2009年の読書記録*12月



この世でいちばん大事な「カネ」の話/西原理恵子★★★★
漫画家の西原理恵子さんが、自身のかなり悲惨な生い立ち境遇から、今の位置に来るまで・・そして、人間にとって「お金」というものがどんなに大事なものか、自分の体験を赤裸々に告白しつつ、じっくりと考えさせてくれる一冊。

衝撃的なことがたくさん、書かれてます。とくにその西原さんの育ってきた環境の悪さとか、どれだけ貧乏だったとか・・・おなじような世代だと思うけど、そこまで??って言うぐらいで、絶句してしまう。 だけど、だからこそ、普段見過ごしがちなお金のありがたみを切々と説いてて、頭が下がって何度も涙が出ました。

いろいろ思うところがあったけど、自分の生活に照らし合わせてみたら、私なんて何も言う資格がないなぁ・・と、かなり凹みましたが、子どもたちには読ませたい。手元におきたい一冊です。 とくに、賭け事に関して。西原さん自身が、マンガのネタにする為に始めて、挙句のめり込んだ話なんていうのは、ものすごい説得感。

テレビで爽やかに国家公認の賭け事のCMなんかしているけれど、ハマってしまったら・・破産しても破滅してもお国は責任取ってくれない。賭け事は本当に怖い・・っていうことが、子どもにもちゃんと分かるように書かれてる部分なんかもよかったです。

なによりも、文章全体が語りかけるように普段の言葉で綴られてて、ほんとに身に沁みてきました。だんなさんとのエピソードなども涙なくては読めなくて。。

一度読んでみて下さい。オススメです。



身の上話/佐藤正午★★★
どう言う物語に分類されるのか、やっぱりミステリーでしょうか。 主人公の古川ミチルは、書店店員だが、あるとき上司(というより、仕事上の先輩か)に、お遣いに行くように頼まれる。二人ぶんのお遣いを済ませたミチルは、そのまま出張してきた不倫相手が東京に帰るのに一緒について行ってしまう。そのまま、東京にいる故郷の後輩(男)を頼ったりしてズルズルと東京に居続けて帰ろうとしない。 そしてあるとき、ミチルの運命が大きく変わる出来事が起きる。

書式としては、ミチルの夫であるとする人物の語りによる物語になっています。この夫なる人物が誰なのか?を含めて、なかなかにハラハラさせるミステリー仕立てになっていて、先を急がせられる物語です。 いかんせん、登場人物の誰にも好感も共感も持てず、主人公のミチルにいたっては、冒頭の突飛な行動からそのあとのズルズルとだらしない周囲への対応から、嫌悪感しか持てないし、また中盤いきなり「常識人」のような言動をしようとするのは冒頭のミチルからはちょっと心外な気もして。

しかし、一挙に思いがけぬ幸運を手に入れた人間がどうなっていくか・・・ということが、かなりじっくりと綿密に書かれていて読ませられました。常々私も思っている。その幸運にあやかった場合、きっと自分は幸せになるのではなく、不幸になるのではないかと。マイナス思考の私だからか、リアリティを感じなかったが、物語としてとても面白く読めました。



我思うゆえに我あり 死刑囚・山地悠紀夫の二度の殺人/小川 善照★★★★★
自分の母親を惨殺して少年院矯正施設に入り、出所後またなんの関係もない姉妹二人を惨殺して死刑になった、山路悠紀夫の短い生涯を描く。本作は、小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を獲得したもので、本になるのを待っていました。作者の思うところあって、小説仕立てになっていますが、ノンフィクションとしてとても読み応えがありました。

最初に、山路が母親を殺害した頃、愛知豊川市で17歳の少年が「人を殺してみたかった」と言って何の関係もない主婦を殺害したり、佐賀ではやはり17歳の少年がバスジャックをして乗客を殺害したりと、少年たちの犯罪が多発していて、この事件もその流れで言えば同じように心に残している人もいることと思います。 アスペルガー症候群と言う言葉が一般に知れ渡るようになったのも、これらの事件を介してだったようです。 この少年たちが総じて「アスペルガー症候群の疑いあり」という診断を受けているようなのです。 アスペルガーと言う発達障害が、事件と結び付けられて考えられがちですが、本書を読み、山路悠紀夫の生涯を見るとその発達生涯よりも深刻なのは、生い立ちの影響だと断じられるのでは。

実の所本心を、ありていに言わせてもらえば、こんな人間がもしも身近なところに住んでいたら、怖くてたまりません。

自分の知り合いがこう言う被害にでも合おうものならきっと「死刑に!」と思うでしょう。 3人の命を奪ったこの山路悠紀夫ですから、その生い立ちがどうであれ、同情するなどもってのほか、被害者の命に対して冒涜するようなものです。

・・・そうは思っても、同情せずにいられないほどかわいそうな人生なんですね、これが。 父親が酒乱で暴力、母親との不和、それでも酒気のないときには良い父親であったから大好きだった、でも酒がたたり早死にしてしまう、その後、母親にも見捨てられたような生活になり、お金の苦労もあり、学校ではいじめられ不登校になり・・・と・・・。惨憺たる子ども時代。

同じような境遇で育ったからと言って、即ち犯罪者に誰もがなるのかと言うと、決してそうではないのだから、生い立ちを言い訳にしてはいけないだろうけど、それでも、何とかならなかったのか?と思わずにいられません。

先日読んだ『橋の上の殺意』のときも同じように、小学校時代の担任の心無い仕打ちに絶句しましたが、山路が家庭の調理実習で「君は教材費を支払ってないから食べることは出来ません」などとクラス全員の前で言うなど、今回もそういったものが育つ上で心の傷になったんじゃないかと察せられます。

それだけが原因ではないだろうにしても、いろんなマイナスが相乗して、まずは自分の母に圧倒的な憎しみを抱き惨殺し、少年院に送致され、出院の後、ゴト師という裏の家業に身を落とすが、それでもなんとか「まともに」生きようとするも、何がきっかけか二人の姉妹を惨殺、と結果3人の命を奪ってしまう。

どこかで、なんとかなったかもしれない。姉妹が被害にあわずにすむような、そんな道が山路にあったかもしれない。それが本書を読んでいるときに切ないまで感じられて、辛いほどなのです。

なによりも悲しかったのは、彼のことをちゃんと理解しようとしている人々(弁護士など)に対しても、決して心を開くことなく、そして、自分の犯した罪や手にかけた人たちに対して何の罪の意識も呵責もなく「自分は生まれるべきではなかった。死刑でいいんです」と言い放った山路の絶望の深さ。いや、絶望し徒労感に浸ったのは数少ない支援者だったかもしれません。その人たちの悲しみが伝わってくるようです。自分の命を愛せない人間は、他人の命をも尊重できないのか・・・・。

でも、裁判で言った事が本心だとは誰にも分からない。山路は罪を受け止め、罪の意識を感じていたのかもしれません。表面にださなかっただけで。そう思わないとやりきれない。本当に救いがない辛すぎる事件でした。



浅間山荘事件の真実/久能靖★★★
日テレのワイドショーのニュース解説で知られている、久能靖さんの書いた、マスコミ側から見た連合赤軍の手記。

正直言って疲れてきたので(続けざまに連合赤軍を読んで来て)浅間山荘の部分は流し読みしてしまった。

興味深かったのは、救出された後の浅間山荘の管理人奥さんのこと。 人質となりタダでさえ恐ろしい気持ちの10日間をすごし(坂口の手記によれば、人質ではないとしたらしいけど、緊縛やトイレも見張られていたと言う)、犯人逮捕の際の強行突撃に巻き沿いをくらい、水浸しになるわ、被弾の恐怖にはあうわ、モンケンが別荘を壊していて自分にも被害が及ぶかもしれないわと言うあれだけひどい思いをさせられたうえに、救出後に記者会見で言ってしまった何気なく出た一言から揚げ足を取られたり、言ってもいないことが言ったこととして報道されたりと言うことで言われない糾弾や罵倒を浴びるという、実に気の毒な二次被害が大きかったようです。 その後、マスコミには黙して語らない姿勢を貫かれているそうで、さもありなんと同情してしまいます。



