2011年の読書記録*part3



チェインギャングは忘れない/横関大 ★★★★
【STORY】

あるとき、囚人たちの護送車が襲われ、囚人たちが逃げ出した。
しかし、懲役8年以下の囚人たちばかり。
いったい誰が何のために、護送車襲撃を計画したのか。

同じころ、トラック運転手の早苗は、サービスエリアで若い男を拾う。
男は記憶喪失で自分が誰かも思い出せないという。
その男を乗せて早苗は東京へ戻るはめになった。そしてその成り行きで、お金を貸したり家に上げたり、挙句は一人息子を預けるなど、急速に打ち解けていく。

そしてまた、世間を騒がせている事件があった。クリスマスにネット配信を予告して実行される殺人事件。
犯人は「サンタクロース」と呼ばれている。捜査に当たる警察官たちに、囚人脱走の一報も入り、警察内部はさらにあわただしさを増していた。


【感想】

ありえない〜〜!!
まず、囚人護送車の襲撃で脱走とか、いかにもドラマ的で現実感がないし、見ず知らずの得体の知れない男を、たやすく信用して、まぁヒッチハイクはひょっとしたらあるかもしれないけど、家に連れてきたりカレーを食べさせたり、ましてや大事な子どもを預けるなんて!!絶対にありえない!!
・・・・と思うんだけど、それがこの物語では「まぁ・・あっても良いかも・・・」と言う気分にさせられる。
それはやっぱり、早苗が「拾った男」、修二のキャラクターのせいだろう。早苗がいとも簡単に信用してしまうように、読者にも魅力的に映る。
刑事が追いかけるうちに明らかになる、修二のキャラはカッコよすぎるほどだ。
夫を亡くして、気を張って息子を育てている女やもめの生活のなかに、ふっと舞い降りた「ロマンス」なのだ。カッコよくて男気の塊みたいな「拾い物」。要するに「夢物語」かもしれない。でも、そんなことがあっても良いんじゃない?と、思ってしまう。
と言うことは、絶対的に修二は信頼できる男であり、もしかして彼が「悪者」であってはならない・・・そう思いたい・・でも、どこか得たいが知れないから、一抹の不安がある・・・そんな感じで結構先を急がされて、ズンズンと読む。
「囚人脱走」「修二の記憶喪失」「サンタクロース殺人」この3つは最初は何のつながりも見当たらない。
それが終盤に近づくと意外にも(それともお約束か・・?)一本の線でつながっていく。
早苗の遠くて淡い初恋も絡め、ラストの着地はあまりにも上手くいきすぎな感じ。
でも、それでもいいじゃないか。クリスマスのプレゼント的な気持ちの良い爽快感のある物語だった。
これも映像化したら面白いんだろうな・・と思った。
でも、小学生がマージャンとか・・・映像化はやめたほうが良いか。(早苗の息子の航平の人物像も、小学3年か4年にしては老成しすぎているし、頭の回転も良すぎる気がして、そこも「ありえない」と思ったかな)

ちなみに、「チェインギャング」って言うのは、アメリカの映画なんかでよく見る、一列に鎖でつながれた囚人たちのことを言うんだそう。鎖でつながれているだけじゃなく、絆があるという言い回しらしいです。

横関さん、「再会」も面白かったけどそんなには印象に残らなかったけど、キャッチーな小説を書く。今後も期待したいです。



彼女はもういない/西澤保彦 ★★★
【STORY】

内容(「BOOK」データベースより)
母校の高校事務局から届いた一冊の同窓会名簿。資産家の両親を亡くし、莫大な遺産を受け継いだ鳴沢文彦は、すぐさま同学年の比奈岡奏絵の項を開いた。10年前、札幌在住だった彼女の連絡先が、今回は空欄であることを見て取ったその瞬間、彼は連続殺人鬼へと変貌した。誘拐、拉致、凌辱ビデオの撮影そして殺害。冷酷のかぎりを尽くした完全殺人の計画は何のためだったのか―。青春の淡い想いが、取り返しのつかないグロテスクな愛の暴走へと変わるR‐18ミステリ。

【感想】

西澤作品は、遠い遠い昔に読んだ「死者は黄泉が得る」っていうのが一冊だけ。(内容は覚えてない!)
記念すべき2作品目です・・(^^ゞ
で、感想やコメントで「後味が悪い」と言うものを良く見かけたけど、なるほど、これはダメだ・・。
主人公の行動が悪すぎる。
なんせ、女性を拉致してレイプしそれをビデオにとり、その上で殺してしまう。
ビデオは女性のケータイの中にある男性の住所に送りつけ、1000万円を脅迫・・が、その時点でもう女性は死んでいる。
今まで読んできた小説内の登場人物で、ここまで極悪非道な犯行も、そうそうないだろう。
途中で読むのをやめる読者も少なからずいるのではないかと思った。
いったい、何のために主人公はそんなことをするのか・・・・。
それは最後に分かる。でも、私にはちょっと納得いかない。そこまで思いつめてしまうほどのものなのだろうか?
でも犯罪者の思考や動機など、分かるはずもないので、分からなくても納得できなくても良いのかもしれない。。。。
かなり後味も悪いけど、でも、小説と割り切って読めるだけのエンタメ性があったと思う。
悪く言えば現実感がない。
でも、少なくともどうなるのか先が気になり、一気に読んだ。
このラストがあるから、印象に残る作品になったと思う。



マスカレード・ホテル/東野圭吾 ★★★★
【STORY】

一見、なんのつながりもない殺人事件が、実は連続殺人事件だった。
その決め手となったのは、現場に必ず残された謎の数字。
その暗号を解いてみると、次の殺人現場はとあるホテルになるはず・・。
超一流ホテル・コルテシア・・刑事たちはホテルマンとなり潜入することになった。
そこでホテルマンとして働く山岸尚美は新田刑事のサポートにつくことに。
ホテルマンとして、いかなるときも「お客様」優先の姿勢を崩さず、新田にもそれを求める。
刑事としての職務優先の新田とは何かにつけ反目しあう尚美だったが、二人はお互いの仕事を理解し始め、尊重しあうようになっていく。

