2012年の読書記録*part2 |
夜をぶっとばせ/井上荒野★★★ |
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内容(「BOOK」データベースより) どうしたら夫と結婚せずにすんだのだろう。「思い切ったこと」がしたくなったある夜、ネットの掲示板に書き込んだことで、たまきの日々は「何かが決定的に」変わりはじめる―直木賞作家が掬いとる、あかるく不穏な恋愛小説。 ↑ という内容紹介文を読んでいまびっくりしている。 「恋愛小説」だったのか!!「不穏」は良いとして「明る」い小説だったのか!!! 私にはそうは思えなかった。 「だれかの木琴」もそうだったけど、こちらも主人公たまきの行動がとても不気味。 だんなのDVに苦しみ、子どもにもそれが影響を与えてて、境遇的にはとても同情を誘うのだけど、初めて買ったPCで、たまきは出会い系サイトにハマっていくのだ。 なんでそういう行動をとる?ってカンジで、ともかくたまきの行動は自己破壊的で理解も共感もできない。 それなのになぜか一気読みする「面白さ」がある。文章も好み。 共感できない人物を描くのがうまいと言う感じがした。 ちなみに「夜をぶっとばせ」というのは、ローリングストーンズの曲名らしい。 「チャカチョンバへの道」は、主人公の夫側の物語。 夫が「その後」では、ごく普通の男のように描かれ、意外な人物と同居している。 そして、たまきの境遇もびっくりするほど変化していた。 良くわからない。何がどうなってるのか。彼女たちがどうしたいのか?? これからみんなどうなるのか・・・。 うーん・・・。 2012年9月27日読了 |
母を棄ててもいいですか? 支配する母親、縛られる娘★★★ |
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今年は毒親関連の本をよく読んでいる。これはまさしく実体験をレポートしてあり、とても壮絶だった。自分の母を思うよりも、今まさに私が娘に対してどうだろう・・と思いながら読んだ。所々で当てはまる部分があって居心地がとても悪かった。娘も長じて私を恨んだりするんだろうか?娘との関係は特に悪くは無い(と思う)けれど、この先どうなるかは分からない。今後の参考になった。 7つぐらいのパターンが書かれているんだけど、ある親子の場合、父親が亡くなっており、母親が女手一つで子育てをしたケースがある。 女手一つで子育てをするというのは大変なことだろうと思うし、その中で兄は東大に進学しエリートビジネスマンに、この娘さんもいい学校に入り歯医者になった。しかし、あまりにも完璧な母親で、彼女は娘として母に甘えられずくつろぐことも出来ない、そういう親子関係になった挙句、(こういう母親を「モラハラ母」と呼ぶのだけど)モラハラ母から逃れて結婚すると、今度は夫がモラハラだったという・・で、母親との関わり方が何もかも悪影響を与えているという。 しかし母目線で見ると、父親が無いからこそ殊更厳しく育てたと思うし、厳しくされて可哀想だったと思うけど…母親に対してご苦労様と言いたい気持ちもある。 同じ境遇でもこじれない親子関係もあるだろうに。。と思うと切なくなったりした。 |
クローバー・レイン/大崎梢★★★★★ |
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とっても面白かった〜〜!!(*^_^*) 大手出版社で編集として勤めて7年、工藤彰彦はとある作家に、原稿の「ボツ」を伝えている。 作家が小説を作り上げるのはとても困難なことだと思わされる。 双方にも読者にも気が滅入るこの冒頭シーンだけれど、対応する(ボツを言い渡す)主人公の誠実さが伝わって、のっけから釣り込まれてしまう。 そんな主人公が一目で心を鷲掴みにされたのは、落ち目で過去の作家、家永の「シロツメクサの頃」と言う小説だった。彰彦はこの小説の読者第一号になった。そして、自社から出版したいと強く思う。 ところが、彰彦の一途な思いと裏腹に、出版は困難を極めるのだ。 サスペンスやミステリーでもないのに、先が急がされて仕方がない。どうなるのか、本になるのかならないのか・・・結末は予想できるものの、ひたむきな彰彦に共感して、祈るような気持ちで一気に読まされてしまった。 ひとつの小説が本になるまでの段階が、リアルに描かれていて、本が一冊出るのに大変な労力があるのだなぁと改めて実感させられるし、出版社の裏事情がわかってとても興味深い。 本と言うのは、出版するのが最終目的ではない・・というのも、改めて実感した。 他社の編集との駆け引きや攻防、社内でも部署が違うと(編集部と営業部など)仕事が全然違ったりなど、そういう、本造りに関するあれやこれや面白く読んだ。(東野圭吾さんの「歪笑小説」を思い出したりもした!!) 家永をはじめ各作家たち、編集の国木戸や営業部の若王子など、脇役たちも魅力的だ。 大御所作家の芝山などは、作中エッセイがとても感動的だった。 冒頭で釣り込まれてからも、随所に本好きならではのシーンがあって、その点でも楽しく読める。 (オールといえば、オールナイト・・とか(笑)。本屋大賞らしきものが出来るまでの過程とか) そして本書は、本が出来上がるまでの過程を描いてあるだけではなく、作家家永とギクシャクしている娘との物語があり、もうひとつの軸になっている。 本を出すまでのネックのひとつを彼女が握っているのだ。 二重三重にも本の出版は困難だけれど、彰彦の熱い思いが、やがては人を動かし、状況を変え、人の心も動かす。「出版」と言うひとつの目的に向かって、人の気持ちが寄り添うさまは、爽快で感動的だった。 家永親子に物語があるように、彰彦の家庭にもひとつのドラマがあって、その点でも大いに感動した。 最後は泣いた。素敵な物語だった。おススメ! 2012年9月23日読了 |
恋人たちの誤算/唯川恵★★★ |
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内容(「BOOK」データベースより)
弁護士事務所に勤める流実子と一流商社のOLの侑里は、高校の同級生で25歳。卒業以来、連絡の途絶えていた二人が思いがけない形で再会した。夢を実現するためなら、自らの体も武器にする流実子。自分を棄てた男とやり直すために、婚約を解消する侑里。愛なんか信じない。愛がなければ生きられない。それぞれの「幸福」をつかむための、がむしゃらな闘いが始まった。 面白かった。 たぶん、しばらく経てば内容を忘れてしまうかも知れないけれど(^_^;)読んでいるときは面白くて一気読みした。 侑里は幸せな結婚が約束されていたのに、婚約者を棄てて家族とも断絶状態になってまで、ダメ男のモト彼と一緒になる道を選ぶ。 世の中にはこのように、どうしてもダメ男に惹かれてしまう女性がいるらしい。「だめんずうぉーかー」というマンガがあるけれど、ダメ男=だめんずを渡り歩く女という意味だ。 これが侑里にぴったり当てはまるのではないだろうか。 ダメな男がなぜか女にはモテたりして。だからこの小説でも、侑里以外の女とも懇意になってしまうのだろう。 かたや、流実子の生きかたは侑里とは真逆のようで、愛を「利用」しようとする。ふたりの・・いや、3人の女たちの対比が優れていて面白く読めた。 |
曾根崎心中/角田光代★★★★ |
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曾根崎心中・・・・名前はもちろん知ってるけど、内容はぜんぜん知らなかった。 ふーん、こういう話だったんだ〜〜。 いやもう、面白かった!! ともかく、女たちがみんなすごい!壮絶!と思った。 自分のテリトリーを守るために必死で、そのためにやることはえげつない。まぁこれは初の最初の勤務地の島原(島原って、九州じゃないのね。。京都にある「島原遊郭」らしいです。てっきり島原の乱、の島原かと思った)での出来事で、次の勤務地の堂島新地は、初にとって居心地がよかったというので、ちょっとはほっとしたんだけど。 でも、そこで面倒を見てくれた島という先輩遊女は、遊女としての心得を初に説いてくれた割に、自分ではそれを忘れて恋に身を焦がして死んでしまう。 テリトリー守って必死だったり、恋をして必死だったり。なんでも命がけだ。 命と引き換えに恋をする・・それがあのころの遊女の姿なんだろうか。 ほんと・・・女って恐ろしくて、哀しい生き物だなぁ。 そして・・バカだ。 ここで描かれる男は卑怯だし狭量。 だいたい、初の恋人の徳兵衛って、あれ、盗難&偽判騒動の真相はどうなの。 もしも徳兵衛の言うことが嘘だったら、初があまりにも哀れで浮かばれないけど、でも、どうも胡散臭く感じる。かといって九平治も信用できなさそうな輩ではある。 どっちが本当なんだろう。。。初の推理が当たってるような気がする。。。 いやでも、ラストは意外だった。 絶対に心中すると思ったが? 「曾根崎心中」やもん。 なのに、なのに・・・。 アレ絶対、徳兵衛は死なずに逃げたと思うな。自分でのどを掻っ切るほどの度胸があるとは全然思えない。腹も括ってなかったんじゃないの?? ただ、初を導いた人魂たち・・・姉さんたちの怨霊が、徳兵衛を逃がすことはしなかったかなと思う。 それだと話が怪談になってしまうか・・・(^_^;) もっとほかの時代物も角田さんに邦訳してもらいたいなと思った。八百屋お七とか、四谷怪談とかね。ありきたりですけどね(^_^;)やっぱり切り口がいいですよね。。 2012年9月15日読了 |
ひそやかな花園/角田光代★★★★★ |
