2011年の読書記録*part2



アンダスタンド・メイビー 上・下/島本理生★★★
仕事一途な育児放棄気味の母親と二人暮らしの黒江は中学3年生。
あるとき、東京から転校生がやってきた。
東京なのに垢抜けてなくて、もっさりした印象の弥生(本では旧漢字)に、黒江は惹かれていく。
しかし、はかない恋は思わぬ別れを呼び、黒江は町の不良たちとつるむようになる。
一方、写真家の浦賀とファンレターのやり取りを通じ、カメラに興味がある黒江。
カメラマンを目指して・・・・。どこへ行くのか、黒江。



序盤、正直言えば一体どこが面白いのか分からず、まるで興味が持てなくて、挫折しそうになった。
弥生が「見える人」という設定も好みではないので、好感が持てず。
最初は我慢の読書だった・・・。
中盤から乗り始めて、下巻に入ったら加速して一気読みした。


特に中盤、弥生と別れて不良っぽい年上の人たちと付き合う辺りの描写は、ふた昔も前の少女マンガ、紡木たくの「ホットロード」を思い出した。そっくり!エピソードも「ホットロード」的だった。きっと島本さんもホットロードを読んでいたんだろうと思う。

弥生のことが本当に好きなのに、上手く伝わらず(弥生もなんだか若者らしくないので、性急な部分が一切なくて、二人の仲が進展せずじれったい)成長して伝わったと思ったら、今度はそれが黒江にとって辛くなったりと、すれ違うふたりが切なく感じた。しかし、肝心の黒江にはいらいらさせられた。恋愛体質と言うか、男にだらしがないというか、「男がいないと生きていけない」タイプの女で、本人的に無自覚なのが余計にこちらの嫌悪感を誘うのだ。
そして、また、母親が好きになれない。
根底には、黒江の、あるトラウマがある。本人は記憶から削除していて覚えてないのだけど、結果的に黒江を支配しているのが、その幼児体験なのだ。母親にとってもそれはどうにも動かしようがない出来事。
黒江は、その体験の「根本」と対峙しようとする。
強いなー・・。
私だったら・・・などとは、なかなか想像できないし、想像してみたところで白々しいだけだ。
以前読んだ「あなたの呼吸が止まるまで」も、同じテーマだった。
そこから立ち直り、成長していく主人公の姿にホッとしたいところだけど、こういうトラウマはちょっとやそっとじゃ直らないに違いなく、黒江も、まだまだ不安を残したままのラストになる。
読み終えたときには、今後の黒江をそっと応援したいし、黒江の撮った写真を見てみたいと思った。




逃亡医/仙川環★★
読みやすかったし面白かったけど・・・その、背景にある真実って言うのが、言っちゃ悪いけど「うーむ・・」と言う感じ。そんなことでここまで周到に過去を消そうとするか?非現実的すぎる。
それと、主人公に都合の良すぎる展開。そんな都合よく足跡が見つかるか?みたいな。元警察官の主人公の物語としたら割と良かったと思うけど。



東京難民/福澤徹三★★★
ごくごく平凡な、、大学生の若者が、あるときを境にどんどんと転落していくと言う物語。
タイトルのとおり、難民になってしまった青年の悲劇を描いている。

あるとき、親が謎の失踪。
授業料が振り込まれておらず、自分の知らない間に、大学を除籍になっていた。
それまでは授業に出るなんて「かったるい」と、サボってばかりだったのだけど、いざ、除籍になると話が違う。
焦ったり嘆いたりするぐらいなら、ちゃんと大学へ行け!高い授業料を払ってくれる親に感謝しながら!
と思うのだけど、自分だって在学中はそれが当然とばかりに通ったし、サボったりはあんまりしなかったと記憶しているが(短大だったし、先生も厳しかった)授業も聞かず、おしゃべりに興じたこともあった。(反省!!)
親が失踪したのだから、生活費の仕送りもなくなって、家賃さえ払えない。
そして主人公が入っているのが、悪名高き(?)敷金礼金なしという、保証のない安くて?怖い賃貸マンション。
こういうところは、家賃の振込みが遅れると即座に契約を解除されてしまうんだと聞いている。
主人公もご多分に漏れず。
住む家がなくなればあとは押して知る生活が待っている。
その辺が、ノンストップで描かれていて一気読み!
リアルな恐ろしさがあった。
友達や彼女ともそれで溝が出来てゆくのだけど(ところで、主人公の友達が2人いて、一人は気のイイヤツなんだけど、もう一人は本当に友達?と思わせられるヤツだった。一切がっさい友達甲斐が感じられなかった)あまりにもいい加減で、どこまでも世間を舐めている主人公の言動に、とってもイライラさせられた。
でも、大学生なんてまだまだ子どもなのかな。
今の私がこの本を読んで、「そこはこうだろう」とか「そうなって当然じゃないか」と思うのは、やっぱり年の功が大きく、年食った分だけ世間に長けた(この大学生よりは)部分があるんだろう。自分だって学生の頃は何にも知らなかったんだから、主人公を責めるわけにも行かないのだけど・・・。

半分ごろまでは、かなりの臨場感でこの転落劇を見ていたんだけど、半分からはちょっと突飛な感じになってきた。
展開が、緩急の急ばかりで同じような状態が続き、飽きてきた感じもした。

ネタバレになるが、主人公はホストになる。
ホストって言うと、なんと言っても新堂冬樹作品を思い出す。
そして、私の大好きな「メタボラ」(桐野夏生著)。
こんなにもホストになってはいけないよ・・・と言う著作があるのに、なぜ若者はホストになるんだろうか。
ホストで稼ぐなんて、懸賞に当たるよりも確率が低いはずだ。

そんなこんなで結局、難民生活を送りながら転落してゆきながらも逞しく成長する主人公の姿を描くのだが・・・最後の最後までイライラさせられたのだった。
最後まで読んで、私が気づいた3つの未解決事項。それが気になって仕方がない。
1.クレジットカードのキャッシング15万円。今頃途方もない金額に膨れているのではないだろうか。
2、賃貸マンションの管理人に預かってもらってる自分の荷物。いくら要らないといっても相手はやっぱり保管料を計上しているのじゃないだろうか。これもとんでもない金額に膨れているんじゃないだろうか。
3.ホスト仲間の順矢のこと。そのままでいいのか。どうにも仕様がないのはわかるが、忘れてるようなので気になる。

ともかく、この本は、こういうことは自分にも起こり得ると注意を促すためにも、若者に読んでもらったら良いと思う。
私世代が読むと、暗澹として陰気になるし、自分の子どもに思いを馳せて胃が痛んでしまう。
恐ろしかった・・・・。






開かせていただき光栄です/皆川博子★★★★★
時は18世紀、所はロンドン。
兄の経営する聖ジョージ病院の外科医を勤める、ダニエル・バートンは私設の解剖教室を開いている。
あるとき、解剖教室に見知らぬ遺体が紛れ込んできた。
時を前後して田舎町からロンドンにやってきた詩人志望の少年ネイサン・カレン。
秀でた語学力を買われて、憧れの準男爵令嬢に物語の音読をさせられたり、ゴシップ新聞に寄稿させられたり。
解剖教室と詩人志望の少年。この両者のつながりは・・・。
数々の事件や不審な出来事に、盲目の治安判事、サー・ジョン・フィールディングの推理が冴える。



まず冒頭、解剖教室の様子が興味深く、一気に話に入り込んだ。
死体を解剖しているのだからその描写はグロいけど、師であるダニエルと5人の弟子達とのやり取りが面白くて、とてもユーモラスに書かれていて釣り込まれた。
医学の進歩した現代とはまるで違う当時の医療事情。解剖学は最先端科学であり、それまでの通説や常識を覆し新たな真実を医学に提供すると同時に、相変わらず人々から忌み嫌われる行為であり、イギリスでは非常識な行いだったようだ。
そんな中で、ともかく解剖がしたくてたまらないダニエルの口癖が「もっと屍体を!」なのだ。
科学者の立場で、なるべく多くの屍体を臨床解剖したいとの切実な願いがこもっている。
そんな解剖教室にいつの間にか忽然と出現した2体の屍体。
両方とも損傷の激しい屍体だ。
一体どこから来たんだろう・・・と、読み手も先が気になって一気に読まされる。