連合赤軍「あさま山荘」事件/佐々淳行★★★
当時現場で連合赤軍のたてこもりにたいし、指揮を務めた警察幹部(肩書きはよく分からない)の佐々淳行氏の書いた手記です。 先日読んだメンバー幹部の坂口弘から見たのとは正反対側から見たこの一連の事件に関する記述。 警察幹部と言う堅苦しい立場の人ながら、なかなかにユーモアのある文章で、エンタメ風に書かれていて読みやすいです。事件に対して、当然こちらのほうがわに立って判断してしまいます。

坂口の手記を読んだときは、坂口たちにもそれなりの言い分、大義があったんだろうと思えたけど、やっぱり国民の「公共の福祉」に反してまで、自分たちの主義主張、権利を押し通すことは断じてあってはならない・・とつくづく思わされます。とくに、警察幹部の奥さんが自宅に送りつけられた爆発物で亡くなっていたり、あるいは立てこもりメンバーの父親が逮捕後に自殺していたり、もちろん事態に当たった警官たちも殉職していたりして、人命よりも重いものはないのだと思いました。

逮捕のとき、メンバーたちがものすごい悪臭を放っていたということだったし、あるいは坂口が逮捕連行のとき、見苦しいほど泣き叫んでいたということで、こういうことは坂口の手記にはなかったので興味深かった。坂口の手記に寄れば、自分が逮捕のときどう言う状態だったか記憶が飛んでいるらしいけど。

あと、警察内部の軋轢・・・警視庁と長野警察との連係プレーのまずさとかも書かれていて興味深かった。 カップヌードルが現場で重宝したとのことだけど(当時カップヌードルは新発売されて間がなかった。現場は零下10度とか15度とかの極寒の地であったので、お弁当なども冷たくて困ったらしい。新登場のカップヌードルがだから重用されたらしい)それが、警視庁メンバーには食べられて、長野県警には回らなかった・・・とか、キャラメルの配給も警視庁のみ、長野県警の人員にはその場でスルーされたなどという人間臭すぎる内情も書かれていて唸ってしまった。

この時代、警察戦国時代と呼ばれたそうで、M作戦と呼ばれた銀行や郵便局を襲って資金を強盗したりということが頻繁に行われたり、銃器店を襲って武器を強奪したりという、一般市民から見たらとても恐ろしい事件が続発したらしい。警察はその対応に追われてたいへんだったようです。

後藤田さんとか、亀山静香さんとか、国松さんとか、当時の様子が書かれているのも興味深く読みました。 ロクな感想になってなくてごめんなさい。



あさま山荘1972 上・下・続/坂口弘★★★★★
本作は、連合赤軍リンチ大量殺人事件と、その後の「あさま山荘」事件に深く関係した幹部メンバーであり、死刑判決を受けて収監中の坂口弘による、事件を「総括」した手記です。

読んでみてまず思うのは、文章がなかなかスマート。時代背景の説明や自分たちとの関わりなども、淡々としながら分かりやすく書かれていて、読み易い。。。ということはこの著者は頭が良いのですね。 最初は本当に純粋に、労働者の立場に立って、労働環境を改善していこうとしたり労働者の味方になろうとしていた事が分かります。自分の人生をかけて運動に身を投じると言う決意は、まだ20そこそこの若者がそこまで考えるとは、今の世の中との違いを痛感しました。安保闘争、沖縄返還にまつわる政府の策謀など、こう言う風に言われると、彼らの言っている事はもっともであり至極当然のことを言っているのだ・・と言う気持ちになります。

ある意味、武力闘争に走ったわけも、本書を読めば共感はできなくても、なんとなく得心に近いものは得られるような。。。。いや、決して納得はできず、銃や爆発物での暴力に突き進んでいく恐ろしさが感じられるのですが、なぜ、それが度を越して行き、大量殺人になっていったか。順を追ったり、後先になりつつ、詳しく書かれているのですが・・。

本の中で他の人の手記にも言及していて、訂正や加筆解説があったのですが。正直に言いますと、リンチ殺人の主犯であり、赤軍のリーダーの森恒夫の言ってる事は私なんかにはあんまり分かりませんでした。。(^_^;) 坂口もそれに対して丁寧に考察解説してくれているんだけど、森の言う事が分からないので、いくら丁寧に解説してあっても、読めなくて・・・斜め読みしちゃいました。。。これで読んだとは言えないかもしれませんけど・・。

でも、やっぱり映画「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」よりももっと残酷さが出ていて、怖かったです〜!特に印象的なのは、やっぱりやっぱり遠山さんへのリンチなんですけど、永田が鏡を・・・この一連の出来事の中で、あの「鏡」は特に印象的です。実際にもしも自分の知り合いがあんなことになったなんていうのは、想像を超える衝撃があっただろうな・・と改めて思います。 坂口の逮捕後の取調べの中で、金子みちよさんと嬰児の遺体が並べてある写真を見せられるくだりは、また、それも絶句してしまう恐ろしさがありました。

たった一年で自殺してしまった森恒夫に比べて、国外脱出もせずに死刑を待ちながら、こうして事件に真摯に向き合おうとする著者の姿は、評価できる一面もあるんじゃないか・・と思わずにいられませんでした。



2009年の読書記録*11月



おとうと/幸田文★★★★
幸田露伴の娘である、幸田文による、自分の弟を亡くした時の思い出を込めた小説。 これは先日まで、朝日新聞の日曜、読書のコーナーの「百年読書会」っていうのがあるんですが(担当 重松清)そこで取り上げられていました。

私は、中学生のときに読んだのですが、おおまかなあらすじしか覚えてなくて。。「弟が結核で死ぬ話」という。おおまかにも程があるというか、結末しか覚えてないのじゃないか!と言う話(^_^;)。 なぜ読んだかと言うと、これ、その当時郷ひろみが主演で映画になったんですよ。姉の役は浅茅陽子さん、お母さんの役が、岩崎加根子さんだそうですが、姉弟の二人の配役しか記憶にないのでした。いや、とくに郷ヒロミのファンではなかったけど、映画好きだったので見に行っただけ。

小説は、品のある名文でイマドキの小説にはない雰囲気が楽しめました。 前半は、弟がやんちゃで身を持ちくずしていく様子・・・母親が義理の母でリョーマチ(いまはリウマチと言いますが・・)なので、家事全般を17歳の姉、げんがやっています。学校と掛け持ちで家事をしながら、母の愛情に飢えている弟の世話をしているようすが、健気です。案外のんきで、若いからこそのその場限りの勢いみたいなのもあって、面白い性格の姉です。 弟は甘えん坊で、体も小さく、ふとした弾みから道を逸れてしまうのですが、そんな弟を心配する姉の心情が切々と伝わります。なさぬ仲の母との不仲もあって、恵まれてない境遇なんですが、それでも母の立場も思いやれる優しい姉、げんなのです。

後半、その2年後の設定で、碧郎が結核になってしまいます。当時は不治の病。絶望のなかで寄り添うように介護し、されるふたりの姿になみだ、なみだ。 悲しい物語なのですが、暗い感じは受けず、(結核で暗いと言ったら「リツ子 その愛」「その死」という壇一雄の小説というか自伝がすごくインパクトがあって、あの暗さに比べたら明るく感じるのかもしれません。結核と言う不治の病で、明るいと言うのも変な話ですが)私はひたすら、げんと碧郎がお互いを思い合うきょうだいというつながりの愛情や優しさに感動しました。

