2012年の読書記録*part3



王様が語る!もうひとつの「チャングム」/イム・ホ★★★
年末、本が読めません。今年は珍しく100冊に到達しそうだったけど、やっぱりムリみたい。その数合わせに(笑)登録するつもりなかったけど一応数に入れておこうと思って。いや、裏話で面白かったですよ?王様役のひと、イヨンエさんにマッサージしてもらったのが本当に嬉しかったみたい。髭がないのは宦官だとか、女性のみつ編みのこととか、そういうのもわかって良かったです。



七緒のために/島本理生★★★
あなたの呼吸が止まるまで、アンダスタンド・メイビーに続いて3作品目。私は結構面白く読みました。最初はイマイチ良くない感じ、挫折するかと思ったけど段々と二人の関係から目が離せなくなっていった。切ない読後感が残って割りと好きかも。そうせざるを得ない背景があり、ふたりとも現実に向き合わずにふわふわと生きている。スクールカウンセラーの存在に救われる。アンダスタンドメイビーは「ホットロード」を髣髴としたけど今回は岩館真理子作品を連想させた。だから好きだったのかも。



64/横山秀夫★★★★★
横山さんの本って久しぶりに読みました。 半分ほど読んでるようだけど「クライマーズハイ」と「出口のない海」が断然良かった記憶がありますが、この「64」はそれらに並ぶ名作と思います。 最初はとてもとっつきとっつきにくい感じがしたんだけど・・。

舞台はD県の県警察。 主人公の三上は、8ヶ月前に人事異動で刑事部から刑務部所属の広報に移動してきた。 不本意な人事に納得できず、「2年で刑事部に戻る」と強い意志を持っている。 三上が最初に手がけたのは、広報室の改革だった。めざすは広報室を「自治」。 しかし、三上の一人娘が家出をしてしまい、捜索に警察の力を借りた三上は牙を抜かれてしまったも同然。 事件記者との交渉も広報室の自治とは行かず、ひたすら警察上部の意向に沿ったものになってしまうのだった。

そんなとき、警察庁長官がD県に視察に来るので、段取りをつけるように言い渡される。 警察庁長官の目的は、ロクヨンの時効を一年後に控えて、ロクヨン事件の被害者家族への面会。 ロクヨンとは、14年前の昭和64年に起きた、少女誘拐・殺人事件だった。 三上はその視察訪問に疑惑を持つ。 はたして、隠された本当の目的とは・・・。

三上の娘の家出、そして無言電話。三上夫婦にとっては娘からの電話としか思えない。 時を同じくして、とある交通事故の匿名報道に揺れる広報部。上部からは匿名で推し進めるように言われるし、記者たちからは加害者名の開示を迫られるのだ。 ロクヨンの時効まで1年。被害者の父親はかたくなに心を閉ざし、警察庁長官の訪問を拒む。 ロクヨンのことを調べると出るわ出るわ、不可解なことが出てきて三上の刑事根性をくすぐる。 三上は刑事部に戻りたいけれど、一度刑務の仕事をすれば、刑事部からはスパイごとき扱いを受ける。刑務の、影の人事権を持つといわれる二渡と三上には浅からぬ因縁がある。

最初は戸惑ってしまった。 64と言う事件の真相を探るミステリー?・・・ではない。 警察内部のパワーバランスと確執を描く警察小説?・・・と言うのも違う。 娘の家出を含む三上の家庭の問題や、記者達との報道協定をめぐる激しいバトル、ともかくいろんな要素がてんこ盛りで、私には掴み所がないというか、何を軸に読めばいいのか良くわからいまま読みすすめた。

ところがところが・・・・・・。

後半。 怒涛の展開が待ち受けていた。 今まで混沌としていた世界が急に開ける感じ。 混沌が徐々に収まってくると、ひたすら興奮した。

ロクヨンを絡めた現在の事件。 ただでさえ緊迫感あふれる事件の渦中で、怒号が飛び交い嵐のようになる記者会見が余計に緊迫感を増す。 そこにかかわる記者達との攻防。そして「ウチの記者達」の気持ち。 泣かされた。 徐々に増す広報室内の連帯感、そして徐々に変わっていく三上の気持ち。 刑務と刑事の間で揺れ動きながらも自分の立場を明確にしていく部分にとても読み応えを感じた。 何もかも、目を離せない展開で、ページをめくる手が止まらない。