事件を解決していくのは、盲目の治安判事、サー・ジョン。
賄賂が横行して汚れきった法曹界において、希少な清廉、そのうえ聡明な判事だ。
判事には目の代わりを務める助手がいて、それが当時には珍しく女性であり、判事の姪であるアン=シャーリー・モア。彼女がまた「使える」助手なのだ。判事の目となり足となって事件解決の手がかりをつかんでいく。
この二人の関係は、ふっとリンカーン・ライムとアメリア・サックスを連想したのだけど・・。

目が見えないけれど、判事はその分聴覚がすぐれている。
物音にも敏感だし、人の声もすぐに覚え判別し、そして声色から相手が真実を語るのか嘘を言っているのか分かるという。
そんな判事と、目に見えない(わからない)「敵」との推理合戦がとても面白い。
物音や声だけで事件の真実に迫っていく様子は、とてもスリリングで読み応えがあった。
聡明な人格者のサー・ジョンは好感が持てた。

この、サー・ジョンを相手に、ダニエル先生はとにもかくにも「もっと屍体を下さい」の一点張りなのが可笑しくて。
「妊婦の標本を作りたい」「妊娠月に沿って何体も必要だ」「胎児の標本も欲しい」・・・などなど。
それを大真面目に主張するものだから、サー・ジョンも呆れるやらひるむやら・・という描写が、内容の壮絶さと裏腹なユーモアに溢れていて、本当に可笑しかった。

本筋であるミステリーの内容も、かなり面白い上に読みやすい。
本格ミステリなので、しばしば事件の全貌をおさらいしたいところを、サー・ジョンの解説付きでその時点での疑問と一緒に教えてもらえる。本格ものが苦手な私にも読みやすかった理由だと思う。


また当時のロンドンの様子もとても興味深かった。
不衛生で喧騒まみれで悪徳警官やら賄賂の横行。
暴動を起こしたら投獄されるニューゲイト監獄の様子の凄まじさ。解剖よりもよほど凄惨だった。
また、エレイン嬢が、読書すきなのだけど、本に関して言えば、翻訳から装丁まで、自分の望むままのオーダーメイドだということが驚き!
自分だったら、つまらない小説じゃなく、素晴らしい物語を本にしたいと思う。

というわけで、最初から最後までとっても面白く読んだ。
出来たら、「サー・ジョンと聖ジョージ病院解剖教室シリーズ」にしてもらいたいとさえ思ったのだけど・・・・・・・・・。残念というか、寂しいです。



遠海事件/詠坂雄二★★★
初めての作家さん。
評判が良さそうなので借りてみた。
でも、ちょっと趣味じゃなかった。

内容(「BOOK」データベースより)
佐藤誠。八十六件の殺人を自供した殺人鬼。その犯罪は、いつも完璧に計画的で、死体を含めた証拠隠滅も徹底していた。ただひとつの、例外を除いては。有能な書店員だった彼は、なぜ遺体の首を切断するに至ったのか。

ごく普通の書店員が、殺人事件の第一発見者に。
・・と思っていたら、実はその書店員が殺害した犯人だった。
・・・そのうえ、彼は他にも大量に殺人を犯した猟奇連続殺人犯人だった。

ということを、ノンフィクション風に描いた作品。
でも、ノンフィクションとは思えなかった。
とにもかくにも、リアリティがない感じがした。
もっと若い頃に読んでいたら、スキになったような気がする。



闇のダイヤモンド/キャロライン・B・クーニー★★★★
17歳のジャレッドの家、フィンチ家では、アフリカから来た難民一家を受け入れることになった。
教会の熱心な会員である両親が(というか母親が)決めたのだ。
難民の両親は一部屋に住んでもらうけれど、難民の長男はジャレッドの部屋に、妹のほうはジャレッドの妹モプシーの部屋に居候することになった。
お気楽なモプシーと違いジャレッドは難民一家を快く受け入れることが出来ない。
やってきた難民のアマボ家は、どこか不自然だった。
そして、不必要にびくついているように見える。
その原因は・・・・。


アマボ家の父親アンドレには両手がない。内戦で敵の兵士に両腕を切り落とされたのだ。
マトゥ(アマボの長男)は鉈で切られた傷があるし、妹のアレイクは何らかのショックでものが言えない。
平和に暮らすことが当然のアメリカの子どもたちは、アフリカからやってきた一家の抱えているものの重さに驚く。
逆に、アフリカからやってきたマトゥはアメリカのいわゆる平和ボケのような生活に驚く。
モプシーが、「宿題はサイテー」というようなことを言うが、マトゥには「宿題が最低の日常とはなんと素晴らしいのか」と思う。
両者の隔たりが興味深いし、痛々しいと思う。

この物語はやっぱり、口が利けなくなったアマボ家の妹アレイクの物語かもしれない。
彼女がどんなひどい目に合ってきたか。
そして、いまの家族からどれだけ孤立しているのか。
涙も出ないほどの辛い思いが切ないのだ。
結果、口が利けないだけではなくまるで「生ける屍」のようになってしまっているのだ。
そんなアレイクの心を溶かしていくのはモプシーの天真爛漫さ。
妹のモプシーが、ジャレッドはうっとおしくて仕方がないのだけれど、読んでいくうちに、私はモプシーが大好きになって行った。明るくて思いやりがあって親身になれる女の子。
アレイクの心に届かないわけはない。

実は、この一家はダイヤモンドを持ち込んだ。
そのダイヤモンドは「血のダイヤモンド」だ。今は「紛争ダイヤモンド」と別名を取ることで、表現を和らげているらしい。
紛争ダイヤモンドとはシエラレオネなど内戦地域で産出されるダイヤモンドをはじめとした宝石類のうち、紛争当事者の資金源となっているもののこと。
そのダイヤモンドをめぐって、アマボ家に追跡者が登場する。
それがとんでもなく恐ろしい人物だ。アメリカの平和な家庭に育ったジャレッドやモプシーには想像も及ばないのだ。
そのためアマボ一家だけではなく、フィンチ一家にも魔の手が迫る
そのサスペンスもドキドキで息をつかせない。
ここで最後まで言わないけれど、最後は泣けた。

これがYAで、中高生対象で大人の目にとまりにくいとしたらもったいない。
中高生ももちろん、大人も充分読み応えある作品と思う。
おススメ。



逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録/市橋達也★★★
センセーショナルな本である。
読んでいいもんかどうか・・・悩むところでもある。
私の場合、大好きな高野秀行さんがブログに感想を書いておられて、それを読んで「読む!」と思った。

本としては、正直、微妙な部分もある。文章は、たとえ素人以上だとしても、やはりプロ以下。
読者が知りたい英会話教師殺害の詳細などには触れず、タイトルどおり「逮捕されるまで」の逃避行にのみ焦点が当たっている。

しかし、あえて言うなら、つまらないと言うわけではない。
「読み物」としては、けっこう面白く読める。(かなり不謹慎な言い方だけど)
高野秀行さんも、市橋の逃亡劇に、日本における辺境めぐりを垣間見て「萌える」気持ちがあったみたいで、それも頷ける気がしたし、これがノンフィクションであれば「逃げて!逃げて!」と願いながら読んだのかもしれない。
逮捕のところなどは、角田光代さんの「八日目の蝉」のようでもあり、小説のようだった。

本書から伝わってきたのは、市橋の、ひたすら「逃げたい」と言う思い。
異常なほど強い気持ちだと思ったが、死刑になるかもしれないと思ったら、こんな心境になるのかもしれない。理解は出来ないけれど。

凄まじいまでの「逃げる」事への執念。
まず、逃げてまもなく、コンビニで裁縫道具を買う。
何をするかと思ったら、普通の針と、普通の木綿糸で、鼻を縫ったのだ!
針を刺したまましばらく、いたらしい。
それで顔の雰囲気を変えるのが目的だったらしいけど、結局マスクをしていたらしいから、意味がないと思った。
目立つほくろもカッターで切り取ったらしい。
そして、唇をハサミで切る決意。痛くて途中で断念するも、片側の唇は実際に切り取ったらしい。
そこまで自分でやるという気持ちは、どう考えても共感できない。想像つかない。

逃げるとき、彼女に電話をして「一緒に逃げてくれ」というつもりだったという記述にも、身勝手さが出ていた。
が、これも本人としたら、一人でいることが怖くてたまらなかったんだろうか、となんとなく思う。

