2012年の読書記録*page1



未来国家ブータン/高野秀行★★★★
さあ、文章的心の恋人(文章に惚れ込んでます)高野さんの新刊。やっと読んだ(*^_^*)。
今回は、先日国王が来日して話題を集めたブータンへ。
しかしきっかけは、ご友人の二村聡という企業家に依頼されたものだった。
二村氏はブータン政府と共同プロジェクトを開始、その現地の下調べを高野さんに頼んだのだ。
なんでもプロジェクトと言うのが「生物多様性」「生物資源の開発」と言うもの。
乗り気ではなかった高野さんは、二村氏の「ブータンにはイエティがいるんです」と言う言葉に乗っかって、ブータン行きを決定。
例によって現地の言葉を勉強して習得し(このあたりいつも尊敬と言うか憧れの元)、旅立ったのである。
ブータンは現在も半鎖国状態で、旅行や調査での滞在も、かなり限られた時間や範囲しか許可されないらしい。
そんなタイトな日程の中高野さんは、現地のエリート、ツェンチョ君をパートナーに、一ヶ月に渡りブータンに滞在。
激しい高山病や下痢に苦しみ、ルンタ・ギュップ(運勢下降)に悩まされながら続く相変わらずの珍道中。
果たしてイエティはいるのか?
そして肝心の「仕事」である生物多様性、生物資源については、調べられるのだろうか??


実は高野さんが依頼された「生物多様性」とか「生物資源」とか、あまり私には良くわからず、二村さんなるひとが高野さんに何を求めて、ブータンに派遣したのかも、よくわからなかった。
目的がわからないので、全編すこし靄がかかった感じではあったけど、高野さんにとって主目的は「UMA」「イエティ」なので…。
中盤登場するイエティは、ブータンでは「ミゲ」と呼ばれ、ある地方では「チュレイ」などと言う未知生物も登場し…。
実際に私自身は、夢がないようだけど「精霊」「物の怪」の類は一切信じられない。
だから高野信者ではあっても、その辺は申し訳ないけどさらーっと読んでしまう…(^_^;)。

今回印象的だったのは、ブータンという国家そのものだった。
ブータンは人口70万人弱。(八王子市や熊本市と同じ規模)国家と言うより、国家のミニチュア版だそうだ。
切り立った崖や、深い山々、壮大な自然の中で小さな国家が、GNH(国民総幸福量)世界一を誇る。
そもそも、国民総幸福量ってなんだろう?
たしかに以前ブータン国王が来日したとき話題になったけど、そんなの国王が勝手に言ってるだけじゃないのか?情報がいきわたらない未開国家で、世界を知らずに(井の中の蛙状態で)自分は幸せだと言ってるだけじゃないか?
なんて、ひねくれモノの私はちょっと思ってた。
でも、本書を読んで、自分の考えの浅はかさに恥じ入った。
ブータンの国王はすばらしいのだ。高野さんが推察するに、おそらくダライ・ラマの精神を受け継いで、環境立国を推進しているらしいけど、今の世の中では最先端の思想だという。
(高野さんが感動したという、ダライラマ・・私も読んでみたくなった)
国の先頭に立つ人物がこうであれば、国民は信頼して付いて行けるだろうと思わせられる。そして、ブータンではエリートが本当に謙虚で気配りの行き届いた人だというところに、心底感銘を受けた。
要するに、長年鎖国状態にあり、今は、先進国の見習うべき部分、見習ってはいけない部分を吟味して国家を運営しているようで、「いい所取り」をした挙句、今のブータンがあるとか…。
世界全体がこんな風になれば、それこそ世界中がGNHが高くなって、人類みな幸せ!なんじゃないか・・と思わせられた。

いつもながら高野さんによる、ブータンやチベットの歴史など薀蓄はとってもわかりやすくて勉強になったし、それから、冒頭では二村氏が目指しているものがイマイチわからなかった私も、終盤で高野さんが解説してある「お香」の例でやっとわかったのだった。うん、生物資源ってすごい!!(笑)

そうそう、ブータンの中でもとりわけ秘境とされる、メラ・サクテンに居住する部族、プロクバ(ブータンはこうした民族の伝統を守るためにも旅行者を規制しているらしい)の葬式には驚いた!
死んだら、体を108に切り刻み川に流すという。
鳥に食べさせるのは鳥葬だけど、川に流して魚のえさにするこの葬儀は「魚葬」だそう。
今も行われているそうで、度肝を抜かれた・・・。

※ブータンでは難民問題っていうのもあるらしい。
先日読んだ「秘境国」と言う写真集にもチラッと書かれていた。
またこれも、詳しく知りたいと思う。

2012年5月31日読了



太陽は動かない/吉田修一★★★
内容紹介
新油田開発利権争いの渦中で起きた射殺事件。AN通信の鷹野一彦は、部下の田岡と共に、その背後関係を探っていた。産業スパイ――目的は、いち早く機密情報を手に入れ高値で売り飛ばすこと。商売敵のデイビッド・キムと、謎の美女AYAKOが暗躍し、ウイグルの反政府組織による爆破計画の噂もあるなか、田岡が何者かに拉致された……。いったい何が起きているのか。陰で糸引く黒幕の正体は?
暗闇の中を、本能のままに猛スピードで疾走するスパイ、謎の女、政治家、大学教授、電機メーカー取締役、銀行頭取……。それぞれの思惑が水面下で絡み合う、目に見えない攻防戦。謀略、誘惑、疑念、野心、裏切り、そして迫るタイムリミット――。
未来を牛耳り、巨万の富を得るのは、誰なのか? そして物語は、さらにノンストップ・アクション急展開!!

この世で最も価値あるものは情報だ。
情報は、宝――。
宝探しに秀でた者だけが、世界を制する。

金、性愛、名誉、幸福……狂おしいまでの「生命の欲求」に喘ぐ、しなやかで艶やかな男女たちを描いた、超弩級のエンターテイメント長篇!
(Amazon紹介文)

最初のうちは、少々理解が及ばず混乱しながらの読書となった。
敵、味方、悪役、善玉・・それらの境界があいまいだったり、入れ替わったり、結局何が最終目的なのかが理解できない。
が、理解できないままにも、登場人物たちのキャラクターが魅力的で、どんどん読んで行った。
特に、ヴィジュアル担当のデイヴィッド・キムとAYAKO。
キムは「韓国俳優みたい・・」と言われるほどの容姿なので、一瞬大好きなウォンビンさんを充ててみたのだけど(笑)あとで女と親密になるので、ビンくんのキャストは却下!(笑)
AYAKOは女優よりも美しく見栄えのする絶世の美女。これは誰が演じるか?
もう、映像化が決定したような感じ。
スケールも大きく、面白さも含めて、「ジェノサイド」に引けを取らないともっぱらの評判だけど、私は「ジェノサイド」のほうが断然面白かったと思う。でも、映像化としてはやっぱり断然こちらのほうが現実的だ。
AN通信の鷹野と田岡のコンビが好き。
五十嵐議員も良かった。
登場する次世代エネルギーもあながち「夢物語」とも思えず・・・・こんなの開発されて「油田??そんなちっぽけなもの・・」となる日がやってくるといいのかも。ただし、利権争いはしないで、人類の為に100%活用されればの話。

確かに面白くて、最後は一気読み。
個人的にはもうちょっとボリュームがあっても良かったのかなとおもったけど・・・。

2012年5月28日読了



無菌病棟より愛をこめて/加納朋子★★★★★
突然にして「急性白血病」というシビアな病気になってしまった作家の加納朋子さんの、闘病記である。
「あなたの病気は急性白血病です」なんて言われたら、一般的なイメージとしてはやっぱり「死の宣告」を受けたに等しいダメージを受けるものではないだろうか。きっと著者もそうだったと思う。ものすごくショッキングで立ち直れないほどの衝撃を受けたと思う。
でも、この本から伝わるのは、そんな中にもまずは、ユーモア。
夫の貫井徳郎さんと、「レアだよね」と言い合ったり「遺影はアレにしてね」と言ってみたり、歯肉炎になれば夫も「なったことないから後で見せて」と作家魂を常時チラつかせたり・・。
病状がもっと過酷になっても「放射線ピーリング」とか・・・(苦笑)そこここにクスリと笑えるユーモアが満載。
漫画やアニメの話題や(私も読んでる漫画が沢山登場)病気で痩せても「ナイスバディ」への希求心を忘れなかったり、闘病記としてはなかなか異例の明るさではないだろうか?
そして、全編にあふれるのは、ご家族や医療関係者への感謝の気持ちと深い愛情。
子どもさんを愛しく思うのはもちろん当然のことと思うけど、だんなさん好き好きー・・・という気持ちがあからさまに伝わってきて、加納さんって可愛い人なんだなぁ・・と思った。
そんな加納さんだからご家族からも同じように愛情のレスポンスがあって、献身的なご家族の姿に感動する。
特に貫井さんがカッコよくて・・!!
最初の入院で特別室しかあいてなくて、一日23850円もする高額な病室代・・それを聞いて著者ご本人はたじろぐのだけど、夫の貫井さんは「大丈夫です。払えます」と即答する。うわーカッコいい!!
そのほかにも会話や様子の端々からご夫婦のあったかい関係が目に浮かんだ。
素敵な夫婦関係なんだなぁ。。。
作家なので、やっぱり文章力表現力が卓越しているため、とても読み応えのある闘病記になっている。
骨髄液移植の前後のエピソードや体調や病状なども、すごく興味深く参考になった。
そして、HLAフルマッチの弟さんの「ドナー日記」もまた読ませる。
淡々としているけれど、姉の病気がわかってから、ドナーになるかもしれないと、即日禁酒実行など、頭が下がるばかりだった。そして、著者本人とはまた違う視点で著者を見れば、やっぱり相当に辛かったんだということも、よくわかる。
加納さんは、闘病中のすべての人に「絶望しないで。過去のイメージや数字に惑わされないで。まずは自分が前向きに病気と闘う気持ちになって・・」というメッセージを送っておられる。
加納さんは、2011年3月11日の震災の被災者の方や犠牲者の苦しみ哀しみを持ち出して、胸を痛めつつ、自分の病気などはなんとささやかな苦しみなのかと恥じる部分がある。
それを言うなら、日々、自分のもっと小さな・・命に関わるような悩みでもない些細な・・微小な悩みにグダグダと言ってしまう自分が、さらに恥ずかしくなってしまった。(これからも言うだろうけど)
加納さんが、早く全快されますように・・と念じて止みません。