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とある7人には共通の思い出がある。夏の一時期に行われた「キャンプ」だ。それは数年続き、見知らぬ同じ年頃の子どもたちと仲良くなり、子どもたちにとっては楽しい企画だった。でも、ある夏から突然なくなってしまう。幼いころの記憶ゆえに、成長するにつれいつしか忘れられ、人によっては実際に起きたことかどうかすら判然としない。 しかし、7人は何かに導かれるように、その集まりが何であったのか、彼らが誰であったのか、知っていくことになる。真実を知っていた者もいる。知ったばかりの者もいる。 さらに掘り起こされた真実は・・・・・。 角田さんって、面白くて読ませるけど、そこまで好きな作家じゃない・・・と思っていたんです。正直なところ。でも、先日読んだ「紙の月」がとてもよくて、そして本書を手にとって見たけど、これは・・・私が読んだ角田作品で「対岸の彼女」「紙の月」と並んでベスト3に入ると思いました。 (ネタバレあります。ご注意願います) 医療が進んで、こういう問題も起きてくる。以前ならあきらめるしかなかったことも、一つの方法が提示されれば、それがどんなに問題を含んでいてもすがってしまう。たとえば臓器移植だってそうだ。将来的には「私の中のあなた」みたいなことだって出てくるだろう。 本書ではそれは「誕生」に関わることだった。 同じ問題に直面した人は、ひょっとして読むのが辛い物語なのかもしれない。 そしてこの方法は、人が行う医療の範囲として正しいのかそうじゃないのか・・・人それぞれに思いがあると思う。 ここに描かれたのは、どうしてもどうしても子どもが欲しかった親たちの物語も含むのだけど、本当の主人公たちは、そうして生まれ出てきた子どもたち。 親だと信じていた人が親じゃなかった・・では誰が本当の親か・・じつはそれすら分からない。 それが分かったとき、いったい人はどう考えるのか。どんな感情にとらわれるのか? 7つの家庭、7組の親子、7組の夫婦の出産以前、出産以後、とてもていねいにリアルに描かれている。 そうして、真実に近づくにつれ、「生きることの意味」や「しあわせの条件」や「命の尊さ」などという、生きていくうえで出生の特殊云々に関係なく、誰もが持っている根本の問題が浮かび上がってきたように感じた。 印象的だったのは紗有美で、幼いころから同級生たちと(リアル)うまくいかなくて、夏のキャンプが唯一の自分の居場所だった。それが無くなってその後を寂しく、辛い思いで生きた。 それを紗有美はキャンプや母親のせいにする。じっとりと恨み、自分の人生がうまくいかないのは、めちゃくちゃにされたのは母親のせいだと思う。 そんな紗有美は言動からみんなに疎まれる。読者としても、この女だけは好感のひとかけらも持てない。 けれど物語の最後に紗有美は気づくのだ。 生きるということは、時にはもちろん恐ろしい思いをするかもしれないけれど、そこで幸せなことも起きるかもしれない。殻にこもっていれば怖い思いはしなくてもいい。けれど、幸せな出来事に出会うことも無い。 生まれてこなければ、辛い思いをしなくてもいい。でも生まれてきたから幸せな出来事に出会うこともある。 それは、この7人に限らない。誰にでも当てはまることなのだと思った。 一番いやな人物だと思った紗有美に、最後は一番共感した。 そのせいもあり、読後感の大変いい物語で、読後感で言うならば角田作品で一番良かったと思った。 ・雄一郎はハルの「嘘」を見抜いていたと思うよね? ・たしかに、パートナーには注意が必要だろう。どこにきょうだいがいるか分からないよね・・・。 2012年9月15日読了 |
ラバー・ソウル/井上夢人★★★ |
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内容(「BOOK」データベースより) 洋楽専門誌にビートルズの評論を書くことだけが、社会との繋がりだった鈴木誠。女性など無縁だった男が、美しいモデルに心を奪われた。偶然の積み重なりは、鈴木の車の助手席に、美縞絵里を座らせる。 これから読む人は、なるべく、余計な情報を仕入れずに読まれることをおススメします。 これから書く私の感想は、ネタバレになります。 くれぐれもご注意ください。 主人公は鈴木誠という、いわば「異形」の青年だ。病気によって顔かたちが変わったらしく、一目見た相手は固まってしまうほど。自分を「メドゥーサ」と自嘲する。声帯や舌にも以上があるらしく、喋り声も相手に不快感を与えずにおれないという。 何の病気か書かれてないけれど、このあたりで非常に不快になる。 それはたぶん、鈴木誠を「差別」「嫌悪」する以外の選択肢が読者に無いからだろう。 物語は、モデルの絵里と出会い、一方的に愛してしまいストーカーとなった挙句、絵里の周囲の男たちを惨殺していく、それを独白や供述調書のような形で、本人鈴木誠、モデルの絵里、鈴木のお抱え運転手の金山、モデル事務所の人間や、鈴木誠が寄稿していた音楽雑誌の編集長などの視点で描くのだ。 鈴木誠自身の独白や供述(では無いのだけど)だから、犯行は疑いようも無く、見た目も悪いそうだけど内面も悪いこの男に、結局はとても嫌悪感が沸いてしまう。 それと、すべてはすでに起きた話に対する回想らしいのだけど、核心に迫るまでが長いので、中盤かなりだれてしまった。 そしてラスト。 意外な結末がまっている。 見事に騙されたのだけれど、なぜか爽快感が無い。 たしかに、「やられた!」と思うのだけど、その結末はあまりにも切ない。そして、ずっと、書かれていることをただ信じた自分にも、なんだかガッカリしてしまうのだ。切なくて、申し訳ない気分になった。だから、爽快でもないし、良かったとも思えない。 やるせない・・・・そんな言葉がぴったりなのじゃないかな。 2012年9月13日読了 |
司法記者/由良秀之★★★ |
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内容(「BOOK」データベースより) 「騙されるな。気合を入れて叩き割れ!」「…そんな供述のどこが真実なんだ」美貌の女性記者はなぜ殺されたのか?口を閉ざし続ける容疑者の守り通す秘密とは…。特捜検事が、巨大組織の壁の中で、孤独な闘いに挑む。 叫び声が聞こえたという通報があり、駆けつけた刑事たちは、その部屋の浴槽で女性の他殺体を発見。部屋の持ち主はその死体を見て自分と同じ司法記者だと驚く。しかし、彼は身に覚えが無いと言い張る。 実際に起きた事件を取り込みながら、ミステリーとして良く出来た物語だと思った。 特捜部の内情が良くわかり、びっくり! 大阪のほうで起きた例の改ざん事件で問題になったことが、本書を読めば良くわかる。 国民として司法の危機を感じた! ほかにも政治家の収賄事件だとか、まったく日本の行く末が心配になる問題がうまく練りこまれている。 面白かったけど、少し物足りないのは、これだけの材料があって、著者の経歴(元検察官)から切り込めば、もっともっと面白い作品が出来たような気がする。 主人公の検事の人物造形、心理描写など、もっともっと練って読ませて欲しかった。 次回作にも大いに期待したい。 ちなみに、この作者、覆面作家としてペンネームを使っていたのに、自分でうっかりツイッターで暴露してしまったんだとか。なんか・・・ほほえましいです。でも、そんなうっかりさんは検察官には向かないかもね(^_^;) 2012年9月13日読了 |
レアケース/大門剛明★★★ |
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内容紹介 近年、何かと話題の「生活保護制度」の矛盾を突く問題作! 生活保護者を担当するケースワーカーとして、大津市役所に勤める石坂壮馬。彼は、生活保護をもらうだけでいっこうに自立しようとしない者や、仮病などで保護費を詐取しようとする者、そして被保護者を食い物にする「貧困ビジネス」の存在に、生活保護制度の矛盾を強く感じていた。そんな中、大津市内では、あくどく稼いでいると評判の者から盗みを働き、貧しい人々に金を配る「現代のねずみ小僧」が話題になっていた。社会のセーフティネットとしては、自分の仕事より、ねずみ小僧の働きの方が有効なのか――ねずみ小僧に複雑な思いを抱く壮馬だったが、ある日、彼の担当する被保護者が殺される事件が起こり……。 殺人事件の意外な真相とは? そしてねずみ小僧の意外な正体とは? 「横溝正史ミステリ大賞」受賞でデビューした社会派の気鋭が格差社会の闇に迫る、二転三転する衝撃のミステリ。 (Amazon 紹介ページより) めずらしくAmazonでも詳しい内容紹介がしてあって、転載させていただきました(^_^;)。 そう、とてもタイムリーな話題なのだ。 読み始めて、そういうテーマに触れていると思うと、読者として期待するのは「いったいどう言う輩が、どう言う方法で生活保護費を不正受給しているのか?」という問題と「本当に生活保護が必要な人間にどういう形で影響が及んでいるのか?」そして「我ら納税者にどのように関わってくるか」ということじゃないかと思う。(私だけの疑問だったらゴメンナサイ) でも、本書は、現代のねずみ小僧という人物の登場で、話がそちらに逸れ気味というか、そちらが物語のメインなので(誰がねずみ小僧なのか、主人公にかぶせられた容疑は晴れるのか)読んでて期待とはちょっと違うという感じがしてしまった。勝手に期待しておいて申し訳ない限りなのですが…(^_^;)。 ただ、主人公荘馬の仕事内容の描写で、ケースワーカーの実態というものが良くわかって、大変だなぁ!と頭が下がった。お仕事薀蓄としては興味深く読めた。 しかしこれ、ひょっとしたら「黒い家」みたいな恐ろしい物語にもなり得た気がして、少し残念。 でも、大門さんには期待して、次作も追っかけますよ!(もういいよって言われそう) 2012年9月10日読了 |
木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか/増田俊也★★★★★ |