亡くなった英会話教師リンゼイさんは、その何百倍も怖かったと思う。

それから、市橋はあまり、自分の家族に触れておらず、親密さのない家族関係なのかと感じた。



ユリゴコロ/沼田まほかる★★★
少々前に読んだ本。図書館へはすでに返却済み。
読んだときは面白くて一気に読んだんだけど、今内容を思い出しても、あまり良く思いだせない。
「ユリゴコロ」の語源とか、登場する手記の最初のほうは、江戸川乱歩の「赤い部屋」を思い出したとか、そう言うことは覚えているんだけど。
不気味な手記を発見した主人公は、その手記の書き手が自分の母親ではないか、と思い始める。
物語は、手記が語る書き手の人生と、それを読む主人公の生活の二段構え。
全体的に、リアリティがなかったので、面白くて一気読みはしたものの、心に残るものはあまりない。
オチも見えてしまった。
主人公と、その弟とのやりとりが物語りに良い印象を残したと思う。



我が家の問題/奥田秀朗★★★
どこの家庭にもある、ささやかな「問題」を描いた、家族シリーズ「家日和」第2弾。

甘い生活?
ハズバンド
絵里のエイプリル
夫とUFO
里帰り
妻とマラソン

それぞれの家庭にそれぞれの問題がある。
夫が新婚なのに帰宅拒否症になったり(甘い生活?)
デキると思っていた夫が、実は出来ない「窓際族(今時使わない?)」だったとか(ハズバンド)
仲のよい家庭だと思っていたら、両親に離婚の危機が訪れていたり(絵里のエイプリル)
夫がUFOと通信していたり(夫とUFO)
里帰りの苦労があったり、妻がマラソンにハマったり・・・。
奥田さんだからつまらなくはない。
そのささやかな問題を、自分の家庭も比較しつつ、楽しく読めた。
でも、期待しすぎたか「家日和」ほどのインパクトはなく、さらっと読んでしまった。
この本の中の、どの家庭の奥さんも専業主婦で(いまどき、専業主婦ってそうは多くないと思うのだけど)
問題が起きたら周囲にリサーチ・・など、パターンが似ていて、「またこのパターンか!」と言う気持ちがした。
気持ちのよい話ばかりなんだけど、それも却って不満。
奥田さんだけに、もうすこし、ブラックな笑いがあったらよかったのにな。
長年家庭で生活していると、気持ちいい笑いばかりでは、収まらない。
少しきれいごと過ぎたような気がしたのは、私がひねくれているからかもしれないけど。



ツリーハウス/角田光代★★★
一家で中華料理店「翡翠飯店」を経営している藤代家。
祖父の死をきっかけに一家のルーツを探すかのように、祖母のお供で中国へ旅立つ良嗣と、叔父の太二郎。

描かれているのは、戦中戦後の家族の歴史であり、昭和の歩みであり、それを生きた個人の生き様であろうか。
3世代にわたって、この一家を描くことで、家族とは、生きるとは・・・ということを考えさせられる。

今まで読んできた角田作品とは一風毛色が違う感じがした。
先ごろ読んだ乃南アサ「地のはてから」にも通じるところがあるように思った。

家族を作るものは「根っこ」ではなく「希望」・・・そう結論付けた主人公の気持ちに爽やかな余韻を感じる。
どんな家族にも歴史があり、生きて越し方がある。
じっくり掘り下げてみれば、我が家にもこんな「なにか」があるんだろうか。
などとふと思った。



結婚相手は抽選で/垣谷美雨★★★★
垣谷作品、これで3作品目。これも面白かった。

タイトルのとおり、結婚相手を抽選で決めると言う設定。
晩婚化が顕著になり、打開策として国がそう言う法律を作った。名づけて「抽選見合い結婚法」。
国が無作為に選んだ相手と見合いをして結婚相手を決めると言うもの。
断るのは2回まで、3回断ったら「テロ撲滅部隊」に入らなくてはならない。(詳細は省く)

看護師の好美は、母親と二人暮らし。母親のきつい束縛に辟易しており、そこから逃れるために、この法案をきっかけに東京に出て独立することを画策。
ラジオ局ではがき整理をしている藤村奈々は「抽選見合い」をする前に恋人の嵐望と結婚しようとするが、母親とべったりの関係を敬遠され、振られてしまう。
宮坂龍彦はコンピューターソフト会社でSEをしている。モテない。彼女いない歴27年。結婚したいが彼女が出来ない龍彦にとって、この「抽選見合い結婚法」はどんな効果をもたらすのか。

実際にこんな法案が通るわけがない・・・と思うのだけど、晩婚化、未婚化は深刻な問題かも知れず、不思議なリアリティがある。。。とは言え、やっぱりこんなプライバシーに干渉し過ぎるような法律が出来るわけはない。
だからこそ、小説らしい小説と感じた。フィクションの世界で遊ぶ感覚。

とは言え、主人公達がこの法案に振り回される姿は、かなりリアル。
この「抽選見合い」でデートを重ねるうちに、かすかな変化が起きる人物もいて、それがなんだか清清しかった。
「リセット」でも、母親との関係になんらかの問題を抱える登場人物がいたが、今回も二人の女性の「母親」がキモになっている。これをものすごく掘り下げてしまうと、ドロドロしたり深刻になりすぎたりするのかもしれない。物足りない気がしなくもないけど、軽く読めるのでこれでいいのだろう。

「リセット」「夫の彼女」に続き、すごく気持ちのいい結末。
ちょっと上手く行きすぎじゃないの?と思うときもあるけど、ハッピーエンドに拘る気持ちがひょっとして、著者にあるのかもしれないな〜と思う。ハッピーエンド、いいですよね。フィクションだもの。気持ちよく本を閉じることが出来るのは何よりだ。



真夏の方程式/東野圭吾★★★★
内容(「BOOK」データベースより)
夏休みを伯母一家が経営する旅館で過ごすことになった少年・恭平。仕事で訪れた湯川も、その宿に滞在することを決めた。翌朝、もう一人の宿泊客が変死体で見つかった。その男は定年退職した元警視庁の刑事だという。彼はなぜ、この美しい海を誇る町にやって来たのか…。これは事故か、殺人か。湯川が気づいてしまった真相とは―。

今回はまぁまぁ楽しめました。
まず、湯川と恭平少年とのやりとりが面白い。
まずこんな理屈っぽい少年はそうそういないとは思うけど、湯川に臆せず立ち向かう恭平少年を応援してしまったし、またそんな恭平を可愛く思っている湯川の気持ちにも、ほっこりさせられて、二人のやり取りは楽しかった。
勉強の部分も、こちらも勉強させてもらったし。。
舞台となった玻璃ヶ浦はかつては観光で栄えた美しい海。今は観光客も激減し衰退してしまっている。そこにわいて出た地下資源。自然を守るか、地下資源をとるか、そのへんの社会問題的な部分も興味深く読めた。
相変わらず何を考えているのか、何が分かっているのか分からない・・けど、何かつかんでいそうな湯川の言動も気になって、興味をグイグイと引かれ、久しぶりにじっくりと丁寧に読む気にさせてくれた、読んでいる間も「楽しい」作品だった。

ただ、着地点はどうだったろう?それはアリなのか??
もやっとしたものが残る。

しかし、近頃の人情に傾いている作品よりも、こちらのほうが面白かったし好み。

ラムちゃんにお借りしました。ありがとうございました(*^_^*)



非望/小谷野敦★★★
どうやら自分の体験を元にして書かれた小説らしいですが、自分自身のストーカー体験(するほう)を、これだけ冷静に詳細に書くなんて、とてもイタい事だと思うんだけど、突き抜けてるな〜〜と、ビックリするような一冊でした。
そのときは、ともかく夢中で、後から考えるとすごく恥かしくなってしまったり、なかったことにしたくなったり、記憶を削除したいと思ったり・・・そんな出来事は、人生の中で一度ぐらいはあると思うけど、それをこんな風に著作にしてしまうと言うのは、やっぱり作家と言う生業の「業」なのかな〜なんて、思いながら読みました。
しかし、本人は決して人間的に人格が破綻しているわけではない証拠に、元来気難しい人物だろうとは思うけど、仲良くしている相手もいるようで、この特定の相手に対してだけ、破綻した人格になってしまうようで・・・それが「恋」って言うものかな〜〜なんて思ったり。