2012年5月23日読了



望遠ニッポン見聞録/ヤマザキマリ★★★★
「テルマエロマエ」が、原作漫画も映画も大ヒットのヤマザキマリさんのエッセイ。
なかなか特異な経歴の持ち主でいらっしゃるなぁ・・・と、「テルマエロマエ」以外のエッセイ漫画を読んだときに思っていたのだけど、やっぱりごく普通に高校へ行って大学へ行ってお勤めして・・みたいな経歴ではない。
17歳にしてお母さんから「油絵をやりたいなら日本を出て海外へ行きなさい」と言われたよう。「日本だけが世界じゃないから」と言うのがお母さんの口癖だったそう。
自分の立場だったら、子どもに「高校だけは卒業して!」と言いこそすれ、「高校なんて行ってないで海外へ行きなさい」なんてことは言えない。すごいお母さんだと思う。
マリさんはそういう、ちょっと「普通」とは違うご家庭で教育を受けられたみたい。こういう言い方が正しいかどうか自信がないですが・・・(^_^;)。
で、それ以後ずっと、基本的に海外で暮らしていらっしゃるようだ。
その辺のエピソードは、著作の「世界の果てでも漫画描き」などに詳しいので、興味のある方はぜひともお読みください。
さて、海外で暮らしている著者が、日本を客観的に見つめて書いたのがこのエッセイ。「テルマエロマエ」はこうして生まれた!見たいな部分もあって大変面白いエッセイである。
印象に残っているのはトイレについて書かれた章。
著者が漫画のための取材で、水周り関係の会社のショールームに行ったとき、最新のトイレに驚愕したとあるが、これはまさしく、「テルマエロマエ」のルシウスの感じた驚愕にほぼ近かったんだろうなぁ・・・と思う。
日本のトイレって言うのは、昔はお化けが出てきそうな「ぼっとん便所」だった。
かく言う私も昔のトイレにはトラウマさえあるほど、あまり良い思いでもなく・・・トイレに落ちたとか、そんな強烈な体験はないんだけど、それでもやっぱり思い出したくもない・・。ウチのトイレが洋式の水洗トイレに変わったとき、どんなに嬉しかったか!!。
著者がそのあたりを端的に表現しているこの章では、まさにそうだそうだとうなりながら読んだものだ。
そのほか、ビールのこと、CMのこと、子どもが遊ぶカードゲームのこと(著者は子どもさんに自作カードで遊ばせたとか)それぞれふむふむと、こちらも日本を客観的に見ながら読むことが出来る面白エッセイだった。
つくづく、漫画家さんは絵も上手くなければいけないけど文章もまた上手いなぁ・・と思ったしだい。
歯並び・・・私もコンプレックスですよ・・・(^_^;)

2012年5月19日読了



僕はお父さんを訴えます/友井羊★★★
内容(「BOOK」データベースより)
何者かによる動物虐待で愛犬・リクを失った中学一年生の向井光一は、同級生の原村沙紗と犯人捜しをはじめる。「ある証拠」から決定的な疑惑を入手した光一は、真相を確かめるため司法浪人の久保敦に相談し、犯人を民事裁判で訴えることに。被告はお父さん―母親を喪った光一にとっての、唯一の家族だった。周囲の戸惑いと反対を押して父親を法廷に引き摺り出した光一だったが、やがて裁判は驚くべき真実に突き当たる!2012年第10回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞受賞作。


日本ではそもそも民事裁判を起こすというのが、アメリカの映画なんかで見るほど日常的じゃなくて、それが、未成年・・しかも中学生が自分の親を訴えるなんてことは殆ど例がないんじゃないかと思う。その発想が突飛で物語りに釣り込まれていった。
主人公は聡明ながらもまだ中学生なので、裁判のことも殆ど知らなくて、近所の司法浪人の助言を得て裁判の準備をしていくんだけど、その過程がわかり易く説かれていて、ちょっとした裁判の手引書みたいな感じもした。
物語の端々に主人公とその父親との関係をほのめかす記述があって、少年の処遇が想像できる。
母親の死も不審感がいっぱい。
なんだか重苦しい内容のはずだけど、同級生の沙紗のパワフルな明るさと、義母の真希との関係に救われる。
なかなか面白かったです。

2012年5月17日読了



イマドキの野生動物―人間なんて怖くない/宮崎学★★★★
著者のブログを拝読しているので、見た記事もあったけど、いつもユニークで面白い。人間が思うよりずっと近いところにいる野生動物。人間の裏をかき、ふてぶてしくたくましく生きている。人間に居場所を奪われ可哀想な存在だとひたすら信じているのは、ちょっと違うみたい。もちろんそういう面も大いにあるだろうけど。著者の視点は実際に何十年も動物を観察し続けてきただけの深い洞察と説得力があり目から鱗のことも多く楽しく読んだ。

2012年5月16日読了



母の遺産―新聞小説/水村美苗★★★★★
冒頭の場面ですでに主人公たち姉妹の母親は死んでいて、主人公と姉は遺産の話をしている。
物語は、母親の死ぬまでの時間を、主人公が子どものころからの時間を、父親が死ぬまでの時間を、ひいては祖母の生きた時間を行きつ戻りつしながら展開してゆく。
全編にあふれるのは、主人公たちが母親に感じている確執。「早く死んで欲しい」「いつ死んでくれるの?」と言う強烈な願い。
自由奔放に生きた母親に操られた人生。早く母親から自由になりたい、早く・・と願って止まない主人公。
おまけに、母の最後の入院と夫の浮気発覚(何度目かの)が重なり、二重に打ちのめされることになる。
老いて「別物」になっていく母親を見ているのは辛いものだ。
その「別物」の母親に振り回され・・・そこへ夫の浮気という重荷が重なり、どうしようもない徒労感と倦怠感がこれでもか!とイヤほど描かれている。私はその毒気に当てられながら、一緒に徒労感と倦怠感を味わって、もうぐったり・・・。
ところが、それが不思議とイヤじゃなかったのだ。
あまりにもリアルな描写に、ただひたすら物語に釣り込まれて、どっぷりはまり込んでしまった。
母親の死を願うなんて、一見「親不孝」なこと。でも、その気持ちは共感を持ってひしひしと伝わってきた。
特に母親の死をはっきりと願うシーンがある。
父親が入院中に、あまりにも能天気な身勝手なことを言う母親に、主人公は呆れ、そして猛烈な怒りを感じ、「死んで欲しい」と願うのだ。
この父親の入院中のエピソードがまた物悲しい。
大人数の病室で、座るためのイスさえもなく、体を起こしているときは、ベッドに腰掛けるしかないので、その部分がついには沈み込んでしまっていると言う。母親に「捨てられて」しまった父親のあまりにも哀れな姿に、私まで気持ちが沈み、胸が塞がれてしまったのだ。
この父親もまた、死の間際には「別物」になってしまう。みんなそうなのだ。別物になって、それから死んでいくのだろう。
主人公はこの父親の死をも願う。それはひたすら父親の為に。これ以上辛い姿で生きるよりも、死んだほうが父親のためだから・・・。
母親に対しても、憎しみからただ死を願うのでもない。
親としてやっぱり愛情はあって、辛い思いをさせたくなかったり、無意味な延命をしたくなかったり、母親の意思を尊重して「死を願う」気持ちもあり・・・母と娘の確執にまみれた「死」は、とても一言では言い表せない。
哀れにも思い、涙もわき、美味しいものを食べさせたいとも願い、そんな複雑な感情が丁寧にじっくりと描かれていて、とても読み応えがあった。
また、母を「そんな風」に育てた両親、主人公の祖母の青春から母としての人生も語られていて、それがまた一人の女性の人生として迫真に満ちていた。祖母は「金色夜叉」の主人公、お宮さんだと信じた人生を送ったと言うのだ。
「新聞小説」によって、ある意味では「開眼」された人生を生きたのだと。
「新聞小説」「金色夜叉」がなければ、自分たちは生まれていない・・と、主人公は思う。
良くも悪くも、小説が持つ影響力・・というか、大きなパワーを感じた。
著者の作品は初めて読んだのだけど、重厚な文体でありながら読みやすく、感情なども細やかに書き込んであって、とても読み応えがあった。
主人公が最後に到達する思い(夫へのメールは胸が詰まった)や、姉夫婦の決断も含め、主人公に与えられた境遇などによって、読後感もなかなか良かった。
しみじみとした感動を得られて大満足の一冊だった。オススメ!!