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第43回大宅壮一ノンフィクション賞、第11回新潮ドキュメント賞のダブル受賞作品で、いまさら私が説明の余地はないと思うので、丁寧な紹介は割愛させていただきます。 私は格闘技にも柔道にも疎いので、こういう人物がいたということはもちろんのこと、力道山は名前こそ知ってはいたけれど、木村政彦との一戦が「昭和の巌流島」と呼ばれた大一番で世間をにぎわしたことも知らなかった。 しかしそんな私が読んでも、とても胸打たれる面白い評伝だった。 ともかく、昭和を生きた格闘家たちの生き様にしびれた。 著者は、件の一戦で力道山にだまし討ちのようにコテンパンにやられた木村政彦の名誉を回復すべく、木村政彦が死んだ平成5年(1993年)からまさに18年を費やして取材を重ね、「あのとき木村政彦が最初から真剣勝負のつもりでリングに上がっていれば、間違いなく伝説の決め技『キムラロック』で勝っていた」と断言する。 その後、不遇のなかで再戦を熱望しても受け入れられず、失意のうちにただあの一戦を後悔しながら生きた木村政彦。タイトルのように木村政彦は力道山を殺して自分も切腹すべきだったのか? 怒りと悲しみを抱いて後半生を生きたサムライ木村政彦の生涯が、綿密な取材を元に描かれる。 それとともに、柔道、柔術の歴史も詳しく書かれていてその点からも興味深い。 ここに描かれる戦前の柔道は、今テレビで見るスポーツの柔道とはぜんぜん違う。 敗戦国日本は、武道さえもGHQに禁じられてしまったので、生き残るために、「柔道は無道ではなくスポーツだ」と主張したらしい。そのため、柔道は武道からスポーツへと変化して行ったようだ。 この本を読んでいると、全盛期の木村政彦の柔道を見てみたい!と思えてならない。 岩のように動かなかったという。生えている木を相手に打ち込みをやって、しまいにはその木のほうが枯れてしまったというが、そうして鍛え上げられた揺るがぬ堅い足腰。そして、竹を相手に打ち込みをやり身に着けた柔軟性。一日10時間に及ぶ練習量。負けたら切腹する覚悟でいつも闘っていた。 全日本選手権13連勝。15年間無敗。 木村の前に木村なく、木村の後に木村なし。 誰に聞いても「木村先生よりも強い柔道家はいない」と言うらしい。 戦争がなければもっと連覇を重ねたことだろう。 戦争がなければ、プロの格闘家になることもなく、柔道一直線だったかもしれないし、プロレスなんかに行かずに力道山とも人生を交錯させることなく生きたかもしれない。 戦前の輝かしい戦歴と、戦後、力道山との対決以降の人生の落差がありすぎで見ていて悲しい。 力道山との一戦は本書のクライマックスであり、メインテーマであるが、しかし私はそれより前に木村政彦がブラジルでエリオグレイシーと交えた一戦のほうが印象深く感じた。 木村政彦の死後ではあるけれど、グレイシー一族によって木村政彦の名誉は挽回されたように感じる。 こうして、本書がベストセラーになったことも、木村政彦の名誉回復につながっただろう。 日本が誇る柔道家だった木村政彦。 綿密な取材によって熟考された木村評伝は、冷静で公正でありながら木村へのリスペクトが根底にあり、とても人間味にあふれた読み応えがある一冊になっていた。 本の冒頭で「木村政彦は力道山を殺すべきだったのか。殺して自害するべきだったのか」という問いかけがなされる。「それは私自身にも、本書を書き終えるまで分からない」と。 その答えは、ラスト、木村自身の言葉で結論付けられる。 感涙でありました。 ただね・・・・・ともかく、読んでみて心の底から沸きあがる気持ちは 「どうして力道山と本気で戦わなかったんだ!!」 という一言。 力道山と本気で戦って(相手が「ブック破り」をしてきたのなら、そこで本気モードに切り替えて)勝って欲しかった。。。。しかし、それを私のような立場の人間が言うことではないのかもしれない。 今度テレビで総合格闘技の放送があったらぜひとも見てみようと思う。 だれかが、キムラロックを使うところを見たいな。。 2012年9月5日読了 |
氷の秒針/大門剛明★★★ |
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内容(「BOOK」データベースより)
平成22年4月27日、殺人罪に対する公訴時効は廃止された。諏訪の主婦殺人事件はこの先ずっと犯人を裁けることになったが、2カ月前に時効が成立していた松本の一家殺害事件には間に合わなかった。両遺族―惨劇の中でただ一人生き残った一家の長女・小岩井薫と、妻を殺された夫・原村俊介の思いは乱れながら、接近、交錯する。そんななか、時効になっていたにもかかわらず、松本の事件の犯人が自首し、後日殺される事件が起こる。警察は薫に疑いの目を向けた。俊介は薫のことを気にかけつつも、長年事件を追ってきた元刑事の寺山力らと共に、自身の事件の犯人とおぼしき男を追い詰め―。被害者遺族には「解決」の時が訪れるのか?驚愕と感動が待ち受けるミステリー渾身作。 文体は初期の作品よりも読みやすくなった感じがする。主人公にも感情移入できた気がする。前半は意外性がなくそのままの進展で、ちょっとたるい。でも後半はよかった。ことの真相にいたっては驚いた。突飛ではなく布石があったので「なるほど」と言う感じ。 2012年8月29日読了 |
ロスジェネの逆襲/池井戸潤★★★★ |
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内容(「BOOK」データベースより) ときは2004年。銀行の系列子会社東京セントラル証券の業績は鳴かず飛ばず。そこにIT企業の雄、電脳雑伎集団社長から、ライバルの東京スパイラルを買収したいと相談を受ける。アドバイザーの座に就けば、巨額の手数料が転がり込んでくるビッグチャンスだ。ところが、そこに親会社である東京中央銀行から理不尽な横槍が入る。責任を問われて窮地に陥った主人公の半沢直樹は、部下の森山雅弘とともに、周囲をアッといわせる秘策に出た―。胸のすくエンタテイメント企業小説。 これの前に読んだ「ルーズベルトゲーム」がちょっと物足りなかったけど、こちらはとても面白かった! 池井戸さんの作風として、やっぱりなんとなく結末は予想できるんだけど、その過程が読ませる! 主人公の半沢はバブル世代。とても男気があふれて頼もしい人物で、彼についていこうとする氷河期世代の森山も誠実でよい。 私は、金融モノが苦手なので、このバブルシリーズ?は読まなかったけど、とても読みやすくて分かりやすかった。シリーズ最初からまた読みたい。 2012年8月24日読了 |
冥土めぐり/鹿島田真紀★★★ |
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裕福だった過去に執着する母と弟。家族から逃れたはずの奈津子だが、突然、夫が不治の病にかかる。だがそれは、奇跡のような幸運だった。夫とめぐる失われた過去への旅を描く著者最高傑作。(河出書房新社HPより) 芥川賞の受賞作で、文藝春秋で読んだ。初めての作家さん。 読みづらい文体だったかな。 内容的にも、短い物語なので、ん?そんで終わり?みたいな。 あっさりと終わってしまった。 面白く読んだような気もするけど、感想が書きにくい。何を書いたらいいか・・。 っていうことは、私にはこの小説のよさがわからなかったって言うことになるのかな。 ちかごろ私のアンテナに激しく引っかかってくる言葉があって、それは「ポイズンママ」という言葉だ。 「毒親」とも言う(そのまんまやけど)。 今年になって私が読んだ本で、その「ポイズンママ」関連の本は、 村山由佳「放蕩記」 水村早苗「母の遺産」 田房永子「母がしんどい」 窪美澄「晴天の迷いクジラ」 小川 雅代「ポイズン・ママ―母・小川真由美との40年戦争」 と、こんなにある。 (熊谷早智子「母を棄ててもいいですか? 支配する母親、縛られる娘」なんてのも予約中) で、本書の「冥土めぐり」もその分類に出来るのではと私は思った。 主人公が母親(この物語では、それに弟もくっついてくる)に苦しめられていて・・とは言っても、よく聞くタイプの虐待ではなく、自分たちが裕福だったころの生活を維持したい気持ちを、主人公におっかぶせてそれを当然としてはばからない。結婚すれば逃れられるかというとそうじゃなく、結婚相手に対してもそれを求めて当然と思っている。この母と弟の人格には人間性を疑うしイライラさせられるし・・・でも、いろんなポイズンママものを読んで来たら、案外リアル。こういう親は実際にいるんだろうと思う。 群ようこさんのファンでよくエッセイを読んだけど、以前から、お母さんと弟さんの話がインパクトが強かった。それを思い出したのだけど。むろん、群さんのエッセイはもっとユーモラスに描かれてるんだけど。 2012年8月19日読了 |
時生/東野圭吾★★★ |
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先日「ナミヤ雑貨店の奇蹟」を読んで面白かったので、時空ファンタジーだからと敬遠していたこちらの作品も読んでみた。(ラムちゃんありがとう!) 宮本拓実は、息子時生の死に際に、妻に対して、過去に出会った不思議な物語を聞かせる。それは自分は若いころ、時生に会っているということ。 時空を超えて、父と息子が出会い、何があったのか・・・。 東野版、「バックトゥザフューチャー」。 正直に言うと、「ナミヤ雑貨店の奇蹟」のほうが、時空ファンタジーとしては良く出来ていると思う。時を越えて語られる物語のつながりや、時を越えていることの必然性など、とてもスマートで無理がない。 でも、こちら「時生」は、その理由も、過去に起きた事件とこの家族とのつながりも、ちぐはぐに感じられてしまったのだ。 まず、宮本拓実、時生の父であり主人公だけど、若いときの彼がとてもいい加減で、すごくいらいらさせられた。 わざとこういう人物設定にしてあって、時生との出会いで成長していくと言う展開だと思うけど、ひどすぎる。仕事は短気ですぐにやめたり、すぐに人を殴るなど暴力に訴えたり、言葉遣いも素行もまるで悪い。 当時の彼女に愛想をつかされてしまうのだけど、当然である。 彼を父親と知っている時生は、いじらしく拓実を導こうとするけれど、その時生にたいする態度も悪くて、本当に読んでいてげんなりしてしまった。拓実にまったく好感が持てないのであまり物語に入り込めなかった。 生前の時生と拓実の関係も、ほとんど描かれてないので、なぜ過去に戻って父親に会わなければならないのかわからない。父親の素行を治し、自分が生まれたことを幸せだと伝えたかったのか? ラスト一行、拓実のセリフは良かったと思うけど。 2012年8月16日読了 |
毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記/北原みのり★★★ |