しかし、中学当時、私はこれを読んでどう思ったんだろう? 頭のいい文学少女の友だちがいて触発されていたんだけど、その子とは映画も一緒に見に行ったんでした、精一杯背伸びして読んだのだろうなぁ・・。それが証拠に全然内容を覚えてなかった! 覚えている事と言ったら、碧郎の唇が赤いって言うことと(結核患者特有)今わの際に母が呼ぶ「碧郎さん!碧郎さん!」と言う声だけなのでした(^_^;)。



龍神の雨/道尾秀介★★★
母親を病気で亡くしてから、後妻とのなさぬ仲に孤独感を募らせるふたりの兄弟、辰也と圭介、母親亡き後その結婚相手との三人暮らしでギクシャクしている家庭で暮らす、連と楓の兄妹。 嵐の夜をきっかけに交錯したふたくみのきょうだいが織り成す物語とは。。。 重いけど重すぎず、単純にミステリーとして楽しめる一冊。 嵐の中に龍の姿が垣間見えたりして、幻想的な部分もあり。 一般的に受けると思われます。 世間的な評価ほど面白く感じなかったけど、ラストには「なるほど!」と手を打ちたくなるような、はっとさせられるような感じが良かったです。



ちょいな人々/荻原浩★★★
●ちょいな人々
●ガーデンウォーズ
●占い師の悪運
●いじめ電話相談室
●犬猫語完全翻訳機
●正直メール
●くたばれ、タイガース

荻原さんらしい、ユーモアあふれクスクスと笑えて和める一冊です。 ユーモア小説、私はあんまり読まないけれど、奥田英朗さんのユーモア小説も好き。荻原さんとはちょっとカテゴリーがかぶってる感じですが、やっぱりオギリンのほうが優しいユーモアって言う感じがします。「犬猫語完全翻訳機」と「正直メール」とは連作になっていて、本心は隠しておくほうが良いのかも、と思えてちょっと皮肉が利いているのも面白いです。



ミレニアム2炎と戯れる女/スティーグ・ラーソン★★★★★
「ミレニアム1 ドラゴンタトゥーの女」に続き、さっそく本作も読みました。 うんうん、面白い!!こんなに面白い本はついぞないと言うぐらい、釣り込まれました。 いろんな意味で焦らされるし、先を急がされる。 なんといってもヒロインのリスペットの魅力が大きい。こう言う人物設定は今まで男限定だった気がするけれど、か細く少女にも見えるような女性だからこそ、読者の心をつかむのだと思う。 ミカエルはかなり節操がなく・・もてるのは分かるけど、ノリが軽すぎる・・・のだけど、本当に心の温かさが伝わり憎めない。 孤独なリスペットを支える周囲の数少ない友人たちを含め、登場人物が魅力的で物語と同じくらい大好きになってしまいました。 3も楽しみ。 でも、3で終わりなんですって。作者は急逝したらしい。惜しすぎる。。。。 こんなに才能があれば、本人もきっと無念だろうに。 だから3はゆっくり読もうと思います・・・無理です(笑)。



プリズン・トリック/遠藤文武★★
刑務所の中で、受刑者が殺される。しかも密室殺人。そのうえ犯人は同じ受刑者で、犯行の後に脱獄している。しかし、逃げたと思われる犯人は、自宅にいた。思わぬ状態で・・。 混沌とする不可思議な事件を追うのは、警察ほかジャーナリスト。真実はいかに。。 うーん、面白い設定だと思うのだけど、話が良く分からん!! 選考評に書いてあったが、視点人物が多く混乱するし、その時々の視点が誰のものか分かりにくく、ともかく分かりづらいので読むのが面倒。 終盤になってきて謎解きが始まると、動機こそ興味あれど、密室がどうとかの手段にいたってはもう正直どうでもいい、と思えてしまい斜め読み。しかし、最後はどう言うことだったんだろうか。もやもやっとしたものが残る・・・というどころではなく。はっきり教えて下さい、みたいな。 密室殺人などの本格ミステリーでいつも思うのは、「そこまでする?」と言うこと。 これを思うのなら、多分本格を読んではいけないのだと思うんだけど、つい思ってしまいます。 今回はどうだったのか。私はやっぱり「そこまでする?」と思ってしまいました。 気持ちは分かるけど。でも思うのと「密室殺人」までする行動とは違うから。 これは今年度第55回の江戸川乱歩賞受賞作品です。 あと、誤植発見したかも。238ページの11行目、かぎカッコの中の人物名が違うのでは?ただでさえややこしいのに、名前を間違われては余計に混乱するのでした。



図地反転/曽根圭介★★★
タイトルの図地反転とは、この本の表紙絵のとおり、壷に見えたり向かい合う二人の人物の顔に見えたりという、錯覚の一種のことを言うらしいです。 ある幼女殺害事件が起きて、容疑者が捕まる。その片方では、過去に幼女殺害で実刑を受けた男が出所していたが、事件のあおりを受けて生活の場をなくしてしまう。 事件の真実に迫りながら、元受刑者を支援すると言う事や、冤罪の恐ろしさを描いていきます。 物語はなかなか面白く、グイグイと読まされて好感触を得ましたが、読み終わって見れば「あれ?あれは、あのひとは?」と言う感じで、中途半端に終わってしまっている気がします。 特に、加賀美や望月という登場人物の描き方が中途半端に感じました。 ただ、図地反転というひとつのテーマ、思い込みや刷り込みによって真実が歪められてしまうという部分は面白かったです。たしかに、記憶なんて当てにならない。何ヶ月も前のことなんて忘れてる。昨日の事も大半忘れてしまうのに。 それを言うと、推理小説なんかはかなり無理のあるものが多いな(たとえば、何年も前の目撃証言を採用したりとか)・・と、苦笑してしまいます。 いや、小説の中の話ならいいんですけどね・・・。



後悔と真実の色/貫井徳郎★★★
凄惨な連続殺人事件を軸にした、警察小説なのですが、あまりにも登場人物(警察内部の人間)が多すぎて、その関係を追うだけでも一苦労。 視点人物・・・と言うらしいんだけど、それが多かったのはおそらく「乱反射」みたいに、群像劇風にしたかったのかな?と素人判断で思った。でも、それにしては、何かあるに違いないと思わせられた登場人物が中心からはフェイドアウトしてしまったりと言う、中途半端な結果になったと感じました。その間、とても読むのが面倒で、得意の斜め読みにしてしまいました。 面白い!!と思えるようになったのは本当に終盤で、でもその終盤の吸引力は結構なパワーがあり、釣り込まれましたが、もっと早くからこの面白さが出てきたら良かったのに、ちょっと残念な小説でした。 でも、ラストのなんとも言えない虚しい感じは好きなんですよね。 次作に期待!