相変わらず会話も文体もタイトだから、すらーっと読んでしまうと意味を汲み取れない。 読み逃さないように気をつけてじっくりと読む。 ああ、そうだったのか。あれもこれも・・ここに帰結するのか、と言う驚き。 ミステリーだった。やっぱりミステリーだった。それも思いっきり重厚な。しびれた。

「事件」の真実にまた泣かされ、「犯人」の思惑に頭が下がる気持ちがした。 やがて出した三上の「結論」も感動した。 最初はとっつきにくかったし、宮部さんの「ソロモンの偽証」を抜いての1位に首をかしげたのだけれど、読み終えてみれば、読みづらいと感じた分、難所を攻略した達成感と充足感が大きかった。 余韻を引くのでまた読み返したくなる物語。 このミス1位も頷ける。 面白かった!!



禁断の魔術/東野圭吾★★★★
今回のガリレオはよかった~。 書き下ろしだからでしょうか? 「容疑者X」に並んで、印象に残るガリレオシリーズとなりました。 タイトルもいつもよく出来てますね!

「透視す(みとおす)」 ホステスに自分の仕事や名前を透視された湯川。そのホステスが後日殺されてしまう。 残された家族と、透視のからくりの切ない関係。

「曲球る(まがる)」 妻を殺されてしまった野球選手。クルマの塗装が剥げて妻の不審な行動が浮かび上がる。 妻が夫に求めていたことは・・・。

「念派る(おくる)」 双子の姉が殺された。妹にはそれが「わかった」のだ。双子の不思議なテレパシーによって。 テレパシーは存在するのか。湯川がその問題に挑む。

「猛射つ(うつ)」 政治部記者が殺された。足跡を追ううちに湯川と出身高校が同じ少年が浮かび上がってきた。湯川と接点もあると言う。いきなり壁に穴があく、いきなりバイクが炎上する。なにか湯川に関係があるのか。。

どれも力作でした。 というのは、今回、特に謎解きには重点が置かれておらず、犯人の発見逮捕の描写はあっさりしたもの。 物取りの犯行だったり、思ったとおり怪しい人物の犯行だったりと、ストレート。 でもたとえば、「透視す(みとおす)」では、死んだホステスの家庭の事情にドラマがあり読み応えがある。 ホステスは義理の母親との折り合いが悪くて、家を飛び出したのだ。 お互いに憎んでいると思わされた母子の気持ちが明らかになったとき、彼女の死が心から切なくなった。

「曲球す(まがる)」でも、野球をあきらめようとしている夫に対する妻の気持ちが分ると、そこに深く感動する。どちらも、死んでしまった被害者が、生きているものに送る「気持ち」がとても印象深い。 短編ながらも人間ドラマが濃厚に描かれていて読ませられた。

そして「猛射つ(うつ)」では、湯川が珍しく後輩に当たる少年に入れ込んでしまう。その少年のために、あわや犯罪を犯すか・・!!というところまで追い込まれるのだ。 冷静沈着な湯川が、珍しくあたふたしているようで、湯川にここまでさせる少年に拍手喝采である(笑)。 焦ってる湯川に、シリーズ中初めて「萌え」を感じた!! とてもよかった。

今回もガリレオシリーズはラムちゃんにお借りしました。ありがとうございました(*^_^*)



虚構の道化師/東野圭吾★★★
「幻惑す(まどわす)」 クアイの会というカルト教団の取材に行ったライターが目の前で信者の飛び降り自殺を見る。 草薙たち警察は、自殺を不審と感じ、殺人では?と疑うが、教祖は自殺した信者に触れてもないのだった。 そのからくりを湯川が見破る。

