2007年の読書記録*9〜12月



二重誘拐/井上一馬 ★★★
マガジンハウス
20歳前の若い女性たちが一度誘拐されて、数年後に帰って来ると言う同じような事件がチラホラと全国で起きていた。被害者の女性たちは、強姦された事は認めるが、そのほかのことは口を閉ざす。しかし、その類似性から同じ犯人が犯した犯行だと推理し、地道に捜査をする刑事。刑事がたどり着いた犯行の全貌とは。。。

設定はおもしろいと思いましたが、登場人物の書き込みが浅いように感じました。面白い話なのに、なんか物足りないと言う印象。この手の話はたとえばこの刑事や、被害者の誰かが思いっきり印象深く読者の心に食い込んできて欲しい。
もう一息!!と言う感じ。



ホームレス中学生/田村 裕(麒麟)★★★★
ワニブックス
テレビで言ってる様に、父親による「解散」宣言、公園での浮浪者生活、大変な思いをして(それがまだ年端の行かない中学生だから!)友達の親御さんたちのお世話になって、人並みの生活に戻る。 しかし、その後順調に生活が行くのかと思えばそうでもなくて、やっぱり苦労はまだ続く。 「ホームレス中学生」が相方の川島氏に出会い、芸人になるまでを描いた本です。 文章は上手くないし、それほど「読ませる」と言う感じではないです。 芸人本という括りでなら「がばいばあちゃん」のほうが良かった。 でも、やっぱりこの田村氏の体験と言うのは物凄く大変だったと思うし、その中で田村氏を助けてくれた人たちの人情と言うか優しさというか、そういう「大きさ」に感動しました。 多分、田村氏を助けた人たちは「当たり前のことをした」という感じで当時を振り返るのではないかと思う。でもその当たり前のことをいったい何人の人が出来るのか、と思うと、彼らの偉大さに頭が下がります。 最初田村家の父親は一体どう言う人なんだと、頭に着たんだけど、読んでいくうちにそのお父さんもかなりの苦労があったことがわかる。自分だったらそんな苦労の中だからと言って、子どもたちを捨てる??「多分、そんなことしない」と思うんだけど。。 こう言う苦労した人の体験には耳を傾けたいと思う。 色んな人生があり、色んな人の思いがあり、愛情がある。 人とのかかわりがすごく大切なんだと思い出させてくれる。



フリーダム・ライターズ★★★★★
映画「フリーダム・ライターズ」を見てとっても感動したので、この原作本を読みました。
大変よかったです。映画以上の感動。
(映画の感想はこちらです)

映画は、教師のMs.G(エリン・グルーウェル)の視点で物語が進みますが、こちらの原作は150人ほどの生徒たちが書いた日記の抜粋で構成されています。

ここに登場する教師エリンは新人でお嬢さん育ち、心理学者でもなければ哲学者でもない、ただの「国語の教師」なのです。
その国語の教師が、生活も学力もモラルもなにもかも、底辺に位置する「社会の屑」のような生徒たちを変えてゆくのです。
どうやって・・・・。他でもない、「国語」の力で。
読む、書く、読む、書く。この本書から伝わるのは読書の魅力や大切さ。
本を読むことで感じると言う事の大切さ。
書くということの大切さ。
それらから生まれる「パワー」の偉大さ。
そして、それらは本当に子どもたちを思う、愛する気持ちがなければなし得ないのです。そういう意味では、エリンは決して「一介の、ただの教師」と言っては間違ってるとは思う。
彼女の姿に、本当の教師の姿と言うものを思い知らされます。


日記の内容は生々しく、自分の身に置き換えてはとても考えられないような内容がたくさん登場します。「戦争をしているわけでもないのに、命の危険に毎日遭遇する」と言う日々を綴った日記もあれば、家を追い出されて路頭に迷っていたり、家庭内暴力や性的虐待、中絶や病気のこと、それはそれは哀しい出来事もたくさん書かれてて読むのも辛いのだけど(本当の話だと思うと余計に辛い)でも、そんな環境や状況の中でも、自分たちがエリンと一緒に学ぶうちに変わって行く様子が生々しく伝わってくるのです。
エリンのほうから「子どもたちはこんな風に変わった」と言うのではなく、子どもたち自身の言葉で綴られているからこそ、エリンの偉大さがよりリアルに伝わってくるのです。
未知の体験に臨むみんなの素直なよろこび(時には複雑な心境)などが、ストレートに伝わりその生徒たちの純粋な気持ちに、胸打たれてしまい、読んでいる間中涙がじわじわと出てきて仕方がなかったです。
エリンが生徒たちに繰り返し教えたことは「寛容の教育」。
人種間による差別や偏見が生む不幸を「寛容」によってなくしていこうというのです。