【感想】

まあまあ面白いんだけど、ミステリーとしての面白みはあんまり感じなかった。
どこが面白いかと言うと、ホテルで働く側の内実の描写とか・・・。
感想を書いてらっしゃる方のご意見に、石ノ森章太郎「HOTEL」を思い出す・・と言うご意見が多かったけど、私が思い出したのは、森村誠一氏の作品たち。森村氏は、実際にホテルで働いた経験があっての創作だったから、すごくリアルだった。
尚美のホテルマンとしての姿勢は、たしかに読んでいてとても気持ちがいい。前向きだし真摯だし。
でも、ホテルでの仕事はかなり過酷な部分もあるらしく、この物語の尚美のような姿を見ていると「きれいごと」と思う気持ちもあったのは事実。
で、新田刑事・・最初はホテルマンとしての仕事に全然なじめなかったんだけど、尚美の姿を見ているうちに、だんだんと学ぶべきことを学び、成長していく。それはホテルマンとしての成長だけにとどまらず、人間としての幅が広くなっていく成長でもあった。
お互いを尊重しあう姿は、見ていても気持ちがいい。

と言う点で、読み応えがあったとも思うし、面白く読んだのだけど・・・・。
やっぱり東野さんにはもっと上を望んでしまう。
きっと作家には残酷なことなんでしょうね・・・。





フリーター、家を買う。/有川浩 ★★★★
【STORY】

25歳の誠治は、大学を卒業後に就職した会社をものの3ヶ月で辞めてしまった。高をくくっていた新しい就職口も見つからず、バイトで過ごすが、そのバイトさえも一所で長続きしない。そのうちに母親が重度のうつ病をわずらっていることが分かり、一念発起してそれまでの生活態度を改める。母親にとって、今の環境が良くないとわかり、引越しをするため「家を買う」と言う目標・・・に近づくために100万円ためると言う決意をするのだが・・・。

【感想】ネタバレあります、ご注意願います!

なかなか面白いサクセスストーリーで一気にサクーッと読めた。
ドラマの評判を聞いた限りでは、かなり主人公がイラっとする男だと言うこと、主人公の母親が痛々しいほどうつ状態がひどく正視に耐えないと言うことだった。
たしかに主人公、いい加減すぎてイラっとした。
しかし、その父親もひどいもので、家族に対する態度には、主人公に感じる以上に嫌悪感があった。
前半、どうなるんだろう・・この一家は・・・と目が離せなくて一気にハマった。
工事現場での土方のバイトを始めてから、人が変わったようになる誠治と、その父親。
ひとつ、きっかけがあれば人間は変われる!そんな印象を受けて爽快な気分になった。
父親すらも、誠治が軽蔑するような側面だけじゃなく、会社の中では出来る「経理の鬼」だとか、長所がクローズアップされてきて、読んでいる私も見直した。
父親が変わったというよりは、こちらの見方、見る位置が変わったことで、違う側面が見えたということだろう。



殺人鬼フジコの衝動 /真梨幸子 ★★★
【STORY】
幼いころから両親に虐待され、学校でもイジメにあっていたフジコ。一家惨殺の生き残りとして、伯母に育てられるが、ふとした困難に出会ったとき、相手を殺してしまうことで解決する少女へと成長してしまった。

【感想】ネタバレあります。
うーん・・・私はこういう小説は「現実感がない」と感じてしまう。
小学時代のイジメの描写にしても、心理描写が読んでいて物足りなかった。
主人公に同化して辛いと感じられなかったのだ。
書いてあること(フジコのやったこと)はすごく残酷でグロテスクだけど(特に、「愛犬家殺人事件」を思い出させるような、死体を解体するシーンなど)、そんなに心に残るものではない。グロいけど、怖いと感じられなかった。
何かにつけて現実味が薄いからだと思うのだけど・・。
サクサク読めたけど、まずまずよく出来たエンタメ小説というだけで、訴えかけてくるものはなかった。
ただ、物語の「真実」は、ちょっとした驚きがあった。
真実と言っても、結局、読者の想像にゆだねられているのだけど。
よい人のように思わせておいて、その人物の本性が徐々に現れてくるというのは面白かった。
それと、第一章と第二章は、フジコじゃなくて手記の著者、早希子の物語なのだと言うことが分かって、なるほどと思った次第。虐待は連鎖してしまい、母親のようになりたくないと願ったフジコは、結局早希子たちにとって、フジコの母親となんら違わない母親になってしまったんだなぁ・・・と、虚しい気分になった。




オーダーメイド殺人クラブ /辻村深月 ★★★★★
ハマるってこういうことを言うんですよね。
こんな中学生の女の子が主人公の小説を、アラフィーの、50に手が届こうとするおばさんが、末っ子すらこの小説の主人公よりも年上なのに・・・・。ハマってしまったんです。