「心聴る(きこえる)」 幻聴が引き起こす自殺や事件。草薙危機一髪。湯川に草薙の姉さんが見合いを勧めているのが可笑しかった。

「偽装う(よそおう)」 湯川と草薙が友達の披露宴に行って事件に遭遇。それは、作詞家夫婦の殺人事件。発見者は娘で、湯川たちは道中ほんの少し関わりがあった「アウディの女」だった。 死んだ順番が大事、という話。

「演技る(えんじる)」 舞台演出家が殺された。ケータイの発信着信がカギになるのか。 私が同じ状態のとき、ケータイで誰かに電話するなら、アドレス帳の一番の登録者じゃなくて、たぶん、着信記録とか発信記録とかで、同じ相手にかけると思う。それが一番早いから。 この犯人の動機もまったく共感できず、後味の悪い話だったと思う。



七つの会議/池井戸潤★★★★★
「空飛ぶタイヤ」から「鉄の骨」「民王」「下町ロケット」「ルーズヴェルト・ゲーム」「ロスジェネの逆襲」・・・その他・・・と読んできたけど、どれも「空飛ぶタイヤ」よりも面白いと思える作品は正直言ってなかった。なんとなくマンネリでよく似たテーマに良く似た展開。今回はタイトルからして短編集かと思って期待しなかった。

が!!

これがまぁ私的には「空飛ぶタイヤ」に次いで、と言うより遜色ないほど面白く感じた!

舞台は、東京建電というメーカー。大手電機メーカーのソニックの下請けのひとつである。 タイトルのとおり、各章それぞれいろんな会議があり、連作短編の形を取っている。

第一話は「居眠り八角」。八角というお荷物社員が上司をパワハラで訴え、それが会議に発展する。 第二話は「ねじ六奮戦記」。東京建電よりもうひとつ下請けの町工場だ。兄と妹のふたりが工場の経営について論じれば、いつでもそれが「会議」になる。 第三話は「コトブキ退社」。不倫の末に会社を辞めることになったOLが、自分の仕事を残そうと、会社に軽食コーナーを作ろうと会議に諮る。

と言う風に、一見すればそれぞれがどう繋がるのか分らない。 が、第一話の「居眠り八角」のラストでどうにも腑に落ちない、疑問が解明されないまま物語が続いていて、なんとな~~く、2話3話を読むと、その疑問の答えに近づいているのが分ってくる。 やがて現れてきたのは、池井戸さんお得意の、企業の・・いや、世の中の収益至上主義に対する反感。嫌な上司、嫌な企業を描かせればお手の物なのだろう。

第2話に登場するねじが発端のひとつである。 ねじ、小さな小さな「部品」だ。 その小さな部品がやがては巨大なトラブルを引き起こしていく、その過程がとてもスリリングに描かれていて釣り込まれた。

また、東京建電では、徹底したコストの削減を目指し、それはもう阿漕なほどなのだけど、そのために社員に対する思いやりがない。社員はまるで使い捨ての「部品」扱いだ。社員は会社の一本のねじにすぎない、そう言っているように思えた。 ねじも社員も、ちっぽけなひとつの部品が反乱を起こしているようでもあり、その符号が面白く感じたし、爽快な気分にさえなった。

「空飛ぶタイヤ」などのほかの作品にも共通するのだけれど、客に対して誠実さのない企業は、客、人のためじゃなくひたすら儲けのためにある企業は、本当に恐ろしいと思える。 「仕事は儲けのためにするのではない。人の助けになるのだ。客を大事にしない商売は滅びる」 作中人物の言葉だけれど、ずっしりと心に残った。 ラストは決してハッピーエンドと一口に言えるものではないだろう。 でも、そのほろ苦さと、やっぱり池井戸作品らしい爽快感と、絶妙のバランスだったと思う。 とても面白かった。オススメ!!