2012年5月16日読了



アイ・コレクター/セバスチャン・フィツェック★★
内容(「BOOK」データベースより)
ベルリンを震撼させる連続殺人事件。その手口は共通していた。子供を誘拐して母親を殺し、設定した制限時間内に父親が探し出せなければその子供を殺す、というものだ。殺された子供が左目を抉り取られていたことから、犯人は“目の収集人”と呼ばれた。元ベルリン警察の交渉人で、今は新聞記者として活躍するツォルバッハは事件を追うが、犯人の罠にはまり、容疑者にされてしまう。特異な能力を持つ盲目の女性の協力を得て調査を進める彼の前に、やがて想像を絶する真相が!様々な仕掛けを駆使して描く驚愕の傑作。



正直に言うと、読むのに手間取ったし、あんまり釣り込まれなかった。
面白い内容だとは思ったけど・・・。
主人公は警察官としての過去において、ある犯人を撃ち殺していて、そのトラウマに苦しんでいる。
人物造形としてすごく興味深かった。
上記の内容(「BOOK」データベースより)に書かれている「犯人の罠にはまり容疑者とされる」と言うくだりは、実はネタばれじゃないかと思います。だって、この主人公もどう考えても「怪しい」んですよ。
実はコイツがトラウマによる二重人格かなんかで、自分の犯行を覚えてないんじゃないの?なんて最後まで思ってた私。
で、突然現れた盲目の女性が、「不思議な能力」を持っていて、にわかには信じがたい能力なので、これまた「怪しい」です。彼女の言ってることは本当かうそか。
で、結局彼女の能力に大いに助けられて、埋められた子どもを救いに行くと言う・・。
私は不思議能力に助けられず、自分の推理と機動力で子どもを救って欲しかったな〜・・・。
そんなこともあり、結構評判の良い本だけど、私にはイマイチ。

こういうのを読むと、ほんと、私って翻訳モノ苦手・・と思います・・・。

2012年5月10日読了



茉莉花(サンパギータ)/川中大樹★★
内容(「BOOK」データベースより)
尽誠会巴組の組長・水谷優司の幼馴染み・神楽武雄が刺殺された。前夜、優司は本人から「しばらく横浜を離れる」と聞かされたばかりだった。事件の謎を追い始めた優司は、武雄がフィリピンの女性を妊娠させた日本人を恐喝していたことを知る。さらに、水谷家にホームステイしているフィリピン人留学生・シェリーの両親も三年前に殺されていることがわかって…。一連の事件につながりはあるのか。悲劇の裏には、いったいなにが―?第15回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。


うーん。ヤクザをかっこよく描きすぎじゃないの?と、鼻白む気持ちがぬぐえなかった。
任侠っていうのは確かにあるのかもしれないけど、でもヤクザはヤクザ。
私は好感を持つことが出来なかった。
登場人物、女性はすべて超・美人。
絵面を思うと、そりゃ美人のほうが映えるし面白いだろうと思うけど、そろいもそろって美人ばっかりで(もちろんスタイルも抜群にいい)って、狙いすぎじゃないの?とこれまたちょっと・・・・って僻み??(^_^;)
国際的な犯罪の実相については、確かにとても興味が沸いたけど、料理の仕方が私には合わなかった。
終盤は登場人物が把握できなくなって混乱した。最後は興味が持続できなくて流し読み・・・。テーマとしては割りと好きな感じだったんだけど・・・ゴメンナサイ。

どうも2作品続けての辛口感想になってしまったようで、申し訳ないです。

2012年4月28日読了



星月夜/伊集院静★★★
浅草寺の境内に特設される、行方不明者捜索の相談所。
岩手県から上京してきた佐藤という老人は、専門学校生の孫娘の行方を捜していた。
鑑識課の葛西と皆川は、その老人の姿を見て、なんとか孫娘を探し出したいと願うのだった。
かたや、奥出雲では一人暮らしの鍛冶職人が忽然と消息を絶っていた。
嫁いだ孫娘の由紀子は警察に届けることに。由紀子の祖父の佐木田は東京へ行ったようだった。
ふたつの失踪事件が同つながるのか。
そして遺体は発見される。意外な形で。

率直に言うと、ミステリーとしても、人間ドラマとしても全体的にちぐはぐな感じがしてしまい、イマイチ好みではなかった。
冒頭、ホームレスの描写・・・だけど、ホームレスは特に関係なし。たしかに、ホームレスの人々は家族や社会から失踪した人々ではあろうけど、そこで感じた期待とは物語の方向は違う。
佐木田老人の孫娘への愛情や、孫娘の東京での暮らし、孤独に生きる女性の姿を描くでもなく、孫娘の彼氏の転落振りの顛末が描かれるわけでもなく、二人の間の確執が描かれるでもなく・・・。
気の持たせ方に違和感を感じた。
私の好みの問題と思うけど、ことごとく期待とは違う方向に話の核心があった気がしたので・・・。

あと、些細なことかもしれないけど、「眠る」の表記が「眠むる」になっていて、気になったし、登場人物や団体の固有名詞を「××」にしている部分があり、それも慣れないせいか違和感。たしかに固有名詞が乱発していると混乱するけど・・。
大の大人の一人称が「ボク」なのも違和感。小説の雰囲気からして、平仮名か漢字表記にして欲しい。どれも些細なことかもしれませんが、気になりました。


事件の陰には、三十数年前に起きたある事件が鍵を握っていて、それを今でも執拗に追いかける元刑事、石丸の姿があります。石丸は佐木田の背後関係に、自分が追う事件の鍵があると見て、長年佐木田に目をつけているのです。
この石丸の執念・・・そして葛西たちが実直に捜査を重ねて、二方向から事件の真相に迫っていくあたりは面白く感じたし、またラスト佐藤老人の感慨などは胸が熱くなりしみじみとした感動があった。
佐藤の孫の田んぼへの愛情などは本当によかったので、そのあたりをもっと大写しにしてもらったら私にも興味が持て、面白かったのでは?と思う。

辛口、ゴメンナサイ。

2012年4月23日読了



クリーピー/前川裕★★★★
大学で犯罪心理学を教えている教授の高倉は、かつての同級生、野上から唐突に連絡をもらい会うことになった。刑事をしている野上は、ある事件について、高倉の意見がほしいと言う。
その事件とは、8年前に起きた「日野市一家三人行方不明事件」だった。8月のある日曜に、一家のうち両親と兄の3人が忽然と姿を消したのだ。残された当時中学生の娘は部活の合宿に参加していて難を逃れる。が、ここに来てその長女から新たな証言が得られたので、その長女の証言を犯罪心理学者の立場から検討してほしいと言うのだった。
その後日、野上が今度は忽然と姿を消す。そして、彼は意外なところから姿を現したのだった・・・。

8年前に、近所でもないところで起きた一家失踪事件と、現在、主人公の近所で起きた惨劇と、何か関係があるんだろうか?
だけど、なんとなく類似点が多いのは読者にも分かってきて、その接点が、確たるものではないだけに、なんとなくだけど気味が悪いのです。はっきりと正体がつかめず、得体が知れない。自分を不気味にさせているものが何なのかもわからない。その、わけのわからない気味悪さが恐怖心をあおり、ぐいぐいと読んでしまいました。
語り手が「私」と言う一人称なのもなんとなく裏がありそうで。
浮気も・・・?仲の良い女学生は??疑い出したらきりがない。
素直に書かれていることが信用できなくて、何もかも怪しく見えてきて困りました(笑)。
そのうちに事件や人物像の正体が見えてくると、不気味さはなくなって来るけど、今度は別の怖さが・・・。
結末は、やっぱりいかがなものかと思うのですよ。それでいいのかと言いたい。疑問が残る。
でも、それがまた予想外の展開なので、驚かされたと言う点では最後まで楽しめた作品でした。
こりゃ、次回作も追いかけたいです。

余談だけど、北九州一家殺人事件の、松永太を思い出した。
あの事件も良く分からないまま、読み進めていって、その残酷さに震えたから。
なんとなくだけど、思い出してしまったんです・・・・。
怖い怖い。