主人公のアンは中学2年生。名前の由来は「赤毛のアン」。母親がマニアなのだ。前髪パッツンがトレードマーク。バスケット部で、ちょっと前には彼氏もいたことがある「リア充」だ。
彼女の世界はとても生き難い。ホンの些細なきっかけで、いや、きっかけさえ分からないまま、昨日までの「親友」たちから仲間外れにされたり無視されたり・・・。先生は信用も信頼も出来ないし、家に帰ればピントが外れた母親に、大事な秘密の「スクラップ」を見られたりして、気が休まることがない。
こんな風に書いてしまうと、本当に些細なことだ。
大人になったらもっと大変なことはいくらでもある。
そう言ってしまうのは簡単だけど、渦中にあるアンには、それは生きる気力が損なわれるほどの辛い出来事の数々。ちょっとしたことが致命的に感じられたりするのだ。
アンが大切にしているのは、同じ世代の誰かが起こした「事件」を色々溜め込んだスクラップブック。自殺だったり殺人だったり。
母はそれを見て心配するのだが(私でも娘がそんな記事ばかり切り抜いていたら心配になるだろう!)アンはそういうことに心を奪われる「夢見がち」な少女だったのだ。
あるとき、隣の席の男子徳川が「少年A」となり得ることを予感したアンは、徳川に頼む。
「私を殺して」
そして徳川の返事は「いいの?」と言うものだった。
そのときから二人で築いていく濃密で密かな時間。
「死」は、二人にとって、とても真剣でリアルなのだけど、彼女たちが真剣であればあるほど、非現実的に感じられる。
片やアンは、現実としてクラスのヒエラルキーに翻弄されては一つ一つに傷つき戦く。アンの中でその「現実」と「非現実」のバランスが、それこそ「非現実的」に見えてくる。
絶対に「事件」なんか起きないんだろう、どっちかが臆すかどうかしてやめるに決まっている。
読み進めて確信が沸いてくる。それほど、二人の「計画」は「夢見がち」なものだったから。
「夢」を見ながら二人の距離は縮まっていく。
ほほえましくすらあった。
しかし「実行」のときはやってくる。
その日その時の描写は、目が離せず圧倒された。
そして、胸が締め付けられた。
徳川のことを思う。
徳川は何を考え何を感じて、アンと一緒にいたんだろう?
アキバへ行った時、水着がなくなった時・・・。あとから思うと少しだけ見えそうになった徳川の気持ちや、描かれていない徳川の視点を思うと、切なくて胸が苦しくなるようだ。
ラストは後日談を含めて涙が止まらなかった。
陳腐だけど・・・胸が震えた。
大好きな1冊になりました。



ハードラック/薬丸岳 ★★★
【STORY】

ネットカフェ難民の相沢仁は、風邪を引いたことがきっかけで今の生活にいよいよ困窮してしまい、世を恨む気持ちもありつつ、「闇の掲示板」で仲間を募ることを思いつく。
「一緒に大きなことをやりませんか」
何をすると言うあてもなくただそうして仲間が集まるか、賭けてみた。
集まったのは3人の男と1人の女。
目的や仕事があるわけではない・・・という相沢の言葉に、みんながっかりしつつも、そのうちの一人がある計画を持ちかける。自分の知り合いの別荘に大金があるから強奪しようと言うもの・・・。
果たして大金をせしめることが出来るのだろうか。

【感想】

これ、ほかの誰かが書いた本だったら結構満足したと思う。読んでるあいだは面白いし、物語も良くまとまっていると思う。
でも、薬丸さんが書いたとなると、ちょっと物足りない気持ちは否めない。
路線変更したいのかしら。変更しないでもらいたいのだけど・・・・(^_^;)。
でも読んで損のないミステリーだったと思います。

主人公の相沢は、募集した仲間が持ちかけた犯罪で、まんまとはめられてしまうわけですが、暴徒からタイトルどおりのハードラック=不運で、同情してしまう。良くない考えも持ってるけど、どうかそれを改めてまともに生きて欲しいと思う。
そんな相沢をだましたのは誰か・・・。相沢の目線に立ってみると、誰も彼もが疑わしい。

・・と言うところまではなんとか思い出したんだけど・・・
・・・うーん、正直言うと、10月の末に読んだから結末をすでに忘れてます!!(^_^;)
サクサクッと読んだことは覚えてるけど・・・似たような「藁にもすがる獣たち」のほうは、結末まで覚えていることを考えると、やっぱりいまひとつ、パンチが足りなかったのかもね・・・・。
こんな感想を記事にアップしても良いのかな。読んでくださった方には申し訳ないです。自分のための備忘録なのでごめんしてください・・・(^_^;)



藁にもすがる獣たち/曽根圭介 ★★★★
【STORY】

赤松は自分が経営していた床屋を、不景気のためにたたみ、今はサウナで嫌な店長にこき使われる屈辱の毎日を送っている。あるとき、不審な男が大金の入ったバッグを預けた。が、その客はそのまま帰らなかった。
バッグの中身を確かめると、そこには大金が・・・!
娘にお金の無心をされて困っていた赤松は、思わずその大金に手を付けようとする・・・。
かたや暴力団に2000万円もの借金をして、返済に窮する悪徳刑事の江波戸。
暴力団の組長の取立てはどんどん厳しくなる一方で、ごまかしも効かなくなって来た。
が、なんとか、返済の手立てを見つけたのだったが・・・・。
そして、美奈は主婦だが、FXで失敗した借金を返すために、夫に内緒でデリヘルで働いている。
あるとき、美奈を指名してくる若い男が、美奈の夫から受けたDVの痕跡を見て、夫殺しをほのめかす・・・。

金の誘惑におぼれ、犯罪に手を染めていく、獣たちの運命は―。

【感想】

奥田英朗っぽいなーと言うのが率直な感想。
でも最初からノンストップでぐいぐいと読まされた。
3人のキャラが立っていて、面白かった。
いろんな事情があるにせよ、どの登場人物の生活もきわどいところをスレスレで生きていると言う感じ。
あまり感情移入できる登場人物がいなかったのだけど、もと床屋の赤松はちょっと気の毒な感じがしたな・・・。
たしかに、いい生活は送ってなかったけど、破滅の危機があるほどではないから・・。いわゆる巻き込まれてしまったタイプだったかも。あんなボストンバッグが店に舞い込まなければ・・・。
そのボストンバッグの持ち主は?・・・・
と思っていたら、結構意外な展開だった。
3人それぞれの行く末が気になって、先を急がされた。
なるほど、この3人は「藁にもすがる」ような切羽詰った人たちだった。
この群像劇、ラスト「なるほど!!」と思わされた・・・。好きなタイプの作品。面白かったです。