エリンは苛酷な環境で生きる子どもたちに、身近に感じられるものをと、本を選んで与えます。「アンネの日記」や現代版のアンネの日記と言われる「ズラータの日記」などを読ませ、時にはアンネをかくまったミープ・ヒースやズラータを招待します。
ミープが生徒たちに向かって「あなたがたこそ、ヒーローです」と言ったり、ズラータ(ボスニア紛争の被害者である少女)が、「わたしは(何人であるかということに関係なく)人間です」と言うのですが、それらの言葉や態度を直に生で、見て感じて。そして感銘を受ける生徒たちに、感動せずにはいられないのです。

本も与えたけど、すごいと思うのは生徒たちを小まめに校外学習に連れ出したこと。
ホンモノをその目で見たり感じたり、本物に出会うと言う事のすごさ!
生徒たちも期待に答え、何かを感じ取って行くのです。

個人を個人として尊重する事、人を大切に思うこと、人から大切に思われること、当たり前だけど人間が成長して行くために本当に大切なことを、知って行く生徒たちの心境に、心から感動しました。




鉄槌/高田 侑 ★★★★
お初の作家さん。
ホラー大賞の受賞者だそうだけど、本作はホラーとは程遠い作品です。
ミステリーなのかなと思ったけど、さほどミステリー色は強くなく、サスペンス性も一応あるものの、どちらかと言うと普通のドラマの部分が大きく、読む人によっては中途半端な印象を受けるかもしれませんが、わたしは結構楽しめた。

母親が昔、子どもたちと夫を残して男に走り出奔したと言う過去を持つ、町工場の一家。
父親があるとき「ペットボトル症候群」と言う耳慣れぬ病気で不意に死んでしまいます。
妻子を持つ郵便配達の長男、愛に恵まれない結婚生活を送る長女、そして、デパート店員の二男の3人のきょうだいは、父親の死後、以前家を出た母親を探し当てます。
しかし、その母親は実はとんでもない厄災を兄弟にもたらすのです。

+++++++

長男大輔が鰻屋のおかみにクラクラしたり、二男の洋輔は恋人と痴話ケンカをしていたり、長女の早紀が隣の住人の怒鳴り声に耳を傾けていたりして、その中でゆっくりと物語が進むので、話がどの方向に向かうのか分からずじれったい気持ちもありましたが、きょうだいたちの生活そのものが割りと読み応えがあったので、面白く読めたことは確か。

母親に再会する部分ぐらいからかなり面白くなってきて、まったりとサスペンスに向かってゆくこの流れが心地良いというか。

この兄弟は母に捨てられてから、父親と寄り添うように生きてきたのですが、そういう思い出や心情が所々嫌味でない程度に挿入されていて、淡々と書かれているだけに印象に残りました。

それぞれの登場人物が好感が持てるって言うのでもないんだけど、3人のきょうだいとして魅力的で。

しかし、この小説のように法律ではどうしようもない事で苦しめられる人が、実際に世の中にいるとしたら、とんでもないことです。
この小説のような成り行きになっても仕方がないと思わせられる。
ラストは読めたし、犯人も思ったとおりだったけど、逆にそれが良かった奇を衒った人物が犯人だったりしたら、がっかりしたと思う。