かなたの子/角田光代★★★
やっぱり短編はどちらかと言うと苦手。最後の作品は「みんないい子」みたいな感じで、角田さんが書くとこうなる・・みたいな。幻想的なホラーっぽい感じで、それも私の好みではない。それなりに面白く読んだけど。

2012年11月29日読了



月と雷/角田光代★★★★
今年は結構角田さんの本をたくさん読ませていただいたなぁ。
「曽根崎心中」「ひそやかな花園」「紙の月」「かなたの子」そして本作「月と雷」なんと5冊も。
あと短編を借りたけど、結局読まずに返した本が一冊。どうしても短編集は苦手です(^^;
今まで、イマイチそこまで好きになれなかった作家だけど、私の中では「紙の月」「ひそやかな花園」「対岸の彼女」が角田作品のベスト3というところでしょうか。(コンプリートしてないんだけど)

そんな中において、最新作品のこの「月と雷」はかなりインパクトが弱いというか、パンチに欠けるというか。読んでいて巻き込まれるような感じはなかった。原点回帰というコメントがあるけれど、なんとなくわかる。「地上八階の海」とか「プラナリア」を読んだ時の気だるさというか、モヤモヤ感みたいなのがあったかもしれない。
でも、読み終えて日にちが経っても割と物語のイメージは残っている。そんな小説だった。

智という青年は、恋人と長く続かない上に、振られる時に「普通の生活ができないところが怖い」と言われてしまう。その原因を探ってみると、自分の生きて越し方に原因があったと思う。
覚の今までの人生とは・・・。
というところから始まる物語。
とてもイライラする。智のような男じゃ、私も嫌だしまた娘の彼氏や夫になられても困ると思う。
普通のことを普通にできない、その原因は母親直子と根無し草のように流れ流れてその場しのぎの生活を続けてきたことによって、「普通」ではない人格が出来上がってしまった・・というのが、読んでいるうちにわかってきて、イライラがちょっと収まってきた。
その親子が、家に来た時から自分の生活は「普通」じゃなくなってしまったと思う泰子。
やっぱりどこか「普通」とは違う考え方や感じ方を抱えている。
これから「普通」の幸せを手に入れようとした矢先に、またもや、智の登場で困ったことになってしまう。
泰子の行動もどこか不安定で、これまたハラハラというよりもイライラさせられる。
こういうふうに読者に、いや~~な感じを与えるのが、著者はお手の物だ。
なんだか腹が立ったり、ムカついたりもしながら、結局ふたりを最後には応援する気持ちにさせられてしまった。
普通、普通・・・普通であることがそんなに大事なの?という意見もあると思うけれど、私はこの本を読んで「うん、普通って大事だ」と思った。
普通に朝起きる。
普通に朝ごはんを作って食べる。
普通に洗濯や掃除など家事をする。
ある程度はサボったり散らかしたりもしながら、家のなかを快適に保つ。
晩御飯はお菓子やファストフードじゃなく(たまにはいいかも知れないけど)ちゃんとご飯を料理する。
仕事をする。家に帰る。
休みの日にはゴロゴロしたり家族でレジャーに行ったりする。
ごくごく普通の人生。
平凡極まるかもしれない。
でも、それが大事なんだ。
泰子との出会いによって、今まで漠然と普通じゃないことに慣れ親しんできた智が、少しづつでも普通の生活をできるようになったらいいと思う。ラストにはその片鱗が見えてほっとした。
主人公ふたりは、これからその平凡だけど普通の幸せを是非とも手に入れて欲しいと思ってしまった。
そんな風に思えたこの作品、インパクトは弱いと感じたけど、私にはやっぱり「地上八階の海」や「プラナリア」よりも読後感が良い作品だった。

2102年11月28日読了



逃走/薬丸岳★★★
【内容】
閉店後のラーメン店で、店主が何者かに暴行され死亡した。通報により駆けつけた救急隊員に、「約束を守れなくてすまない」と声を振り絞り、被害者は息絶える。通報した若者を容疑者として始まった捜査は、早期解決が確実視されていたはずだった……。(講談社HPより)