無理/奥田英朗★★★★
3つの町が合併してでできた人口12万人のゆめの市。 古くからある商店街はさびれ、国道沿いの「ドリームタウン」が唯一の盛り場だ。この街で暮らす5人――県庁職員だが社会福祉事務所に出向し、生活保護支給業務などを担当する相原友則、東京生活を夢見る女子高生の久保史恵、詐欺まがいの商品を売りつけるセールスマンの加藤裕也、スーパーの保安員をしながら新興宗教に救いを求める堀部妙子、県議会に打って出る腹積もりの市議会議員・山本順一――が鬱屈を抱えたまま日々を送り、やがて思いがけない事態に陥っていく。奥田ファン待望、『最悪』『邪魔』以来となる渾身の群像劇です! (文藝春秋社公式サイトより)

私が暮らす町は、ゆめの市ほどは田舎じゃないと思うけれど・・まぁまぁ似たようなもんだろう。だからこの小説のあちこちで「わかるー!」と何度も共感しました。とてもリアルにそのあたりのことが書かれていて、奥田さんさすがだと思います。ゆめの市の現状は、小説の中だけと楽観できるものじゃなく、いつかはわが市にもやってくる未来・・のような気がする。重苦しい気持ちになりながら読みました。特に「介護」がテーマのある登場人物。年齢的にも彼女が一番目を引いたような気がします。 Amazonのレビューでは、評価がかなり分かれているようだけど、それも分かる。一気に読まされるだけの吸引力があるのは本当だけど、その登場人物たちがどうやって物語りに「オチ」を付けていくのか・・と言う部分で、少々期待はずれだったかも。そこに「無理」を感じた次第。



ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女/スティーグ・ラーソン★★★★★
巷で「メッチャ面白い!」と話題のミステリー。読んでみました。 すっごく面白かったです!感想って言ったら「面白かった!」としか言えないぐらい面白かったです(笑)。 主人公は、ミカエル・ブルムクヴィスト。雑誌「ミレニアム」のジャーナリスト。宿敵ヴェンネルストレム(大物実業家)の記事を書き、名誉毀損で訴えられ有罪に。その折、ヴァンゲル・グループ前会長のヘンリックがミカエルの立場と人物を見込んで、36年前に死んだ(行方不明になった)自分の姪ハリエットを探してくれと言う依頼をする。 ヘンリックに依頼され、ミカエルの身辺調査をしたのは、ドラゴン・タトゥーの女、リスベット・サランデル。彼女の人並みはずれた優秀さを見込んで、ミカエルは彼女を「仲間」に加える。 果たして、ヘンリックの依頼は成就されるのか。

・・・ともかく、最初はやっぱり読みづらくて、読むのをやめようかと思いましたが、リスベットの登場あたりから、あるいはミカエルにヘンリック側が接触してきたときから、俄然面白くなってきて一気読み!これから読む人には、万が一最初面白く感じなくても、どうかその辺まで我慢して読んでみてと、言いたいです。 ミカエルと言う人物も好感が持てるんだけど、やっぱり何と言ってもリスベットですね。男の上司に女の部下・・みたいな形で、「ライムシリーズ」を思い出すんだけど、こちらは頭が断然回るのが女性で部下の立場のリスベットなんです。頼もしいことこの上ない。彼女の活躍を見るにつけ、胸がすく感じがします。 しかも、彼女はとても複雑な背景を抱えていて、ただ頼もしいなどと胸がすく活躍を楽しむだけではなく、アンバランスな危うさに目が離せません。 二人のコンビがともかく、いいです。 ミステリーとしてもとても面白く、まぁ正直に言えば、そこまでビックリするほどのオチでもないんだけど・・・でも、ドキドキハラハラ、一体真実は?と、ミステリーを読むときには大事な部分がキッチリ押さえられていて、大変に楽しませてもらいました。 難点は、人物名が難しいことかな(笑)。スウェーデンのミステリーだそうで、だから耳馴染みのない変な名前が多いのかな?まぁ慣れれば問題なし。 今から、第二部を読みます。楽しみ♪



怪魚ウモッカ格闘記/高野秀行★★★★
Amazonの評価を見ると、★がひとつなんていう辛口もあり「詐欺」と言う言葉も見られますが、それはありていに言うと、この本では高野さんがインドまで行っていないからです。インドまで行くと思って本を手に取ったら、ガッカリする気持ちは分かります。私は前もってそれを知っておいて読んだので、ショックはなかったし面白く読むことが出来ました。 どうしてインドまで行けなかったのか・・ということは本書を読んでいただくとして、私としては今までUMAを探してきた高野さんの本を数冊読んだけど、これが一番「未知生物発見」「新種発見」に近いのではないかと思いました。だからいま、この本の続きが出るのやら出ないのやら、高野さんがインドに行ったのやら行ってないのやら、その後の事は分かりませんが、ともかく続きが楽しみです。 絶対にいる、ウモッカ。ガンバレー!! それと、多分「西南シルクロードは密林に消える」あたりを読んでいれば、なぜ高野さんがインドに行かれないのか、もっとはっきりとした成り行きが分かるのじゃないかな?と思います。



2009年の読書記録*10月



悪党/薬丸岳★★★★★
主人公の佐伯修一は元警察官だけど不祥事を起こして退職し、今は探偵事務所に勤めている。 その探偵事務所にあるときひとつの依頼が来た。自分の息子を11年前に殺した男、坂上が今、どうしているのかを調べて欲しいと言うものだった。当時少年だった坂上は、2年間少年院に収容されて出院している。いまだに坂上の罪が贖われたと思えない依頼主は、坂上を赦すか赦さないかを「知りたい」と言う。。。。

実は主人公の佐伯修一も、過去に肉親を犯罪でなくすという過去を持っています。過去とは言っても修一にとってはその苦しみや悔しさなど、あらゆる感情はそのままであり、まだまだ「過去」の話ではない。この探偵事務所に来るそういう依頼「犯罪者のその後を追う」と言う依頼に答えつつ、自分のいまだに癒えない苦しみや憎しみと向き合って行く修一の姿をとおして「贖罪とは」「赦すとは」など、考えさせられる物語でした。

赦す・・・とは、一体どう言うことだろう?
たとえば、裁判を受け量刑にあった刑を執行される。
5年間の実刑判決を受けるとすると、その5年が過ぎたら社会的には赦されているわけでしょうか?だけど、この本の中で被害者の肉親たちは、5年過ぎても犯人を赦す事ができない。それならば、犯人は赦されていないのか?誰が赦せば犯人は赦されるのか?社会が赦すとき?被害者遺族が赦すとき?ひょっとして神が許せば贖罪は終わるのか。(韓国映画の「シークレット・サンシャイン」はそんなところを深く問題提起していたので、本書を読みながら思い出した)そんなことをグルグルと考えながら読みました。
人の命を奪ってしまう、それは殺人事件だけじゃなく、事故でもあるし、殺意がなくて致死に至る場合もある、この本では「犯罪」に限られていたけれど、命を奪われて「赦せない」と思っている人たちは沢山いると思います。赦せないというか・・・家族を亡くした悲しみなんかは、どうやっても癒されないのじゃないかと思いますね。たとえば交通事故・・・まだ先のある人生を奪われた本人も、あるいはその事故で母を喪った子どもたちの悲しみは・・・いったい、赦される事か?
私はやはり、赦される事はないのではないか・・その罪は一生背負っていくべきじゃないか?と思っています。だけど、それは一体どう言うことなのだろうな、どう言う状態が逆に「赦されていない状態」なのだろうな・・・。
本書はそんな深いところに訴えてきた感じがしました。
修一は、本書の冒頭にあるように、肉親を犯罪で喪います。その苦しみ悲しみが読んでいて辛くて、かなりリアルに迫ってきました。
修一と坂上、そして修一の探偵事務所の所長である小暮、またキャバクラ嬢の冬美など、自分を取り巻く人たちとの関係のなかで、答えを見つけ出していく修一の姿に胸を打たれました。
事務所への依頼ごとの連作短編の形を取りながら、ひとつのテーマの答えを見つけていくという形ですが、とても心に残る一冊になりました。
ミステリーとは言えないのじゃないかと思いますが、一貫してこう言うテーマ・・・「少年犯罪と、その後」と言うものを扱い続ける著者の姿勢にも好感が持てます。また次作も期待しています。