緑の毒/桐野夏生★★★
川辺康之は開業医。
しかし、患者よりも自分の都合優先で、温かみのまるでない診察をして、同病院の看護師達にも疎まれていた。
そんな川辺にはある秘密があった。
水曜の夜には、あることをするのだ。
ある事とは・・・。


読んでいて、とんでもなこの川辺の所業に、慄いた。なんという下種なんだろう。人間として最低だ。ましてや医者としてこんな人間がいていいのか。。。。
慄き、呆れ、怒りながらも、こんなとんでもなく悪いやつには、きっととんでもなくひどい報いがあるのではないか・・と、どんな結末が待つのかと思いながら読んだ。
被害にあった人たちも「復讐」ということを考えている。
これは被害者達の、川辺に対する復習劇だろうか・・・・と思ったのだけど、被害者達だけではなく、川辺の妻とその浮気相手、川辺のもと共同経営者の野崎や、その家族などなど、それぞれにドラマが語られる。
その根底には「川辺は邪悪だ」という事があるんだけど、特に「弥生先生」っていうのは一体なんだったの?みたいな、横道に逸れすぎな感じも否めない。
何よりも不満なのは、あれほど期待した川辺に対する鉄槌が、消化不良気味だったこと。
期待しような形ではなかった。
ではどんなものを期待したのか・・と言われたら、それも答えに詰まるけど・・・(^_^;)。
思うに、ページ数が全然足りてない。
それぞれの登場人物にドラマを語らせてもらっても大いに結構、むしろ物語に深みが加わる気がして歓迎するけど、それを収めるためにはそれなりのページ数がいるんじゃないかなーと思う。
今回のこの本、分量不足と感じた。
下種男と言えば、前作「ポリティコン」。あの作品で著者は下種男を描くのに快感を覚えたとかじゃないかな?
で、今回もその流れで、もっとひどい下種な男を描こうとしたんじゃないか、と私は感じた。
少なくとも、この素材がたいへん面白そうだっただけに残念だった。



獄に消えた狂気
   ―滋賀・長浜「2園児」刺殺事件/平井美帆
★★★
「精神を病んだ女は法廷で奇声を上げ続け、鉄格子の中に封じ込められた――。

園児の小さな身体を二十数箇所も刺し続けた「中国人妻」。統合失調症に罹患し通常ならば不起訴処分となるはずが、その虚ろな目の前で裁判は強行された――。加速度的に悪化していく症状の中で、女が辿った無期懲役への道程。面会と書簡を重ね垣間見えた、心を覆う漆黒の闇とは? 精神障害者を裁く「司法のタブー」を抉る。(新潮社HP紹介文より)


読み終えて、率直に言うと、結局この事件はなんだったんだろう?と言う印象が残った。
統合失調症という病気の中国人妻が、自分の子どもの同級生(園児)を滅多刺しにして殺してしまった。
問題はどこにあるんだろうか?
本書を読むと、この事件は防げたはずの事件だと感じた。
犯人の鄭永善(てい・えいぜん)は、中国から集団見合いでやってきた。
中国ではエリート中のエリートだったらしい。
いろいろ野心的で夢もあったが、長浜と言う田舎で(長浜のみなさんゴメンなさい)夢破れ、いつしか統合失調症になり、事件を起こすに至る。
この病気はしっかりとした管理が大事なのに、永善の家族はまるで彼女を管理せず、自分たちに都合のいいように投薬をしたりやめたりをくりかえしたらしい。
もっと家族がしっかりと彼女の病気と向き合えば、こんな悲劇は起きなかったのじゃないか・・・つくづく、そう思えてならない。

本としては、なにが言いたいのかあまりよく伝わらない。
事件そのもののせいだと思うけど。
刑法39条によって、犯人が保護される事がおかしいのか?
たとえ、統合失調症によって引き起こされた事件でも、やっぱり犯人は責任を取るべきか?
永善が中国からやってきたから、統合失調症になったのか?
永善が中国人妻だったから事件は起きたのか?

著者がまったく永善と意思の疎通が出来なかったように、読んでいてもこちらに伝わるのは虚脱感のようなものだけ。
怒りをどこに持っていけば良いのかわからないからだ。
被害者家族のようにストレートに永善を憎むのは、本書を読むと、すくなくとも私のような第三者には違うようにも感じる。
だから読んでみて、疲れたし、救いがないというか、どこにも気持ちのやり場がない感じだった。
犯人が中国人であれ日本人であれ、こういった事件は二度と起きないように、なんとかしてもらいたい。
亡くなった二人の園児とそのご家族が気の毒でならない。



黄昏に眠る秋/ヨハン・テリオン★★★★
スウェーデンのミステリー。

20年前の霧深いある日、忽然と消えてしまった息子のイェンス。
ユリアはずっとその事にとらわれて生きてきて、家族(父親や姉)とも上手く行ってない。
あるとき、離れて暮らす父親から電話があった。
「イェンスがいなくなったときはいていたらしい靴が見つかった」と。
その靴は何ものかが、ユリアの父、イェルロフに送りつけてきたのだった。
それを発端とするかのように、イェルロフの親友が不審な死を遂げた。
20年経て動き出した事件。真相は・・・?