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「別海から来た女 木嶋佳苗悪魔祓いの百日裁判」(佐野眞一著)に続けてこちらの本も読んでみた。 2冊の本を読んでも、木嶋佳苗が何をしたのか、何を考え、どういうつもりで、動機は何で、殺人を犯したのか、それとも犯してないのか…結局、分からなかった。 本人の主張を信じるとすれば、「殺してない」。で、裁判所の裁きを鵜呑みにするなら、「殺した」と言うことだ。決定的な証拠は何一つなく、そのうえ何箇所か解明できてない点すらあるらしい(合鍵の話とか)。なにより本人は「自白」してないのに死刑の判決は妥当なのだろうか。自白がすべての真実とは限らないとは思うけど。 ただ本書は、佐野版と違い、木嶋佳苗を「殺人犯」と断定したことは一度もない。木嶋佳苗の両親の実名を出してない(出さなくても十分成り立つと分かった)。 著者にも結局木嶋佳苗のことはわからなかったんだけど、でも出来る限り理解しようという姿勢が好ましく感じられた。被害者男性たちについても、その背後の孤独を思いやるなど、共感が持てた。 そして、いろんな点で「女性目線」がバシバシと伝わる。佐野版は明らかに男目線だったと思う。 そして、世の中は男目線がとても勝っているな〜と感じた。 それを「当然のこと」と受け止めている自分のことも気づいた。 たとえば、ある被害者は、木嶋佳苗とホテルに行って、おそらく睡眠薬入りのコーヒーを飲まされ、昏倒してしまう。そして、同じようにもう一度ホテルに行き、同じように睡眠薬が入れられたと思われるコーヒーを無防備に飲み、同じように昏倒してしまう。 これが男女逆転していたら??という考察があるけれど、女はとてもそんな状況を受け入れられない。恐ろしくて兵器ではいられない。平気でいられる男子は、安全な世界に生きているなと感じた・・と書かれていて、ふむふむとうなづいてしまう・・と同時に、自分ではそこまで思わず、ただ単に同じ手口で昏倒させられた被害者を、どこか馬鹿にしてしまっていた。真実の表面をただなぞるのではなく、その裏まで掘り起こしているような観察が、女性ならではの視線のように感じた。 それから、被害者のひとりは、10年前に妻を亡くし、ごみためのような汚く散らかした部屋に住み、コタツ布団は妻が死んで10年間一度も洗ってないと言う。畳を上げたところなどは「気絶するかも」と言うほどの有様だったらしい。 うちの夫や息子のことを重ねて暗澹としてしまった。 私が先に死んだら、夫はまだしも、息子などはまったく自分の身の回りのことが出来ないので、どうするんだろう・・・。こんなに何も出来ないのはうちの息子ぐらいだと思っていたけど、この被害者男性のことを読んで、世の中には同じような人間もいるんだと妙なところで納得したり、暗澹としたりした(^_^;)。 この男性に息子の将来を見る思いがしたけど、それが一番印象深いって言うのは…どうなの?? 2012年8月13日読了 |
別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判/佐野眞一★★ |
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感想
2009年に3人の男性を殺したり、何人もの男性を結婚詐欺まがいで大金を奪った木嶋佳苗。 その裁判を描いたノンフィクション。 本書を読んで、木嶋佳苗が「やったこと」がどんなことであったか、実は読んでもイマイチはっきりとはわからなかった。木嶋は終始一貫して殺人を否認している。 全容を知っているとされる被害者(当事者)は死んでしまっているのだから喋れない、あるいは、生きている騙された男たちは殺されていないのだから、真相をこれまた喋れない。 いったい真実はどういうことだったのか? 私がノンフィクションを読むのは、ほぼ「真相が知りたい」という理由から。 だから本書を読んでも納得も満足もできなかった。 木嶋佳苗は本当に3人の男たちを殺したのか。そのとき何を考え、どう感じたのか。 読み終えてもやっぱりなぞだった。 わかったことは、木嶋佳苗の反社会性。サイコパスと呼ばれる人格だったが、それもあまり詳しくは書かれておらず、証人もあまりいなかったようで(反抗に関する男性たち以外に、付き合いがあまりない)良くわからない。 まぁこの「よくわからない」というのが木嶋早苗の人格だったんだろう。 うそつきだったそうだし、小学校のころから手癖も悪かったというし。 でも、それがなぜなのか知りたかった。生まれ付いてのもの…ということらしいが…。 著者の問題ではなく、木嶋佳苗という女がかぶった仮面が完璧すぎるということだろうか。 それとは別に、著者の作品は初めて読んだ。「東電OL殺人事件」などは、一度読みたいと思いながら機会を逸していて、本作が初読みとなった。 読んでいて、あまりにも主観が強い感じがして驚いた。 そもそも、裁判で木嶋早苗は死刑判決を受けた「犯人」ではあるけど、本人は犯行を否認している。 真相はいまだにわかってない。 ということは、他者が木嶋被告を「殺人犯」と断定するのは正しいことではないのでは? ノンフィクションライターなので、確実ではないのに断定することに違和感を感じた。 「殺した」という表現が出るたび、「殺したと思われる」などの言い方をしたほうが良かったんじゃないかと気になってしまった。判決についても著者は納得してないんだしなおさら。 本書の端々に「自分の考察が正しくてほかのは間違っている」というのが垣間見えたし、また、自分だけが正義と信じているかのような、正義にのっとって悪を断罪するのだという押し付けがましさが目に付いて、それこそ鼻白んでしまった。 いちばん嫌悪感を持ったのは、著者が寝ているときに木嶋佳苗の生霊にとり殺されそうになった…みたいなことが書かれていたこと。キワモノ作家でもないのに、こんなことを本気で書いているなんて、人格を疑う。読者を馬鹿にしていると感じた。 2012年8月10日読了 |
新月譚/貫井徳郎★★★ |
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謎の美人作家が断筆した理由を紐解く物語。 以下ネタばれ含みます。未読の方はご注意願います。 後藤和子はとある小さな貿易会社に就職して、社長の木ノ内と恋人同士になる。 和子は自分の外見が、人並みはずれて不細工なのがコンプレックスだったが、木ノ内は人の価値を外観だけに求める男ではなく、和子の聡明さや内面の良さも見つけてくれて、和子は一時期とても幸せになった。 しかし、木ノ内は女性にモテるし不誠実でもあり、和子以外の女も愛してしまうのだ。 結局和子は親友の季子に木ノ内を奪われてしまうのだった。 そのことが原因で和子は美容整形によって、過去の自分を消してしまう・・ことにする。 絶世の美女と生まれ変わった和子に、幸せが訪れるのだろうか・・・。 女は美人になりたいと思う。不細工じゃなくても、誰でも「もっときれいだったらなぁ」と言う願望みたいなのは・・女なら誰でも少しは持ったことがあるんじゃないだろうか。 (私は「美人じゃなくてよかった」と思うことも多いのだ) そういう心理描写がとても良く描かれていて、男性作家の作品とは思えないほどだった。 女性目線から見ても、ここに描かれた数々の、女性に対する男の態度の理不尽さなどは説得力があった。 しかし、美女になっても和子は決して幸せになっていない。 彼女は、ブスな時も美人の時も、どっちも変わらずに不幸なのだ。気の毒な人だ。 ところが、結局それが原動力となって小説家になり大成を収めるのだから、人生は分からない。 いつまでもいつまでも木ノ内に執着する和子。本来なら和子のそういう部分にイラっとしたり、反発したりするはずだけど、木ノ内の魅力により、和子の執着に納得してしまった。 実はどこまでも「他人事」と言う感覚が抜けなかった。 ひがもうが整形しようが、不倫しようが、小説を書こうが、(他人事だから)ご自由に。 多分私は主人公の和子が好きじゃなく、応援する気持ちにもなれず、共感も持てなかったんだろうと思う。 でも、それでも小説は面白く一気読み。 和子の書いた小説が読みたいと思った。 2012年7月29日読了 |
紙の月/角田光代★★★★★ |
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銀行に契約社員として働く梅澤梨花は、約1億円を横領し指名手配されている。 なんのために、どうやって。そして、犯人はどういう人物なのか。 学校時代の同級生、昔の彼氏、料理教室で知り合った主婦などの目を通して見えた梅澤梨花の姿と、本人の回想から徐々に明らかになる事件の真実とは。 自分にはまったく異世界の物語りながら、釣込まれて一気読みした。 梨花が大学生の広太にハマって行く過程・・そこには、夫との不仲とは決して呼べない、でも、確かな違和感があってのこと・・・が丹念に書かれていて説得力があった。 他の人の感想で、前半はリアリティがなくてつまらないというのを読んだけど、それは男の目から見たからではないのかな?女が読むと前半こそリアルなんじゃないだろうか? 若い男に言い寄られて、おそらくそれを恋愛と勘違いし(彼女は本当に広太を愛したのだろうか?)どんどんハマりこんでいく。そこまではすごく「ありそう」な話だと思った。 後半は、まるで魔法にかかったように、夢の中での出来事のように、ふわふわとした感じの中で、およそ現実から目を背け、ただただ男のために、男と一緒に過ごすために、どんどんとお金を注ぎ込んでいく。 自分で自分の行動を制御できない。 男に虚構の自分を見せ付けているうちに、いつの間にか全能感に支配され自分にも本当の自分が分からなくなっている主人公。 物語としてはとても「面白く」読めたけど、それがリアルかと言われると、私にはまるで共感が出来なかったのだけど・・。共感は出来ないが、「自分が不正をして得た金額がどれぐらいか、計算するのが恐ろしいぐらい」と言うその金額は1億と言う巨額で、それをほぼ無我夢中で横領しまくる光景は、ひたすら恐ろしくて目が離せずページをめくる手が止まらなかった。(「誰かの木琴」を思い出した。) たしかにたくさん買い物をしたあとなど、なんだか気持ちが軽かったり、楽しく高揚感があったりして、買い物によってストレスが発散されると言うのは分かる気がする。 (でもそれは飽くまで分相応の範囲内での話である) お金は恐ろしい。。。梨花との思い出を持つほかの登場人物たちも、同じようにお金に翻弄されている。 私はこうはならないぞ・・と自信があるのだけれど、ひょっとしてたがが外れる瞬間があるのかもしれないと思うと、少し恐ろしくなるのだった。 ところで、事件を知った広太はどう感じたのだろうか。 広太自身は悪人ではなく、大金持ちの梨花との不倫ごっこをお金込みで享受しているうちに、お金によって縛られてしまう。最初は楽しくてもだんだんと自分自身が汚らわしく思えてきたんじゃないかな。 梨花のお金だと信じていたんだろうか。心のどこかで疑ったりしてないのか。 一億もの大金を犯罪によって捻出して、自分のために使っていたと知ったとき、広太はどう感じたのだろうか。 そして、夫の正文は。やっぱりどこまでも冷静だったのかな。 このあとの物語を想像するのは読者の楽しみではあるけれど、「続編」と言う形で彼らの物語を読んでみたい気もしたりして。 2012年7月26日読了 |