作品タイトルもなかなかいいんじゃないでしょうか。
オススメ度★★★★っていうところでしょうか。



夜明けの街で/東野圭吾★★★
東野さんは傑作が多いので、読者はみんな期待してしまう。
それがこんな不倫小説では読者もなかなか満足できないでしょう。
いきおい評価が低いレビューが多いのもうなづけます。
しかし、わたしは結構満足できた。
と言うのもやっぱり世間の風評から、期待せずに読んだからかな。
なんていうと、ひどい言い方だけど。。
でも、やっぱり文章の吸引力って言うのがハンパじゃなく強いし、不倫にハマってゆく男の気持ちが手に取るように感じ取れて、一気にサクサク読めたし、さすがは東野さん!って思います。
不倫相手に時効間際の殺人の容疑がかかってる、と言う設定の一応ミステリーなんだけど、読者は誰もこの女性(秋葉という名前。余談だけど東野作品に登場するヒロインって変わった名前が多い)が過去に殺人を犯したかどうかなんて、どうでも良いと思いながら読んだと思う。
結局、主人公とこの秋葉の関係はどうなるのか?
それに尽きる!
ひとことでこの話を説明するなら、この小説は「男に都合よい、男がのぞむ究極の不倫の形」を小説にしたものだと思う。
若くて綺麗で、そのうえミステリアスな女と不倫するも、最後は…ってやつです。読者の不評もやっぱりこの、あまりにも主人公にだけ都合の良い物語運びがカンに触るのじゃないでしょうか。
「不倫するやつなんて馬鹿だと思ってた…でも、どうしようもない時もある」って言う冒頭のフレーズからして、この主人公の男が「わ、成りきっとる、こいつ、浸っとる!!」と、面白い。
まぁまったくの「他人事」と思えば、結構面白い一冊ではないかと思います。もうちょっと最後になんか、主人公に鉄槌でも下ればね、もっと良かったんでしょうけど。(番外編みたいな)




三面記事小説/角田 光代★★★★★
すっごく満足感のある短編集。こう言うの大好き。
角田作品でもしかして、一番好きかも!!

実際の事件を題材にして小説化する、そういうのは巷にあふれていますが、世間を騒がせた大きな事件を扱っている場合が多いと思う。
でも、この「三面記事小説」は、大事件ではなく、まさに新聞の片隅に数行で書かれたような、思わず見過ごしてしまうような扱いの「三面記事」の数々を題材にしています。
冒頭に書かれているように、実際の三面記事にヒントを得ていても、内容はまったくのオリジナルのようです。
それにしては、ものすごいリアリティ。まさに事件に関係した人たちが生き生きと、そこに「いる」と言う感じ。
殺人事件もあり、殺人に至らず「悪戯程度」の事件もある。でもそのどれもが、登場人物の心の深淵を描いていて引き込まれてしまうのです。

とくに良かったのが最後に書かれた、介護疲れのすえに母親を殺してしまう話。これは、偶然ながら先日読んだ「裁判官の爆笑お言葉集」で、涙を誘われた事件のことではありませんか!(多分)
偶然に驚きつつも、この物語があの事件の本当の姿であったような錯覚を覚えるほど。そして、やっぱり泣きました。
人間、自分の思っていることや感じていることを、辛いときほど人に聞いてもらいたいと思うし、分かって欲しいと思う。だけど、ありのままの自分100%伝えようとしても、絶対に出来ない。伝えようと思っても、そのパワーもない。愚痴を言ってるうちはまだ、そのパワーがあると思う。何も言えず気持ちに溜め込んでしまう、そして疲れてしまう、そんな主人公の心情が物凄くリアルに描かれていました。

わたし的には深く満足のいく一冊でした!!



判官の爆笑お言葉集 /長嶺 超輝 ★★★★
裁判官が判決を下す時、被告人に対して判決文以外に添えた言葉を集めたものです。
※裁判官には、判事と判事補の二つの役職がある
※被告というのは民事訴訟で訴えられた人
※被告人というのは刑事事件で訴えられた人
いろんな言葉があって、裁判官の人柄を示してて、興味深く読めました。
※で書いたようなウンチクなどもあって面白かったです。(ウンチクはその時は『へぇ〜ほぉ〜』と思うけど、すぐ忘れてしまう)
タイトルの「爆笑」はどうかと思うけど。だってもっと厳粛な気持ちがわいてきます。やっぱり「裁判」だし。人の命の事も書かれているのでね。
この本にはおおよそ、100個の裁判官の「お言葉」が載ってますが、この中で印象に残ったのは、なんと言っても、生活の行き詰まりから肉親と無理心中を図り、結果的に承諾殺人の罪に問われた人たちの話。あるいは物言えぬ小さな子どもに対する虐待の罪で、判決を受ける人たちへの裁判官の言葉、というよりもその事件そのものに泣かずにはいられないです。