2012年4月19日読了



ブラック・アゲート/上田 早夕里★★★
内容(「BOOK」データベースより)
日本各地で猛威を振るう未知種のアゲート蜂。人間に寄生し、羽化する際に命を奪うことで人々に恐れられていた。瀬戸内海の小島でもアゲート蜂が発見され、病院で働く事務長の暁生は、娘・陽菜の体内にこの寄生蜂の幼虫が棲息していることを知る。幼虫を確実に殺す薬はない。未認可の新薬を扱っている本土の病院を教えられた暁生は、娘とともに新薬を求めて島を出ようとするが、目の前に大きな壁が立ちはだかる…。暁生親子の運命はいかに。


感想

ちょっと辛口になります。
個人的にはもっとスケールの大きな話かと思って読んでいたので、少々拍子抜けしたと言うのが本音。
たとえば「ジェノサイド」とか「アウトブレイク」とかのような・・・。
要するに、蜂VS人間 と言う闘いをテーマにしてあるのかと思ったんだけど、そうではなくて。
蜂に蹂躙された世界は変わりようがなくて、その中であがく人間、娘を助けようとする主人公と、そうはさせないと暗躍する政府側の人間、つまりは人間VS人間の闘いを描いたものでした。
私の期待の方向が違っていたらしく、最初は面白そうと思って読んでたけど、だんだんと興味が薄れてしまった。
すみません、辛口で・・・(^_^;)

2012年4月15日読了



俺に似た人/平川克実★★★★★
お父さんを介護して見送った記録を、「俺」と言う目線を通して描いた「物語」です。
ノンフィクションと言うよりも「物語」と言う形をとってあるからなのか?
ものすごく切々と胸に響いてきて、知らないうちに涙が出ている感じの本でした。
「物語」と言う形式でしかしか語りえないものがある・・・盟友の内田樹氏に言われたそうです。

老いて病んで確実に死が近づいていてもなお生きる。
着々と死に向かって生きる。
死に行くものと看取るもの。
介護するものとされるもの。
ふたりの男の姿が目に浮かぶようで胸に迫ってきた。


だんだんと弱っていくお父さん、老いて、病んで、でもなお生きると言うこと。

ちょっとした風邪から重い肺炎に。誤嚥性の肺炎も。おとしよりになってからは熱が出たらヤバいって聞いてるけど、それを目の当たりにした気がしました。
でも、風邪や肺炎が治ったとしても、その先にあるのは健康人としての普通の生活じゃないという、絶望?
希望がないんですよね。
死はとても身近で、人間として命の終焉がすぐそこにあるのが実感される時間の中で、静かに時を過ごす二人の男。
そんな中で、お風呂に入れてあげると「風呂はいいなぁ」とつぶやくお父さん。
それが著者の胸に響くシーンなどは涙なくして読めず・・でした。
ふたりの情景が浮かんできて、静かな感動のある作品でした。
文章がすごくよくて。深く考えさせられるフレーズがそこここにありました。
何度も読み返したいと思う本でしたよ。買いたいな。

いつか自分も、どちらにしろそういうときが来る。どんな形かなぁ・・何歳のときかなぁ・・思わずにいられない。

最近では、親を看取ることよりも、自分はどんな死に方をするんだろう?ということがふっと思われたりします。


2012年4月11日読了



どちらかが彼女を殺した/東野圭吾★★★
「歪笑小説」があまりにも面白かったので、続けて東野作品を読む。 殆どの作品を読んできたつもりだけど、未読のものもちらほらあります。 これもそう。 私は本格推理小説が苦手なので、こういう小説はどちらかと言うと、好んで読まないんですが。 加賀刑事が出てくるので、本格と言えど、人情推理モノみたいなところはあると思う。 妹が自殺した。兄である警察官の康正は、妹の園子は自殺したのではなく殺されたのだと、独自に捜査を始める。 現場でヒントとなることを、ことごとく消し去る康正。その目的は、犯人を自らの手で捕まえ、復讐するためだった。 事件の捜査に乗り出した担当刑事は加賀恭一郎。 二人の静かで熱い対決は・・・。 最後まで読んでも・・・・という、企画破りの斬新な一冊でした。 同じような作品に「私が彼を殺した」があるそうな。 こちらも未読。今度読んでみよう。

2012年4月4日読了



歪笑小説/東野圭吾★★★★★
すごくすごく面白かった!
東野さんのユーモア小説は、他作家のとは一味違う面白さがある。やっぱり追いかけててよかったぁ〜〜!と心から満足できた。大好き〜!!(ほめすぎか?なんせ最近の作品がいまひとつ・・以下自粛)

灸英社・書籍出版部を中心にして繰り広げられる、作家と編集者との紆余曲折、悲喜こもごも、多事多難をユーモラスに描いた作品で、数年前に書かれた「黒笑小説」の中に登場した編集部が再登場しているらしく(私も読んだのですが、そこまで覚えてなくて・・・)形的に、続編になっている。(らしい)
「黒笑小説」では、13の短編中3編が、この「歪笑小説」と同じネタで、直本賞の受賞に関する物語だった。(と、自分の当時の感想に書いてあった)

売れる本を作るには売れてる作家の原稿がいる。その原稿を取るためには何でもやる編集長の獅子取の必死加減。それを見て感心するのを通り越して唖然とする新人社員の青山。良い内容でも売れなければ、出版社にとっては意味がない。売れる作家は相撲部屋における横綱のようなもので、無給の力士たちを含め部屋の経済を潤すように、売れる作家は売れない作家の分まで稼いでくれている。。。なるほど。
青山が小説雑誌について、中学生たちに突っ込まれる章は圧巻だった。
小説雑誌に連載されている小説なんて、誰も読んでいない。本となって出版されるときは大幅加筆修正がなされている。ということは、連載中のものは単行本の「下書き」に過ぎないのでは?原稿料を稼ぐために読者に、金を払わせて「下書き」を読ませているのか・・・という突っ込みはあまりにも鋭くて、東野さん、こんなこと書いちゃってもいいのーー??と、心配になるほどだった(笑)でもね、私は読んでいますよ。毎月4冊の小説雑誌が回ってきて、その中で読む連載小説はたしかにごくわずかだけど、全然読んでないって言うことはないですよ。
でも、確かに、連載が終了したのに一向に単行本にならない、あの小説やこの小説。大幅に加筆修正しているのか、それとも単行本にはなりそうにないのか?など、ハッと考えさせられる部分が多かった。
あと、登場する作家たちがいかにも実在の作家を連想させて、楽しかった。
東野さん、チャレンジャーだなぁと思う。こんなこと書いてもいいの?きっと東の正横綱東野圭吾だからこそ、書けるんですよね。。。
出版業界と編集者と作家をとことんおちょくっているんだけど、出版業界と書籍に対する深い愛情が感じられて、特に最後の2章などは胸が熱くなるような物語になっていて、本当に大好きな一冊になった。
東野さん、今後も追いかけますです!!

2012年3月29日読了



クリスマスに少女は還る/キャロル オコンネル★★★★★
かなり前から気になっていた一冊。
ご縁がありようやく読むことが出来ました。
面白かった〜〜!!!

二人の少女グウェンとサディー(10歳)が行方不明になります。家出かそれとも少女性愛の変質者の仕業か・・。
捜査を担当するのは若い警察官、ルージュ。
彼には、同じ年のころ、双子の妹スーザンを変質者に殺されたと言う、辛い過去がありました。
サリーを誘拐して殺した犯人は、教会の神父で、刑務所に服役中。
だけど、神父は犯行を否認していて、ルージュが改めて事件の内容を調べてみると、神父が犯人だと断定できる証拠は何一つないことが分かります。
では、当時の犯人はまだその辺にいて、今回行方不明の二人の少女は、そいつに誘拐されたのでは?
一方、事件に関わる女性法心理学者アリ・クレイは、ルージュの過去を知っていると。
大きな傷が顔にある、謎めいた存在。
そして、少女たちはあるところに監禁されていたのです。
必死でそこからの生還を図る少女たち。
リミットはクリスマス。
果たして少女たちは無事に還れるのでしょうか・・・。

難を言えば登場人物が多すぎて混乱するし、この人物がキモなのか??と思わせられた人物が結構いつの間にかフェイドアウトしたり・・?長い物語なので、もうちょっとコンパクトでもよかったのかな?と言う印象はあったものの。
さらわれたグウェンがたった10歳なのに、ものすごく聡明で、事態に懸命に対処しようとする姿に魅了されました。
そしてルージュ・・・。
双子の妹をなくし、母親も精神的に参ってしまい、肉親の愛情に飢えた少年時代をすごし、その後虚無的に生きてたように見えます。今現在もクールで寡黙。
しかし、彼の目は千里眼か。なんでもお見通しみたいな、ものすごく洞察力があり慧眼の持ち主で、スマートです。
ルックスも超イケメンらしく・・・でも、心根はとても温かい人物。
この人がものすごく好きになった。
アリ・クレイも、謎が多いなぁと思っていたけど、彼女の傷にも過去にも重大な秘密があって、それが分かったときとても仰天し、また深くうなだれる心地でした。
そして少女たち・・・。
衝撃の真実が明らかになったとき、まさに「ガーン!!」という音が聞こえたよう。。。
そうだったのか。
感動しました。
読んで良かった。おススメです。