【感想】
本を返してしまい、手元にないので、記憶だけで書いています。ご了承ください。
ということで、さっそく↑のあらすじを見て、死んだ男の末後のセリフ「約束を守れなくてごめん」がもう、記憶に残ってないという・・・(^^;。
当然「約束」っていうのが何だったのかも忘れてる・・。そんなシーンあったっけ・・。(おいこら)
まぁともかく、殺人の容疑者はすぐに割り出され、事件と同時に行方をくらませた施設出身の小沢裕輔が捜索される。小沢裕輔には一緒に施設で育った実の妹恵美子がいて、彼女も独自の方向から兄を探す。
妹は兄がそんな事件をしでかしたと信じられない。
読み進めるうちに、本当に若者が犯人なのかどうか、そして動機はなんなのか・・妹目線で事件に迫っていくのだけれど、なんだかだんだんと事件の真相に対する興味が薄れていってしまった。
過去、小沢兄妹の身に降りかかった出来事が端を発していることがわかってくる。
事件がすべて解明した頃には正直申し上げて、ストーリーの平凡さにがっかりした。
「天使のナイフ」「悪党」がとても良かっただけに、ああいう作品がまた読みたいと思ってしまう。
今回、登場人物の誰にも共感ができずに、魅力的と思えるキャラもなかった。
そこにも原因があったと思う。

どうも、宮部さんの「ソロモンの偽証」があまりにも面白かったので、その後に読んだ本はイマイチ面白く感じないのです。たいへん辛口になってしまい、申し訳ありません。
2012年111月23日読了



微笑む人/貫井徳郎★★★
【内容】
エリート銀行員の仁藤俊実が、意外な理由で妻子を殺害、逮捕・拘留された安治川事件。
犯人の仁藤は世間を騒がせ、ワイドショーでも連日報道された。
この事件に興味をもった小説家の「私」は、ノンフィクションとしてまとめるべく関係者の取材を始める。
周辺の人物は一様に「仁藤はいい人」と語るが、一方で冷酷な一面もあるようだ。
さらに、仁藤の元同僚、大学の同級生らが不審な死を遂げていることが判明し……。
仁藤は本当に殺人を犯しているのか、そしてその理由とは!?
(Amazon紹介ページより)


【感想】
小説家の「私」が、事件のルポルタージュを書くという形式なので、インタビューなどがあり、あるいはそのインタビューを小説風にして書いたり、と、とにかく「伝聞」が主な内容になっている。関係者の証言から、事件の真相に迫って行こうとしている。
それは良く分るのだけど、湊かなえさんの「白ゆき姫殺人事件」を読んだばかりだったので、なんとなく物語の作りが似ている気がしてならなかった。
途中までは大変面白く、この殺人犯とされる仁藤の背景が気になる。一見とても善良そうに見えて、時折垣間見せる邪悪な一面・・・。
その邪悪な一面が殺人を犯したのか、どうなのか。犯したとすればそのときの心理状態は?本当の動機は?そもそも、本性はどうだったのか。
しかし、最後まで読み終えて読者に分ったことは。

ここからネタばれ&辛口コメントです。未読の方、ファンの方はご注意ください。
















結局最後まで読んでみたら、あまりの中と半端っぷりに唖然としてしまった。
え?そこで終わり?
えええええええ???
マジで??
と、思ってしまう。
だって、何ひとつ、分らないままなんだから!
なんとなく匂わせておいて、さぁ、本当のところはどうなの?と思ったところで・・。
おわり。
うーん。そりゃないよ~~。

たまにありますよね。こういう小説。あとは読者の想像に任せます・・みたいな。
ただでさえ私はその手の結末が嫌い。
想像で・・って(^_^;)
小説家なんだから、最後まで責任持ってよ!って思わず言いたくなります。
こういうラストが好きな方もいらっしゃるでしょうが、私はダメ。

途中まで面白かっただけに残念です。

辛口ゴメンナサイ。


2012年111月23日読了



白ゆきひめ殺人事件/湊かなえ★★★
ヒットメーカー湊かなえさんの作品。
なにかと斬新なスタイルの小説を発表しておられるけれど、今作品もかなり斬新だった。
今の世の中、コレなしでは語れないだろうと言うツールである「ツイッター」などのネット情報、それを小説に上手に取り入れている。

事件は、白ゆきという人気化粧石鹸を発売している会社のOLが、惨殺されたもの。
美人で色白だった被害者と、勤務先の人気商品になぞらえて、白ゆき姫殺人事件と異名をとる。
犯人とその動機は何か。