新参者/東野圭吾★★★
日本橋。江戸の匂いも残るこの町の一角で発見された、ひとり暮らしの四十代女性の絞殺死体。「どうして、あんなにいい人が…」周囲がこう声を重ねる彼女の身に何が起きていたのか。着任したばかりの刑事・加賀恭一郎は、事件の謎を解き明かすため、未知の土地を歩き回る。 (「BOOK」データベースより)

日本橋署に配属になった加賀刑事が、下町情緒あふれるその町で地道に聞き取り調査をして、土地の人と触れ合いながら事件の真実に近付いていく連作短編集です。 一話一話の落とし方が人情味にあふれていて、ホロリとさせられる物語ばかりで、後味のいい作品です。 ただ、ミステリーとしては甘口。事件解決までがじれったく思えました。 もうすこしパンチが欲しいな・・・東野さんはやっぱりハードルが高い。



預けたお金を返してください!/矢吹紀人★★★★
ある日銀行でいつものように記帳しようとする。はて、通帳が見当たらない。 とりあえずキャッシュカードで残高を確認する。その金額をみると不思議な事に残額が「0」と表示される。何かの間違いかと思い窓口に尋ねる。 窓口の行員は言う。「昨日、全額お引き出しになられました」と・・・。 そんなはずはないと食い下がると、行員は「お客様相談室」に案内した。 そこで言われたのは「ご家族の誰かがお金に困って黙って引き出されたんじゃないですか。納得いかないのなら警察に行って下さい」・・・と言う信じがたい一言だった。 打ちのめされながら警察に行くと、「またあそこの銀行か!」と呆れた様子。 どうやらこの手の被害が多発しているもよう。それなのに、銀行員は易々とお金を渡してしまったのか。印鑑は貸し金庫に預けてあり、安全だと思っていたが・・・。 その後の銀行の態度も、警察の態度もとても被害者に親身になっているとは言いがたく、意外にも盗まれた通帳から引き落とされたお金は、銀行側に落ち度がなければ返金の義務がないそうだ。 そのようにうたわれている民法487条が存在する為に。 被害者は泣き寝入りするしかないのだろうか。

と言う、冒頭のショッキングなケースを読んで、背筋が凍る思いがしました。 そして読み進めるうちにもっと恐ろしくなりました。 二つの意味で恐ろしいです。 ひとつは、もちろん、知らないうちに通帳やカードを盗まれ貯金を引出されてしまうと言う犯罪被害に対する恐怖。ドアをピッキングで開ける、物色して易々と通帳を盗む。印鑑をスキャンなどして簡単に偽造する、カードは3分あればスキミングして、暗証番号も分かってしまう。これらは自分が知らないうちに行われる・・・。と言う恐怖。 もうひとつは、「被害者」でありながらも、誰からも守ってもらえず、あまつさえ銀行警察両機関に不誠実極まりない態度で傷つけられてしまうという恐怖。 被害者の「安全だと思って銀行に預けているのに・・・!」と言う悲痛な叫びが胸に痛いです。 たとえば、預金者が60歳とか65歳なのに、窓口で現金を引き出したのは30代の男。(防犯カメラで確認)なのに、窓口行員は本人確認もせず大金を渡している・・とか、自分の誕生日や住所を書き間違えても渡している場合もあるし、不審に思って深く追求しようとして、その「犯人」に逃げられても、通帳の持ち主に何の連絡もしないとか・・・杜撰なことが書かれていて、言葉もありません。 被害を訴えても 「本当に盗まれたの?落としたんじゃないの?」とか 「アルツハイマーってこともある」とか 「あんた、若い娘なのに1000万円も良く貯めたね」とか ・・・銀行さん、その態度はないでしょう?と、言いたくなるような話が満載で、空恐ろしいです。 ちなみに、「預貯金過誤払い問題」と言います。 そして、薬害エイズの訴訟に関わった弁護士たちを中心に、(じつはこの弁護士さんたちも被害にあっており、数少ない原告勝訴を勝ち取っている)2002年「預貯金被害110番」が立ち上げられました。 被害者が一縷の望みを託してここに接触して、(その数の多さに驚く。電話が鳴り止む事がなかったようです)被害者のつながりができ、その輪が広がり、集団訴訟へと発展していきます。 被害者の人たちは、「ちゃんと通帳やカードを管理していなかったから悪いんだ」と言う中傷を受けることもあったようですが、被害者が訴えなければ世の中は変わらないと、その一心で奮起しされたようです。 それまでの裁判の判例から、原告が勝訴するという事はとても稀有なことであり難しい事だったそうですが、弁護士さんたちの知恵と働きで、法律を変えることに成功するまで、被害者の人たちの戦いを本書の後半で書いてあり、ドラマよりもドラマティックで手に汗を握る展開。真実は小説よりも感動的です。それにしても、その甚大な苦労と言うかパワーと言うか・・・。頭が下がると同時に、ここまでしないと、保護されないなんて変だろう・・と言う疑問が。 たとえば、クレジットカード会社などは、カードの盗難の場合には全額補償するそうで、通帳よりもキャッシュカードに対してはもっと頑なに被害を認めない銀行って・・いったいなんだろう?と思ってしまいます。 憎むべきはたしかに、「泥棒」なんですけどね。 「預金者保護法」が法制化されたといっても、今後も被害は後をたたないだろうし、明日は我が身かもしれません。一読の価値ある一冊です。



IN/桐野夏生★★★
今は亡き純文学作家緑川未来男の私小説「無垢人」の中に登場するある女性(○子、と表記され、この作家との不倫で作家の家庭を破綻させた)をモデルにして、自分も「淫」と言う小説を書こうとしているタマキ。○子の人物像が自分の書こうとしている小説のキィになると考えから、当時を知る人たちを訪ね歩き、○子の正体を探ろうとする。緑川の小説や、緑川を知る人の回顧録をはさみながら、清算したはずの自身の不倫を引きずっているタマキの懊悩が描かれていく。○子の正体はわかるのか、タマキの気持ちに決着は付くのか。。。。。

++++

タマキと不倫相手の青司の恋愛もよう、ドロドロとした深い内部の絡み合が夏野さんらしく見事な心理描写で描かれていて釣りこまれてしまいましたが、私の中でリアリティを感じなかったのは、あまりにもタマキの「家庭」が描かれていなかったから。 不倫相手とこれだけの修羅場を演じてきたのなら、きっと家庭内の葛藤もすごかったはずなのだけど、意図的にとは思うけどサクっと削除されている。家庭人から見れば、それは有り得ないのです。それをすっ飛ばして物語が成り立つとは思えない。 逆に、緑川なる作家が書いた「無垢人」の中にそれが「これでもかー!」と言う程に描かれているので、多分タマキのほうは書かなかったのかなと邪推しています。 でも、それによって、どこか「夢物語」のような感じがしていると思いました。 最後までとても面白く(興味深く鷲掴みされ)読みましたが、終わってみればまたしても桐野さんらしく、ぽいっと荷物を預けられたように、え?このあとこれをどうするの?と言う戸惑いが残ります。 いつもそうなんですよね。



ペルザー家 虐待の連鎖/R・ペルザー★★★
ずっと以前読んだ「ITと呼ばれた子」シリーズの、デイブ・ペルザー氏の弟が書いた一冊。 彼は、デイブがこの忌まわしい家から助け出された後、デイブの身代わりのように、母親に虐待を受け始めます。自分が兄にしてきたこと(母親の機嫌を損ねないように、兄の虐待に加わったりしたこと)を思い出しながら、ひたすら虐待に耐える姿が痛々しすぎる。 文中にもあったけど、福祉関係や警察の人たちは、なぜこの家でデイブ以外の子どもが被害にあっているということに、思い至らなかったのだろう?この家の様子を見続けることは、当然のごとく必要だったはずなのに・・・。 「IT と呼ばれた子」は、虐待の凄まじさもさることながら、そこから受けた「傷」を里親の愛情によって克服して行き社会復帰を果たしたデイブの姿が感動的であったし、また、里親制度の必要性を強く訴えると言う面がとても大きかったと記憶していますが、この弟によって書かれた続編は、前書きから、今現在は幸せに生活しているんだなとわかるものの、著者が虐待を受けている生活の中で唐突に終わってしまっているので、ひたすらやるせなかったです。