ルーズヴェルト・ゲーム/池井戸 潤★★★★ |
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内容説明(Amazon商品紹介ページより) 中堅メーカー・青島製作所の野球部はかつては名門と呼ばれたが、ここのところすっかり成績低迷中。会社の経営が傾き、リストラの敢行、監督の交代、廃部の危機・・・・・・。野球部の存続をめぐって、社長の細川や幹部たちが苦悩するなか、青島製作所の開発力と技術力に目をつけたライバル企業・ミツワ電器が「合併」を提案してくる。 青島製作所は、そして野球部は、この難局をどう乗り切るのか? 負けられない勝負に挑む男たちの感動の物語。 面白かったけど。あえて言うとマンネリ感があったかな。 舞台が中小企業、大企業に汚い手で追い込まれ、銀行から融資が受けられず背水の陣。会社には職人気質で融通が利かないけど実直な社員がいて・・みたいな。 今回はそこに社運を象徴する野球部があるという。。。そこがちょっとプラスアルファ?? この作品を最初に読んだらきっとすごく面白く感じたと思うけど「空飛ぶタイヤ」「鉄の骨」「下町ロケット」と来たら(それ以外も多少読んでいますが)またか・・みたいな(^_^;)。 とはいえ各所に感動のポイントがありジーンとさせられもした。 うまい作家さんだけに今後もっと新鮮な感動を期待したい。辛口でゴメンナサイ。 2012年7月7日読了 |
ナミヤ雑貨店の奇跡/東野圭吾★★★★ |
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東野作品、「歪笑小説」に続き「当たり!」だった。 実はなんとなく雰囲気からして、好みじゃないなぁ〜と思っていた。読み始めてからも、なんとなくファンタジー??(イルマーレって言う映画を見たばかりだけど、そっくりじゃないか?)とか、またしても人情物??(そういうのは別の作家に任せておけば??)と思いながら読んでいたのだけど、読み終えた後には満足感があった!(*^_^*) ある夜、3人の若者がおんぼろの廃墟で一晩を過ごすことになった。この3人はなにやらいわくありげの様子だ。 その3人が偶然見つけてあったこの雑貨屋の廃墟に入り込み、夜を過ごそうとしているのだが、そこへ一通の悩み相談の手紙が舞い込んでくる。 なぜ? まったく分からぬままに、相談に対して返事を書く3人。 するとまたその返事が返ってくる。 ますます分からないまま、またその返事を・・・。 そうして、3人に分かってきたことは、この悩み相談は「過去」からやってきたものだと言うこと。 このナミヤ雑貨店はどうかして、過去と現在がつながってるようだと知れる。 悩み相談はその後も続くのだけど、視点を相談者のほうに変えることで、どうやってこの雑貨店が悩み相談所になったか、今のような方法が取られるようになったか、そして相談者の悩みを通して彼らの立場や人生が分かってくる。 不思議なことに、悩み相談を重ねているうちに、ひとつの事実に突き当たる。 それは、どの相談者もあることに関係していると言うことだ。 偶然にしては出来すぎていると思いながら「またこの人も○○○の人か・・・・都合が良すぎじゃね?」なんて思いながら読んでいたんだけど、実は・・・。 すべてのことが最終章に向けて徐々に明らかになって行き、「もしかして!」とひらめきながら読む読む読む。 読み終えたときには「なるほど〜♪」と、何もかも腑に落ちる設定になってた。なかなかスマートで、気の利いた物語。これはさすが、東野さんだ〜〜と嬉しくなる(*^_^*)。 やっぱり「白夜行」「幻夜」なみの、超ド級のおもしろいミステリーを所望したいけど、これはこれで深く満足させえてもらった。 (でも、イルマーレのほかにバック・トゥ・ザ・フューチャーも入ってるよね?) 2012年7月16日読了 |
ポイズン・ママ―母・小川真由美との40年戦争/小川 雅代★★★ |
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「母がしんどい」繋がりで読んだ作品。 タイトルが「ポイズンママ」つまり、毒のお母さん。 最近良く耳にする言葉。毒になる親、毒になる母…。 著者の母親は、ある程度の年齢なら誰もが知っている大女優、小川真由美さんである。 彼女の実態が赤裸々に描かれているのが本書だ。 娘による母親の暴露本??と思う人もいるだろうけど、そうじゃない。 正直、ここまでひどい人格の人間もいるもんだなぁとびっくりして、その壮絶さにはただひたすら、唖然とさせられた。 「母として」どうこうというよりも、それ以前に「人として」これはちょっと…と思うような人格。 娘さんは、「若いうちに杉村春子に気に入られ、苦労する暇もなくトップスターになってしまった」ことを、この性格の一因にしているけど、本当にそうなの?と、首を傾げてしまう。 私なんかは、この小川真由美という人格がどうやって形成されたかが気になってしまい、その生い立ちは?少女時代の性格や友達付き合い、社会性はどうだったのか?女優になってから最初のころに何があったのか?その辺がもっと興味のある部分であり、それはここでは触れられていないのが、残念だった。 しかし、本書の目的は、壊滅的な親に育てられた子どもの苦しみを描いてあるので、その点では、いやというほど伝わってきた。いや、こんなもんじゃないよ、もっともっと辛かったんだよ、と著者は言いたいのじゃないかと思う。 でも、それでも本書を読む限り、あまりの奇天烈さに辟易してしまうほどだったのだ。 彼女の奇行を揚げてみればキリがないんだけど、まずは占いにはまったと言うことだろう。 たとえば「緑と紫禁止令」が出る。家中から緑色と紫色のものを一切残らず駆逐する。そしてそれらを家に持ち込まない。。。でもそんなことが現実的に可能なのだろうか。小川家では、少しでもその2色を見つけたら徹底的にマジックなんかで塗りつぶしたり。。学校で使う絵の具やクレヨンなども緑と紫は捨てられて、描く絵もその2色を使わなかったそうだ。 家の中ではまだ、そんなことは出来うるかもしれないけど、外に出てしまうとそんなことも言っていられない。 でも、この小川真由美はそれをやってしまう。そのさまはわがままを通り越して偏狭というか、偏執というか、奇矯と言うか・・・言葉が見つからない。 自分が信じていて、それを貫きたい。でも周囲には理解できない。紫と緑にどんな意味があるのか。分からない人間にとってはここまで徹底的な排除を要求されることは、大きなストレスだ。読みながら「うざっ…」と声が出てしまった。 占いを信じる究極の姿がこれだと思う。 彼女の奇行や奇習はどれもこれも絶句するようなものばかりだけど、一貫して根底にこの「占い」がある。 それからすごく印象に残ったのは、自分が主演したある映画の試写会に、まだ幼い娘を同席させるのだけど、それが激しい濡れ場を伴う映画だったらしく、娘さんはとてもショックを受けたそう。 そのほかにも、自分が車を出して、娘さんの足を轢いて怪我をさせたのに平気な顔で笑ってたとか、娘さんが飢えて危険な状態になっているのに知らん顔したりとか、自分の留守中に娘さんの見張り役として、得体の知れない男を家にいれ娘さんと二人きりにさせるとか・・・・娘のことを本気で思っていたらできるわけがないことばかりしている母親で、本当に唖然とした。 本書の中にそういうエピソードは枚挙に暇がない。 苦しめられた娘さんが世間にそのことを訴えたい。そして、他にも苦しんでいる「子ども」の助けになれば・・・と言う気持ちで出版された。 娘さんが母親と決別するにいたるまでの過程というのが、読者としては一番知りたいところなのに、肝心なところがあんまり詳しく書かれていない気がしたが、そこも含めての一冊だと思う。 2012年7月12日読了 |
晴天の迷いクジラ/窪美澄★★★ |
