★★
新潮社
心臓外科を目指し、日本国内でも権威である西園に師事する主人公の研修医、夕紀。彼女は自分の父親を心臓病によって亡くしていた。父親と同じ病気の人を救いたい、その思いから心臓外科を目指したように見える夕紀だが、実はもっと深い所に別の思惑があった。
父の手術をしたのが、実は西園だったのだ。
そして、いま、西園は夕紀の母親と恋愛関係にあるのだ。
このことが何を物語るのか・・・。
そんな夕紀の勤める病院に不審な脅迫状が舞い込む。そこには 「病院の医療ミスを公開せよ」という言葉が・・・。
犯人の狙いはいったい何なのか・・・。

まぁまぁ面白かったと思うのですが、東野サンだとどうしても期待してしまい、ちょっと物足りなかったかな。
夕紀の物語と、病院が脅迫される物語の二つの筋が上手く絡み合っていると言う感じで読ませるのですが、脅迫のほうがちょっと現実味が薄かったかな。狙いが「それ」なら、ちょっとまどろっこしいような気がします。
夕紀が、西園への疑念と信頼の間で揺れ動くのも、見所の一つではあったけど、わたしが今回一番感情移入したのが脅迫犯人の恋人の看護婦。
彼女の最後の言葉にじーんとした。
でも、あとは割りと誰にも深く感情移入はしなかった。
ヒューマニズムがちょっと軽かったかな・・・。僭越ながらそんな感じです。
でも、★の数は4個。文句言いつつも4個。お察し下さい(笑)



隠蔽捜査/今野 敏★★★★
新潮社
これまた、タイトルからして想像したのとはちょっと違う内容でした。
警察小説ですが、ミステリーではないですね。
警察を舞台にしたミステリーかと思っていたけど、謎解きの部分はないです。
不測の事態に遭遇したとき、警察はどう言う態度をとるのか、ということを警察内部から一個人の目を通して追って行く物語です。
で、その、追って行く一個人と言うのがこの作品の主人公竜崎伸也、四十六歳、東大卒。警察庁長官官房総務課長。
わたしは警視庁とか警察庁とかの違いがイマイチ分からないで読んでたんですが・・・。派閥もあり意思の疎通も必要だけど上手くいかずで、結構難しいものだなぁと・・・。
発端は、連続殺人事件なのだけど、最初のうちはこの主人公のひととなりを延々と描いてあると言う感じで、しかも、このひとあんまり好感が持てず。東大にあらずば大学にあらず、見たいな主義で有名私大に合格した息子を「東大でなければ入るな」と一浪までさせているんです。
すごく自分の考えに凝り固まっていて、小学校のときの苛めの恨みをいまだに抱いているのが、官僚としての出世のバイタリティーの元だったりする。
一見人を見下していると思って、好きになれないこの主人公なんですが(こんな主人公じゃ、読む気にならないよ、と最初は思ったのですが)事件が大きくなっていくにつれ、その冷静な判断力や本質を見抜く慧眼などにだんだんと敬服の気持ちがわいてくるのです。
それも、それまでの主人公の人となりがあるからこそであるとわかってくるので、最初のイメージががらりと反転してしまう。 鮮やかなほどに。
警察全体を震撼させる出来事が起きるのだけど、それをどう収めてゆくのか、はらはらしながらもとても釣り込まれそして十分楽しめた。
何があっても動じない主人公の姿に感動さえ覚えました。
そして、なんとも爽やかなラスト。 面白かったです!!
おススメ!



膠着/今野 敏★★★
中央公論新社
結構ユーモア満載のユーモア企業小説って言う感じで、実はわたしはタイトルからしてすごく硬派な物語を想像していたので、予想外でした。 それはそれで面白かったんですが。

接着剤の老舗「スナマチ」で新人として、時には失敗もしながらセールスマンとして奮闘?する丸橋啓太。
少し怪しげな、しかしヤリ手の先輩セールスマンの本庄と一緒に託されたのは、とある試作品を商品化に向けて成功させること。
その合間にも、スナマチの吸収合併の噂や、どこかに潜んでいるかもしれない企業スパイの摘発など、新人には気が重い使命で夜も眠れないぐらいだ。
試作品は、無事商品として売れるのか?
スパイは?吸収合併は?
笑いながらもドキドキさせてくれる企業モノ。
++++++++
軽めの企業物として軽く楽しめました。
しかし、驚いたのは、接着剤と言うのはなぜ接着させる事ができるのかと言うことは科学的には立証されていないとか何とか?
接着のメカニズムは究明されてないということをはじめて知り、すごくびっくりした。乾けば双方がくっつく、と言う単純なものではないらしい。有名なポストイットだって最初は失敗商品だったらしく、それをああ言う世界的ヒット製品にのし上げたのは、ひとえに発想の転換だったという話も。そういう意味でも、面白い小説でした。
ハードなタイトルで、ライトな内容とはちょっとそぐわないように感じたけど、よく考えたら「膠着」って言うタイトルはすごくよく出来てる、面白いと思った。