2009年の読書記録*9月



アジア未知動物紀行 ベトナム・奄美・アフガニスタン/高野秀行
★★★★
ベトナムの猿人「フイハイ」
奄美の妖怪「ケンモン」
アフガニスタンの凶獣「ペシャクパラング」
今回高野さんが探しに行ったのは、上記3つの「UMA」です。
実はUMAがいるかどうかと言うことは、前の感想にも書いたとおり、私はどちらでもいい。いるのなら、はっきりとした正体を知りたいと思うし、いないのならなぜそこに「UMA」伝説が出来上がったのかを教えてもらえたら面白いと思っています。
高野さんの探索は、まさにそんな私の要求に即したスタイルになっていて、UMAを探そうとする高野さんやカメラマン森さんの行動なども面白いのだけど、「UMA」を取り巻くもの、ひと、感情、時代背景、民族的な文化や生活感、自然・・そういったものがとても面白く読めるのです。あんまりにもスピリチュアルに偏ると、私には読めないと思うんだけど、高野さんの文はそうではないのがいいです。
すごく頭が切れるひとだから、政情や環境についても解説されていることが分かりやすく、いたるところで「へぇ〜そうだったのか」と「教えてもらえる」ことが多いのも嬉しい。たとえば、ベトナムのジャングルが破壊されつつある現状とか、アフガニスタンで米兵がどんなに嫌われているかとか・・・。
特に今回アフガニスタンに行った話は一番面白かった。
アフガニスタンの「ペシャクパラング」は、他の2つの土地でのUMAよりも、輪郭がはっきりしているので、特に面白く読めました。
また、現地ガイドの青年との交流など、そこにある人と人とのつながりが描かれているのも、なんだかほっこりとして良いです。毎度のことだけど、現地を去るときガイドさんたちとの別れのシーンは、ジーンとします。こう言うところがすき。
本書の後書きにある、「遠野物語」以後の柳田国男のように、「怖いものを現代の知識で解体し、『恐怖』を無くする」立場と、「怖いものを大いに怖れよう」と言う立場との境目で揺れ動き、今はどちらかと言うと、反柳田のほうに振り子が揺れているように見受けられる高野さん。夢のない現実主義の私はどっちかと言うと柳田国男と同じスタンス・・と言うほどご大層なものではないけど、科学的、民俗学的に「解体し、解明し(たことを教えてもらい)納得したい」立場です。だから、高野さんが今後あまりにも、「そっち」方面に行ってしまったら、ひょっとしたら読めなくなるかもしれないなぁ。
何事もバランスではないだろうか?と思ってしまう。



幻獣ムベンベを追え/高野秀行★★★★
ここのところ、ハマっている高野さんのデビュー作がこれ。
早稲田大学在学中に、探検部から実際にコンゴに渡り、テレ湖に棲むと言われている、幻獣ムベンベを見つけるプロジェクトを立ち上げ、本当に現地に行き、40日近くテレ湖畔でキャンプを貼り実地調査した記録を本にしたもの。
この本の読みどころは大まかに分けて、3点あるかと思います。
その1、ムベンベは本当にいるのか、見つけられるのか。
その2、大学のサークルと言う素人軍団?がどこまでやるか。
その3、ずばり、本として面白いのか。
なんて書いてしまうと、上から目線のようですが、もうとっくに高野サンのファンになっていたので、期待度120%で読みました。もちろん、期待以上の面白さ。こう言う本、大好きです。
個人的なことを言うと、私は、ネス湖のネッシーも、UFOの存在も信じてない(ユーレイも占いも)超現実主義。( しかし、以前鹿児島に住んでいたときに池田湖にイッシーがいると言うのを聞いて、池田湖を眺めると、本当に「イッシーがいたら見たい!!」と言う気分になってしまったのも事実。真剣に湖面を眺めてイッシーの影を探しましたっけ・・・。アレは不思議。まぁ池田湖には巨大なウナギがいるので、あながち巨大生物がいても妙に納得してしまいそうですが。と言うのは置いておいて。)
だから、ムベンベが実際に見つかるかどうかは、実は私の中で、興味の度合いとしては低かったのです。
私が読んでいて面白かったのは、やはりこの一行の行動力です。
たかが大学のサークルと侮るなかれ、前準備などを含め、国交のないコンゴ政府とのやりとりや、現地の専門家の手配や、各企業の提供を仰ぐなどした機材の調達、ともかくプロと言っても過言じゃないその準備周到さであり、体勢の万端さであり、、、現地に行ったら行ったで、キャンプの張り方から見張りや探索など、これまたただの学生とは思えない手際のよさ。問題が勃発してみんなで話し合いをするときの意見交換の内容の高度さ(やはりエリート)などなど、へぇ〜ほぉ〜とただ唖然。
著者高野さんなどは、現地のリンガラ語まで会得して現地の人たちと現地の言葉で話すという堪能振り。「メモリークエスト」で、リンガラ語にものすごく思い入れのある記述が出てきて、その時はその興奮振りがちょっと分からなかったのですが、これを読んで得心しました。
一番印象に残っているのは、コンゴ人のガイドたちが狩りをする様子です。野ブタやワニはともかく、ニシキヘビ、サル、ゴリラ、チンパンジーまで食べてしまうのは驚き。そのほかにもマラリアの恐怖、各種虫たちの恐怖など、読んでいるだけでも背筋が凍りそうな部分も、なぜか面白く読めてしまいました。隊員たちの必死の姿、やがてやつれまくっていく姿の不憫さに、そんなのいるわけないでしょう・・・と思ってしまっている私でさえ「見つかって!」と、思ってしまいます。
そして、読みどころの3番目。高野さんの書く文章の面白さ。これに尽きます。卒論にアフリカ文学の翻訳をして認められ、その翻訳が一般文芸書として出版されているのも頷けます。妄信的に「ムベンベはいる」と思ってるのじゃなく、冷静に「いないならいないでもいい」というスタンスのようなので、まったく違和感がなく応援すらしてしまうのです。
本書は、ただの「探検のまとめ」としてではないと思います。そこには40日の間ジャングルで文明人が暮らす事の困難さの中に、人間の本質みたいなものが顕われていて、大変興味深かったです。
巻末には、各メンバーの一言コメントもついていて、それも面白く読ませていただきました。
ただ、自分の息子がこんなことをしようと言ったら、、、と思うと、ちょっと「感動」とか「興味深い」ではすみませんね・・・・!





