2007年の読書記録*5月



名もなき毒/宮部みゆき★★★
幻冬舎
社長の庶子(になるのかな?)の娘と結婚して、元いた出版社から引き抜きの形で義父(社長)の会社の広報部に配属された杉村がにわか私立探偵になるシリーズ第2弾。 今回は、自分の部署にいたアルバイトの女性原田いずみの迷惑行為がもとで、ある殺人事件の被害者の家族と知りあい、その事件に介入して行きます。 残念ながら前回の「誰か」のほうが面白かった。シリーズにするにはちょっと主人公はじめ人物の魅力が乏しいと思う。 最初にハウスシック症候群など登場し「毒」は身近にあるものだという抽象的な示唆を含めながら、人間の心の中の「毒」を表現したかったと思う。けど、一番物語の中で「毒々しい」のは元アルバイトの原田いずみではなかったか。しかし彼女のいったい何がそこまでエキセントリックに毒を撒き散らす原因となったか、たしかに彼女のやることなす事がスキャンダラスで面白いと言えば言えたのだけど、原因もなしにその行動だけが取りざたされては後に残るのはただ空虚な後味の悪さだけでは? 肝心の冒頭の無差別殺人のオチの付け方もあまりにあっけなく、納得も出来なければ説得力もない。何にもまして「原田いずみ」「シックハウス症候群」「無差別殺人」のどれもが上手く絡み合ってなかったのが残念。最後までは読めたけど宮部さんにしては面白みに欠けたなぁと思わざるを得ませんでした。 辛口でゴメンなさい(^_^;)



トラベリング・パンツジーンズ・フォーエバー
  アン・ブラッシェアーズ
★★★★
理論社
映画を見てこの少女たちが大好きになり、原作も1〜3まで読んで…。3巻で終わりとなったとき、すごくさびしい思いがしたので今回また彼女たちに会えて懐かしい気持ちになった。もう完全に母のような姉のような、ジーンズになったような気分で彼女たちを見守る心境です。 第一作目から見れば4年目になり、彼女たちも大人になりました。もう4人が一緒に集まる事もままならないほど、自分たちの世界が広がり個人個人の生活を楽しんだり悩んだりしながら生きています。それぞれが夢に向かって一歩一歩確実に(迷いながらも)進んでいく姿が愛しいです。 個人的に言うとやっぱり気になるのはレーナ。コストスとの恋の結末があんなふうになってしまい…若いのだからまた新しい出会いがあるんだ、と理屈では分かっていてもどうしてもコストスと幸せになって欲しいと言う思いを捨てられません。そんなわたしに3巻のラストは切ないながらもなんとなく希望が持てるようなイメージがあったので、その辺りが読みどころの一つでした。 最後にジーンズがどうなってしまうのか。それでも彼女たちのシスターフットは永遠に。ジーンズフォーエバーというタイトルに相応しい心地よいラストです。コレで終わり?やっぱり寂しい。また続編を読みたいものです。