で、ここでわたしが一番インパクトを受けた部分をご紹介します。
オウム真理教の松本の裁判は、公判の直前に「もうやめてっ!」の横山昭二もと弁護士が解任になり(延期による引き伸ばし目的)国が新たに任命したのが12人の弁護士団だったそうですが、彼らに事件記録等をコピーする費用が、なんと、800万円だったそうな。コピーの費用ですよ。びっくりしました。(金銭的なことが印象に残ってしまうわたしって一体?って言う感じもするけど)
それと、このケース。
被告人は、普通に国道を運転中に運悪く、20台の暴走族に出会います。そしてあおられる。先に行かせようと思い、速度を落とすんだけど囲まれてしまうのです。で、窓から首などをつかまれたため、その人は車を急発進させて暴走族を振り落とし、大怪我をさせてしまう。その結果検挙されてしまうんです。
こう言うのって「正当防衛」ですよね。ところが、推理小説とは違い、実際の裁判では「正当防衛」と言うのは要件が難しいので滅多に採用されないらしい。
でも、この人は結局はそれが認められたらしいけど、そこまでになんと4年もの時間がかかり、で、当の暴走族たちは被告人の車に仕返しで窓ガラスなどを割ったりと言う暴挙に出たのに、やつらにはお咎めの一切はなかったんだって。
コレが日本の裁判の現実か!!と思いまして深く印象に残りました。

ちなみに、この著者の名前、ながみね、はさきと読むそうです。難しいお名前で。



秋の牢獄/恒川 光太郎★★★★
「夜市」がとってもよかった恒川さんの新刊です。
これも幻想的な雰囲気に釣り込まれる物語3作品収録。
「秋の牢獄」と言う表題作は、主人公が昨日と同じ朝を迎えるところから始まります。翌日もまた同じ日を迎えます。そう、延々と、来る日も来る日もずっと同じ朝。同じ11月7日と言う日を迎えているのです。
ケン・グリムッドの「リプレイ」と言う名作がありますが、まさにその日本版という感じ。
自分が陥った状況に対する戸惑いや混乱が、やがて絶望や閉塞感に変わり、次第に諦観にいたる。そんな中で見つけた同種たちとの連帯感や依存が心地よくも切なく胸打ちます。
やがて現れる「北風伯爵」の存在がまた読者に大きなインパクトを与えるのです。この物語の続きが知りたく、絶妙のラストにしばし余韻に浸ること間違いなし。
「神家没落」は、あるとき唐突に「家」の束縛されてしまう主人公の物語。「代理」が現れるまではその家にとらわれてしまうのです。実は3作品中でコレが一番面白かった。
「幻は夜に成長する」は、不思議な能力を得てしまった少女の物語。これはまさに山岸凉子の世界に似ていましたね。中盤は良かったけどラストがなんとなく中途半端だったような・・。
でも、それぞれ、恒川さんらしい切なさと幻想的な感じと異次元的な世界観をいとも「隣にある」かのように描いた作品は、充分魅力的でした!



戦場のニーナ /なかにし 礼★★★
読書意欲満々のときに予約したので、意欲低下の今読めるかどうか怪しく、窓口返却しようかと思ったけど一応持ち帰って読んだら読めた。

この本は、中国残留孤児ではなくソ連の残留孤児の物語です。
主人公は日本人だったけど、生き残るためには日本人ではまずいということで、国籍が分からないようにロシア名を付けられて、施設や里親の所を移ろいながら成長してゆきます。
後に日本に一時帰国して自分が日本人であると言う事を確認するまでを描くのですが・・・。
波乱に満ちた人生を送ったのかと言うと、たしかにそうだけど「赤い月」ほどの迫力が感じられなかったし、性描写がしつこく多かったので辟易しました。
ただ、彼女のように人知れず外国に置き去りにされ辛苦の人生を送った人がいるということを知る事ができたのは良かったと思う。



映画編 /金城一紀 ★★★
映画にまつわる短編集。
それぞれの話が、「ローマの休日」の上映会に関連しているということが、読むうちに分かり、ラストでその種あかしがされると言う連作短編集と言える。
どれもなかなか爽やかで楽しめましたが、読書スランプだからか?そこまで「いい!」とは思えない。「GO」や「レボリューションbR」程でもない。
とくに「種明かし」のなされる最終章の「愛の泉」は、ちょっときれいごと過ぎる感じが鼻についてしまいました。連れ合いを亡くした祖母を孫たちが励ましたり面倒を見ようとしたりするのですが、人間こういうことは思っていてもなかなか行動には移せず、移せないことを後で悔いたりする事の方が多く自分もきっと感情移入できたと思うんだけど、孫たち全員があまりにもいい子過ぎて嘘くさく感じたのでした。
こんな感想はごく少数で、わたしなんてひねくれているので参考にしないで下さいと言いたいですが。
最初の、著者の子どもの頃の思い出話か?と思うような朝鮮学校でのエピソードは彼らしくって良かったと思うけど。
『「恋のためらい/フランキーとジョニー」もしくは「トゥルー・ロマンス」』という小説では、わたしの大好き映画「トゥルー・ロマンス」がどのように使われているんだろうと楽しみにしてただけに、ちょっと拍子ぬけ。タイトルにしか出てこないんですもん。「逃亡劇」って言う所でリンクしているけれど、不満が残りました。