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「ふがいない僕は空を見た」に続いて2作品目に読んだ著者の本。 こちらも面白かった。 タイトルの「迷いクジラ」と言うのは、主人公の一人のふるさとに、(多分和歌山?)迷い込んだ大きな鯨のこと。 クジラは生きるか死ぬかの瀬戸際です。 このクジラのように、物語に登場する3人の主人公たちは、とても生きにくい人生を歩いている。 由人は、農家の次男。長男は引きこもり。妹は未婚の母。父親の「家から出て行くほうがいい」と言う言葉で、たいした目的もなく東京の美術系専門学校に入り、恋人が出来・・・と順調に見えた人生も、会社が危うくなったことで由人の人生も一変する。由人はいつの間にかうつになってしまった。 その会社社長の野乃花。生まれ持った美術の才能は類まれだったが、若くして嫁いだ婚家で、わが子を捨てて逃げるようにして東京へやってきた。東京での成功も凋落も、野乃花の神経をすり減らしていたのだった。 正子は、過干渉の母親に育てられ、息も絶え絶えになっていた。 由人と野乃花は、「自殺」から逃れるようにクジラ見物を思い立つのだけど、そこで、正子を偶然拾い、3人の奇妙な同行となった。 3人の生きることの苦しさが伝わってきたが、特に「正子」のそれは壮絶。 この小説の前に「母がしんどい」というエッセイマンガを読み衝撃を受けたばかりだったので、正子の人生(まだ子どもだけど)が一番胸に迫るものがあった。 3人はクジラを見に行って、その村である祖母と孫の二人暮らしの家に居候することになる。 そして、そこでの田舎の暮らしと、クジラ見物と言う特殊な状態が、だんだんと3人に影響を与えていく。薄皮をはぐように3人は元気になっていく。ほんの少しだけど・・・。 落ち込んでいく人の気持ちよりも、浮上する人の気持ちのほうが、やっぱり読んでいて心地よいものです。 小説の場合、最後は上手にみんなが立ち直ってめでたしめでたし・・・となることがある。 それをご都合主義ということもあるけど、私はそれも良いと思っている。だって、小説の中くらい取っても都合のいいことがおきても良いじゃないか・・・と思うのだ。 じつは、本書はそこまで「甘い」物語でもない。(「ふがいない・・」もそうだったかな) しかし、そのラストが却って切実に感じられる。だって人生は甘くないもの。 甘くなくても生き辛くても、人は生きていかなくては。 苦しいときや悲しいときはに「晴天」が励ましてくれる・・・そんな気持ちになった。 2012年7月2日読了 |
贖罪の奏鳴曲/中山七里★★★★ |
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知らない作家さんで、衝動借り(衝動買いでもなく・・・・(^_^;))してしまったんですが、面白かった〜!! ちょっとしたミスリードが利いていて、意表をつく展開だった気がします。 ミスリードと言う言葉がもうすでにネタばれになってるんじゃないかとも思うけど、ネタばれしないように感想を書くのも一苦労で。それを言わないと物語の面白さを表現できないし。 うむ。どうしたものか。 ともかく、騙されたと思って読んでみて、損はないと思いますね〜(*^_^*) 【あらすじ】 主人公の御子柴は金儲け主義のやり手弁護士だが、実は過去に大きな秘密を抱えていた。 物語は彼がとある遺体を不法に遺棄しようとしている場面から始まる。 そして、彼の今抱えている案件は国選で、事故で植物状態になった工場経営者を、安楽死させたとする妻の容疑に対する弁護だった。 ・御子柴の過去 ・冒頭の死体の謎 ・工場経営者の死 まず、御子柴が遺棄した死体から、刑事の渡瀬と古手川は御子柴にたどり着く。そして御子柴の過去やその死体とのかかわりなどを調べていくのだった。 【感想】 ここからちょっとネタばれ。未読の方はご注意ください。 この御子柴と言う弁護士、モデルがあると思われる。 過去と職業を考えてすぐに、そのモデルケースを思い浮かべた。 まずこれがひとつのミスリードだった。 物語はあらすじに書いたように3つの柱に沿って進むのだけど、目下の目玉は弁護士御子柴が担当する「工場主の死」に関する裁判だ。これがまず面白い。保険金殺人か、あるいは偶発的な事故なのか。 しかし、読者としては冒頭の御子柴が行った死体遺棄が気になるところ。中盤に語られた御子柴の正体、過去も気になるのだ。それらをそっちのけで裁判が進行していくので、なんだか釈然としないのである。 しかし・・・・裁判で衝撃の事実が明らかになり、次に御子柴の「正体」も明らかになり・・・と、魔法のように(と言うのは言い過ぎかもしれないけれど)鮮やかに何もかもが腑に落ちてしまう。 と同時に、「人を殺した人間はどうやって罪を償うことが出来るのか」という、本書の一番のテーマはタイトルにもある「贖罪」と言うことだったんだと気づかされる。 薬丸さんの「悪党」を読んだときにも思ったけれど、犯した罪は私は消せないと思っている。 特に人の命を奪ってしまった場合、何をしても許されることはなく、何をしても償うことは出来ないと思うのだ。 では、犯人はその後の人生をどう生きたら良いのか・・・。 「悪党」の、ある登場人物のような結論を出す場合もあるんだろうし、(その是非はとても私には言えませんが)この物語のような場合もあるに違いない。 「贖罪」という大きなテーマを扱いながら、軽々しくなることがなく、それでいてエンタメ要素もうまく盛り込めていて、意表をつかれる面白さの物語だった。 2012年6月30日読了 |
特捜部Q ―Pからのメッセージ― /ユッシ・エーズラ・オールスン ★★★★ |
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今回も面白かった!一気読みした(*^_^*) 未解決事件を扱うコペンハーゲン警察の、特捜部Qシリーズ第3弾。 今回は、数年前に書かれたボトルメッセージをめぐって、今まで明るみに出なかった残酷な犯罪が世に出ると言う物語。 カールのところに持ち込まれた、殆ど何が書いてあるか分からないその手紙を、最新科学や人智を結集して読み解いていく。 犯人の行動や犯行は冒頭のうちから明らかになっていくが、読めば読むほどその残忍さや狡猾さに驚かされる。 そして徐々に、何故そういう犯行を重ねるのかが分かってくると、やっぱりなんとなく同情を覚えてしまう。これは「檻の中の女」でも感じたなぁと思い出した。しかし、同情してしまう部分があったとしても、その犯行は同情の余地がないほど残酷なので、読むほうにはひたすら警察、特捜部Qを応援する気持ちが募ると言うもの。 犯人が目をつけたのが、世間と隔絶されているある種の宗教を信仰している人たちだ。 身代金目的の誘拐を企てるのだけど、被害者は宗教的な事情から、決して警察に届けたり被害を訴えたりしない。 誘拐する過程のことはとても念入りにリサーチしてある。 そして、自分の正体も完璧に隠してあり、自分の妻にさえ本名を明かしていないなど、とても用心深いのだ。 しかし、犯人は周到な割には、たとえば女と深い仲になってみたり、とあるスポーツ大会に出たり(そんなときにそんなことをしなくても!!みたいな、私には明らかに墓穴?と思えたのだけど・・・)行動が頓珍漢だったなぁ。 いっそそこで「始末」しておけばいいのに・・みたいな詰めの甘さもあったりで。←ありがち! でも、追う方のカールもタッチの差で犯人を逃がすなど臍をかむようなドジ。だから、ドジの応酬?と言う感じもあって歯がゆかったりもしたのだけど、その分ハラハラとして手に握る汗も増えたと言うもの(^_^;)。 また特捜部Qメンバーたちの今回の珍騒動もまた、面白かった。新登場のユアサはローセのそっくりな双子の姉妹。彼女が結構有能な働き振りを示すも、難解な部分もあり・・・。 アサドは今回私生活の一部をカールに覗かれ(いや、覗かれたのではないけど)謎が深まるし、カールが引き取った元同僚のハーディーが謎の証言をしているし、カウンセラーのクリス、そしてカールの思い人モーナ・・そして離婚寸前のカールの妻ヴィガ・・と母親・・などなど、気がかりが満載のまま、終わってしまった。 ついでに言うと本書中、もうひとつの「ヤマ」である火事の話。誘拐事件に関係あるのかなと思っていたのだけど(^_^;) こちら「未解決」の部分はまた次の物語に持ち越されるのだと思うけど、でも、いつまでも引っ張らないで、少しずつでも明らかにしてくれないと・・・こちらはフラストレーションが溜まってしまいますよ〜!! 2012年6月26日読了 |
アイアン・ハウス/ジョン ハート★★★★★ |
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すごく面白かった。 とにかく、主人公のマイケルがかっこいい! ジェイソン・ボーンみたいなスキルの高い殺し屋で、脳内変換はボーンのマット・デイモンをもうひとつふたつイケメンにした感じ!それが愛する女を救うために命もなげうって向かうのだから、ゾクゾクと痺れないわけがない。(私の中ではこれでクラッキングの能力があったらスーパーマンなのだけどね!) ぜひとも映画にしてもらいたい!イケメン俳優でね(*^_^*) 単にマフィアの内部抗争みたいな話ではなく、弟と生き別れた話、アイアンハウスでも、そこから出てからも含めてマイケルの半生なども読み応えがあった。 また弟ジュリアンの引き取られた議員の家庭、義母のアビゲイルの視点で語られる物語も大変面白かった。 何層構造にもなっている物語で、複雑ながらも分かりやすかったのも良かった。 私はやっぱりマイケルがエレナを思う気持ちに萌えたな〜(*^_^*)。 エレナがどんなわがままを言っても許しそうな勢いのマイケルの献身、崇拝ぶり。完璧に感じた。 私には「強い男に危険な状態から救い出してもらう」という萌ツボがあるけど、エレナの状態がまさにその理想。。。でも怪我をするのはイヤだけど(笑)。 敵方も強くて残酷で憎たらしくて言うことなし。 とにもかくにもマイケルに尽きる。久しぶりにかっこいい男の物語を読んだ。満足満足(*^_^*) 【ストーリー】 マイケルは恋人エレナの妊娠を機に、「組織」を抜けようとした。 育ての親でもあるボスはガンのため余命いくばくもない状態で、彼が抜けることを許してくれたのだが、彼の息子ステヴァンや、マイケルに殺し屋としてのスキルを教え込んだジミーは、それを許さない。 ボスは苦しい延命措置を望まず、自分を殺してくれとマイケルに懇願。それが組織を抜ける条件だと。マイケルは躊躇しながらもボスの意向を汲み取り、望みのままにボスの命を絶つ。 しかし、それを知ったステヴァンやジミーはマイケルを許さず、マイケルの恋人エレナの働いている店を爆破。 そのうえ、子どものころに孤児院「アイアンハウス」で生き別れた弟の命をも奪うと、ちらつかせるのだった。 2012年6月23日読了 |
嘆きの美女/柚木麻子★★★ |