物語は、イェンスの「居場所」を探そうとするユリアの現在と、1940年当時少年だったニルス・カントの生涯をなぞる物語が交互に語られる二部構成。イェンスの行方不明に、このならず者のニルス・カントが関係しているらしいと示唆を含めて進んでいく。
20年も前の事件で、ユリアはもう、子どもが死んでいると思ってる。
思ってるけど、どうにかしてその居場所を探してやりたい・・・という母心に突き動かされている。
それを助けるのが、ギランバレー症候群で歩行もままならない父親のイェルロフ。
ユリアはイェンスがいなくなったときに、イェンスの傍にいなかった父親を責めつつ、自分のことも責めている。
その事で二人はとてもギクシャクしているんだけど、この事件が20年ぶりに動き出した事で、急速に二人の距離が縮まっていくのだ。父親のイェルロフが探偵役、体は不自由だけど頭はさえていて色々と推理を働かせる。決してスマートな感じにサクサクと解いていくわけじゃないけど、慎重に寡黙に真実に近づいていく様が見応えがあった。
イェンスがどこに行ったのかは、この、もうひとつの物語であるニルス・カントの物語を読み進めるしかない。
しかし、イェルロフの推理が真実に近づくのと、ニルス・カントの行動が核心に迫るのとが、次第に近づいていって緊張感がある。
愛するわが子を無くしてしまった母親ユリアの、深い後悔と喪失感が痛々しい。
が、やっとそれも癒されようと言うときに、明かされた真実は・・・・。

でも、最後の最後はホッとできた。辛く苦しく長い旅路にやっと終わりが来て、特に豪華でもないけど暖かいリビングで一息つけた・・そんな感じのユリアの心境だったんじゃないだろうかと思う。<



解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯/ウェンディ・ムーア★★★★★
皆川博子作「開かせていただき光栄です」が面白かったので、関連本として紹介された(皆川氏も参考文献に挙げていた)本書を読んだ。
「開かせて・・」のダニエル先生のモデルとなった人物の伝記です。

面白い!
偉人である!!ハンター先生、どんだけパワフルなんだ!と驚愕する。
この人がやったことは、私はここではもうご紹介しないけど、外科的分野がすごく低く見られていて、イボを切ったりするのは床屋さんの仕事だったと言う時代に、自ら進んで死体を切って開いてその目で人体(他の動物も)のからくりを臨床研究していった人物だ。

「開かせていただき光栄です」に登場するダニエル先生は、口を開けば「もっと死体を!!(解剖するための)」と言う。
口癖のように。
それが作中とてもユーモラスなのだけど、本物はもっとすごかった。
解剖するのも寝る間を惜しんで。勤勉とか言うレベルじゃない。
それに、死体蒐集にかける意気込みたるや半端じゃない。
ハンター先生の生前も、後年には知識人たちの間では自分を死後解剖してもらうのが「流行」のようにさえなったらしいが、一般人には解剖して切り開かれずたずたにされると言うのは、とんでもない恐怖だったよう。
そんな中で墓を暴き、死体を買いあさる。他の解剖医たちも同じように死体を欲しがり、需要と供給のバランスが崩れて、死体取引はとんでもない様相を呈したとのこと。
イギリスだけの話じゃなく、アメリカにも飛び火した死体争奪戦。
反対派の市民との確執もすごかったらしく、暴動まで引き起こしたとか!!
そう言う細かなエピソードの一つ一つがとても魅力的だった。


この人は「近代外科学の父」と呼ばれているらしい。
ダーヴィンが「種の起源」を書いたときよりも70年も前に、動物の進化論を発見していた。
当時はキリスト教の影響から、万物は神が創ったと信じられていたらしい。
だから、今ある生物はその形のまま、何千年かまえに創られたと言われていて、その意見に異議を唱えると言うことは、神に対する背信行為として、常識では考えられない危険思想だったんだそう。
でも、どんな動物の死体も解剖して骨格から調べては、ハンター先生は自分で、進化論に気づく。
今でもそうなんだけど、「定説」を打ち破るということはとても難しいことだと思う。
まず、そのことに疑問を抱かなければならない。
ハンター先生は子どものころから、何に対してもまず疑問を抱き、自分の目と手で疑問を解いていったそうだ。
本を読むのが嫌いだったから、既成の事実にとらわれず、自分なりに事実を追求することが出来たとのこと。
私などは、なんでもかんでも読んだこと、言われたことをそのまま信じ込んでしまう。
Aは白、Bは黒と言われたらそれを信じるし、今のは間違いでして事実は逆です・・と言われたらまたそれを信じてしまう。
私のような人間とは正反対の人物だ。
特にそれが宗教がらみで「疑問を持つこと」「違う説を唱えること」が異端視されてしまう時代には、もっと困難だったろう。
ハンターの発見はさまざま、とても現代医学に貢献しているらしい。
実はこの本を読んでいるとき、わざとじゃないのだけど、夫が扁桃腺の切除手術をした。
ハンターの頃はまだ、細菌が発見されていなかったので、手術などもすべて滅菌しないで行われたらしい。
さすがのジョンハンターもまだそこまで発見してなかったみたい。
だから手術=感染症で、亡くなる人が多かったんだとか。
今の手術は当時から見たら格段の進歩で、感染症などはよほどのことがなければないだろう。
現代医学は、ジョン・ハンターのような先人達の苦労や努力の末に成り立っていて、我らは大いにその益を享受しているんだなぁとしみじみ実感した。
この人が残した骨格や標本は、今でもロンドンにあるハンテリアン博物館に展示されていて、一般人も見ることが出来るのだそう。240センチ近くの巨人、チャールズ・バーンの骨とか・・・ぜひとも見てみたい!!
近くにはホラーファンにはたまらないんじゃないかと思われるロンドン・ダンジョンなんていうのもある。
この界隈、いつか旅行してみたい!!と、切に思ったしだいです。