ウナギ―地球環境を語る魚 /井田 徹治★★★
世界中のウナギの実に70%を日本人が食い尽くしていること、そのせいで日本ウナギはおろかヨーロッパウナギももっと他のウナギたちも、絶滅危惧種になる勢いだそうです。
だいたい、日本ウナギの天然物は激減しているのに、ウナギの値段は下がってて、今やいつでもどこでも食べられる食材でしょう?
そのからくりを丁寧に紐解いたレポートです。

ウナギの生態系はまだまだ謎に包まれており、ソクラテスのころはミミズがウナギになると考えられていたらしく、しかし、きちんと卵から孵化させるのに成功したのはごくごく近年、それも成功率がとっても低くまだまだ商用には使えないそうです。
日本のウナギはどこで生まれるかと言うと、グアムの近くの海だそうです。そこで柳の葉っぱのような形になり(レプトセファルスという、体長わずか5センチほど)そこからはるか2000キロの海を、まず北赤道海流と言う海流に身を任せ(泳げない)フィリピン東で黒潮に乗り換え、日本にたどり着くのです。
このレセなんとかっていうウナギの幼少の姿は、ウナギにはとても見えなくて、そりゃソクラテスが言うとおりミミズのほうがずっとウナギみたいです。
はるばる2000キロを海流を利用して日本までやってくるウナギもすごいのだけど、この小さなはっぱのような漂う生物をウナギの子ども、と見つけた学者たちもすごい。科学者の執念と言うか探究心にはひたすら頭が下がります。
本の中には色々もっと驚く事もかかれてますけど、ところがですねぇ最後の方は「いったい、わたしはなぜこの本を読んでいるのだろう?ウナギに対してそんなに大した思い入れもないのに・・・」という疑問が沸いてきて、一応最後まで読みはしましたが、最後の方はちょっと流し読み。。。これから急速に読書熱が冷めていってしまったのです。なので、いま、またしても超読書スランプ。



君たちに明日はない/垣根 涼介 ★★★
「借金取りの王子」と言う新刊が出ているので、それを読む前にこちらを、と思って読みました。 リストラと言う重苦しい題材を扱っているのに、暗くならずにさらっと描いてあって軽い気持ちで読めるのがいいですね。 この本では、リストラを言い渡す(と言うのとは若干意味合いが違うけど)主人公側の気持ちと、リストラの対象となった相手の気持ちがどっちも丁寧に書かれていて、いわば「裏表」両方読めるのがいい。 恋人との間のことにしても、両面から描いてあるのでそこが面白いと思う。 結構、この主人公が好きだな〜。



翳りゆく夏/赤井 三尋★★★
第49回乱歩賞受賞作品です。

東西新聞社に内定の決まった女子学生をめぐって、過去の誘拐事件が暴かれると言うミステリー。なかなか面白く、読ませる文章構成で一気に読みました。登場人物も魅力的で好感が持てて、乱歩賞としてはそこそこイケているなぁと。

女子学生は、実は20年前の誘拐犯の娘だったのです。その娘が新聞社に内定が決まって、それをスクープされてしまう。しかし、どうしてもその娘が欲しい新聞社は、過去の誘拐事件をもう一度洗いなおすことにします。そこで20年の時を経て浮かび上がる真実とは!