風の墓碑銘/乃南アサ★★★★
新潮社
ある古い借家の解体作業中に地面から白骨体が出る。
大人の男女二人と、そして赤ん坊の骨だった。
その捜査に当たった音道だが、借家の持ち主に話を聞こうとしても、まだらボケのため肝心なことが聞けないままむなしく日が過ぎる。
そうこうするうちに、そのまだらボケの大家が何者かに惨殺されてしまう。
そこで、特別捜査本部が置かれる事になり、滝沢刑事と再びコンビを組むことになった音道貴子。
殺された大家が入っていた老人ホームに足しげく通い、ホームの入居者やスタッフから事情を聞くうちに、スタッフの一人長尾広士という若者に行き当たる。
壮絶な過去を持つこの若者は事件に関与しているのか?

正直言えば最初のうちはイマイチ話にのめりこめないでいたのだけど、その理由は音道貴子の個人的背景が大きくストーリーに割り込み、事件もの(ミステリー)と言うよりは音道貴子そのひとの事を描いた小説のようであったから。
しかし、滝沢とコンビを組み、老人殺しの件で老人ホームに通い、スタッフの一人岩松みうの話を聞く部分あたりから面白くなってきた。
みうの話そのものは事件と関係はあまりなかったが、これで一気に引き込まれた感じ。
その後の展開は、音道と滝沢のやりとりとか、女性検視官の奈苗の存在とかを含めて、事件の行方が気になって一気読みしてしまった。
特に、長尾広士の「過去」などは涙なくしては読めず。
実際、この物語の醍醐味は、この長尾広士の過去を含めた人生にあるとわたしは思う。

そしてやはり、ほかの登場人物たちも、設定とか内面の描写とかがすごくリアル。音道貴子は結構苦手な人だけど、それを滝沢の視点から見ればまた違う一面が見えたり、逆もまた然りでこの二人のやり取りやすれ違いが読みどころの一つとなっている。
読んでいるこっちは、音道にも滝沢にも「それを、心で思っているだけじゃなく相手に伝えてみなさいよ」とやきもきさせられるが、二人のスタイルはこうでよいのだろうね。
事件のオチはちょっと平凡で物足りなかったけれど、犯人の心理には唖然とさせられた。

心の闇とは良く聞く言葉だけれど、人の心はもともとが冷たい闇の中に漂っているもの。だからこそ一条の光やぬくもりを求めるのだと言う本文中の言葉が印象に残る。
仲が悪い二人だけど、何故か絶妙のコンビである音道と滝沢。このふたりの活躍をまた見て見たいと思う。



階段途中のビッグ・ノイズ/越谷オサム★★★★
幻冬社
2007年1月、夕張市の成人式の様子を見ていてもらい泣きした人は多いと思う。
人間、逆境のときこそ真の意味で成長するし、味わう感動も本物だし、見えてくる人々の姿も真実だったりする。
この「階段途中のビッグ・ノイズ」も、まさにそんな風に逆境の中から立ち上がり、達成感を掴み取っていく高校生たちの爽やかさを描いた青春デンデケデケデケデケ・・・。
主人公啓人が属する軽音部は上級生の大麻使用による警察沙汰で、廃部となる。でも、伝統ある文化祭行事のライブである「田高マニア」にどうしても出たい!と言う一心から、それまで幽霊部員だったベースの伸太郎と、たった二人で再スタートを切る。
部室ももらえない、メンバーも揃わない、揃ってもクセものぞろい、先生からは目の敵にされるという四面楚歌の中で、時には熱さにメゲながら、時には仲間といさかいを起こしたりしながら、時には目の前の「ふともも」にくらっとしながらも目標の「田高マニア」に向けて頑張る若者たちの、なんと清々しい事よ。
「君たち、世界を変えてみたくはないか?」と言った先生がいましたが、この本には「若さが通用するのは十代の時だけだ」という名せりふを吐く先生が登場します。
それがこの物語の中で地味であるけども大きな存在感を放つカトセン。このカトセンや校長先生が、すごくいいです。
こんな先生の下で学校に通えたら生徒は幸せだろうなと思う。
物語は予想通りの展開ではあったけれど、そうではない意外な展開もあり、読み応え十分!
若いっていいねぇ!と、心から羨ましくなるけど、決してそれだけではない一冊でした。