ワセダ三畳青春記/高野秀行★★★★
私は今年に入り、最近までこの著者を知らなかったのですが、知る人ぞ知る辺境作家と言う肩書きを持つ人です。それは読んできた数冊の著書からも知っていたのですが、その背景には「早稲田大学探検部」というサークルがあり、そのサークルの先輩には、かの船戸与一氏やら西木正明氏やら著名作家も名前を連ねており、タダのサークルではない迫力が伝わります。そのことは、この次に感想文を書く予定の本でも触れる事になりましょうが、ともかく、「その」探検部の高野秀行氏の青春時代の一シーンを切り取ったものが本書です。ともかく面白い。
早稲田大学の正門から徒歩5分なのに、家賃1万2千円。三畳で風呂なし、共同トイレに共同台所だけど、鍵も掛けずに誰でも出入り自由的なのんびりした感じ。都会の真ん中現代で、そんな場所が残っていたのかと言うほのぼのとした嬉しさと、集まってくる奇人変人の可笑しさが群を抜いていて、目が離せないと言うか、一気に読み上げてしまいました。本書のなかにもそういう記述があるけど、「めぞん一刻」みたいでもあり、「ハチクロ」みたいでもあり、貧乏生活が楽しそうにさえ見えてくるから不思議です。でも、一度はこう言う生活をするのも、人生経験として大事な気がする・・。
特に印象的なのは、この大家さんの朗らかさや大らかさですね。大家さんの大きな懐に抱かれるように、心地よく自由で気ままな生活を楽しんだ著者が、やっと「成長」してこの野々宮荘を離れていくまで・・・。
著者を野々宮荘から連れ出したものの正体が分かるとき、そこにほろ苦い別離の寂しさとともに、人と人が結ばれる「機縁」のようなものを見せ付けられ、圧倒されてしまいます。こんなにあけすけに、自分の愛情を世間にさらせるっていうのは、高野さんがすごく大らかで男気がある証拠であるような気がします。なかなか言えないですよ、ここまでは。
最後はもう、なんだか胸が詰まって泣けて泣けて仕方がありませんでした。

個人的には「米騒動」の犯人と言うか真相は?というのが気になります。守銭奴さんのその後も。



水神/帚木蓬生★★★★★
帚木さんの歴史大作、「水神」読み終えました。
感動覚めやらぬうちにさっさと感想を書いてしまいたい!
「国銅」で、後世に残る奈良の大仏という大きなプロジェクトに参加した国人の人生を描いたように、今回は筑後川の堰を作った農民たちの姿を描いた作品です。
江戸初期がこの舞台の時代背景です。島原天草の乱で、父親を亡くした元助が、まずは主人公。
元助の村やその近隣の村々では、近くに筑後川と言う大川がありながらも、土地が高いところにある為に川の水を農耕に使うことができず、たいそう貧相な農作物にしか恵まれず、だから生活もとても苦しかった。ある村では天秤桶で水を運び、そして元助たちの村では元助と伊八と言う二人の百姓によって、堤防の上から綱をつけた桶を下ろし、ふたりで息を合わせて水を救い上げる、「打桶」と言うやりかたで、水を川から一日中、田んぼに流しているのです。伊八などは、40年間休むことなくこの打桶を続けています。気が遠くなりそうです。
そんな風にしても、水の豊富な地方との収穫の差は大きい。この苦労を断ち切るためには、筑後川に堰を作り、田んぼに引水するしかない。と、堰を作らんと立ち上がったのが、元助たちの村の庄屋を含め、5人の庄屋たち。
堰作りに彼らがかけた命運、そして、その事業の困難過酷さ、事業にかける男たちの姿を、帚木さんらしい、「美しい」筆致で描いてあります。
「国銅」と共通して感心したのは、読んでいるときに、まるでその世界が目の前に広がるようなリアルな風景を感じるのです。本当に、17世紀の日本に行ったみたいに。何度も、同じように感心して読んでいた「国銅」を思い出していました。
登場人物たちも、すごく生き生きと描かれていてそこにいるかのよう。特に、元助と伊八のふたりが堤防の上で打桶をしている姿が、シルエットとなって実に見えているようなのです。
朝は暗いうちから働き出し、夜は夜なべをして、粗末な着物や粗末な住まい、粗末な食事。だけど、それを自分の本分と捉え、一生懸命にやるべきことをする。仕事を大事にし、牛を大事にし、生活を大事にしている。つましく苦しく過酷な農民たちの生活。
貧乏ながらも、けっして不満を口にしたりせず、かといって諦観しているわけでもなく、あるがままに受け止めているような百姓たちの姿は、この村の庄屋の助佐衛門が百姓たちのことを思い、自ら百姓たちとともに質素で堅実で誠実な生活をしているからなのだ・・ということが分かってくるのですが。そうした人と人との結びつきや、思いやりがそこかしこにあって心が洗われるようです。
たとえば、あるとき、元助が庄屋助佐衛門の提灯持ちのお供をして、隣の庄屋の家を訪ねます。そこで、庄屋同士の話合いのあいだ、待たされるとき、食事を振舞われます。隣の庄屋は、元助の庄屋よりも身代がよく、振舞われたご飯もご馳走なんです。お代わりは?と訊かれて、元助は美味しくてもっと食べたいと思いながらも、お代わりをすることは、自分の庄屋に恥をかかせることになる、自分の村の恥にもなる・・と、断ります。そんな風に、自分の事よりも庄屋や村の人達の事をさっと思える元助。彼に代表されるように、身分は卑しくても心がとても美しい人物がたくさん登場し、いかにも帚木さんらしい人物描写に心をグッと捕まれました。
もう一人の主人公、庄屋の助左衛門。村の百姓のことを思い、堰渠(えんきょ)を考えます。そして助左衛門と共に今回堰を作る為に立ち上がった4人の庄屋たち、みんなそれぞれに高潔で清廉なのが、帚木さんのヒューマニズムの集大成のように感じられるほど。5人で藩に直々に申請に行ったときの口上は涙なくては読めませんでした。その後も、庄屋たちの気持ちは揺るぐことなく、周囲の庄屋たちに伝播して行くのですが、大きな事業に向かってみんなの気持ちが一つに収束していくのは、本当に感動的でした。
多分、主だった登場人物のほとんどが実在の人物らしく、それを聞いただけでも目頭が熱くなります。会心のオススメです。

そして、実は筑後川の歴史は、これで落着するのではなく、他の地域でもなんとも壮絶なようです。この波乱に満ちた川と闘った他の地の庄屋たちの物語を・・・帚木さん、また書いていただけませんか?・・なんちゃって。



いのちの初夜/北条民雄★★★★★
以前、高山文彦氏の「火花」を読んだとき(感想はこちら)、是非とも「いのちの初夜」は読まねばと思いました。そのときネットの青空文庫で読めると教えていただき、表題だけはチラチラッと読んでいたのですが、 WEBでは読みにくく熟読には至らず。今回ひょんなことから自分の家の本棚にあることを知り、手に取ったのです。(青空文庫はこちら)

短編ばかりの薄い一冊の文庫本ですが、とても重量感があります。

収録作品は「いのちの初夜」のほか
「眼帯記」
「癩院受胎」
「癩院記録」
「続癩院記録」
「癩家族」
「望郷歌」
「吹雪の産声」
そして、巻末には川端康成のあとがきと、友人である光岡良二氏の「北條民雄の人と生活」という寄稿文、最後に年譜となっています。
「火花」の感想文にも書いたのだけど、ハンセン病というのは徹底的に差別迫害された病気で、そのことがまずこの病気になってしまう不幸のひとつだろうと思います。それがまず前面に来るのではないかと思っていましたが、この本を読んで、この病気の過酷さに改めて驚かされました。
特に「癩院記録」と「続癩院記録」は、小説ではなく日々この病院の患者たちがどのように過ごすのかを、淡々と記録したものなのですが、病気の軽いものは全て、重い病状の患者たちの世話をすることになっているようです。それがまた、分刻みですべき事が決められており、包帯の取替えや、食事の世話、下の世話など、とても大変なこと。それをこなしながらも、体の変形、段々と緩慢に変わって行く症状・・・自分の行く末を末期患者の見た目からはっきりと予知するのです。自分もやがてはあのようになるそして「ボロ雑巾のように死んでいく」と、知らされるその絶望の深さはどんなものか。それは想像を超えていると思うのだけど、この本から著者が受けた衝撃や味わった絶望、あるいは諦観が伺えます。身体的不自由や痛みももちろんのこと。
だけど、作品にチラチラと見え隠れする希望の気持ち。生きようとする強い気持ちも確実にあり、両方に揺れる著者の気持ちが伝わり、涙なくしては読めません。本当に内面の描写がすばらしく、思い切り感情移入してしまいました。(と言う言い方はおこがましいと思いますが)
また巻末の、川端康成、光岡良二両人の後書きが泣かせます。特に光岡氏の寄稿文は、真の友人として、真に著者を理解していることが分かり、友情の深さなどに感動です。だれがどうして、こんなに他人を理解し思えるのだろう・・・それが、著者民雄の生涯でも、特筆すべき事の一つなのではないかと思いました。
「火花」同様、心にずっしりと重く残る素晴らしい一冊でした。