ところで、このハンター先生の偉業を陳列してあるハンテリアン博物館は、ハンター先生の最後の弟子ウィリアム・クリフトによって献身的に保存されてきたらしい。
ハンター先生はとっても魅力的な人物で生徒達にとても慕われたらしいけど、反面、気短で激昂しやすく、そのために敵もおおかったようだ。死後、ハンターを裏切ったのが、身内である義弟のエヴァラート・ホームなる人物。
身内にこんな敵がいて、ハンター先生の偉業は下手をしたら今のように残らなかった可能性もあったのではないか。それを残したクリフトはエライ!
彼はハンターの弟子になっていた期間はたった1年半。
にもかかわらず、深くハンターを理解し、手助けした(もちろん勉強も教えてもらい)。
クリフトはハンター先生に出会ったことを良かったと思ってると思うけど、ハンターにとってもこの弟子との出会いは僥倖だったのじゃないだろうか。
最後の弟子がこんな献身的な聡明な人物で、本当によかった。
最後にその救いがホッとさせてくれた。

そして、これだけの偉大な業績を上げた人物の・・しかもずいぶん昔の人なのに、ここまで取材してここまで明らかにしたなんて、この著者のライター魂に敬服、脱帽、ひれ伏すのみです。
ハンター先生、クリフト助手、そしてウェンディ ムーアさん、ブラヴォー!!ハラショー!!です。



花の鎖/湊かなえ★★★
勤め先の英会話教室が経営破綻して金欠の梨花。(花・あたし)
入院中の祖母は手術が必要だった。そのうえ、あるものをオークションで落札して欲しいと祖母から頼まれてしまう。
母の元へいつも届けられていた豪華な花束、それは謎の人物「K」からの贈り物であり、その「K」は両親が一度に交通事故死した3年前に、自分に援助を申し出てくれた。
今はじめてその「K」を頼ってみようと思い立つ梨花。

Kとは一帯誰なのか。

和弥と幸福な新婚生活を送る美雪。(雪・私)
和弥はいとこの陽介と一緒に独立して、デザイン事務所を構えることになる。
そんな和弥はある建物の設計を計画していた。

その計画とは?

絵画教室で絵の講師をしながら、和菓子屋「梅香堂」でアルバイトをしている「さっちゃん」こと紗月。(月・わたし)
「K」から届いた手紙の中には「相談したいことがある」と書かれた、学生時代のルームメイト希美子からの文面があった。
希美子とは学生時代に、付き合いがあったのだけど、あることがきっかけで絶縁してしまっていた。

あることとは?



読み終えて正直言えば、結局のところ人物相関がややこしくて整理するのに少し苦労する。
Kとは誰か・・・・というのが、大筋の謎なのだけど、登場人物が片っ端から「K」なのだ。
読みながら「この人もK、この人もK」と、Kを追うのに一生懸命だったような気がする。
主人公3人のつながりは一体なんなのか・・・ヒントはきんつばの美味しい梅香堂。

物語の雰囲気を味わうと言うよりも、ミステリーとして謎を解くことに気持ちが行ってしまった。
たいした謎ではなかったと言う印象もあるけど、謎解きの後も尚混乱してしまった。

(ネタバレあります ご注意願います)





ともかく、私の夫を栄光を奪った上で死に至らしめたいとこが憎い。
それを花束だとか援助だとか、罪滅ぼしのつもりか知らないが、上から目線だし、梨花が感じたように「そんなことで罪は消えないわよ」みたいな気持ちはこちらも感じてかなり不愉快になった。
それに、Kの代理として現れて、梨花に不愉快な態度を取ったのは、Kの息子なので、いとこたちの孫と言うことになる。
コイツがまた不愉快で忘れられない。終盤にきて全てが明らかになると
「じゃあなんであの時梨花はあそこまで罵倒されなければならなかったんだろう?」
と、ムカついてしまった。
最後はめでたしめでたしでキレイに収まったのかもしれないけど、私にはその不愉快さが最後に来て余計に大きくなった気がした。




夏草のフーガ/ほしおさなえ★★★
初読みの作家さんでした。

「夏草は神様はいると思う?」と訊いたおばあちゃん。
夏草の入試にお守りとしておメダイをくれた。そのお陰かどうか、夏草は私立で中高一貫ミッション系の望桜学園に合格、入学することが出来た。おばあちゃんも同じ望桜学園の出身だった。
夏草の入学後、おばあちゃんは倒れてしまう。
気づいたときおばあちゃんは、記憶の混濁を起こして、夏草と同じ年齢の中学1年生に戻っていた。
おばあちゃんをその記憶のまま世話をするのに、あちこち無理なつじつま合わせをしたりごまかしたりと、てんやわんやの夏草とお母さん。
そんな時、夏草は、教室である出来事から「イジメ」にあってしまう。
おばあちゃんの記憶は戻るのか、夏草のイジメは・・おばあちゃんの作る「ヒンメリ」に隠された謎は?


読み終えて、印象に残っているのは「ヒンメリ」だ。
ヒンメリってなんだろう?有名なのかもしれないけど、全然知らない。聞いたこともなかった。
おいおい説明はされるのだけど、どうもイメージがわかなくて困った。
なんとなく想像して読み終えてから画像検索かけてみたら、そこに出てきた物体は、自分の想像とは全然違っていて苦笑した。

テーマはなんだろう?
神様はいるのか、いないのか・・。
おばあちゃんの記憶は元に戻るのか。
おばあちゃんのヒンメリに込められた秘密は・・・。
夏草のイジメと学校の話か・・・。
夏草の、ばらばらだった家族の再生物語なのか。

実はどうも印象が散漫で、よくわからなかった。
個人的には「神はいるのか?」と言う壮大なテーマだと感じた。
その宗教色が濃いと感じられ、イマイチのめり込めなかった。



小説キャンディキャンディ/名木田恵子★★★
「キャンディ・キャンディ」については、いまは「醜聞」のイメージがこびりついてしまっている。
素敵な作品なのに、悲しいことだ。