リセット/垣谷美雨★★★★
3人の女たちがそれぞれ「高校時代に戻りたい」と思うところから物語が始まる。
香山知子は専業主婦。暇をもてあます生活に嫌気が差し、「高校時代に戻り、女優を目指したい」と思う。
黒川薫はキャリアを積みながらも、独身であることで母親に「一人前」と認められず寂しい思いをしている。高校時代に戻ったら、短大に進学して地元で結婚て、子どもを生みたいと思う。
赤坂晴美は男に引っ掛けられ妊娠して、高校を中途退学したことを悔やんでいる。高校時代に戻ったらちゃんと卒業して平凡な生活を手に入れたいと思う。

そんな3人は中学、高校の同窓生なのだが決して仲良くもなかったし、接点もなかった。
その3人がなぜか一緒に「高校時代にタイムスリップ」する物語。

SFと言うよりもファンタジーと思うのだけど、誰でも一度は「若い頃に戻りたい」と思うことがあるのではないだろうか。
「もしも、高校時代に戻ったら、もっと勉強してもっといい大学に行って・・・」などと妄想を逞しくしたことがあるのではないだろうか?
かくいう私もそう言う妄想はしょっちゅうしているのだけど(^_^;)最後は結局「戻らなくてもいいや」となってしまう。
戻ったところで着地点は同じだ・・・・というのがあるし、せっかく今まで生きてきたのに、またその人生をやり直すなんてしんどすぎる。学校に毎日毎朝、暑いときも寒いときも雨の日も風の日もきっちり通い、一日何時間も授業を受け、トイレも我慢しないといけないし、テストがあると勉強しないといけないし、先生の中には横暴なのもいたし、家に帰れば親に口やかましくされあれもこれも禁止され、・・・そうして祖父や祖母がなくなり皆で嘆き・・・などと考えると、あれをもう一度やるなんて、考えただけで挫けてしまう。
もちろん、もしも本当に高校時代に戻ったら、部活をもっと頑張るぞ!!とか、友達ともっと上手く付き合うぞ!とか、もっと本を読んだり映画を見たり漫画を買ったりしておくぞ・・!!なんてことも思うんだけど・・・。

彼女達は、最初こそ多少のパニックになるけれど、わりとすんなり「タイムスリップした事実」を受け入れて、高校時代をやり直していく。「夫の彼女」でもそうだったけど、「違う視点から物事を見る。その人を見る」というのがあって、タイムスリップしたことにより、彼女達にも「別の視点」が出来る。
本当に高校生だった当時は分からなかった親のありがたみが分かるとか・・・。
3人が理想どおりの人生を歩けたのかというと、その辺は微妙。
結局、どんな人生も100%完璧っていうのはありえないし、憧れていたものも手に入れてみれば大したことないなと気づいたりする。そういうことが結構リアルに描かれていて、とても面白く読んだ。

タイトルの「リセット」というのは、結局、人生って「気づいたとき」いつでも「やり直せる」と言うことじゃないかなと思った。
むろん、やり直しが利かない、取り返しが付かないこともあるだろうけど、心の持ちようで、ひとはいつでもそこから再出発できるのだと。何も高校時代に戻らなくても今からでも・・と言うことじゃないかな?

物語としては、ずいぶん上手く行きすぎだと思うけど、あくまでハッピーエンドに拘りたいと言うのが著者の気持ちじゃないかな?と思った。私はとても気に入りました。



二流小説家/デイヴィッド・ゴードン★★★★
色んなペンネームで二流小説を書いている売れない作家の主人公ハリー。書くものはポルノやSF、吸血鬼となんでもあり。それなりに人気作家ではある。
そんなハリーのところに、死刑宣告を受け、3ヵ月後に刑の執行を控えている連続猟奇殺人犯ダリアンから、自分の事件を本にしないかという依頼があった。殺人犯の言い分では、自分へのインタビューと引き換えに、自分だけのポルノ小説を書けという。小説内の登場人物も、ダリアンと手紙などのやり取りのある女性で、彼女達にじかに会って彼女達をネタにポルノを描けと言うのだ。
しぶしぶ該当の女達に会いに行く主人公、しかし、直後にその女達が猟奇殺人の餌食に・・。その手口が、数年前世間を震撼させたダリアンの犯行手口とほとんど同じだった。
当のダリアンは刑務所の中。確固たるアリバイがある。とういことは、以前の事件も本当はダリアンの犯行ではなかったのではないか?
ダリアンの再審請求は通るのか。数年前の、そして今回の殺人事件の犯人は誰なのか・・・。

と言う話でした。

主人公の書く小説が、おりおりに挿入されている。SFと吸血鬼もの。それが私には興味がなくて、その作中小説が本編に関係あるならよかったけど、どうもそうでもないらしく、(カスタマーレビューの中には「主人公の気持ちを代弁している」みたいな意見もあったけど、そもそも著者の一人語りの物語なので全編「主人公の気持ち」だし、特に代弁する必要があるほど寡黙だとも思えなかったし、読むのが苦痛だった(飛ばし読みしたが)。
話の大筋自体は面白かったと思うけど、そんな風に色々余分な肉が付いているように感じて、個人的にはもっとシンプルな構成だったら楽しめたのに・・・と思った。
ただ、主人公のマネージャー的存在のクレアと言う女子高生が面白くて、彼女がもっと活躍したらよかったのに・・・と思った。
オチはいつもながら、私には全然分かってなかったので、ビックリさせてもらいました。皆は「読めた」とか書いてあるけど・・・。知らなかった分驚きも大きく、ミステリーを楽しめた気がするので、得した気分・・・と、言っておこう。無論、負け惜しみです(笑)



夫の彼女/垣谷美雨★★★★
面白くて一気に読んでしまった。

主婦小松原菱子は、あるとき夫のインターネット履歴から、「星見のひとりごと」というブログを発見。 読んで見ると、どうやら夫の浮気相手の日記のようだ。
思いもよらぬ事態に慌てふためき、理性をなくしそうになる菱子。
同じように夫の浮気が原因で離婚した友人に話をすると「見てみぬ振りをしろ、金銭的に余裕のない女の離婚は惨めなだけだ」と言われる。その友人の忠告にしたがって、浮気相手の「星見」に会いに行く菱子だったが・・・。

相手の気持ちが分かるためには、相手の立場に立つしかない。
そして、立ち位置を変えてみたら、おなじ人物でも別の角度から見ることになって、別の面が見える。
また、見られたほうも、違う視線で見られたら違う自分が現れる場合もある。 そうなることで、分からなかったことが分かる場合もある。
動かなかった物事が動き出すこともある。

ここから少しだけネタバレ




浮気された妻と、浮気相手・・この二人が入れ替わると言う物語。
ごく普通の一家の主婦と、ワケありの感じの若いギャル。
入れ替わりのギャップも面白いんだけど、私が一番身近に感じたのは、星見が小松原家に「主婦」「母」として入った場面。中学生の娘は家庭科裁縫の宿題を母頼みにしているなど、過保護な親子関係に喝を入れる。
「自分のことは自分でやんな。あんたもう中三なんだろ。内申書?そんなものあたしに何の関係があるの?あんたの人生はあんたが自分で築くんだよ!」など、甘やかされた中学生の娘を突き放す。 「ああ〜〜それ、私の娘にも言ってほしい!!いや、私が娘に言ってやりたい!!」と思うことをズケズケと言っていたのが、すごく胸のすく思いだった。



ミステリウム/エリック・マコーマック★★★
これは読むのに苦労した。
内容(「BOOK」データベースより)
小さな炭坑町に水文学者を名乗る男がやってくる。だが、町の薬剤師の手記には、戦死者の記念碑や墓石がおぞましい形で破壊され、殺人事件が起こったと書かれていた。語り手である「私」は、行政官の命により、これらの事件を取材することを命ぜられるが、その頃、町は正体不明の奇病におかされ、全面的な報道管制が敷かれ、人々は次々に謎の死をとげていた。真実を突き止めようと様々な人物にインタビューをする「私」は、果たしてその真実を見つけることができるのか…。謎が謎を呼ぶ、不気味な奇想現代文学ミステリの傑作。
と言う紹介文だけど、うーん、少し前に読んだんだけど、自分でも最後まで読んだのを褒めてやりたいくらい進まなかったことぐらいしか覚えてない。
面白かったような気がしなくもないけど、内容がどうこう言う前に、文章が読みづらくてダメ。
私にはハードル高すぎた作品。



失踪家族/リンウッド ・バークレイ★★★★
面白かったー(*^_^*)

14歳のシンシアがある朝目覚めると、家族全員(両親と兄)がいなくなっていた。 書置きや痕跡も何もない。 前日のトラブル(シンシアが門限を破り酔っ払ってデートをしていて叱られた)が原因か? 家族の行方は杳として知れないままに、時間だけが過ぎて行った。

そして、今。25年の後。
「わたし」はシンシアの夫である。25年ぶりに事件を検証すると言うテレビ番組に出演した、その前後からシンシアの身に不思議なことが起き始める。
誰かが後をつけている、変な電話やメールがくる、シンシアの父親の帽子が出現する・・・などなど。 しかし「わたし」は、完全には妻を信じきれない。妻の狂言ではないと言い切れないのでは?
そんな時、最悪の事件が起きた。シンシアの大切な人物が殺されてしまうのだ。
一体犯人は・・25年前の失踪事件との関わりは・・そしてなによりも、25年前の事件の真相は??