というストーリーだけど、本書はほとんど「噂話」や「告げ口」で成り立っている。
だから最初はなんだか読むのもいやな感じだ。同僚が噂話で殺人事件の情報を知人に語ってるんだから。
こっちまでその噂話の仲間入りをしてる感覚になる。綺麗ごとは言わないけどあまりにも悪趣味。
しかし、そこにツイッターまがいのマンマローというコミュニティーサイトで「ネット炎上」する仕組みがあり、また、下世話な週刊誌の切り抜き記事があり、読者は犯人のヒントを与えられる。
それがなかなか斬新なアイデアだと思った。リアルである。

ネットの書き込み、知人の噂話、週刊誌の記事…どれもが真実に見えて、実は違う。
与えられた情報を鵜呑みにするべきではない。
何かと言うマスコミの情報に踊らされる私たち。匿名性があるからと思い、実際には言わないこともネットでは卑しく発言する人たち。そんな現代の私たちに厳しい警告がある作品だった。

ただ、最後に明らかになる動機と犯人は、あまり説得力がない。
こんなことであんな犯行はないだろう…と思うんだけど。
病んでたのか。。。


ラムちゃんにお借りしました。ありがとうございました(*^_^*)

2012年11月11日読了



ソロモンの偽証 Ⅰ Ⅱ Ⅲ/宮部みゆき★★★★★
ものすごく面白かった!!一気に読んでしまった。久しぶりに寝不足になるほど夢中で読める本だった。

ある中学生の死に関連して、中学だけじゃなく町全体が大騒動になってしまう。
最初は自殺とされていたのに、謎の差出人から届いた告発状によって、殺人事件かもしれないという疑問が起きてきて、誰もが、自殺した中学生とトラブルのあった不良生徒に疑いの目を向けてしまったのだ。
関連して他にもいろいろと事件が起きてしまう。
そんな中で中学生たちは、自分たちで裁判を起こし、「真実」を明らかにしようとする物語である。

なんとも長い物語だ。
なにが書かれているんだろう。と思っていた。でも、読み始めると止まらないのだ。
宮部節というのだろうか、例によって、ひとりひとりに対する描写が丁寧すぎるほど丁寧。
電話ボックスで少年を見かけただけの、電気屋のおじさんさえ、懇切丁寧に語られている。
でも、それが宮部さんらしい。
どんな登場人物にも手間暇かけて、愛情を注いでいる感じがする。
死んだ中学生、柏木拓也は明らかに自殺のようだ。それなら何が問題になるのか。
その真実を見つけるだけのミステリーではない。その「事件」によって様々な人間模様が繰り広げられる。
中学生同士のかかわりはもちろん、彼らだけではない、家族の問題。中学生だからこそ、その家族が大事なんだと思う。だからそこに読み応えがある。
いろんな家族がある。信頼関係がしっかりとした理想のような家族もあれば、子どもに大きな傷を負わせたり負担をかけている家族もあるし、暴力で縛り付けている家族もある。
事件によってそれらが見事に、とてもリアルに浮かび上がるのだ。
中学生らしい子どもっぽさ、それに伴う正義感、あるいは反抗、ともすれば青臭い友情、逆に大人の入り口に立って持ち始める分別や駆け引き、深い考察。。。中学生だからこそ、大人でもない子どもでもない、そんなかけがえのない一時期だからこその物語だと思う。



最初、「真実は一目瞭然なのでは」と思っていたけれど、それがこの長い物語を読むうちに徐々に、その真実の裏側に隠されたものが見えてくる。
読み終えてみれば深い感動があるし、作者の、登場人物に対する愛情が見えて、感慨を覚えた。
この小説は、私も貸本で読んでいる小説新潮で約10年、連載していた。
早々に連載を読むのをリタイアしてしまったけど、その長さに驚いていた。まだ終わらないの?いつまでやってるの?っていう感じ。でも、本書を読めばその長期連載も納得。
宮部さんにはお疲れ様でした。面白い本を読ませていただいてありがとうございました。とお礼を言いたい気分です。本当にお疲れ様でした。