この「小説」は、従来のストーリーに加え、その後の登場人物たちのありようを、手紙形式でさっと紹介している形になっている。
従来のストーリー部分では、漫画作品を思い出し、時には漫画と同じ部分で泣いたりして、懐かしくもあり、また新たな気持ちで感動もして読むことができて「小説版もなかなかいいな!」と思わされた。絵がなくてもみずみずしく脳内補足される、その文章は素晴らしいと思い、釣り込まれた。
手紙部分では、キャンディの独白形式だけど、登場人物たちのその後がちゃんと分かる展開で、よく出来たつくりだなーと感心。ただ、前半部分に比べて、かなり足早に過ぎた感じはしたけれど。

最後に、この小説は物議をかもす「あの人」と言う人物が登場。
キャンディは一緒に暮らしている「あの人」に「おかえりなさい」と言うシーンで終っている。
著者があえて「あの人」と、ぼかして名指しを避けているために、かなりの論争を呼んでいるようだ。
ちょっと検索したら、某巨大掲示板で、ものすごく熱い論争が展開されていて、正直引いてしまった。

もちろん、あの人というのが、アルバートさんなのかテリィなのかという論争だ。

作者あとがきにも、「名言は避ける。読者の判断に委ねる」と書かれていて、そのために読者達は持論をぶつけ合っているので、ほほえましいと言えば言えそうだけど・・・正直どちらも譲らないので怖い・・・(^_^;)。
あくまで私の個人的な意見ですが、完結した「ャンディ・キャンディ」がなぜこんな形でまた、別のラストともとれる物語として発表されたのか・・・・それは、きっとテリィファンに対するサービスなんじゃないかと思います。
漫画のラストでは、キャンディはアルバートさんとその後の人生を共にする・・と言うイメージだった。
私は、アルバートさんが好きだったし、キャンディの冒頭で登場した丘の上の王子様と、ラストで結ばれると言うストーリーにとてもホッとして、満足したのだった。とてもキレイに収まったと思ったんだけど??

だから正直言って、今回の小説の、著者が「読者に委ねる」という、「あの人」の登場は蛇足に感じた。
だって、私の中ではあのまま終っていてくれて、何の問題もなかったんだもの。

逆に、テリィのファンは、どちらとも取れる「あの人」の登場に「あの人=テリィ」だと、希望を見出すことができる。
その後のストーリーで何があったのか、それも、読者が想像するしかないのだけど・・・。
著者もどうせ出すのなら、まったくの「その後のキャンディキャンディ」を出してくれたらよかったんじゃないかな?
その上で、あの人=テリィだというのなら多分納得出来ただろうと思う。
でも、漫画のほうで何十年も前にきちんとキレイに収まったあのラストを、なぜこんな形で覆さねばならないのか??
覆し方と言う点で、はなはだ疑問だった。
覆してないと言うのなら、なぜそれが誰であるのか明言を避けているのか。


著作権問題など知らなかった当時の自分に戻って、もう一度コミックで「キャンディ・キャンディ」を読み返したくなった。
漫画が発行されたらそれが一番いいのに、出来ない。
だからこういう形でしか、物語を次の世代に残せない。かといって、漫画の完全なノベライズではないところが、難しいところ。。

ファンの心理は複雑ですよ。


とにもかくにも「キャンディ・キャンディ」の世界へ一気にどっぷり浸らせてもらえました。
貸してくださったラムちゃん、ありがとう!(*^_^*)



マザーズ/金原ひとみ★★★★
3人の主婦の子育て中の悩みや苦しみ、喜びを描いた物語・・・。
というと、あっさりしすぎだけど。内容はもっとどろどろでグチャグチャです。
子育ての辛いいやな部分だけを掘り起こしているといっても良いぐらい。
正直言って読んでいて疲れたし、そのしんどさが伝わってきて辛い。
最初はともかく読みづらい。
3人が3人とも理屈っぽいので、人物の見分けが付くまでにかなりかかったし、いまいち共感できなくて。

読んでるこっちは、その時代はとっくの昔に過ぎ去ってしまい、苦労したなぁ・・とか、大変だったなぁ・・というのは、私にとっては「思い出」でしかない。それよりも、今、たった今現在も継続中の子育て(というよりも子どもとの対峙?)のほうが問題も大きいし深刻なので(これもきっと過ぎてみたらただの思い出になるんだろうけど)彼女たちが抱えている閉塞感や孤独感みたいなのは、今の私にはそれほどに共感できなかった。
逆に、今まさに小さい子どもを育てている母親なら、恐ろしいほど共感できるのかもなやみをm

それと、登場人物にあまり好感が持てない。
特に作家のユカ。こういう人は友達にしたくないなーと思う。作家ならではの洞察力で、本人にも気づかないところまで分析されて勝手に納得されて・・・ちょっとご遠慮願いたいなーと思った。もちろん、ドラッグ中毒と言う点でも。
ドラッグのせいだろうけど、キレるときも尋常じゃないキレ方で、そんな風にキレている人間を見た事ないので、嫌悪感がいっぱい。

涼子は3人の中で唯一、ごく普通の主婦だから、彼女に一番共感を覚えた。
子どもが一番幼いせいもあり、子育てに行き詰まりを感じている。他の二人が子育て以外のところでも問題を抱えているのに対して、涼子は子育てが一番の悩みであり苦しみになってしまっている。
本人は自覚がないようだったけど、明らかに育児ノイローゼだと思う。彼女には救いの手が差し伸べられるべきだと思ったし、一般的にもこういう悩みを持つ母親は多いんじゃないかと思う。

モデルの五月は、3人の中で、育児と言う点ではかなり理想的なのだけど(我慢強く子どもに優しい育児で感心した)不倫しているから・・好きじゃない。嫌いでもなかったけど。

次第に物語りに釣り込まれたのは、やっぱりその心理描写の巧さのせい。

そして、最終章が圧巻だった。
これはフィクションなのか。だとしたら、良くぞここまでその当人の気持ちがわかること!と驚いてしまった。
自分は幸いそう言う経験がないので、信憑性は計れないんだけど、同じ体験をしたらきっとこうやって苦しむんだろう・・こうやって過ごしていくんだろう・・と言うのがはっきりと分かる気がした。