2012年3月27日読了



モンスターU子の嘘/越智月子★★★
一気に読みました。
賭博の罪で刑務所に入ったU子=詩子。
彼女に入れあげて体を壊して死んでしまった親友のために、詩子に近づくフリーライターの蒲田は、詩子を知れば知るほど真実が分からなくなり翻弄されてしまいます。
それは蒲田だけではなく、刑務所で同室になった幸恵も同じ。
詩子はどこにいても独特の雰囲気で人をひきつけてしまい、刑務所の中においても女王然と構えているのです。
蒲田が調べる詩子の過去、刑務所の中で幸恵が聞かされる詩子の過去・・・。
いったい詩子の真の正体は?
・・・・と言う感じの物語だけど、物語の中で幸恵や蒲田が詩子に翻弄され、反発心を抱きつつも、女郎蜘蛛に絡めとられた獲物のように身動きが出来なくなるように、読者も同じように翻弄されてしまいます。
詩子の本当の姿は?
詩子の本当の過去は?
知りたいことが煙に巻かれてさっぱり分からない。
物語り全体が「嘘」なのか・・・・。
私としては、この物語の「前後」の話が知りたかった。
これまで詩子がどんな風に生きてきて、どんな罪を重ねてきたのか。
そして、これから詩子がどう生きていくのか、また、蒲田や幸恵、そして死んでしまった蒲田の親友の妻はどう関わっていくのか。それこそが知りたくて、読後感はちょっと中途半端だったかもしれません。


2012年3月19日読了



震える牛/相場英雄★★★★★
うーん!センセーショナル!
怖い怖い。
ちょっと食べ物を買う気も食べる気すら失せてしまった・・・。


2年前の殺人事件を追うことになった刑事の田川。
ある居酒屋で深夜に起きた強盗殺人事件。
得意の鑑取り捜査で地道に調べていくと、ただの強盗殺人ではない局面が浮上した。
片や、大手スーパーのオックスマートを調べるライターの鶴見は、郊外型の大型ショッピングセンターとその周辺店舗との関係を探っていた。

一見、何にも関係がなさそうな両者は、物語である以上、なんらかのつながりがあるだろう・・と思わせられる。
その両者のつながりは何なのか?というのが、ひとつの軸になる。
強盗殺人を追う田川刑事の、事件に向き合う姿勢とその人物像に好感が持てるのと(妻に「ちゃん」付けで呼ばれたり、絵に描いたような娘との関係が鼻についたが・・・)徐々に鑑取り捜査が実って真相に近づいていく過程がスリリングで、読み応えがあった。
最初は、オックスマートの話は、いったいどう関係してくるのかさっぱり分からなかったけど、オックスマートが企業としての姿勢を問われる内容が明らかになるにつれ、これはただのフィクションとして気軽に読み過ごすことではないのでは・・・と、緊張感が高まってきた。
それがもうひとつの軸になっている。
このオックスマート、大手スーパーであり、傘下の各企業をあまた展開し、大型ショッピングセンターを各地方に作っている。明らかにあの企業をモデルにしているのだろう・・と言う対象がある。
大手スーパーの進出は、ご存知のとおり地元の商店街を直撃し、多くの町でシャッター商店街を作ってしまった。
作中のライターも、実はある小さな小売業の娘という設定で、彼女の実家のように、大手スーパーにつぶされてしまった小さなお店は数え切れないだろう。
こうして本を読むと、そうだ、大手ショッピングセンターが諸悪の根源だ!なんて思うかもしれない。でも、ふと一消費者に戻ってみると、そこへ行けば何でもそろう、安くて便利なショッピングセンターは、いまや生活に欠かせないものだと思う。
やっぱりどうしても、安いものを求めてしまう・・・。
それが結局回りまわって自分たちの首を絞めていることが分かっていても。
それとは別に、食べ物の話。
この作品には「マジックブレンダー」という、衝撃的な機械が登場する。
マジック=魔法の、ブレンダー=ブレンドする機械と言う意味だろう。
これがどう使われているかは、本書を読んでいただければと思うけど、結局それもこれも、消費者(私)が、安ければいいのだという意識でいては、これはまったくフィクションと割り切れない不気味さがあると思う。
たとえば数年前に発覚した偽装和牛の問題だって、あの肉屋がどんな手を使って肉を増やしていたか、ミンチには何が入っていたか・・・それはまさにフィクションではなく、実際に起きたこと。
多少大げさに書いてあるかもしれないし、フィクションならではの「盛り」もあるだろうと思う。
でも、決してスルーできない恐ろしさがあった。
利便と低価格を求める消費者。
そこへ漬け込む企業。
便利なバイパス付近に大手ショッピングモールが出来、その周辺におこぼれの客を狙って安売りの牛丼やめがね屋や洋服のチェーン店が軒を並べる。その土地のカラーはまるでなくなり、全国どこへ行っても同じ風景。
しかしガソリンの高騰で、客足が遠のく。ショッピングモールは集客が出来なくなり撤退。
大きな廃墟が残る。
大手ショッピングモールは結局、シャッター商店街と廃墟を残し、次なる土地を求めて移動する・・・という。
日本はどんどん壊れてしまう。
そんな危機感。
ファストフードがなぜすばやく買えるのか、添加物の害はどうなのか。そういうことに無頓着でいいんだろうか。
そんな深い問題提起があって、ミステリーのオチとしては、殺人事件の真相などは物足りない感じも受けたけど、全体的にずしんと読み応えのある作品だった。


2012年3月17日読了



第五番/久坂部羊★★★
6年前、さまざまな残虐な事件を起こしたイバラは今、刑期を終えて出所し更正の生活を送っていた。
そこへ幻想的で、しかし残酷でグロテスクな絵を描く日本画家の三岸が近づく。
当時イバラにかかわった為頼英介は病気の兆候を概観から判断することが出来る。彼は今ウィーンで、音楽学校の留学生服部サビーネの強迫観念症患者を診ていた。
日本では、致死率の非常に高い奇病が流行し、人々は恐慌に陥っていた。最初にその病気を発見した菅井は、その病気の発見と治療で医療界に名を馳せる事を夢見た。


「無痛」の続編です。
読んだけど、イマイチ覚えが悪い・・(^_^;)。
でも、本書を読むうちに大事なところは思い出したし、覚えてなくてもそれなりに解説されているので大丈夫だった。でも読まないよりは「無痛」も読んでからのほうが分かりやすいと思います。

著者の作品はいつもいつもセンセーショナルな内容だけど、今回もすごくセンセーショナルで突飛だった。
まず、前書きの部分で書かれているんだけど、病気の流行とともにWHOが巨大化しているという話。
エボラ出血熱、エイズ、変異性クロイツフェルト・ヤコブ病、SARS・・・それらが発生し流行するたびに、WHOはその重要性を増し、予算の増大を得る。医学にしても、重大な病気が広がるほどに必要とされる。自己矛盾に満ちている・・・という内容の前書きは、言われてみれば確かにそうかも・・!と言う説得力があって、興味深かった。
それが本編にも深く関係しているのだけどあながち想像だけに思えなくて、とても不気味だった。
その点は面白かったけど、小説としてはあちこちと話が広がりすぎて散漫な印象となり、そのせいで中盤集中力を削がれた。
もっとイバラの主眼を中心にした物語であれば感情移入も出来て感動したのかも。

2012年3月14日読了



日本を捨てた男たち/水谷竹秀★★★
海外でホームレス状態になって帰れなくなった人を困窮邦人と言う。
本書に紹介されているのは、だいたいが、フィリピンパブにはまって、そこの女の子と恋愛関係になったり結婚したりして、一緒に・・あるいは追いかけてフィリピンに行き、結局女の子に捨てられたり追い出されたりして、困窮邦人となった例。
つまりフィリピンの女性は日本の男を金づると見ており、金の切れ目が縁の切れ目とばかりに(一概には言えないにしろ)分かれたり捨てたりするんだそうで・・・。
ところがフィリピンでは、片方で困窮邦人に対して懇切に面倒を見てくれたり、援助してくれるようで、温暖な気候であることも一因として、圧倒的に世界的な困窮邦人としてはフィリピンでのそれらが多いそうだ。
日本大使館は彼らに対して金銭的援助はしないと言うことに驚いた。彼らは好きな女を追いかけて勝手に国を出て行き勝手に困窮しているのであり、大事な国民の税金をそんなことに使えない・・と。
要するに「自己責任」と言うわけ。
一例として書かれていたんだけど、イラクで日本の青年が人質となったとき、日本は彼を見捨て青年は惨殺された。日本国内では大半が政府の対応を是とし、青年の死も青年の自己責任とした。
が、同じことがフィリピンで起きたとき、フィリピン政府はアメリカとの関係にもかかわらず、軍を撤退させて人質の人命を救ったんだそう。
その国民性の違いが、困窮邦人がフィリピンに多いことと関係があるのかもしれない。
とはいえ、日本の男子のお金を搾り取るようにしてその後捨てるのも、同じフィリピンの人々なら、なんとも真逆の二面性があるって言うことなのか。
ここではちょっとしか触れられていないけど、女性も被害者が多いそうだ。
真剣に相手を愛したのに、お金のために実は騙されているなんて、哀しすぎる。