ちなみに、一番印象深いのは浅井松子ちゃんです。


2012年11月19日読了



君はいい子/中脇初枝★★★★
同じ町で起きる虐待を描いた連作短編集。痛々しい。でも感動した。

2012年11月11日読了



ひらいて/綿谷りさ★★★★
主人公の愛は、同級生の「たとえ」(男子の名前なのだ)を好きになる。が、彼には恋人がいた。それは主人公が高校一年で同じクラスだった美幸だった。美幸は公衆の面前でインスリン注射をするなど、周囲を引かせてしまい、それ以来学校ではぽつねんと孤独だ。
愛は、たとえの机の中をあさり、美幸からの手紙を見つけ、たとえと美幸の関係を知る。
たとえをあきらめられない愛は、美幸に接近する。
そして、二人の関係は愛が意図するよりも濃密になって行き、やがては・・・。

なんだかよく分からないけど、面白く読みました。主人公の行動は納得できないけれど、文章が良かったので。これが芥川賞を取る人の文章だなぁと思ったらすごく納得した。

2012年11月10日読了



舟を編む/三浦しをん★★★★★
本屋大賞を受賞した本作品、私もそれで興味を持って図書館に予約したのだけど(買わない派でごめんなさい!)順番が回ってくるのに、なんと半年以上待ちました。それだけ人気がある・・ということで、読み終えてみればそれも大いにうなづける面白さ!
最初、タイトルを聞いたとき、なんとなく時代小説かな~と思った。「天地明察」みたいな感じかな?と。何の根拠もなかったけど、そう感じたのです。
でも、開いてみたらこの本は、辞書編纂の物語でした。
定年間際の荒木は、次に編む辞書のために人材確保に動く。そこで「まじめ」(馬締)という社員に出会う。まじめと辞書部のひとたちは、その後15年をかけて、ひとつの辞書「大渡海」を作り上げていくのである。
私たちが普段何気なく使っている辞書。そこには本当に、想像を絶するほどの、気が遠くなるほどの工程があるし、時間も必要なのだということが分かる。言葉に関する考察もそうだけど、使われている紙にしても…。
ひとつのことを、みんなが協力し合って成し遂げていく達成感と感動。
読んでいて、実にわくわくさせられました。
三浦さんはご自身がオタクなだけに、こういう言語オタクの描き方もお上手。興味のない人間がそばにいたら必ずや面食らうしあきれるだろうと思うような会話を、とてもリアルに描いていると思う。
冒頭の、荒木と松本先生の会話なんかは、「感動すべきところ?」「笑うところ?」という際際のラインが絶妙だったのじゃないでしょうか(^_^;)。
ここに登場する言語オタク、辞書オタクというべき人種の人たちが、言葉に、辞書に向ける深い愛情と畏敬の念が、こちらにも伝わってきて驚きもするけれど、私は心から胸を打たれた。
世の中というか、私たちが教授する文明は、どれほどの、こういうオタク(エキスパート)たちの手によって作られ、豊かになっているんだろう。意識せずとも知らぬ間に、たくさんたくさん恩恵を受けているんだなぁ…と、しみじみとしてしまった。
それだけじゃなくて、登場人物たちのやり取りがまたいいのだ。
人が人を思う気持ちがてらいなく描かれていて、ラストなどは大泣きしてしまった。
まじめさんという主人公の人物造形もよかったけれど、私は最初に同じ部署で働いていた西岡さんが大好き。見た目は軽薄で、辞書にも言葉にも疎い西岡だけど、その実はちゃんと辞書に対する愛情も、そしてまじめを支える気持ちもあって、この人がこの本の中で一番好きだった。好感を持てるキャラクターがいるかどうかは、小説を読む上でとても大事なことだから、ここも作者にまんまとやられた感じだ。
辞書、それは見た目は(本にしてはごついけど)小さなものだ。
でも、そこにとても壮大な空間を感じることが出来る。
海のような、宙のような、広大な無限の空間の中で、一そうの舟が浮かんでいる。その舟が「言葉」なのだ。人間になくてはならない言葉が、そんなイメージを浮かび上がらせてくれる。
この物語をこの尺で描いたこともすばらしいと思う。潔くズバッと何年間も切り取られている手法も見事だった。切り取られはしていても、その間もいつも彼らと一緒にいたような、その間の出来事が目に浮かぶような気分にもなった。
直感的に「天地明察」と同じにおいを感じたのだけど、それは間違ってなかった。
「天地明察」と「クローバーレイン」を髣髴とさせる爽快感と感動があった。
おススメです!