読むのに6日もかかりてこずったけど、共感できるとか出来ないとか以前に、最後は本当に「すごい!!」と思った作品だった。



共同正犯/大門剛明★★★
姫路市内で居酒屋「利庵」を経営する鳴川は、かつて自分自身も勤めていた町工場、弓岡製鎖工場が経営存続の危機に陥っていることを知る。若くして父のあとを継ぎ、経営者となった翔子が連帯保証人になったために、巨額の借金を背負ってしまったのだ。どうにかして弓岡製鎖工場を救いたいと思う鳴川は、その工場で他殺死体を発見してしまう。
その死体は、翔子の借金の相手だった。殺したのは翔子!?そう思った鳴川が取った行動は・・・。

殺人事件があるんだから、一帯誰が犯人か・・という目線で読み進めるんだけど、なんだか、それはそっちのけで借金問題が一番の大事みたいな感じになってしまった。
しかし、それはそれで面白く読めたのだけど・・・。
登場人物たち・・・とくに、利庵の主人、鳴川と、その従業員の萌が印象的で、好感も持てたので・・。
捜査員の刑事二人も、どことなく人情味が「わかる」刑事たちで、魅力があった。
テーマは「絆」とか「情」と言う感じだろう。
利庵の常連客たちをはじめ、いろーんな人たちが、弓岡製鎖工場と翔子のために、心を砕いていて、ミステリーと言うよりも、下町人情もの・・・というイメージだったか。
それはいいんだけど、そこまで「想われている」翔子の存在感がイマイチ薄い気がした。「なんでみんなこの人のためにそこまでやるの?」と言う感じになってしまった。
ラストのオチも少し唐突・・というか、無理やりな感じがした。(ちゃんと布石は敷いてあるんだけどね)

読んでいるときはかなり面白く読めたし、著者の第一作から順を追って読んできているんだけど、だんだんと読みやすくなって来ている気がする。
ただ、読み終えた後あんまり印象に残らない作品かも。
個人的には前作の「告解者」が一番良かったと思う。
でも、今後も追っかけますので、また次の作品も期待しています。



化合/今野敏★★★★
1990年、バブルがはじけて間もない頃の物語。
とある殺人事件で、本庁に勤める若手刑事の菊川は、地元板橋署のベテラン刑事滝下と組む事になった。
事件には最初から烏山検事が介入して、現場の刑事たちはやりにくい。そして、事件は烏山が誘導するかのように、ひとつの事実を「作り上げて」行こうとしている。
抵抗する菊川に滝下は、検事が描く事件を我々が変える事は出来ないと言い放つ。
そんな滝下を軽蔑しそうな菊川だったが・・・。


事件そのものは何の変哲もない殺人事件で、地味と言えば地味。
だけど、その事件を解明しようとする警察内部の描写が、とてもスリリングでぞくぞくする。
烏山検事と言う敵がいて、反旗を翻したい主人公と、外見的には事なかれ主義の、相棒滝下をはじめ、他の刑事たち。
それがあまりにもリアルで、「冤罪はこうやって作られるんだろう」と、ぞっとした。
日本の刑事事件の有罪率は99%を越えているという。
検事は起訴したら99%有罪にするということらしい。
冤罪は五万とある・・・・警察は信用できない・・・などと、感じてしまう。
が、主人公達は、冤罪を生まないように奔走するし、上司にもたてつく。
事なかれ主義を通して、検事の意向に沿っておけば、自分たちは安泰なのに、あえてそうはしない。
そんな彼らにとても好感を感じたし、また、カッコよく感じてぞくぞくした。
事件自体は地味だけど、とてもドラマティックに盛り上がっていたと思う。

「ST」と言うシリーズものの前日譚らしい。
そのシリーズは未読だけど、また読んでみようと思う。



刑事のまなざし/薬丸岳★★★★
薬丸岳さんは、「天使のナイフ」以来追いかけている、好きな作家さんです。
と言っても寡作というか、この本でたしか5冊目なんじゃないかな?
「天使のナイフ」「闇の底」「虚夢」「悪党」・・どれも読み応えがあります。
個人的に、特に良かったと思うのは「悪党」と「天使のナイフ」。
そして、今回の「刑事のまなざし」はそれらと同じぐらい好きな作品になりました。

こちらは夏目刑事シリーズと言うべき、連作短編集。

オムライス
黒い履歴
ハートレス
傷痕
プライド
休日
刑事のまなざし

の6編からなる。
特に印象に残るのは「オムライス」。
恵子の再婚相手である内縁の夫が放火による家事で焼死した。
恵子には難しい年頃の息子がいて、内縁の夫とはそりが合わなかった。
火事で内縁の夫を殺したのは誰か・・・・。
読者に初めから手の内を見せず小出しにして事実に近づいていく手法で、とても面白かった。
結末もまたインパクトが大きい。

他の章も面白いのだが、全編通して、夏目刑事の人柄が光る。
東野さんの加賀恭一郎のように、人情味のある暖かな懐の刑事なのだけど、こちら夏目刑事は入院したきりの娘がいて、夏目刑事自身も、以前は少年鑑別所で働く法務技官だったのが、30にして突如警察官に転職したと言う、その背景が特殊だし興味をそそられるのだ。
いったい、夏目刑事とその娘に何が起きたのか?
それは最終章「刑事のまなざし」で明らかになる。
自分だったら耐えられないような事実が夏目に突きつけられる。
それでも、夏目は最後に言う。
「世の中から全ての犯罪がなくならない限り・・・・・・」と。
悲しさを内に秘めた夏目刑事は、間違いなく、ミステリー史に刻まれる名刑事になるんじゃないだろうか。
今後も薬丸さん、そして夏目刑事を追いかけたい。



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