と言う話なのですが。
面白いのは面白いとして、時効もとっくに過ぎてて、犯人はそのときに死んでしまっているのに、はたしてもう一度その事件を調べようとするものなんだろうか・・・確かに調べなおす事になる過程は書かれているんですが、動機として弱かったと思う。
そして、20年前の事を人は覚えているものだろうかとも。ましてや証言者の中には当時5歳だった人物もあるのです。5歳当時のことをそんなにきちんと覚えているのか・・・昨日のことすら覚えてないわたしには神業に思えるし、わたしじゃなくても無理があるんじゃないかと思ってしまった。たしかに、昨日の事よりも20年前の事の方が覚えてたりするものかもしれないけども・・・。
ミステリーは謎解きを楽しむものなので、時々こうやってかなり都合の良い展開になることがある。それを承知で読むべきなのかもしれないけど、乱歩賞を取るにはちょっと都合よすぎる展開では?と思った。
結末にはある程度予想は出来たけど、でも、面白い展開だと思いました。

話の流れには関係ないけど、途中「職業美人」って言う言葉が出てきて、印象に残っています。その人はお化粧も髪型も地味で飾り気が全然ない、でも、主人公はそのストイックな姿を「キレイだ」と思うのです。よく「薄化粧をするのは人前に出るときの最低限のマナー」と言う事を聞くのですが(聞いたのですが)なんか納得できなかったんですけど・・。上手くいえないけど「職業美人」って良い言葉だなぁと思いました。



悪人/吉田 修一★★★★★
面白かった!一気読みした。

保険外交員をしていた石橋佳乃が、土木作業員の男に殺され死体遺棄されてしまうという事件が起きる。殺された佳乃の両親、同僚、上司、逮捕された男の祖母、叔父、友人、以前に親しくしていたヘルス嬢、そして佳乃が憧れを抱いていた大学生やその友人の目を通して、この事件に関わった人々を描く群像劇。
登場するすべての人たちの人物描写が巧い!と思った。どこか悪意があったり、どこか善人であったり、まず誰もがその両面を持っているのだと、凄く説得力のあるキャラクターたちが生き生きと描かれていて、それだけで話に一気に入っていった。自分がこの物語の中に登場するとしたら、どんな風に描かれるだろうかと、ふと考えたりもした。

佳乃が殺された夜、本当はいったい彼女が誰に会いに行ったのか、誰に会ったのか、なぜ殺されてしまったのか、読者はそれを追々分かっていくのですが、単なる「殺人事件」じゃなく、そこまでに至る経過と、取り巻く人々のドラマが読み応えがあるんです。

殺されてしまう佳乃。いやなヤツなんですよ。見栄っ張りでうそつきで。出会い系サイトで出会った男と援助交際をしたりして。だけど、だからと言って殺されてしかるべきかと言うと決してそんなことはない。親から見ればいつまで経ってもかわいい娘。でも、徐々に明らかになる娘の生活に驚かされて。かわいそうな人たち。娘を殺された上に、まだマスコミや世間に心ない仕打ちを受ける。どう言う育て方をしたんだと言う声も。みんな勝手な事ばっかり言うね。でも、自分もその「みんな」なんだな。テレビでコメンテーターたちのコメントを聞くときは、心して「選別」しようと思った。

そして、祖父母を大事にするいい青年なんだけど、無骨で寡黙で上手く他人とコミュニケーションの取れない祐一、華やかで友達は多いけど軽薄で鼻持ちならないボンボンの増尾、一体どっちが「悪人」なのかと聞かれたら誰もが思うことは同じでしょう。祐一よりも増尾に憎悪を抱いてしまう佳乃の父親の気持ちが、すごくよくわかった。(こいつにはどこかで天罰が下るといいと思ってしまう)育てる側の気持ちが、石橋の両親、祐一の祖母どちらの気持ちもじわじわと迫ってきて感動した。でも、どっちも最後は顔を上げてくれて、その彼らの姿に一番感動!「バスの運転手、動くサインポール」これが二大感動シーン。ありがとう、吉田さん、このシーンを入れてくれて。

それまでは、ほんとに何を考えているのかわからない部分のあった祐一(母親でさえ真意が理解できない)の、本当の気持ちが見えてくるラストには胸打たれます。ちょっとその前の展開が安っぽいメロドラマみたいで興ざめした部分があった(逮捕直前の光代の号泣)んだけど、それがちょっと残念だったかな。

切ないラストにしばし余韻に浸る。
オススメします!