あさみさんにお借りしました。ありがとうございました。



東京ダモイ/鏑木 蓮★★★
講談社
2006年第52回の乱歩賞受賞作品です。

自費出版の会社「薫風堂出版」に勤め始めて間がない主人公の槙野は、シベリア強制連行による捕虜体験を句集として出版したいという高津の担当となった。
しかし、話をつめる段階で高津が謎の失踪。
残されていたのは、高津の原稿と舞鶴で起きたロシア人女性の殺人事件の新聞記事だった。
高津の手記とロシア人女性の殺人事件の関連は?
そして、高津はどこに行ったのか。
まったく覇気が感じられないいまどきの若者代表の槙野が、ずるずると事件にのめりこんでゆくその先にある真実は。

まず、面白かったかどうかと言うと、ちょっと事件の設定に無理があったような気がしました。
戦争中に起きたことが、現代の事件のきっかけになるというと、ついつい「人間の証明」などを思い出したのですが、事件と戦争の絡め方なんかは森村氏のほうが上手かなと・・・。
でも、シベリアの捕虜体験がこの小説のもとになっており、高津の思い出として、そして手記の中でも体験談として明らかにされるのですが、その部分は文句なく釣り込まれます。今まであまり知らなかった事なので、ともかく瞠目する感じで読みました。もっとこの部分を読みたいと思いました。
そして、登場人物に関して言えば、主人公の槙野がまったくやる気が感じられない、要するにヘタレな感じで描かれているのですが、逆に上司の女性や妹たちは元気。そして釣られるように槙野もだんだんと骨太になってゆくようでよかったのだけど、作品中ではものすごく成長したと言う感じがしないのが残念。男の成長する物語は好きなので、もうちょっとしっかりしてほしかったなと。
この情けない兄に強気の妹、と言う図式は最近の恐ろしい事件を思い出してしまいましたよ。
しかし、戦争直後の高津たちの人物設定はとてもよかった。惹かれるものがありました。
こないだ、小説現代で短編を発表していて、それがかなりよかったのです。タイトルは忘れてしまった・・・。叙情あふれるミステリーって言う感じで。なので、今後はまた追っかけて読んで行きたいなと思っています。



制服捜査/佐々木譲★★★★
新潮社
佐々木譲さんの作品は初めて読みましたが、面白かったです。
さて、この「制服捜査」、主人公は川久保篤巡査部長。駐在さんで、いわゆる制服の「おまわりさん」です。 舞台が北海道なのですが、北海道では駐在員が犯した癒着事件により、同じ所に2年以上とどまらないようなサイクルで、駐在が派遣されると言う規則に変わってしまった。
たった2年で地域の何が分かるのか、地域のことを把握しきらないままにまた次の赴任地に行く事を余儀なくされているのだけど、そのデメリットのほうが「癒着事件を起こす可能性」よりも上層部には大事な事らしい。
「癒着が心配になるぐらい地域と密着した駐在員がほしい」という地域の住人の言葉が印象的です。
そんな中で起きる4つの事件を描いてあるのだけど、主人公は一介のおまわりさんだから、捜査には加えられない。だけど、駐在員にしか分からない事がその土地にはある、それをコツコツと調べるのが自分の「分」であると、立場をわきまえつつも事件の真相に迫ってゆく。
この姿がとても頼もしくそして正義漢に見えて好感が持てた。
警察小説と言うと、たいてい刑事たちが主人公だけど、制服のおまわりさんが主人公と言う事で、新鮮な気がして面白かったです。
また、この川久保の赴任先が排他的で保守的な土地柄で、その土地で暮らしてみないと分からないニュアンスのようなものが犯罪に対する「防犯協会」にもあり、土地柄そのものとの戦い・・・みたいな部分が読み応えがあり、川久保の活躍に胸がすくようだった。



王妃マリー・アントワネット―青春の光と影 /藤本ひとみ★★★★
角川書店
タイトルから伺えるように、この作品はアントワネットの青春時代というべき若い時代を中心に描いてあるのです。
だから、「革命」のさなかのアントワネットを読みたいと思う人には、すこし期待が外れるかもしれない。この本は革命の足音が王妃にひたひたと近寄ってくるぞ・・・と言う所までしか描かれていないから。 しかし、若いときのアントワネットの心の移ろいなどはとっても丁寧に描かれていて、一気に読ませる。
「ベルサイユのばら」の中でも、嫁いですぐに宮廷の権力争いに巻き込まれる部分は見所の一つだった。が、ここではもうひとつ更に突っ込んで、ショワズール対デュバリー夫人の争いから細かく描いてあり迫力があります。
3人の伯母である内親王たちの人物描写も丁寧。彼女たちがアントワネットを「おもちゃ」のように影で操った様子がじっくり描かれていて興味深かった。
この宮廷の中で寂しく孤独な彼女が、どのようにしてフェルセンに引かれていったのか、心のひだをじっくり掘り下げていて、これも真に迫っています。
ルイ16世も気の毒ですね。泣けてきました。