実は私の家の近所にもいらっしゃるんです!
その人は、フィリピンの女性と結婚してフィリピンに行きました。
困窮しているとは聞いてませんが・・・。
・・・と、そんな話を他県の友達にしたら「うちにもいる!」というのです。
友達の近所のひとは、まさに困窮しているらしく、実家にお金の無心をしているらしい。
でも、実家の親も手を焼いて最近はその電話を無視するようになって、困窮氏が「実家に連絡が取れない」と、私の友達の家に電話かけてきたそうです。本書の内容とよく似ていてびっくりしました。
案外みなさんの近所にもいたりしてね・・・。

2012年3月9日読了



ローラ・フェイとの最後の会話/トマス・H・クック★★★★
公演のためにセントルイスを訪れた歴史学者ルーク。しかし会場には、再会するとは夢にも思わなかった人物が待ち受けていた。その名はローラ・フェイ・ギルロイ。20年前、遠い故郷でルークの家族に起きた悲劇のきっかけとなった女性だ。なぜ今会いに来たのか?
ルークは疑念を抱きつつも、彼女とホテルのラウンジで話すことにした。だが、酒のグラス越しに交わされた会話は、ルークの現在を揺り動かし、過去さえも覆していく。謎めいたローラ・フェイの言葉が導く驚愕の真実とは?
巨匠の新たなる代表作。
(本書裏表紙紹介文より)

「記憶シリーズ」じゃないようだけど、読んだ感じでは記憶シリーズみたいな印象を受ける。
いったいこの二人に何があったのか?それが知りたくてただただ読み進める。
そのうちに事件の真相だけじゃなく、ルークの故郷や家族への感情なども浮き彫りになる。
小さいみすぼらしい町から、どうしても出て行きたかったルーク。若いときには大事なものが分からなくて、それどころか遠ざけようとして必死になる・・。そして後悔する・・。それは故郷や父親。恥じたり嫌ったり。
ローラとの対話で、ルークが自分の内面をじっくりと見つめることが出来て、孤独にも終止符を打つという、読後感の良い作品となっていて最後はジワリと泣けてしまった。

2012年3月3日読了



真友/鏑木蓮★★★
内容(「BOOK」データベースより)
14歳の冬、父親を殺された―親友が、大事なものを、すべて奪っていく。刑事による警官殺し。憎悪と絶望を胸に、親友だった二人の人生は激変する。仇討ちを誓った少年は刑事に。世間を敵にまわした少年は裏側の世界に。その間で揺れ動く女心ふたつ。二人の人生は二度と交差しないはずだった。さらなる事件が起きるまでは―。一気読み必至。乱歩賞作家が射止めた、会心の感動ミステリー。

・・・・と言う紹介文に引かれて読んでみたんですが・・・この人の作品はどうも相性がよくないというか。

3人の仲良しトリオ、14歳の隆史と伸人と麻衣。
父親が警察官なので、おのずと警察官を目指す二人の「親友」。
しかし、その仲を引き裂く事件が起きてしまう。
隆史の父親が自分の拳銃を奪われた上に、その拳銃で殺されてしまうと言う事件だった。
そのときから、伸人の父親の行方が分からなくなっていた。最後に二人が一緒だったところが目撃されていて、隆史の父は伸人の父に殺されたと断定されてしまう。3人の間柄に亀裂が入り、そして時間が過ぎ、隆史は警官になり、自分の父親の死んだ事件を担当することに・・・。そこで明らかになる「真実」とは。

ふたりの男子のまったく逆の立場。被害者と加害者と言う立場で成長していく過程など、つまらなくはなかったんだけど、イマイチ物語にのめりこめず。
だいたい、事件の第一印象で、どうして伸人の父親が即容疑者となるのか・・・解せない。
重要参考人になるかもしれないけど、ひょっとして伸人の父親も事件に巻き込まれての行方不明かもしれないし、あまりに犯人として断定されるのが早すぎると言うか単純すぎると言うか・・・ちゃんとした納得が出来ない。
なぜ、伸人の父親が犯人だと、伸人も隆史も簡単に信じてしまったんだろう。
それに、後に分かる事柄からも初動捜査がまずいのじゃないの?と素人目に見ても思えてしまって、物語の根幹に疑問がわいては全体にも共感できず。
3人の三角関係を含む青春モノとして読んだほうがいいのかな・・とすら思ったです。それにしても3人ともそんなに好きなキャラでもなかったし・・・。

どうも文体も好みじゃないのかなぁ〜・・・・。
辛口でごめんなさいね。


2012年2月26日読了



ソウル・コレクター/ジェフリー・ディーヴァー★★★★
こ・・・こわいよー!これ、どこまで本当なの?実際われわれの生活はこのように「誰か」に監視され管理されているの?まさかココまでは・・・と思うけど、いつの日にか必ず本当のことになるのではないかと言う恐怖に襲われた。あんなにも堅牢完璧なライムチームもよもやの大ピンチ。この状況を打開するにはリスベットと仲間たちでも連れてきて!!と真剣に思ってしまった。ライムとアメリアの進展具合はじりじりしつつも萌え〜〜ですね。よく登場するキャサリン・ダンズ。未読。早く読まなくっちゃ。

2012年2月20日読了



放蕩記/村山由佳★★
村山さんの本は本当に久しぶりに読んだ。
以前は結構読んだなぁ。
「翼」「天使の卵」「野生の風」「夜明けまで1マイル」「青のフェルマータ」「おいしいコーヒーのいれ方」・・。
あんまりにも痛いくらいの恋愛体質な女性たちが主人公で、自分には向いてないと思って読むのをやめてしまった。
今回の小説は母と娘の確執が描かれていると聞き、手に取った。
子供時代に母親から受けた仕打ちがトラウマになっていると言う。
よほどひどい虐待を受けたのかと思ったけど、読んでみてちょっと拍子抜け。
たしかに厳しい母親像ではある。
こんな母親にこんな風に育てられたら、私もきっとうだうだと言いたくなるだろうと思う。
でも世の中にはもっとひどい親子関係がごまんとあるのだろう。
比べてみたらマシだとか言うつもりはない。そんなこと比べられない。
著者の鬱屈やトラウマは分かる気がする。
お小遣いが少なすぎて友達とも自由に遊べなかった少女時代、何をするにも入念な許可が必要で、もしも約束や決まりごとを破れば厳しい大目玉・・・・そんなことは誰にでもあったことかもしれない。だけど、自分としては辛かったのだといいたいのか・・。
性的な目覚めを娘には戒めながらも、自分は父親との夫婦生活を娘に愚痴る、夫婦生活の声を子供に聞かせる(わざとではなくても)・・・このあたりはもう虫唾が走るほどイヤになった。
主人公の母親への恨みつらみをこれでもかと聞かされて、わかるよ、わかるけど・・・
分かるよ・・という気持ちと、もういいよ、言わなくても・・という気持ちに揺れて、ほとほと疲れてしまった。
恋愛体質の主人公は、やっぱりこの著者の投影なのか。
その恋愛体質は受け継がれたものなのか。そのように納得したいのか。
読んでいて共感はまるで感じなかった。
ただ、誰にでもあると思う母と娘の確執のようなもの、良きにつけ悪しきにつけ必ず存在する母親の呪縛(良い場合は「影響」というのかも)をじっくりと考えさせられた。
自分の場合においてはどうだと。
自分の母との関係、そして自分の娘との関係。
考えながら読んだので、やっぱりそれも疲れる原因になったと思う。

2012年2月13日読了



荊の城/サラ・ウォーターズ★★★★
お初の作家さんで、海外翻訳で、しかも時代劇。
私にはハードルが高いのかと思っていたが、とんでもない。すごく面白くてページをめくる手が止まらないほど、一気に読んでしまった。とてもとても面白かった。

物語は19世紀半ばのイギリスで、二人の少女が主人公。
ひとりはロンドンのラント街という下町で、泥棒一家に引き取られて育ち自身もスリをしている孤児のスーザン。
もう一人は心療院で生まれ育ったモード。幼いときに文学者の伯父に引き取られて、秘書としてブライア城に住んでいる。

あるときブライア城の学者に取り入ったリチャードと言う青年がラント街にやってきて、スーザンをある目的のためにブライア城に連れて行く。
そしてスーザンはモードの侍女として働くことに。
ある目的とは、モードが18歳になったときに手に入る莫大な遺産だった。リチャードはモードと結婚してその遺産を奪う計画を立てスーザンを仲間に引き入れたのだ。
リチャードはスーザンたちの間では「ジェントルマン」と呼ばれる詐欺師だったのだ。
しかし、世間と隔絶されたブライア城のなかで、同じ年の二人の少女は急速に親しくなっていく。
城以外の世間をまったく知らず、純粋培養されたモードは無垢で愛しく、スーザンは次第に、騙していることに罪悪感を覚えるように・・・。が、計画は着々と進行しついに「その日」はやってくるのだった・・・。

もう、この先どうなるの?と思って読むのをやめられない。
そうして読み進めていると「ええええ????」とびっくりさせられ、またまた「なんと!!」「そんな!!」と驚きの連続。
まさに嵐の海の小船のように、翻弄されるがままに、ひたすら身をゆだねてあっという間に港についてしまった感じの読書体験で、とても満足できた。
ここであまり詳しい感想を書いてしまうと、ネタバレになってしまうので遠慮したい。
遠慮すると感想にならなくて困ってしまう。。

ともかく、ものすごく面白かった!!ということを力説したいです・・・!!