ハンニバル・ライジング/トマス・ハリス ★★★
ご存知レクター博士の若き日を描いた作品で、同名映画の原作。
映画を先に劇場公開時に見ていて、(感想こちら)そのときはあんまり面白くないと言う事を感想として書いたのだけど、原作はそれなりに楽しめた。
読んでいるうちに映画の最大の取り得の一つ、主人公ギャスパーの美しさや映像美が目の前によみがえり、映画を再現しているようで大変堪能した。
もちろん、こちらもレクターの若き日を描いてあるにしては物足りない、でもそれはもう映画を見たときに感じた事なので覚悟の上。その上で本を読めば、充分に楽しめる作品と思います。これは出来れば映画を観てから原作を読んだ方がよいでしょう。
それに映画では残酷な場面がソフトになっているけれど、原作はそのあたりが満足感が大きい。歯が見えるまで頬を切り取るって、映画ではそこまで見せてなかったように感じましたが記憶違い?

なによりも「あの」レクター博士と切り離してみてみれば、主人公のレクターがとっても魅力的に描かれています。だって、あのギャスパーが浮かんでくるし、それはもちろんクールなハンサムでオレ様なんだもの。しかも天才だし。すっごく好みのタイプなわけで(笑)。

ただやっぱり映画を見たときも違和感があったけど、紫夫人のキャラクターつくりがね、日本人としては受け付けられないかも。あんなのいないよね。ハリス氏が日本文化にえらく通じているのは分かったし、日本と言う国を使ってくれて嬉しいけど、どっか変なんだよね。しかも、映画ではコン・リーが演じていたけど、どうして日本人を使わなかったのかな。それこそ工藤夕貴当たり持ってきたら英語は上手いし、いい雰囲気が出たのでは。コン・リーよりキレイな英語の堪能な女優は他にもいそうなんだけどね?思うに、西洋人って東洋人はどれも同じと思ってるのでは。ハリー・ポッターの恋人の中国少女にしても、もうちょっとキレイな子を使ったら良いのに、と思っていたんだけど、あれも東洋人に対する審美眼がまるでないからでは?なーんて思ってしまった。

ともかく、映画を見たあとで読んだからだと思うけど、充分面白かった!満足でした。ラムちゃんにお借りしました。ありがとうございました



神戸大学院生リンチ殺人事件―警察はなぜ凶行を止めなかったのか/黒木昭雄★★★★★
国や地方自治体を相手に訴訟を起こす事を、国家賠償請求訴訟(国賠)と言うそうです。今まで読んできたノンフィクションの中でも「桶川ストーカー殺人」や「栃木リンチ殺人」など、警察が的確な捜査をしていれば被害者の命が救われていたと思われる事件でも国賠が起こされている。もちろんそれ以外にも沢山の国賠があるわけですが、ことごとく「国」が勝っています。その確率たるや100%の割合で。
そんななか、初めてその100%以外の判決が出たのは初めてとのこと、つまり異例中の異例だったのです。(だから、100%ではなくなったのですね)
反対に言うと、それほどまでにこの事件の警察は「だめ」だったと言う事。なにせ助けを求めている一般市民を見殺しにしたのです。ヤクザと「持ちつ持たれつ」の関係を築き、恩を売るためにか、とんでもないお粗末な初動捜査。このときの警察の仕事が的確だったら、被害者の男性は死ななくてすんだはず。

事件発生から、警察の怠慢ぶり、裁判の様子など順を追って事件のあらましが非常に分かりやすく良く書かれていて、事件の内容はどうにも腹が立つのだけど、著者の文章には好感が持てました。
黒木さんはもと警察官。そこから本来の警官のあり方など含めて、事件に迫っているので読み応えがあると思う。

いろんな事件で、マスコミを利用して情報操作を行っていると言う告発とも取れるコメントも見逃せません。次の著作が待たれます。



ボーン・コレクター/ジェフリー ディーヴァー★★★★
主人公のリンカーン・ライムは数年前の捜査中の事故により、首から下が動かない殆ど全身麻酔状態。わずかに指の一本が動き、頭が動く程度ですが、しょっちゅう頭痛やら腰痛やらに苦しめられています。人生に絶望してひたすら安楽死を願う毎日。実際、そのチャンスはすぐそこに来ていました。
と、そんな時、世間を震撼させる残虐な猟奇事件が起き、否応なく事件にかかわりを持って行くのです。
そのことがライムに「生きる気力」をもたらしてゆく、ライムが生き生きとしてよみがえるのが目の当たりになるのですが、事件は事件としてそのライムの変化が面白かったです。
美人のヒロインと最初は険悪ながら次第に心を通わせてゆくと言うのも、ありきたりと言えばいえるので、分かりきっているのだけど、やっぱり面白かったです。
事件は次々に誘拐された人物が無残な姿で発見されるのを、犯人が故意に残したと思われるわずかな手がかりから阻止しようと言うもの。犯人の思惑通り、ライムたちが次の犯行を「読む」のがどうも出来すぎな感じがして(と言うか、そこまで細かい所にまで実際目配りしているのですかね?)「小説」って言う感じがぬぐえなかったのですが、ここが海外モノだからこそ面白く読めたと思いました。
映画を見ていて結末も知っているはずなのに、犯人は意外だったし、ラストの展開もドキドキモノでした。