とにかく、読んでてこれほど「結末だけでもいいから知りたい」と思ったことも、滅多にない。
なんせ、まったく手がかりもなく、25年前の事件の解決の糸口があるようにも見えず、このまま事件について何かが分かるようになるとは思えなかったのだ。だけど、真相は知りたい。だから結末を先に読みたくなるほどだった。
が、徐々に徐々に、25年前の事件の手がかりらしきものが集まり、事件の輪郭がぼやけながらも見えてきて、どんどん先を急がされた。まさにジェットコースター級のサスペンスだった。
シンシアはとても気の毒で、自分の身に置き換えて想像してちょっと泣きそうになるぐらいだった。
支える夫「わたし」の献身的なことも好感が持てた。
意外な人物が協力的であったり、また意外な人物が怪しかったり(これはでも想像できた。というか、絶対にコイツが怪しいとすら思っていたんだけども)人間関係も読み応えがあった。

結末は、驚くべきものでもあり、なるほどと思えるものでもあり、そして「そんなことだったのか」と思うこともあり。
でも、面白かった!!一気読みでした!



母子寮前/小谷野敦★★★
私小説なのか?それとも自伝なのか?
著者の母親が癌にかかり、最愛の母が不治の病を得た自身の絶望、父親との確執、医療関係への不信感など織り交ぜながら、母への思いを綴ってある。
ともかくとにかく、陰気な物語だった。
母が癌になったのだから、陽気であるわけはないけれど、その時々の気持ちの揺れや絶望感、悲しみややりきれなさが、これでもかっ!と言うぐらいに細かく細かくリアルに描写してあるので、まったく我が事のように錯覚してしまうほどだった。読んでいる間は陰気が伝染してかなり落ち込んでしまった。 しかし、著者のお母さんはまだ70にもなっておらず、若いうちの別れとなり、本当に気の毒。著者は当時高齢の人を見ると、八つ当たり的に「ウチの母だけなぜ若いうちに死なねばならないんだ」と、怒りが沸いたと言うが、なんだか分かる気がした。
医療機関とのやり取りの中で、医師が高圧的な場面が出てくる。昔の医師はそう言うイメージだったけど、今はそうでもないのかと思っていたら、いまだにそう言うことがあるんだなーとか、セカンドオピニオンが保険適応外なんて知らなかったりとか、人事と思えないことがたくさんあって、印象に残った。 そして、父親との確執がテーマのうちのひとつだと思うが、自分の親をこんな風に公然と嫌って責める。なんとも哀しい親子関係だと思う。母と娘の関係が割りと難しく軋轢がある場合が多いのはよく聞くのだけど、父と息子もやっぱり難しいものだなぁと感じた。でも、このお父さん、他人が言うのは申し訳ないけど、やっぱり困ったお人ですよね。
それと、お母さんにべったりだった著者、それでも「母は欠点の多い人間だったが、50を過ぎてから良くなった」と言うようなことが書かれていて、すごく印象深い。私も自分が欠点だらけで、かなり自己嫌悪を感じているのだけど、このトシではもう直らないだろうと諦めてた。でも、50過ぎてからでもマシになれるものかしら。だとしたら嬉しい。

この著者はかなり著名で幅広い活躍をされている人のようです。作品を読むのも初めてなら、実は著者をまるで知らなかった。お恥かしいことです。 本書を読んで思ったけど、著者はかなりマメな日記・・・それこそ微に入り細を穿つような日記を書いておられるに違いないと。そうじゃなかったら書けないのではないだろうか・・。



ご先祖様はどちら様/高橋 秀実★★★
一代前は両親の二人、2代前は祖父母が4人・・そして20代もさかのぼると、先祖は100万人になると言う。その中にはきっとエライひとも偉くない人も含まれていて・・・。先祖が武士かもと思うと背筋を伸ばし、百姓と言われたらそれなりに納得し、平家かも、いや源氏かもといわれるたびにその気になっている著者の思考が面白い。



浅田真央さらなる高みへ/吉田順★★★★
ありていに言えば、私は新しいコーチ、佐藤信夫先生との関係って、どうなんだろう??と、不安に思っていた。
でも、この本を読んで、杞憂だったと感じた。
日本の中でフィギュアの世界にいて、二人に今まで一度も接点がなかったわけはなく、お互い何年も前から知った仲で、テレビから眺めているだけの私なんぞには分かるはずもない、「絆」みたいなものが、とっくに生まれていたのだろう。
長久保先生のエピソードもとても良かった。
長久保先生は、真央ちゃんにとって、「敵」である鈴木明子ちゃんのコーチ。そのコーチが、見るに見かねて、真央ちゃんにジャンプに関するアドバイスをするエピソードなどは、「個人」を越えて日本フィギュア界を背負っている懐の大きさを感じた。
いつも明るい真央ちゃんの様子、ジャンプの不審にあえぐ様子、そこから這い上がる様子・・どれをとっても、各シーズンの試合を見直したい気持ちになりながら読んだ。
特に、バンクーバー五輪の銀メダルのことを書いた部分では、あのときのことを思い出して、また泣けてしまった。
何よりも、真央ちゃんには「色気がない」と言う人たちがいて、フィギュアの演技に「セクシーさ」を求める声をよく聞く。
でも、個人的に、真央ちゃんにはセクシーな演技をして欲しくないと思っている。
セクシーに身を捩じらせるのが「表現力」なら、いっそ、「表現力」なんかなくても、技術構成だけで勝負して欲しい。
そこまで言ってしまうのは極論だけど・・・(^_^;)。
でも、実は真央ちゃん自身も、ジャンプしてナンボ・・!と言う気持ちでいてくれることが、本書の中に出てきて、私の気持ちは間違いではなかったんだなぁ・・と嬉しく思った。
真央ちゃんが成長するのはとてもいいこと。美しい演技をするのもいいこと。
でも、だからと言って、それが「セクシー」に繋がらねばならないと言うわけではないと思う。
さらに言うなら、セクシーが過ぎるのは媚びると言うことじゃないかと思う。
荒川さんだって、とても美しい演技をしたけど、すごく色っぽいわけじゃない。媚びてない、クールビューティーだもの!
いっそう真央ちゃんを応援する気持ちが強くなった。



妻の超然/絲山秋子★★★
「妻の超然」

浮気性な夫を持つ妻は、超然と夫の素行を観察し、俯瞰し、ほくそ笑んでいる・・・・
つもりなのだけど、結局は「超然とあろう」と言う心情が描かれているのだと思った。
夫は妻に隠しているつもりでも、一緒に暮らしている妻にはバレバレ。
同じ事を繰り返す・・・男はなんてバカなんだろうか。
そのバカを、何もかも承知の上であえて「させている」妻の視点でユーモラスに綴っていて、にんまりと笑えてしまう。
結局は夫への愛情から、執着がある。それゆえに、だんなをよく観察ししっかりと「理解」しているということか。
でも、私だったら、やっぱりこんな夫は許せないと思うし、一緒にいたくないと思うのだけどなぁ。
ちょっとスッキリと言うかスカッとできない物語だった。
奥さん、可愛い人なのかもしれないけど、やっぱり「超然」って言うよりも「毅然」としたほうが個人的には好み。