2012年2月11日読了



RURIKO/林真理子★★★
林真理子が描く戦後昭和の華々しい日活を舞台に、映画の最盛期を生きた「女優」浅丘ルリ子の生涯。

ドキュメンタリーかと思ったらどうやら林さんの、「ほぼ想像」の産物だそう。
驚きのリアリティ!!
初めての恋、女としての初体験、不倫、恋愛遍歴、結婚、離婚。
映画人としてスクリーンで躍動する裏側で起きた(かもしれない)あまたの事柄は、本当にどきどきわくわくしながら読まされた。
スターがスターであった時代。昭和という時代を代表するスターたちの私生活がみずみずしくよみがえり、一気に読んでしまった。
浅丘ルリ子さんに対するイメージは、石坂浩二の奥さんだった人、若い頃の美貌はハンパないって言うこと、見たことがある作品は「花神」と「トラさん」ぐらいだったのだけど、ここに描かれるRURIKOは絶世の美女であると同時に気性のさっぱりした男気溢れる女で、石原裕次郎、美空ひばり、小林旭、和田勉など実在の人物との絡みは、とてもフィクションとは思えないリアリティがあり、スターの実生活の一端に触れた気がした。
スターは銀幕の中以外では幸せにはなれないもの・・。真理かも。戦後から昭和が終わるまでの芸能史と言う側面で見ても大変読み応えがあった。

特に石原裕次郎のオーラ、美空ひばりのスター性にものすごく納得した。


ただ、どこまでが真実でどこからが創作か。
こういうのは本当のリアルを読みたいので、読み終えてしばらくしてから「ほぼ想像」と聞いてがっかりしてしまったのも否めないのです。

2012年2月9日読了



はみだしインディアンのホントにホントの物語
    /シャーマン アレクシー
★★★★
高野秀行さんがベスト本にあげてらっしゃったので読んだ。
うん、面白かった!

小さなインディアンの保留地に暮らす水頭症でいじめられっこのアーノルド。
あるとき、教師に怪我をさせてしまう。
しかし教師は怒るどころか、かつて自分たちが保留地の生徒に行ってきたことはすべて間違いだったと罪を懺悔する。そして「保留地から離れれば離れるほど『希望』が近づく」と言い、アーノルドに保留地を出て行くことを勧めたのだった。
それがきっかけでアーノルドは保留地の外の高校に転入する。
親友のラウディをはじめ、部族からは裏切り者扱い、新しい高校でもなじめず・・・。
しかし持ち前の明るさと賢さとユーモアとガッツで、だんだんと自分の居場所を見つけていく。
友達も出来、GFも出来、バスケットの選手になって、元の高校との対戦に臨むアーノルド。
しかし、悲しい出来事もあった。
保留地では、人の死があまりにも身近な出来事だったのだ・・・。

「保留地」って言うと前日見た映画の「フローズン・リバー」を思い出す。
実はそれまであんまり意識もしたことがなかった。
インディアンたちはそこに「閉じ込められ」そこで「生きろ」と言われている。
それは逆に言うと「そこで死ね」と言われているのも同然なのだ。
彼らの生活は常に貧困、酒、暴力そして死と隣り合わせだ。
アーノルドは勇気を持って、「そこ」から脱出することを願い、実行する。
こうしてあらすじを書いてみると、とってもシビアで重い物語のように聞こえだろうと思うけど、でも違う。
アーノルドが元気で前向きで明るい性格なので、楽しく読んでしまう。
本当はもっとシビアに受け止めなければならないことが書いてあるんだけど・・・。
とってもユーモラスなのだ。
それでいて、今までほとんど知らなかった、アメリカンインディアンの鬱屈や辛苦が伝わってくる。
時には大好きな人が死んでしまうという悲しい出来事もある。
だけど、それすらもインディアンたちの保留地では、あまりにも「日常」なのだ。
そんな中から漫画を描くのが好きなアーノルドは「希望」を見つめる。
希望と言うことすら、忘れそうな保留地。
だけど、人は希望を持てば保留地からも抜け出せるのだという、まさに希望の物語になっていて、YAだけど大人も読み応え十分。親子で読めるおススメ本。

サイバラさんの『この世でいちばん大事な「カネ」の話』をちょっと思い出した。

2012年2月7日読了



特捜部Q―檻の中の女/★★★★★
特捜部Qとは、未解決の事件をもう一度捜査する使命を負った特別な部署。
追い払われるようにして、その特捜部Qの部長に任命されたカール。ただし人員はカールのほかにはシリア人のアサドだけ。
部下ができたことで仕方なく捜査を始めたのは、5年前に失踪した美人議員の事件。
自殺か他殺か失踪かわからないまま「自殺」と片付けられていたが、お義理のように事件を調べていくと、どんどんと新事実が現れてきた。
議員失踪事件が起きた2002年と、現代2007年がリンクするとき、果たして真実は。


何から何まで面白かった!
まずは主人公カール!!
一見気難し屋のカールは警察内では煙たがられているけれど、実はとても頭が切れて、以前部下を失った事件の深いトラウマを抱えていることや、妻の連れ子や下宿人との家庭生活や、なかなかに屈折したものを抱えている。
その部下になったアサド。この人物がまたカール以上の異彩を放ち、魅了された。なんといってもスーパーマンのように何でもお見通しだったり・・。二人のコンビはとても面白くてそして頼りがいがあった。
事件はものすごく陰惨。本のタイトルどおり「檻の中の女」がもう一人の主人公。
かなり常軌を逸する犯行で、ミステリー小説の中でもかなり悪質だと思うのだけど(ミステリー通というほどではないので確信はないけど、私は斬新な手口と思った)・・。
なぜ、彼女がこんな目にあっているのかまるでわからない。
ヒントのひとつもないように思う・・だから、特捜部Qが事件の解明をするなんて、至難のように感じる。
が、ひとつ、またひとつと小さなヒントを手がかりにして真実に近づいていくくだりは、まさにワクワクハラハラさせられた。
犯行がむごければむごいほど、犯人に下る鉄槌を厳しく激しくと願うのだけど、今回は犯人側にも思わず同情してしまう事情があった。もちろんだからといってこんなことは許されないと思う。
でも犯人が来た道のりを思うと、ここまで狂気に駆られてしまったのも納得してしまった。
というわけで、登場人物も、事件の凄惨さもその動機も、そして真実に近づく過程も、何から何まで面白かった。
今後も続刊の予定があるのかな?
ぜひとも読みたいと思う。
おススメ!!

2012年1月30日読了



特捜部Q―キジ殺し/ユッシ・エーズラ・オールスン★★★★
20年前に無残に殺された10代の兄妹。妹は「死ぬまで殴られた」のが死因という残酷な事件だった。
この事件は容疑者グループが世界的な富豪たちの子息だったが、グループのひとりが単独犯行を自供したためにすでに解決していた事件だった。
そのファイルがある日突然特捜部Qに、何者かの手によって持ち込まれたのだ。
誰が、今頃、何のためにファイルを特捜部Qに持ち込んだのか。
上層部からも捜査をやめろというお達しがあるが、特捜部Qのカールは、やめろといわれれば言われるほど「やる」人間だった。風変わりなイスラム教徒のアサド助手と事件解明に挑むのだった。


第一部を読む前に読んだのが原因と思うけど、結構読みづらくて時間がかかった。
登場人物がたくさんで名前も覚えにくくて混乱した。男か女かゲームか土地か・・・わかりづらい(^_^;)。
犯人グループは残酷で、高校時代にとんでもない犯行を繰り返して大人になった。
そんなやつらにはなんとしても天罰を下してもらいたいと思いながら読む。
犯人たちはかなりはじめの方で、カールが断言しているので、後はどうやって彼らの犯行だと決定付けるかが見物。
現代でもかれらは同じようなことを繰り返しているが、ただ一人、キミーという女だけは彼らから離れている。
キミーの存在が事件を暴く鍵になっているのだ。
キミーも同じ穴の狢とはいえ、読むうちにだんだんと親近感のようなものが沸いてきた。
事件の残虐性や、事件解明にいたるまでのスリル、そして登場人物たちの造形など、とても面白いミステリーだった。
カールには何かの事件で全身麻痺になった同僚のハーディがいる。
彼が「退院して自宅療養する」ことになって、今後はより面白いストーリーになっているのじゃないだろうか?
ちょっとライムを思い出した。