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内容(「BOOK」データベースより) 生まれつき顔も性格もブスな耶居子は、会社を辞めほぼ引きこもり。顔のにきびをつぶすことと、美人専用悩み相談サイト「嘆きの美女」を荒らすことが最大の楽しみだった。ところが、ある出来事をきっかけに「嘆きの美女」の管理人のいる、お屋敷で同居するハメに…。美しくても、美しくなくても、たくましく生きる女性たちの姿を描く。外見、趣味、食べ物、男性からの視線―。生きてきた環境があまりにも違う彼女たちが、いつの間にか繋がっていく。女の人たちの物語。 なかなか面白かった! ブスの僻みというか、悩みというか・・・ブスにそれがあれば、美人には美人としての悩みがある。 お互いの観点から相手を観察し、結果的にお互いに良い影響を与えていく。 コメディタッチで「なんでいきなり同居になる?」など、突っ込みどころもあるけど、全体的に楽しく一気に読んだ。 主人公が、知らないうちに自分が磨かれ、成長していくさまと、ちょっとしたサクセスストーリー的展開は、読んでいて気分爽快になる。 作中で「愛しのローズマリー」という映画を見ているのだけど(登場人物の美女たちがこの映画が大好き)この映画では、美人=性格が悪い、ブス=性格がいい という決め付けがひどいので抵抗があったのを思い出した。 だけど、本書は、耶居子は見た目もブスだけど性格も悪いっていうのが徹底していて面白かった 2012年6月17日読了 |
七十歳死亡法案、可決/垣谷 美雨★★★★ |
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2020年、高齢者が国民の3割を超え、社会保障費は過去最高を更新。破綻寸前の日本政府は「七十歳死亡法」を強行採決する。(「BOOK」データベースより) 最初は、このセンセーショナルな法案に対して「そんなアホな!」と思ってまじめに読む気がしなかった(それなら何故借りたのかと言う話だけど…)。 国民が、不承不承ながらも法案を受け入れているようなのが(反対している人たちも多いが)まるで現実味がない。 そもそも法案そのものに説得力がない・・・・・気がする。 でも、それをまぁまぁ気持ちをなだめつつ読んでみると、「法案」がテーマではなく、老人の介護を通して主人公一家の現状が見えてくるのだ。これがまた、いまや日本国中誰もが他人事とは思えない状態。 寝たきりの老母の介護を、妻が一手に引き受けているのだけど、夫は無関心、自分は働いているのだから、専業主婦で仕事もしていない妻が介護するのは当然と思っている。 息子はエリートコースから外れてしまい、いまや引きこもりのニート。ご飯も母親に運んでもらい、部屋で食べている。 介護を手伝ってもらおうと思った長女は、逃げるように独立。 55歳の主婦は「七十歳死亡法案」によって、姑の介護があと2年で終わることが希望の光だ。 反面、自分の人生もあと15年で終わると思うと2年も介護で潰されたくないと思う。思いつつも、今の自分の精一杯のやりかたで、誠実に姑を介護している。その孤軍奮闘が痛々しくも立派なのだ・・・が。それが介護されている老母にも夫にも、誰にも伝わらない。当然のことと思われている。 主婦の目を通して、家族のあり方が浮かび上がってくる。どこかおかしいんじゃないか?妻だけに負担がかかる介護のあり方に、何故この家族は疑問を抱かないんだろう。でも、案外そんなものかも知れないと思う。自分たちの家族のあり方を俯瞰して眺めることは難しいのだろう。 また、ニートの息子の目を通して、若者たちの現状が。特養ホームで介護の仕事をしている長女の目を通して、終末介護のあり方などが描かれていて、本当に「生きにくく」「死ににくい」世の中をあぶりだしている。 姑の視点に立てば、戦争で家族もなにもかも無くし、苦労と言う言葉では足りない、生きて越し方に頭が下がりもする。人生の終焉に少々のわがままも言いたいよね…と思ってしまう。 七十歳死亡法案なんて、可決され施行されたらどうなるか?そんなことはまじめに考えるのがバカらしいと思う。 思うけれど、そのことを本気で真剣に考えたら、にっちもさっちも行かなくなった日本の将来も、希望がわいてきて明るくなるのかもしれない。 物語はあまりにもうまく行きすぎで、ご都合主義ともいえるだろう。 でも、小説ぐらい、ありえないほどうまく行ってもいいじゃないか・・と思わせる爽快感がある。 実際、今の世の中「老人になったら早く死んだほうがいいですよ」と言う感じがあふれている。 私の親も「年よりは『早く死ね』って言われてるような気になる」と言っています。 作中でも介護される老母は「生きててすみません」と思っている。 なかなかに身につまされるお話だったなぁ。 著者の作品はどれも少しずつ、不思議な設定で面白いですよ。 2012年6月17日読了 |
だれかの木琴/井上 荒野★★★ |
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引っ越した先の町で、初めての美容院に行って、初めての美容師に担当してもらった主婦の小夜子。その夜、美容師の海斗からメールが送られてきた。何気ないただの営業メールだった。 しかし、それをきっかけに…いや、それに対して丁寧に返信したのをきっかけにではなかろうか?小夜子はどんどんと、海斗への執着を深めてゆくのだった。 一気に読んだけど、気色の悪い小説だった。 主人公の主婦が、普通の主婦から異様な主婦へと転身していくのが、徐々に描かれていて、不気味。 一見特殊なように見えて、実は案外「普通にそのへんにある」かも?、自分にもあるんじゃないか?と思わせる居心地の悪さがある。新聞記事やドラマになるような特異性も(さほど)ないが、それが却ってリアルで生々しい。 ストーカーものなら、たとえば、警察沙汰になるとか、刃傷沙汰になるとか…もっとドラマティックに盛り上がる要素を持っていると思う。そして、顛末として「決着」がつき、ストーカーした者は断罪される。時には殺されたり←火サスみたい? …でも本書は決してそうではない。 要するに、ストーカーものとしては盛り上がりに欠けるのだ。 その分、読後はどういう意味でも爽快感がなく、ひたすらもやもや〜〜とした感じ、じっとりねっとりした感じが残る。 こういう気分を読者に与えるのが目的なんだろうなと思うと、大成功ですよ…と著者に言いたい。 ちなみに、主人公の名前は「親海小夜子」、およみさよこ…と読む。 私はつい心の中で「小森小夜子」と呼んでしまって、一瞬ぞっとした(^_^;)。 およみさよこ、こもりさよこ・・・語呂が似ているでしょう? 小森小夜子って、美内すずえ先生の「白い影法師」で、机の下から覗いてた、あの怖い小森小夜子さんですよ…(^_^;) 2012年6月15日読了 |
誰がための刃 レゾンデートル/知念 実希人★★★ |
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岬雄貴は現役の医師だが自分が末期がんの宣告を受ける。絶望に陥った雄貴だが、自分にたいして狼藉を働いたチンピラへの仕返しをすることを生きる希望とする。 しかしそのことは、世間をにぎわす殺人鬼「切り裂きジャック」への接点を作ってしまったのだった。 雄貴は切り裂きジャックの共犯として、「仕事」をこなしていく。 片や、18歳の家出少女沙耶。エロ写真投稿のモデルなどをして食いつないでいたが、あるとき、その写真家にペンダントを預けられた。そして、その写真家と、沙耶と一緒にペンダントを預かった友達が殺されてしまったうえに、沙耶も危険な目に合ってしまう。 逃げる沙耶を助けたのが雄貴だった。沙耶はそれをきっかけに雄貴の住まいに転がり込む。 切り裂きジャックの正体は、沙耶を襲った人物の正体は・・・・。 とても読みやすくて面白く、一気読みした。雄貴という主人公の男が死を背負った陰のある人物として、なかなか魅力的に描かれていた。ドラマになるなら誰が演じるか?などと考えながら読んでしまった。 また、主人公が末期がんということで、病気の症状や薬の話などが、すごくリアリティと迫力があった(著者が現役の医師とのことで、さすがと思う)。 切り裂きジャックの件と、沙耶を襲った連中の目的など、話が二分化されていたのに、大風呂敷を広げた感じもなく、どちらも中途半端にならず、うまく収束した。追ってくる刑事たちも良かった。 ただ、雄貴と沙耶の関係が、下手なドラマみたいに安っぽく感じられ、嫌気がさしてしまった。自作の歌を歌うとか・・・ちょっと見てられないなぁって言う感じがしたよ。すみません。 でも、とても面白く読んだので、次作も期待します。 ※末期がんに侵されて死期の迫った主人公がこういう行動をとるというのは、近頃読んだ小説にほぼ同じ設定のものがあり、驚いてしまった。主人公の名前(苗字)もなんとなく似ているのでなおさら・・・ 2012年6月14日読了 |
漁港の肉子ちゃん/西 加奈子★★★★ |
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肉子ちゃん、本名は菊子だけど、太っているから「肉」子と呼ばれている。 北陸の小さな港町にある、焼肉屋「うをがし」で住み込みの店員をしている。 身長151cm.体重67.4kg. 151=憩い 674=むなしい、語呂あわせが得意である。 「けものへんに交わると書いて、狡い、て読むのやから!」 「自ら大きいって書いて、臭いって読むのやから!」漢字も得意だ。 語尾には必ず感嘆符「!」あるいは「っ!」がつく喋り方。 起きているときもにぎやかだけど、寝ているときもいびきでうるさい。 人を疑うことを知らず、なんでもストレートに受け止める、素直で能天気で人気者。 男に散々騙されて、流れ流れてこの、小さな港町にやってきたのは3年前。 寂れた港町で、肉子ちゃんや土地の人たちや織り成す人間ドラマを、肉子ちゃんの娘、キクりん(喜久子)の視点で描いた愛が一杯詰まった、優しい優しい物語。 最初はこの文体と、肉子ちゃんのパワフルさになじまず、戸惑ったけれど、中盤からはグイグイとひきつけられ最後はもう一気読み。 なんという優しい物語だろうか。最後は涙涙。。。。 肉子ちゃんの娘キクりん(11歳)の目線を通して見る肉子ちゃんは、(キクりんがそう思っているのではないけれど)、読者の私には決して「好感度100%」というわけには行かない、ちょっと風変わりな女性だ。 鈍感だし、下品だし、見てくれも美しくないし、ギャグは滑っているし…実際身近にいたら、こんな人と友達になれるだろうか?と思うような女性なのだ。 