「下戸の超然」

自分のことを「俺」ではなくて「僕」と呼ぶ広生は、下戸。出身は九州だが今はつくば市で家電メーカーに勤めている。九州では、「僕」で「下戸」だと、女々しい奴と言われてしまうが、つくば市では「マイペースで理系な男」と思われている。でも、合コンは飲めないこともあり体質に合わず参加しなくなった。
そんな広生が同じ会社の美咲と知り合い懇意になっていくのだが、美咲はお酒をよく飲む女性だった。
タイトルが示すとおり、下戸としての生き方が生き難さも含めて、これもユーモアたっぷりに描かれていた。
だけど当事者にしたら大きな問題なんだろう。
「下戸」がテーマだろうけれど、それはひとつの象徴で、一組の男女の出会いから別れまでが、順を追って描かれていてすごく説得力があった。広生が下戸じゃなかったら、この二人はもっと上手く行ったのか?というと、けしてそうは見えないし。
赤の他人が出合って惹かれ合い、だけど、本当にお互いを理解しあうと言うのは、難しいものなのだな・・と、改めて思ったしだい。この「下戸の超然」が3編の中で一番面白かった。


以上2編と首に出来た腫瘍を取るための手術をすることになった作家の物語「作家の超然」の短編集。

「作家の超然」は、視点が天界とか神とか?「おまえは・・・」という二人称の物語なので、読みにくかった。
内容もなんだか哲学的で難しかった。





チャコズガーデン/明野照葉★★★
渚は人もうらやむ結婚をしたが、今はひとりで「チャコズガーデン」と言うマンションに住んでいる。
そこへ岡崎と言う一家が越してきた。おっとりした美しい妻と、可愛い息子。
その頃から、チャコズガーデンに些か珍事が起こり出す。それは、ダイレクトメールが頻繁に入ったり・・とか、夜中に決まって物音がしたりと言う、些か珍事ではあったが。
チャコズガーデンに起きている、この珍事の正体は・・・。

うーん、私はどこかの内容紹介を読んで、この物語がミステリーだと思ってしまった。
しかし、ミステリーではない。あるとしても、ほんの少しミステリっぽいだけ。
離婚によって傷つき世間と隔絶された主人公が、ゆるゆると社会に復帰を果たし自分を取り戻していく、という再生の物語だ。
チャコズガーデンには色んな住人がいる。彼らとの係わり合いのなかで、主人公の渚は自分を取り戻していくのだが、この住民達にもそれぞれ事情があり、それも読み応えのある部分のひとつ。
人は決して見かけだけでは本当の事は分からないんだなーと思った。
チャコズガーデンというマンション名に隠された真実。
などと言うと、またまたミステリーみたいで煽ってしまいかねないが、それもまた面白かった。
主人公の渚には、幸せになってもらいたいなと思わせられた。



白人はイルカを食べてもOKで日本人はNGの本当の理由 /吉岡 逸夫★★★★
今現在の騒動に関してひとつの答えをくれる好著。

常日頃から、どうしてクジラ漁やクジラ食に、外国から色々と言われなければならないんだろう?
中にはハンガーストライキとかする少女もいたので、なぜそこまで?と不思議だったし、正直ムカついた。(不気味でもあった。「自分の正義」をそこまで信じられる根拠はどこに?)
でも、言われているように、本当にクジラは絶滅の危機に面しているなら、あるいは、国際的に孤立するほどの「悪行」と取られてしまうのなら、そのリスクを犯してまで捕鯨って続けなければならないほどのことか?
伝統と言うが、中には、それが時代の流れならあえて逆らうこともないのでは?と思う気持ちもあり、スッキリしなかった。
そこへ来て「ザ・コーブ」のアカデミー受賞。
色んな観点から論議が巻き起こっていた。一体誰の言うことが正しいのか。まったく分からない。
でも、確かに感じたことは、「太地町の猟師さんたちが気の毒だ」「シーシェパード(SS)は横暴だ」
でも上映をするべきか否かはよくわからない。言論表現の自由と言われたら、それは確かにそうだと思う。
ずっと個人的にモヤモヤしていた。(先日NHKのクローズアップ現代だったかなんかでイルカ漁の特集を組んでいたが、それを見てもスッキリしなかったなぁ)

しかし、本書を読んでかなりすっきりと分かった。

クジラは(イルカも・・・イルカもクジラもほぼ同じ生き物らしいので、今後「捕鯨」と書くときはイルカも含めることにします)食べて良し。気兼ねせずに食べて良いのだ。
日本は科学的にクジラの生息数など調べていて、全体数の分かる種類にしか捕鯨許可を出していない。
市場に出回るクジラの肉は、ちゃんと計算されて許可を得た肉。誰からも後ろ指を刺されるいわれはない。
それどころか、海産資源として考えて、他の魚を捕るのならクジラもやっぱり捕らねばバランスが狂うらしい。

捕鯨反対を唱える人たちの中には、「イルカやクジラは可愛いし頭がいいし人間に近いから食べるべきではない」と言う人がいる。
でも、「可愛いから食べてはダメ」というなら「可愛くない生き物は食べていいのか」になるし、また現在食用や毛皮用に殺されている動物の中に、可愛い生き物はいないのか?となる。
日本が科学的根拠に基づいて捕鯨をしているのに、相手側は「感情」で迫ってくる。この両者の「会話」が成り立つこと自体がムリなのだ、ということが痛いほど分かった。
つまり私が「もやもや」しているのは、仕方がないことなのだろう。それが分かっただけでもスッキリしたと言うもの。

ハンストまでして捕鯨禁止を訴えた少女に言いたい。クジラやイルカが可哀想と言うなら、牛やブタも可哀想だろう。家畜や自然の生き物の区別なく命は尊いのだから。突き詰めれば植物だって命があるのだから食べたら可哀想だろう。そう思うのなら自分が食べることをやめたら良い。だけど、その価値観を他人に押し付けるべきではない。自分がひそかに実行したら良い話ではないか。
そしてもしもそれを実行するとする。でもそれでは人は生きられない。自分と言う命を殺すことになる。それは自分の命をないがしろにしていることにならないか。命が尊いのは自他の区別もないのだから。
話が飛躍しすぎたが、あの少女もきっと「歪んだ真実」をそのまま素直に信じてしまい、事実を知らずにそう言う行動をとったのだろうし、大方の反捕鯨信者達は、科学的な事実を知らずに自分の「思い」をぶつけてきている。
どんな生物も他の生物の命を奪って生きている。それを「いただきます」と言う言葉に込めることができる日本人と、その概念がない国の人間とでは、分かり合えないのも当然なのかもしれない。


それから、本書を読んですごくビックリしたが、反捕鯨の運動に関してアメリカ人のなんとも身勝手なこと。
もとより、アメリカは捕鯨大国だった。日本人はクジラを捕れば余すことなく食べたり利用したりするが、アメリカは脂だけが欲しかった。他の全ては捨てていたと言う。そして、アメリカなどの捕鯨のために、クジラの数が減ったとも言う。
そんなアメリカが反捕鯨になったのは、まず、ベトナム戦争で枯葉剤を撒き散らし国際的に非難を浴びたニクソン政権が、その非難の矛先を逸らすために、捕鯨反対運動に目をつけたというのだ。
その当時のアメリカの反捕鯨運動にしても、アメリカの牧場経営者達が日本に牛の肉を売るために「クジラを食べないでビーフを食べろ」という、これまた身勝手で横柄な理屈から発したものらしい。(黒船だって自分たちの捕鯨に都合がいいから「開国せよ」と迫った。いつもいつも勝手でワガママだなー!)
そしてそもそも、反捕鯨を掲げながらも、マッコウクジラの脳の脂が宇宙開発に必要だったので、その間もマッコウクジラだけは捕っていたというのだ。代替の脂が開発されて、反捕鯨は確固たる運動になったらしい。
知れば知るほどアメリカの身勝手なこと。腹わたが煮えくり返るようだ。
結局、現在の反捕鯨にしても科学的な根拠はまったくないのに、感情で展開しているし、また当人達の中にも主義主張はさまざまで統一性がないようだ。

著者は、西洋人の日本に対する差別を感じている。それはひょっとして著者だけの思い込みかもしれない。でも、戦争相手が同じ白人だったら、アメリカはひょっとしたら原爆も落とさなかっただろうし、枯葉剤も撒かなかっただろうというのだ。
ありうる話かも知れないと、私も著者に同感したのだが、本当はどうなのだろう。