2012年1月27日読了



アンチェルの蝶/遠野潤子★★★★
大阪の港近くの下町で、薄汚れた古い居酒屋「まつ」を経営する藤太のもとへ、かつての同級生、幼馴染の佐伯秋雄が25年ぶりに訪れた。秋雄は小学生の女の子を連れており、藤太にいきなり「その子をたのむ」と言い残して去っていった。
女の子は「ほづみ」という名前で、「いづみ」の娘だという。
途方にくれる藤太だったが、翌日、秋雄が自宅マンションの火事で行方不明になっているという。
いったい秋雄はどこへ。
ほづみと暮らし始めた藤太に、秋雄といづみとともに過ごした中学時代の思い出がよみがえる。
カレル・アンチェル指揮の「新世界より」を聴いては泣いていたという秋雄。
秋雄は、そしていづみはどこに消えたのか。


物語の雰囲気がとてもミステリアスでよかった。
小汚い居酒屋に突然やってきたかわいいかぐや姫のようなほづみ。
もちろん、独身の中年男にいきなり「父親代わり」は勤まらず、紆余曲折があるのだけど、なんとかほづみを育てよう、傷つけないように寄り添おうという藤太の気持ちが好ましい。
応援したくなってくる。
人付き合いを嫌い、誰にも心を開かなかった藤太がほづみによって変わっていくあたりや、居酒屋の雰囲気や居酒屋の客たちまで変わっていくし、ほづみを間にして藤太と客たちの間の壁が取り去られていく様子など、見ていてとても気持ちがいい。
そして、じょじょに藤太や秋雄、いづみの「過去」が明らかになるのだけど、そこにある過去の事実は本当に惨い。
悲惨な子供時代を寄り添うようにして生きていた3人が、いじらしくて切なくて愛しく感じた。悲惨な子供時代をすごしているからこそ、いま、藤太にはほづみと一緒に幸せになってもらいたいと願いながら読む。
秋雄が隠そうとした真実は苦々しく切ないものだけど、今後のふたりの幸せを願わずにいられない。
どうか、どうか・・・と願わずにいられないのである。

2012年1月27日読了



聖の青春/大崎善生★★★★★
出版社/著者からの内容紹介
話題の作家のデビュー作!
将棋の知識は必要ありません。

村山聖、A級8段。享年29。病と闘い、将棋に命を賭けた「怪童」の純真な一生を、師弟愛、家族愛を通して描くノンフィクション。新潮学芸賞受賞作。

重い腎臓病を抱え、命懸けで将棋を指す弟子のために、師匠は彼のパンツをも洗った。弟子の名前は村山聖(さとし)。享年29。将棋界の最高峰A級に在籍したままの逝去だった。名人への夢半ばで倒れた“怪童”の一生を、師弟愛、家族愛、ライバルたちとの友情を通して描く感動ノンフィクション。第13回新潮学芸賞受賞作


読み終えて涙が一時止まらないぐらい感動した。
たった29歳で命を終えねばならなかった村山氏の無念と命のはかなさがともかく悲しい。
周囲・・・ご両親はもちろんのこと羽生善治名人をはじめ将棋のライバルでもあり友達でもあった仲間たち、そして懇意にしていた著者も(本書からも村山氏に対する愛情が伺える)・・・・何よりも師匠の森氏の心中を想像すると本当に泣けた。
幼いころから病気でずっと入院生活をしてきて、いつの間にか隣のベッドが空になっているのが「普通」の生活の中で見つけた生きる喜び、すなわち将棋。とても頭脳明晰で集中力もあり記憶力もすごかったと思われる村山氏が将棋と出合った、そのご縁の不思議を感じる。
そして将棋を通して師匠森氏との出会いがあった。
慈愛に満ちた森氏の、村山氏への愛情を本書から感じて、本当に泣けてしまった。
病気がちだった村山氏は天然キャラだったらしく、微笑ましいエピソードも満載で魅了される。でも、何よりも「優しい」人だったことに感銘を受けた。ダニに対してすら「生きているものを殺すなんてかわいそうじゃないですか」と言ったというくだりには、はっとさせられた。また20歳になったといって嬉しそうに師匠を訪ねたくだり・・・。子どものころから20歳になるまでに死ぬかも・・・と思って生きてきたんだと思うと胸が詰まった。
病気と闘いながら、這うようにして、まさに命を削るように、将棋をさし、名人を目指した村山氏。
病気があっての自分だと達観もしていたと言う。
深く感銘を受け感動した。
言葉にならないぐらいです。

2012年1月21日読了



開錠師/スティーブ・ハミルトン★★★★★
幼いころの「事件」がきっかけで、まったく喋らなくなったマイケル。
とある特殊な能力を見込まれて、学校の同級生たちがたくらむ、いたずらに巻き込まれ、警察沙汰になってしまう。
そのことから、マイケルの人生はある方向へ向かって、不可抗力的に突き進んでいく。
けっきょく、オレンジのスーツに身を包み、現在の「場所」にいることになった原因は。。。。


マイケルの特殊能力とは、金庫破りの能力である。
こんな能力があれば、悪人は放っておかないに違いない。
だからマイクは利用され、そのことで自分を縛り、身動きが取れなくなってしまう。
マイクの思いに反して、どんどんと事態が予期せぬ方向へ進んでいくのが、とても気掛かりで心配になる。
「犯行」を重ねるマイク。悪事には違いないのだけど、どうしてもその手腕の鮮やかさは見応えがあり、感心して応援してしまう。やっぱり特殊能力が「カッコいい」のだ。
ただひとり、自分を理解し、理解しあう相手と、マイクは「絵」を描くことを通して、愛情を伝え合う。
夜中に「能力」を使って、恋人の部屋に忍び込み、自分が描いた絵を置いて来る。すごくドキドキした。また彼女も「絵」で自分の思いを返す。そのふたりのやり取りに、ゾクゾクするようなトキメキを感じてしまった。
マイクの一人語りの形式なので、読者にはマイクの思いが伝わるのだけど、内面はとてもユーモアがあり聡明で情熱家だから、好感が持て、また感情移入もしてしまう。
犯罪小説であり、青春ラブストーリーでもある。
最初から最後まで、かなりぐいぐいと読ませられた。
面白かった!
2012年1月2日読了



銀色の絆/雫井脩介★★★
横浜で何不自由ない暮らしの中で、娘の小織にフィギュアスケートを習わせていた梨津子は、夫の不義を機に離婚、実家のある名古屋へ転居する。
そこは言わずと知れたフィギュア王国。
子どもがコーチについて習っている間は、母親たちの談笑の時間となっていた横浜での選手生活とはまるで違い、名古屋では母親たちも熱心に練習に参加していた。そこで自分の態度を改め、娘の選手としての大成のため、一心に尽くすきもちになった梨津子。
娘の小織は、新しいコーチや強力なライバルたちを得て、練習に励む。
二人が目指すものは・・・・・。



すでに「田舎の公立大学」に進んだ主人公が「過去」を語る形なので、選手としての行く末は最初から暗示されている。
もう一方で、当時を母親目線で語る形で物語が進行していく。
華やかなリンクで舞うまでに、そして表彰台に上るまでに、どれだけの苦労や努力やその他モロモロがあるのか・・・母の目線でつづられる。
たとえば、子どもが練習している間は母親たちはビデオカメラでその姿を録画したり、コーチの手が届かないときなど、自らの娘のためにアドバイスをしたり、そのためにはもちろん母親たちもフィギュアスケートを勉強しなければならない。
コーチとの付き合い方。コーチのためには、弁当の係、コーヒーの係、おやつの係などを順番に受け持つ。あるいはコーチから母親に話があれば、ベンチの上に正座して聞く・・などなど、内部事情が明らかになっている。おそらくこれはリアルな実情なのじゃないだろうか。
金銭的な面も大きく、コーチ代、リンク代、衣装代、振り付け代、遠征代・・などなど、計り知れない大金が必要らしい。
トップに上り詰めるには、単に実力があるというだけではダメだということのようでもある。
実は読んでいて「へぇ〜〜」と思う反面、コレを知る意義は?と疑問がわいた。
著者は何が目的でこの小説を書いたのだろう?とさえ感じた。
こういった裏事情を何も知らず、選手の華やかな場面だけを見ていることを批判されているのか・・。
そして、過去と現在の二階層の物語なので、はなしが分断されているのか、過去を振り返る小織の口調によって、緊迫感が削がれたようにも感じられた。
母と娘が両者一丸となって死に物狂いでトップを目指すと言う感じじゃなかったので、ふたりの温度差にイライラさせられたというか、カタルシスが得られないと言うか・・・・。
ところが!
ラストは号泣!!
梨津子の気持ちになってみれば、同じ母親として共感できる部分もあったのだろう。読んでいる最中はあまり共感できないと感じたのだけど・・・。
すべてが終って、空の巣症候群のような、やりつくした燃え尽き症候群というか、そういう感情が梨津子よりも読者の私に芽生えたのかもしれない。

なお、作中、まるで真央ちゃんのような選手が出てきてあまりにも一致する符号に驚いてしまった。
雫井さん、いつこれを書き上げたのか。知っておられたのか。しゃれにならないような気がした。

2012年1月5日読了