物語はどちらかと言うと、思春期に突入した、すこし大人に近づきつつある、娘のキクりんの物語だ。 同級生の仲間はずしや、はずされたりに悩んだり恐れたり、自分の態度に自己嫌悪したり。 また風変わりな男子の二ノ宮との接近。 東京から来たカメラマンに惹かれたり、他の人には見えないものが見えたり聞こえたり。 そんな中で、ペンギンのカンコちゃんの切ないミニストーリーがとてもいいアクセントになっていて、このあたりからぐっと物語りにひきつけられていった。 キクりんはとても大人っぽい女の子で、それまでの生活を思うと、必然的に老成しなければならなかったんだろう。でもやっぱり、どこかで「ムリ」をしていたんだろうと思う。 そんなキクりんを解き放ったのは、「うをがし」の主人、サッサンだ。 「おめさんは、生きてんらろ」 「生きてる限りはな、迷惑かけるんがん、びびってちゃだめら」と言う。 そして、 子どもらしさというものが大人の作り出した幻想であると同じに、ちゃんとした大人もいない。 いくら頑張っていい大人になろうとしても、辛い思いや恥ずかしい思いは絶対にするのだ。 そのときのために備えて、子どものうちに一杯恥をかいて、迷惑かけて、怒られたり傷ついたり、そしてまた生きていくのだ・・・・。 と、言う。 今、世の中は、人に迷惑をかけることを徹底的に忌み嫌う。 時には家族にさえ、いや、家族にこそ「迷惑をかけてはいけない」と言う風潮だ。 そんな中で、サッサンのこの言葉の重みがどんなものか。 こういう言葉を待っていた!と思って大いに感動してしまった。サッサンかっこいい! そして明かされる肉子ちゃんの半生は、まさに人に迷惑をかけられて、すべてそれを受け止めて、愚痴もこぼさず文句のひとつも言わず、ただひたすら「迷惑」を受け止めて生きてきたことがわかる。 それがわかったとき、肉子ちゃんは私の中で天使になった。 相変わらず下品で鈍感で醜いけれど、キクりんが言うように「こんな人にはなりたくない」と思う・・のではなく「こんな人にはなれない」と思うけれど。 最初のほうでくじけそうだったけど、最後まで読んでよかったわー。。。オススメ!!! 2012年6月10日読了 |
相田家のグッドバイ/森 博嗣★★★★ |
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著者の作品は初読みです。 自伝的小説という声も聞かれる本作品、かなり淡々とした文体で、感情移入がしづらくて、最初のうちはとっつきにくく手こずってしまった。 なんせ親の代から、じっくりと丁寧に家族の軌跡が描かれている。 密な関係の家族ではなくて、ちょっと冷めてるというか、冷静と言うか、一風変わった関係の家族にも見受けられる。 だから少し共感がしにくいと言うか、そんなこともあり前半はそれほど面白くもなく、ただひたすら「事実の列挙」を読む感じ。 でも、この文体に慣れてくると、だんだんとその淡々とした中にも、共感を感じた。 年齢的に、今の自分と重なり、親の介護や親の死に会うシーンなどは、やっぱり胸を打つものがある。 あまりに淡々と書いてあるので、最初はこの主人公の「優しさ」が良く伝わってこなかった。 でも、親に対する気持ち、妹に対する責任感など、とても誠実で親切なのだ。 親が死んで遺産相続に関する手続きの煩雑さ(そんなに大変なのか!!・・まぁウチには心配ない事だけど)それを愚痴ひとつこぼさず、着々と黙々とこなす主人公の姿には頭が下がった。 ひとつ驚いたことは、主人公の母親が「貯め魔」で、片っ端からものを溜め込んで、マトリョーシカのように入れ子の箱に、大事なもの(お金や通帳や宝石など)を残し、その箱が部屋を・・いや、家を埋め尽くしていると言うのだ。 それらの上にはホコリが溜まり・・・想像しただけでも、驚いてしまうのだけど、整理されてなかったら、言葉悪いけど「ゴミ屋敷」状態・・。この辺少し、橋本治の「巡礼」を思い出した。整理してある(整理できる)って、大事なことだな・・(^_^;) お母さんはユニークな人で、隠しものの場所には「ヒント」を残してある。でも、そのヒントはあまりに難しくて役に立たない。 それでも何とか探し出した現金はなんと8000万円!!それがみんなお母さんのへそくりだと言うのだ。 これはとにかく印象的なエピソードだった! 子どもたちも成長し独立し、両親が死んで、主人公夫婦は、思い切った行動をとる。 思い切っているのだけど、彼らにしたら全然そんなことがない。 彼らは身軽だった。うらやましいほどに。 最後のシーン、自分が今までしてきたことに対して、妻が言うせりふ、こんな風に言える夫婦っていいな・・と思わされた。 自分をちゃんと見ていて、理解してくれる、自分の気づいてないことまで、ちゃんと見て評価してくれる、そういう連れ合いがいたら、この主人公の残りの人生もきっと楽しいに違いない。(結婚当初は、大丈夫かいな?この夫婦・・・と思ったけど・・(笑)大丈夫そうだ) 2012年6月7日読了 |
死命/薬丸 岳★★★ |
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学生時代の仲間たちと久しぶりに再会した山口澄乃。 そこでかつての恋人榊真一に会い、彼がデイトレーダーとして成功している姿を見る。 かつて澄乃は真一を「二度捨てた」過去があり、今でも真一を愛していながら打ち明けられない。 かたや真一も澄乃を愛し続けていた。 が、真一には特異な衝動があった。それがある限り、澄乃を愛することは出来ない。 時を同じくして、女性を狙った暴行殺人事件が世間を震撼させていた。 事件を担当する蒼井凌は、地道な捜査から次第に犯人像を煮詰めていく。 が、蒼井は末期がんにかかっていた。 果たして犯人は、刑事たちは犯人に近づけるのか・・・・。 ものすごい「どんより」とした読後感。とても陰鬱な物語だった。 ミステリーとしては結構好きなタイプの物語で、なかなか面白く一気読みした。 だけど、これが「薬丸さんの」となると、満足できない。 二人の主人公が同じように末期のガンであり、そこで二人とも、死を目前にして同じように「死ぬ直前まで力いっぱい仕事をする」ことをテーマとしている。 片方は刑事なので犯人逮捕に向けて。 しかし、もう一人は・・・・。 対比がとても面白いとは思うものの・・・やっぱり「薬丸さんの」となると満足できない。 ゴメンナサイ 2012年6月3日読了 |
奪われた人生 18年間の記憶/ジェイシー・デュガード★★★★ |
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テレビで話題になった事件の本です。なんと、誘拐された本人が書いた手記。 著者は、11歳のとき犯人に誘拐され、18年間も監禁された。 犯人はフィリップ・ガリドとナンシー・ガリド。 二人は夫婦で、目的はフィリップの幼児性愛の欲望を満たすため。 著者は誘拐されてすぐにフィリップの目的を果たすための道具とされ、そのままその「習慣」は延々と続いた。 ときには覚せい剤を使用しながら、何日間もぶっ通しでことに及ぶ場合もあり、それを「ラン」と呼んでいたそう。 ナンシーは夫の性癖を満足させるため(それが自分の保身にもつながるので)夫に協力的だった。 しかし、たったひとりで閉じ込められていたジェイシーにとっては、ナンシーでさえも「話し相手」として必要だったよう。 ナンシーが部屋を去ったあとは「またひとりぼっち」と言う気持ちになってしまう。 後にナンシーが気難しいので、フィリップが来るのを嬉しく感じる記述もある。 3年後、著者14歳のとき最初の出産。父親はガリドだ。 また3年後、二人目を出産。 子どもは著者の生きる支えとなり、またガリド夫婦も子どもを可愛がったようで、ますます奇妙な同居生活となった。 また、ガリドは格安印刷屋を始め、ジェイシーにその仕事を負わせるようになる。 ジェイシーもよく仕事をこなし、だんだんと実入りも良くなっている。 ガリドは以前、婦女暴行で逮捕され服役していて、刑務所から出てまもなくジェイシーを誘拐した。 その当時もずっと、保護観察処分を受けていた。 保護監察官はときどきガリドの家を訪ねてきたが、母屋の裏庭が広いことも知らず、当然調べたことがなかった。 となりの家とは塀を挟んでいたが、ジェイシーの声が聞こえたこともあったはず。近所には家もたくさんあり、人もたくさん住んでいた。 また、子どもたちは母屋に自由に出入りできた。 外出もごくたまにだけれど、したようだ。 しかし、完全に恐怖に支配されて数年も経っていたジェイシーさんは、誰かに助けを求めると言うことが出来なかった。 フィリップは、ジェイシーさんの誘拐中、薬物使用により1ヶ月の禁固刑に処せられている。 それでも、18年間と言う間、ジェイシーさんの存在が明るみに出ることはなかった!! 事件の全容はすでにウェブサイトにいろいろ上がっているので、検索してみてください。 ウィキペディアはこちら 本書を読めば誰もが同じ感想を抱くのではないだろうか。 私個人が何も書く必要がないほど、万人共通の気持ちになるんじゃないだろうか。 犯人とその妻に対する、そして、ジェイシーさんが受けた酷い虐待に対する、激しい怒り。 地元警察の杜撰さへの憤り。 18年間と言う長さ、そしてその18年間の中身…妊娠出産していたなどの特異性への驚き。 しかし、それらを凌駕するのは、ジェイシーさんの強さであり、愛情深いひととなりへの驚きではないか。 普通ならこんな生活を18年間も強制されたら、きっとまともな神経のままではいられない気がする。 いくらセラピーやサポートをしっかり受けたとしても、ここまで回復したのは、本人の強さだと思う。 子どもが生まれ、その子どもたちが生きる支えとなったという事だけど、そんな状態で生まれた子どもたちに愛情を注ぐと言うことも、私ならひょっとしたら出来ないかもしれない。子どもを憎んでしまうかもしれない。 でもジェイシーさんは心底子どもを愛したのだから、その愛情の深さに頭が下がるのだ。 失われた・・と言うだけでは足りないその18年間は、もう戻らないのだけど、今後の人生がジェイシーさんとそのご家族、二人のお嬢さんたちにとって、せめて18年の不幸を埋めるぐらいの幸せな人生であるように願わずにいられない。 2012年6月2日読了 |