歳三往きてまた/秋山 香乃 ★★★★
秋山版新撰組ですね。
大政奉還がすでに行われた、幕末も末期から(変な言い方ですが)の物語になっています。

この物語はなんといっても土方が魅力的に描かれています。ともかくカッコイイ。新撰組の隊士たちもしょっちゅうクラクラしているぐらいに色っぽい、男をも惑わす色男。そして、また、たまに入るそういう描写が読者をどぎまぎさせてくれます。男ばかりの世界なので、まぁその手の色気がぷんぷん。マンガ好きのわたしとしては、少女マンガ風の土方が流し目でこっちを見つめるような錯覚を覚えましたよ。
だけど決してそれだけではない、ひとたび戦闘体制に入ればきりりとした姿がどこまでも男前なのです。
何よりも近藤勇との友情や師弟愛を超えた結びつきが泣かせる。斬首になったのは自分のせい、介錯してくれと頼まれた時にかなえてやれなかった自分を責めて・・・。
その後も戦いのたびに、大事な隊士たちを失ってゆく土方。その喪失感、虚無感と寂寥感がこちらにも伝わります。今まで感じていた近寄りがたかった土方と違い、どこか人間的で愛しい土方像だと思いました。

それにしても、大阪城から逃げた慶喜、これがなかったらこのひと、面白くって興味深い人なのに。いつ読んでもここはだめです。ね?

個人的には「茶々」シリーズの方が好きですね。
歴史をうまくライトにアレンジにする人だと思います。

らむちゃんにお借りしました。ありがとう♪



ルポ正社員になりたい―娘・息子の悲惨な職場/小林 美希★★★★
著者は2000年の3月に大学を卒業。当時は超・就職氷河期と呼ばれた時代で新卒の就職率は60パーセント未満、著者の周囲にも労働環境が悲惨な同世代の若者が多かった、週刊「エコノミスト」の契約社員(記者)として働きながら、自身や周囲の友人たちの労働環境に疑念を抱き、統計や過去の労働法の移ろいなどから、今現在の非正規、低賃金、重労働を鋭く分析、問題提起する一冊です。
最近景気は回復しているとの事ですが、要は大幅な人件費の削減の上に成り立つ景気回復と言えると言う事を丁寧に解説してくれてます。株価が大暴落→構造改革→リストラ→人件費削減→株価回復。このからくりは「株価対策にはリストラを」と言う図式があり、しかもそれを経済アナリストやら政府やらが奨励していると。企業や政財界は「コスト削減」と「人件費削減」と同じ扱いをしている、ということは労働力、労働者は企業にとって捨て駒であるとはばかりなく言っていると同じこと。企業に都合の良いのは派遣労働者で、彼らを保護していた派遣労働法を次々と改定し、派遣労働の規制緩和を進めていった。そのことで景気は回復して潤っているのが、今日のニュースにもあったように企業や一部の高額所得者で、働きたくても非正規雇用しか道がない若者たちは、苦しい生活を強いられていると言うのです。
若者たちは「フリーター=パラサイトシングル」と呼ばれているけれど、それが決して若者たちの怠慢だとか、無気力だけのせいではないと諄々と訴えてあるのが本書で、読めば読むほど人間よりも利益が大事、営利優先のために人をどんどん切り捨てていく社会(企業や政治)のあり方に、怒りがこみ上げる。
特に「ホームヘルパーと請負の実態」が描かれている第5章は、言葉もないほど読んでいて辛かった。介護の問題は、働く側だけじゃなく受ける側としても興味深い所です。
雇用改善が言われているそうですが、実態はどんなものなのかと言う事がよくわかり、この本書を読んでやるせない気持ちになりました。「新卒採用が改善」とか「転職市場にも明るい兆し」と言ううたい文句が、まったく別の色で見えてきました。一体日本はどうなるのか・・。
「基本的人権の尊重」って?