「ザ・コーブ」にはさまざまな虚構が混じっているらしい。イルカが殺された場面を見て女性が泣くシーンなどは、「編集」で作られた場面らしいし、水産庁の役人が水銀中毒でクビになったなど、堂々たる「嘘」まで盛り込まれていると言う。
それを「ノンフィクションだから、事実を確認するべき」と言う意見に対して「映画は娯楽だから」と割り切る考えもあるとか。著者は、そうなったらもうそれは「ノンフィクション」ではない、と言う。
そう言う「フィクション交じりのノンフィクション」については、何の注釈も入れないままで上映するのは、やはり間違っているかもしれないと思う。


タイトルは、デンマーク領自治州のフェロー諸島の捕鯨を、日本の太地町の猟師さんたちと比べてのこと。フェロー諸島の取材は旅行記としても大変楽しかった。
フェロー諸島にも同じようにSSがやってくるそうだ。でも、彼らは声を大にして自分たちの食文化の正当性を宣伝する。日本人は自己主張が苦手だから、そこに付けこまれてしまうというのだ。
黙って耐えるのは美徳の一種と思うが美徳が美徳として効果にならない、あるいはそこに付け込むなんて、そりゃーちょっと汚いんじゃないの?と思ってしまった。

本書一冊どこを取っても興味深い内容で、色々ともっと書いてみたいが、私がここで紹介するよりも、本書を読んでいただきたい。
私のようにモヤモヤしている方はかなりスッキリされるのではないだろうか。

「クジラを追って半世紀」の著者で財団法人日本クジラ類研究所の大隅清治氏の
「世界が理解する共通言語は科学である。科学的な理解を共有しない限り共通の話し合いは出来ないと思う」
と言う言葉が、とても印象に残った。



埋葬 (想像力の文学)/横田 創★★
内容(「BOOK」データベースより)
三十歳前後と見られる若い女と生後一年ほどの幼児の遺体が発見された。犯人の少年に死刑判決が下されるが、まもなく夫が手記を発表する。「妻はわたしを誘ってくれた。一緒に死のうとわたしを誘ってくれた。なのにわたしは妻と一緒に死ぬことができなかった。妻と娘を埋める前に夜が明けてしまった。」読者の目の前で世界が塗り替えられる不穏な“告白”文学。


夫の手記って言うけど、こんな手記を書ける人間がそうそういるとは思えず違和感を感じてしまった。そこがリアルとは違ってフィクションなのだから、と、思えれば良いけど・・・。
そのうえ、何を言いたいのか私にはあまりよく理解できなかった。ともかく「思考」が難しい!
「手記」と、「わたし」というライターが、当事者の知り合いなどにインタビューする形式と、最後はインタビューも犯人である「少年」へのもの・・と言う風に色んな人物の「対話」や「考え」で綴られていく。
それらからある真実が浮かび上がるのだけど・・・。これまた「チャコズガーデン」と同じく、ミステリーかサスペンスと思って読んでいたけど、どうもそうじゃなくて、死んだ(殺された)妻、夫、殺した少年たちの内面を掘り起こしてあるのが読みどころなんだと思う。
どうにもこうにも私には難解でよくわからなかった。本当に何を言ってるのか分からなかった。哲学的!!



麒麟の翼/東野圭吾★★★
内容(「BOOK」データベースより)
寒い夜、日本橋の欄干にもたれかかる男に声をかけた巡査が見たのは、胸に刺さったナイフだった。大都会の真ん中で発生した事件の真相に、加賀恭一郎が挑む。

さすがに東野さんの本だけあって、サクサクと読めた。
「カッコウ」「プタチナ」「白銀」と、あまりにも印象に残らない作品が続いたので、今回も実は期待しないで読んだのだけど、その割には面白かったなーと言うのが正直な感想。
「赤い指」や「新参者」同様、加賀恭一郎でほろりシリーズ・・と言う感じだけど、個人的には好みじゃない。
人情モノは別の作家に任せて、加賀恭一郎と言うキャラクター頼みの作品じゃなく、東野さんならではのスパイスの効いた辛口のミステリーを書いて欲しい。

ネタバレになりますが

↓ ↓ ↓
子どもたちが起こした事件ですが、人が一人死んでるんだから、現場検証はもっとしっかりとされたと思う。
プールサイドの足跡とか、そう言うのよく調べもしないで調書を書いたのかな。
ありえないと思うな。

↑ ↑ ↑

ただ、加賀恭一郎の、「犯人であることを暴くよりも、犯人ではないことを証明する」姿勢は素直に良いと思う。
そういう警察官が実際にいたら、冤罪は少なくとも今よりも少なくなるのでは・・・。



裁かれた命 死刑囚から届いた手紙★★★★
『死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの』の著者によるもので、読んでみた。
なんとなく、「誘拐」(本田靖春著)に雰囲気が似ているように感じた。
獄中の犯人の雰囲気が小原保と似ているのと、平塚八兵衛が捜査に加わっているからかもしれない。
しかしその、平塚八兵衛も拍子抜けするぐらいに犯人である長谷川武はあっさり犯行を自供。
そしてたいした抵抗もせずに、死刑へと運ばれてしまう。
本書は、別の事件でのコメントを得ようとした著者が、元検事の土本氏に話を聞いていたときに、ふと土本元検事のくちから「自分が生涯でただ一度、死刑を求刑して執行されたある死刑囚から、何度も手紙をもらった」と言う「昔話」を聞いたことから、書かれた本。
その手紙が、とても、自分に死刑を求刑した検事に向けて書かれた手紙には思われない、感謝に満ちた内容だったので、却ってそれが長年元検事の心に残り続けているようで、著者はその手紙の背景や、事件そのものの背景、そして犯人である22歳の若者の人となりを知りたく思って取材を始めたようだ。
「長谷川君が、どんな人物で、どうして手紙を書いてきたのか、もっと調べてみませんか」・・と。


事件は1966年に発生した金銭強奪目的の主婦殺人事件で、前記のように検挙裁判と、おおむね「スムースに」流れ、事件から5年後には死刑執行。関係者以外には、特に印象に残る事件ではなさそうだ。
今から40年ほども前の事件なので、当時を知る人にインタビューするのも難儀したり、それに人の記憶が曖昧になっていたり、極めつけは、この事件の担当で調書などを書いた張本人の土本氏でさえも、当時の記録を読ませてもらえないという「法律」の壁に合うなど、取材もかなり難航したようだけど、良くぞここまで・・・と言うぐらい当時の真実に迫っていた。

犯人側の立場で書かれているので、つい、長谷川武に同情してしまうのだが、人一人命を奪われている、殺されているということを忘れてはならない。
この本では、被害者側にはコンタクトを取ってないと書かれている。著者なりの考えがあったようだが、やっぱり被害者の遺族のことにまったく触れられていないのは、片手落ちのような気もした。

読んでみて感じたことは、量刑と言う点で、この裁判はやっぱり厳しすぎると思う。
無期懲役という量刑が妥当だったのでは・・・。素人考えでは何を言う資格もないんだけど・・。
なぜ、死刑になったのか。それはあまりにも長谷川武が素直に犯行を認めたために、事件の検証がしっかりとされてなかったようだ。たしかに、殺したことは事実なんだから、死刑でもいいと。命をもって罪を贖えと言う意見もあると思う。
でもそれだと裁判はいらないわけだし・・。
死刑と懲役刑の分かれ目は?
究極の刑である死刑だからこそ、厳粛に、公正に、審議をし尽くしてその上で刑を決めてもらいたい。
それじゃなかったら裁判の意味が無いのでは。

被害者の遺族感情を刑の考慮に入れるのは、公正ではないと思う。
天涯孤独の被害者だったら?その被害者の命は、悲しむ遺族の多い被害者よりも軽いのですか?
被害者遺族が世論を動かす場合もあるが、司法は世論やマスコミに踊らされるべきではない。
被害者の遺族のすべてが行動的なわけではないのだから、公正さに欠けると思う。
そして何よりも、裁判は個人のあだ討ちではない。
裁判は、死刑を決める裁判は特に、本当に本当に本当に、正義に忠実であって欲しい。