藤本さんの著書でマリー・アントワネットを扱ったものでは「マリー・アントワネットの生涯」と「ウィーンの密使」の2冊を読んだ。前者は、悲劇の王妃と言う美化されたアントワネットの真実に迫ろうと、生まれたときから両親の性格やウィーン宮廷の環境などから、どうしてアントワネットがああいう軽い性格になっていったのか・・と分析するタイプの歴史エッセイで、後者はその性格のアントワネットを主人公にしたスリリングな宮廷小説となっている。
このときの、アントワネットの性格付けと今回はどうも違うように思われました。
「アントワネットの生涯」では、フェルセン伯爵の事も出世のために王妃を利用した部分があったとか描かれていて、とても好意的ではない描き方だったという記憶が・・・。「ちっ!フェルセンめ!『ベルばら』ではすごく善人ぶっていたのにホントはそんな姑息なやろーだったのか」と思った記憶があるので。
まぁ、どこの国も留学生を送り込むときはスパイの役目も負わせていたようですね。だから、後にフェルセンとアントワネットは繁く文通をするのだけど、その手紙はフェルセンがすべて母国スウェーデンの国王に横流ししていたとか?
でも、今回はなぜか、フェルセンがすごく好人物になっているのです。(顔はけなしてある。眉毛が垂れていて鼻の下が長くらくだのような口元・・・って、どんな顔じゃ〜!!)
しかし、のちのヴァレンヌ逃亡のときにも一番力になったのはフェルセンだったようだし、王妃の処刑のあとは暗くなって生涯独身で通したと言うし、いったい王妃を本当に愛していたのか?それともただ利用していたのか?どっちなんだろう・・・。両方なのかもしれませんね。
そして、二人は「ベルばら」のなかでも、この本でも描かれたように、ほどプラトニックな関係だったのでしょうか。というのがすごく気になる。映画ではやすやすとそういう関係になっていたし。いったい事実は・・・??

それはともかく、あとがきで藤本さん本人が書いておられるのだけど、歴史を題材にするときは、一つ新しい事実が何かの拍子に発見されたとき、それまでの研究をすべて見返さなくてはならない事がある。そして、自分のその年齢などによっても、解釈が大きく違ってくる・・・と言う事。 だから、同じ著者でも数年前に書かれた本と今の本とは解釈が違うと言うコトなのかも。



茶々と秀吉/秋山香乃★★★★
文芸社
歴史上の人物は後年の研究や考察によって、良くも悪くもなりうるものです。今生きている人間だって、見る角度を変えれば違う面が見えるのだから、何年も何十年も、写真すらない時代に死んでしまっている人物に関してはなおの事。
秀吉は、せっかく無一物からやがては天下人へののし上がりを実現させたサクセスストーリーの主人公であるにもかかわらず、無謀な朝鮮出兵を試み失敗し、失意のうちに死んでしまい果てはお家断絶とまでなったおばかな武将?
そして、茶々はその秀吉にはべり、正妻ねねを苦しめながら秀吉の甘い汁を吸いわがままの限りを尽くした悪女?
このシリーズはそんな偏見を払拭する物語です。

前作「茶々と信長」の続編である本書、柴田勝家と於市の方の自害により、幼い妹たちと一緒に秀吉に引き取られた所から、今回の物語はスタート。
そして、周知の如く秀吉の側室となり淀城を与えられ、淀のかたと呼ばれ一世を風靡する、秀吉が死ぬまでの茶々の半生を描いてあります。
逆に言えば、ここでは茶々との秀吉の半生を描いてあるということ。
二人の心の交流がすごく丁寧に描かれていて読ませられます。
茶々が秀吉に心を開き、ふたりが心を通わせあうまでになるくだりの心理描写が丁寧で説得力があるので、ちょっとときめいてしまうほどです。
「抱くときは心も一緒に抱く(無理には抱かない)」という秀吉のせりふに、くらっとしてしまいました(笑)。
この「茶々と秀吉」では、茶々の視点から見た秀吉の心理描写によってなぜ狂気ともいえる朝鮮出兵までに至ったのか、すごく説得力に満ちた解釈がされていて、深く納得してしまいました。
茶々は聡明で洞察力もあり、人の心を思いやる気持ち、慈しみの心、そして強さ、と何もかも兼ね備えた女性で、その性質的な美点や芯の強さが余す所なく描かれ、茶々に好感を持たないではいられません。
そして、そんな茶々が思ったひと秀吉、彼にも好感を持ちます。
元来人間臭く機転が利き賢く、そして明るく豪放磊落と言う感じの秀吉は人すきがする人物だと思うけど、ひときわ魅力的に描かれているのではないでしょうか。
彼の人生が終わるとき、しみじみと涙が出ます。

露とをち露と消へにしわが身かな
  なにわのことも夢のまた夢

次は「茶々と家康」ですか。これも期待大!待たれます!