青嵐の譜/天野純希★★★
蒙古の侵攻により混乱する高麗から、海を渡り嵐をかいくぐって逃げ延びた武官の娘、麗花。流れ着いた壱岐地方の商人の家に引き取られることに。その家の息子である二郎と、そして、唐人街の遊女だった母を持ちながらこの地方に引き取られた宗三郎。元寇と言う歴史上の一大事を背景に成長する3人の姿を描く大型歴史小説。

元寇とは、歴史の授業で一行二行の記述で終わった、鎌倉時代の出来事。襲来した蒙古は、それは酷いやり方で日本を攻めたのだとか、あるいは、神風が吹き蒙古を撃退したのだとか、そんな尾ひれだけは知っていたのだけど、詳しいことは何も知りませんでした。
この物語には、襲来された壱岐地方のことだけじゃなく、中国大陸や朝鮮半島の情勢も触れられていて、元がどれほど強大な軍事国家であり、周囲の国々を怯えさせていたのかなど広い視野で描かれていたのが読み応えある部分の一つだったと思います。
二つの襲来はそれぞれ、突然のことではなく、何度も元の皇帝から使者が来ていたとか、鎌倉はそれを無視していたとか、人身御供とさえいえるようなこの地方の人々の犠牲がいかに甚大だったかなど、当然ながら教科書に載っていない事ばかりで、その辺りが大変面白く読めました。
物語はその元寇に翻弄される3人の若者の姿を描いたものです。波乱万丈の世情の中で、やぱり波乱万丈に生きていく3人の姿は、結末が予想されそうでいてなおかつ先を急がされ、一気に読まされました。
所々文章使いに作者の若さが垣間見られたのも、若い読者には共感を呼び、読み易いのではと思われました。



メモリークエスト/高野秀行★★★★
辺境を旅することがすきな、冒険家?の著者が、新しい世界を見たいとの一念で、新境地を開拓すべく、WEBマガジンで一般公募を募り、「これを探してほしい」という依頼を受けつけます。その中で選りすぐりの依頼に答え、タイやセーシェル、アフリカ大陸に乗り込み依頼にそって「探し物」を探し出すまでをまとめたルポエッセイ。

昔タイのバンコクで出会った小学生の男の子が、今どんな青年になっているか・・・というほのぼのした依頼や、セーシェルで出会った胡散臭すぎるおじいさんを探してみてくれと言う依頼やら、くすくすと笑える依頼ももちろん面白いのだけど (結末にもびっくりが待ってたりもする) 後半の南アフリカ共和国での話は壮絶でした。こればかりは高野さん自身の昔出会った人物を探すと言う、依頼からは外れた話になってしまったんだけど、かのルワンダの大虐殺に関係した青年を探すと言うもので、ちょっとでき過ぎのような話になっていて、釣り込まれてしまいました。

こんな体験をこんな風に語れるのは著者の人柄と言うか性分と言うか・・・かなり惹かれてしまうものがあります。アフリカの話は切ない思いもありましたが、全般的に平凡に暮らしている私のような人間には「へぇ〜」の連続。とても面白く楽しく読みました。

高野秀行さんの本は、「ビルマ アヘン王国潜入記」を読み、とても面白い本を書く人だなぁと思い、心惹かれて、先日「世界のシワに夢を見ろ!」を読んで、この「メモリークエスト」が3冊目。まだまだ高野初心者ですが、これからどんどん読んで行きたいと思っています。
ちなみに、「世界のシワ・・・」もとても面白かったです!



1Q84/村上春樹★★★
社会現象ともなった村上春樹の「1Q84」BOOK1とBOOK2を読みました。
私の読書歴として村上春樹は、大昔やっぱり社会現象ほどベストセラーになった「ノルウェイの森」を読みましたが、小説はそれを読んだきり。
後に、オウム事件に関連して出された、事件の被害者たちへのインタビューからなる「アンダーグラウンド」を読みました。被害者の人たちの立場や想いが伝わり、胸苦しくなるような読書でしたが、とても重厚ですばらしい本だったと記憶しています。
その後事件を起こした信者側のインタビューをまとめた「約束された場所で」も、読もうとしたのですが、被害者たちの言葉に比べて、信者たちが言っている事がイマイチよく分からず読むのをやめたのでした。
今回、「1Q84」を読んでいて、まったく共感できず、面白くも無く、最終的にはワケがわからないと思ってしまったのだけど、その感触が、「約束された場所で」を読んだときに感じた「ワケのわからなさ」によく似ているのです。

物語は、青豆と天吾という二人の物語を軸にしています。
青豆は女性を苦しめる男を人知れず消していくという特殊な仕事を・・天吾は難読症の少女の物語を小説の形にすると言う仕事をしながら、やがてそれぞれ別々にカルト宗教団体の「さきがけ」や、謎の存在「リトルピープル」などに近付いていく。その中で、青豆や天吾の過去が明らかになり、二人の接点も、互いに思い合っている事も見えてくる・・。
読み終えて思うのは、私には物語のテーマ自体が分からなかったということ。だからナニを軸に読めば良いのか分からず、結局ワケがわからないうちに本を読み終えると言うことになったと思います。今振り返ってみれば、これはひょっとして天吾と青豆の恋愛小説だったのかなぁ・・・・。
そんなとらえかたをせずに読んだので、ずれていたのかも知れません。
とくに、青豆が「さきがけ」のリーダーと出会う場面の事。このリーダーが、私には「いんちき」であるべき存在だったのに、千里眼のような超能力を持つ「ホンモノ」だと分かり、青豆は翻弄されてしまう。いんちきだったらもっと話は分かりやすかったはずなのに、ホンモノであることで「だからナニ?」と混乱してしまいました。天才(作者)の考える事は凡人には分かりません。
あの団体は、どう見てもオウム真理教をモデルにしているし、あのリーダーは麻原をモデルにしている・・・あの事件は、いんちきな男のペテンに、東大とか早稲田とかの理知的な秀才が易々とかかってしまい、挙句人の命さえも奪ったところが特殊だったのでは・・と思うのだけど、そのリーダーをなぜ本当に超能力者として描いたのか・・・モヤモヤさせられました。リーダーがナニを言ってるのか全然理解できなかったし、言っている事と、それまでに少女たちにしてきたことが全然つながらなかったのも、モヤモヤ・・・。
私は、あのリーダーの「いんちき」を「暴き」「糾弾し」「制裁を加える」ことを望んでいたと思います。それが、「アンダーグラウンド」や「約束された場所で」を書いた著者の、義務と言っても過言ではないではないかと思いました。だから、あのくだりには本当にがっかりさせられました。
そのほかにも、そもそもSFなのかファンタジーなのか、もうその世界についていけなかったんですけど。その後の展開も同じくまったく理解できなくて、後はもう読むのが苦痛で目を滑らせて読んだ感じ。リトルピープルとか二つの月とか・・・。そもそも「1984」ではなく「1Q84」だとか。私には理解できない。能力が無い。と感じた読書でした。



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感想