本編とちょっと逸れてしまいました。

殺された人は気の毒だけど、この長谷川武の家族もまた、事件後とても不幸だったらしい。
でも、幸せではいられないだろうから当たり前か・・・。
自分が殺したわけじゃない・・と思っても、だからと言って忘れるなんて出来ないし、自分が幸せになることに疑問を感じてしまうと思う。でも、それが当然だ・・などとどうして言える?やっぱり家族もまた気の毒だと思う。
獄中で、自分を弁護してくれた弁護士や、話を聞いてくれた検事にせっせと手紙を書いた長谷川。
文鳥に与太郎と名づけ、可愛がった長谷川。
そして、人を殺した長谷川。

「裁く」というのは、どういうことなんだろう・・と考えさせられた一冊だった。

人生でただ一度死刑を求刑し、執行されたこの長谷川をいつまでも思い続ける検事の姿はもとより、もう故人であるけど、長谷川を親身に弁護した国選弁護人の小林健治氏の真摯な姿には、本当に頭が下がり感動した。




檻の中の少女/一田和樹★★★
「鬼畜の家」に続き、第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作の「檻の中の少女」を読んだ。
こちらも、タイトルから想像しているのとはちょっと違う内容だったが、なかなか面白く一気読みした。
タイトルから想像するのとは違っていたが、表紙絵から見たら、結構こんな雰囲気。ライトなミステリーと言う感じ。

主人公君島は企業専門にサイバーセキュリティのトラブルを解決する仕事をしている。個人向けの仕事はしない方針だが、あるとき老夫婦から仕事を頼まれる。
「ミトラスに登録していた息子が自殺した。しかし、本当に自殺なのか。真相を確かめて欲しい」
というもの。
ミトラスとは、自殺者支援サイトで、当世大流行。
「トリガー」に登録して(ネットのやり取りで)自殺者の背中を押してやると、それだけで礼金がもらえる仕組みなので、女子高生なんかもトリガーとして荒稼ぎできたりする。
老夫婦の破格の礼金を見込んで、君島はミトラスの内情を探り始める。
そこから浮かび上がる真実とは・・・・。


ある意味で力が抜けている・・いわゆる脱力系のハードボイルド?
それほど物々しい雰囲気や張り詰めた緊迫感、恐怖はない。でも不思議に先を急がされた。
自殺者支援サイトとか、そこで荒稼ぎする女子高生とか、とても現代的な内容で面白い。
なんとなくオチの一端は見えてしまったが、エピローグによって明かされるタイトルの意味まで含め、意外性のある物語だった。
だけど、これ、タイトルがかなり重要ポイントでは。「は?そっちかよ!」と、突っ込みたくなる展開なんだけどね。


ちょっと朝の連続テレビ小説「はね駒」の斉藤由紀の妹を思い出した。
たとえが古すぎて恐縮です(^_^;)



鬼畜の家/深木章子★★★
警察官あがりの探偵榊原は、ある人物の依頼で、その家庭で起きた出来事や、家族各人について調べていた。
死亡した北川秀彦の、死亡診断書を書いた友人医師の話から浮かび上がるのは、北川の妻のエキセントリックさと、死亡状況の「あいまいさ」だった。ひょっとして、北川の死には、なんらかの思惑があったのでは・・・。
調べていくうちに、家族に関わる人物では、他にも死亡事件(事故)が絡んでいるのを知る。
この家族に一体何があったのだろうか。



最初、インタビューをとる、相手のひとり語りの形で物語がすすむので、読者は榊原の目線で相手の話を聞くかっこうになる。これがどうにも居心地が悪い。なんだか他人のプライバシーをかぎまわってる感じがして。
しかし、次々と証人が変わることで、家族に起きた出来事がだんだんと分かってくる。
インタビューの次は、この家族の一員の話を聞く。こちらは普通の小説の形。
そこでも徐々に事態が明らかになる。
それほど目新しい構成の小説ではないけれど、釣り込まれた。
あちこちにヒントが隠されていて、ひょっとして・・・と、気付いてしまうこともあったのはちょっと残念だったけど、でも、真実が気になり一気に読んでしまった。

実はある小説を彷彿とした。→「 黒い家 」(多少ネタバレになるので白文字にします)
でもその小説ほどの狂気や恐怖感はなかった。もうすこし常識的な感じがした。
「鬼畜の家」と言うタイトルほどの、おぞましさはなかったような・・・いや、ある意味ではやっぱり鬼畜の家だったのかな。



第3回 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作品。
新人とは言え、著者鈴木章子氏は1947年生まれ、東大法学部を出て弁護士に。
60歳で退職してから、執筆活動を始めたとのこと。すごい経歴ですね・・!
次作品も期待しています!



辺境の旅はゾウにかぎる/高野秀行★★★
「ビルマアヘン王国潜入記」の後日談が語られていて、本編を読んだ人は必読!やっぱり大好き、高野さん。



世にも奇妙なマラソン大会/高野秀行★★★
深夜の思いつきで、サハラ砂漠の真ん中で行われるマラソン大会に出ることになってしまった高野氏。 聞いただけでも過酷なマラソンに出たいきさつと、そのときのレポートを相変わらず面白おかしく紹介する、表題「世にも奇妙なマラソン大会」。このほかゲイのおじさんに奉仕される「ブルガリアの岩と薔薇」。 インド入国のために戸籍名を変えようと涙ぐましい努力の「名前変更物語」。 旅先でであった「謎のペルシャ商人」、(このときは「読んだことある五木寛之のペルシャ絨毯の小説!」と私も嬉しくなってしまったのだけど・・・)など、相変わらずすっとぼけた感じが面白い高野本。 対人のエピソードが特に良い。 でも、オカルティックな話はピンと来なかったなー。高野さんにはあんまりそう言うこと言ってもらいたくない気が・・。 しかし、個人的にウモッカに期待している。ウモッカ見つけてくれないかなー。



ふがいない僕は空を見た/窪 美澄★★★★
R18文学賞を取ったとのことで、それも納得の濃い描写に最初はちょっと驚くが、勢いのある文体と若いパワーを感じて、グイグイと釣り込まれてさくさくさくっと読んでしまった。
コスプレ好きのいわゆる腐女子(「主腐」)のあんずと、不倫関係を続ける高校男子、斉藤卓巳。コトをいたすときもあんずの言うとおり、コスプレをして、あんずの望む役柄になりきっている。ただれた関係に決着をつけようとした主人公だったが・・・。
という、第一章から始まり、第二章ではあんずの目線で、その次は、斉藤卓巳のガールフレンドの目線で・・と言う風に、人間関係の中で各々が主人公として成る連作短編集。
こういう物語の面白いところは、目線が違うだけで、登場人物の印象ががらっと変わってしまうこと。
たとえば、第一章「ミクマリ」で、コスプレ主婦が高校男子を連れ込んでよからぬコトをしているというだけでは、まったくその「あんず」に共感も好感も持てず、嫌悪感を持ってしまうしかないのだが、第二章の「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」では、なぜ彼女がそう言う行為をしているのか、また、少年への気持ちはどうなのか・・など分かってくる。
すると、簡単に印象が変わってしまうのだ。
私が一番好きなのは、斉藤卓巳の友達が主人公になる「セイタカアワダチソウの空」。
これはどちらかと言うと、この物語の全体から外れた感じがする。友達の人生や生活があまりにも過酷でインパクトが強烈。登場人物たちも曲者ぞろい。これひとつだけでも充分物語として成立できそうなストーリーだった。屈折した人間の内部の「善」を感じることができ、苦々しい気持ちもあったが、爽やかな読後感がよかった。
R18とは言え、エロいだけではなく、描かれている人間関係が切実で胸に迫るものがあった。



レヴォリューション0/金城一紀★★★
ゾンビーズシリーズの前日譚というところの、物語。
謹慎処分が解けて久しぶりに登校した「僕ら」を待っていたのは、謎の合宿計画だった。
超・ハードなその合宿の意味は・・・。

このメンバーのファンは巷に多いと思う。
そのファンなら、誰でも楽しめる作品。
学校(権力側)を相手に、屈することなく、無駄と知りつつもやらなければならないことをきっちりやる。
その姿があれば、物語を読む甲斐があるのだ。
舜臣の活躍も「フライ・ダディ・フライ」などに比べるとちょっとインパクトがないし、「レヴォbR」を読んだときほどの衝撃はないのだけれど、、、ここからゾンビーズが始まり、そしてbRへ続くのだと思うと、ワクワクする気持ちは抑えられない。
泣きそうになるのは、このあとの物語を知っているから。
また、「レヴォリューションbR」を読みたくなること請け合いだ。



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感想



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感想



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感想