家日和/奥田英朗★★★★
集英社
ネットオークションにハマる「全盛期が過ぎた」一家の主婦の物語「サニーデイ」。 人間いたるところに青山あり、いきなりリストラされて「主夫」になった男の物語「ここが青山」。 妻との別居をきっかけに今まで我慢していた趣味を復活させる男の物語「家においでよ」。 在宅ワークの担当者の「フェロモン」に参った?主婦「グレープフルーツ・モンスター」。 やたら勝負をしたがる夫は今度はカーテンとカーペットのお店をやると言い出した「夫とカーテン」。 ロハスに懲りだした妻に閉口する作家の物語「妻と玄米御飯」の6編が収録された短編集。 相変わらず何も考えずに笑いながらさくっと読めるのが良いです。 とくに「サニーデイ」などは、インターネットが好きな人は「わかるわかる〜!」で笑えると思う。わたしも時々声をあげて笑いました。子どもたちが成長して、「この家は全盛期を過ぎた」と思う主婦の言葉にしみじみとした感慨を抱いたのはわたしだけではないでしょう。 オークションで「儲ける」と言う事よりもネットを通じて、人とのふれあいを求める主人公の気持ちは手に取るように分かりますよね(笑)。 相変わらず、人の心を表現するのがお上手な奥田さんでした。 ラストの「妻と玄米御飯」もかなり面白い!これ、実体験じゃないの?と思えるぐらい真に迫ったリアルな展開だと思う。こっちまではらはらしてしまう。ロハス・・・(笑)。結構上手におちょくりつつも、実はおちょくってゴメンネと言ってるような、作品自体のメッセージが明確で面白いです。これも是非ご一読を!笑えます! そして、何よりわたしが気に入ったのは「家においでよ」。 これは離婚の危機に陥った夫婦が、とりあえずということで別居を始めた所から始まります。殆どが妻の持ち物だったらしく、夫はがらんとした部屋に残される。まずは暮らしてゆくための家具をそろえようと思い立ちます。が、どうせ揃えるのなら自分なりのこだわりを持ちたいと思う。今までは妻のしたいようにインテリアなどは任せてきたのだから。 こだわりを追求するうちに仲間もうらやむような部屋が出来上がって行き・・・という感じなんだけど、相変わらずユーモア満載だし主人公と同年代の男性(もしかして女性も?)そっちの方面で趣味が合えば懐かしくて叫びたくなるような場面が登場するかもしれません。離婚寸前だと言うのに心躍るような物語の雰囲気、間違っていませんか?と笑えます。が、笑わせながらも実はこれは「結婚ってナンだろう」「夫婦ってなんだろう」「家族って?」「家庭って?」と、考えずにはいられないシビアな問題が潜んでいます。 男の人は独身か既婚かで、自分の自由になるものが全然違う。お金も時間も家の中の空間も。それでも、それを承知で結婚するんだと思うのだけど、中には「しまった!結婚なんかしないほうが良かった」と思う殿方もいらっしゃるのじゃないでしょうかね(笑)。 この「家においでよ」を読んだ男の人の忌憚ない感想を、一度聞かせていただきたいものです。 「サニーデイ」「家においでよ」「妻と玄米御飯」は★★★★★でした! あさみさんにお借りしました、ありがとうございました♪



ダブル/永井するみ★★★
双葉社
ほんの数行の小さな新聞記事になっただけの、とある交通死亡事故。 一人の女はその記事を切り抜き、いやな事があるたびに取り出して読み、ほくそ笑むように満足しストレス解消をする妊娠初期の主婦。 片方の女は、その記事の被害者が誰かに押されたように車道に飛び出したと言う証言があることから、他殺の線もあるとの警察の姿勢に目をつけ、記事にならないかと粘る雑誌記者。 やがてまた起きるサラリーマンの事故死を通じて二人の女は交錯し、そしてほのかな友情さえ芽生えるように・・・。 交通事故で死んだ女は他殺か事故か。サラリーマンは。 自己顕示欲の塊の雑誌記者と、自分の価値観の中でのみ物事を捉える同じ年の二人の女が出会ったとき・・・。 前半、主人公の多恵(雑誌記者)に対して嫌気が差していた。 彼女があまりに強引だし、事故死した女性「いずる」に対して凝り固まった固定観念で判断しているし、自己顕示欲は強すぎるし、ちょうど多恵の彼氏と同じように彼女に対して感じていた。 そのうえ、多恵が乃々香に出会うまでの偶然に偶然が重なる話の流れにご都合主義が強すぎるような感じがして、イマイチ面白く感じなかったのだけど、ふたりの主人公が交錯し、出会ってからの後半の展開はかなり面白かった。 各方面に取材し、いずるの彼氏の佐藤にインタビューを重ねていくうちにだんだんといずるにたいする先入観や固定観念が溶けて行く。と、同時に彼女自身の自己顕示欲や強引な突込みがなくなって、彼女に好感が持てるようになっていくのだ。 そして、多恵と乃々香の対峙が読ませる。ただ敵対心だけがあるのではなく、うっすら芽生える友情らしき感情が展開をよけいに見えなくしていて面白い。 ラストはわたしには、例によって予想がつかなかったので驚かされたが、驚くと同時にあり得なさも感じてちょっとげんなりしたかな。 しかし、二人の主人公の女たち、どちらも物語の初めと終わりとでは印象が全然違います。多恵の変化は気持ちよく、今後を応援したい気持ちになるような前向きな終わり方が心地よかった。