2012年11月1日読了



147ヘルツの警鐘 法医昆虫学捜査官/川瀬七緒★★★★★
すっごく面白かった~!おススメ!!

147ヘルツというのは、ハエの羽音の周波数なんだそう。スズメバチの羽音が150ヘルツで、ハエは保身のためにハチの真似をしているんだとか。
そういう虫トリビアを読み、へぇ~~!とわくわくする感じ。これは私なりに知的好奇心が刺激されたためだろうと思う。そんな楽しさがある、珍しいミステリーだ。
ある殺人事件があり、捜査本部は昆虫学者を捜査に加える。なぜなら死体の内部から大量の生きたウジが出てきたからだ。
捜査に加わった昆虫博士の赤堀は、女性なのだけど無類の昆虫好き。
ウジでも平気で触るし、必要ならなめもする。彼女が虫に向けるまなざしは、愛情と尊敬であふれんばかり。
その振る舞いは理解できない他人には奇矯ですらあるのだけれど、読者としては生き生きと虫に接する彼女から目が離せないのだ。とても魅力的に映る。
そうして彼女は虫との対話により、真実に近づいていく。その過程はとてもスリリングだしまた、ワクワクもした。
読者同様、捜査担当の刑事、岩楯も彼女に惹かれていくし、彼女と信頼関係を築き上げていく。
殺人事件の背景には意外な真実が隠されていてそれも気になるんだけど、こんな風に彼らの人間関係もとても気になった。
岩楯だけじゃなくプロファイリングを学んだ鰐川も十分注目された。この刑事二人のコンビもいい。これからぜひともシリーズとして読んで行きたいと、切に思わされた。

ひとつだけ難を言うなら…

ここからネタばれです。ご注意ください。(反転してください)

拓己の結末は不満。というか悲しすぎる。ご都合主義でもいいじゃない。あの少年に未来をあげてほしかった。赤堀との出会いがきっと彼を変えたはず。あまりにも悲しくて切なすぎた。なぜなんですか?と作者を責めたい。

2012年10月31日読了



ダウン・バイ・ロー/深町秋生★★★
内容(「BOOK」データベースより)
衰退を続ける地方都市に倦く女子高生・響子の目の前で、幼馴染の遙が電車に飛び込み自殺する。以来、響子の耳には死んだ遙の悲痛な囁きが聞こえてくる。続いて起こる児童惨殺と飼い犬殺し、男友達の失踪。ついに牙を剥く荒んだ町の暗部の正体は?渇いたバイオレンスの深町節が炸裂する書下ろしミステリー。

ひとこと感想
震災が色濃く影響する地方都市で大学進学を目指す響子。親友の自殺、自動惨殺、友達の蒸発…次々とヘビーな事件に遭遇した響子の煩悶と奮闘。女子高生のハードボイルドとして面白く読んだ。ラストは少し現実離れした感じがしたし、遥との関係にいまいちスッキリ感がなかった気がしたけど。

2012年10月21日読了



鳴いて血を吐く/遠田 潤子★★★
内容紹介
離婚して経済的に困窮しているギタリスト・多聞のもとに、人気歌手・実菓子のロングインタビューの仕事が舞い込んだ。多聞と実菓子は幼いころ同じ家で育ち、しかも多聞の亡父と亡兄はともに実菓子の夫であった――。 Amazonの紹介文より。


「アンチェルの蝶」が面白かったので、本書も読んだ。
絶世の美女、実菓子。その不遜な態度から、「別に」の女優を彷彿としながら読んだ。
「アンチェルの蝶」のようにミステリアスな雰囲気。過去に何があったのか、すごく気になりながら、知りたくて一気読みさせられる。
多聞と実菓子、そして多門の兄、不動の3人に何があったのか、回想によって子ども時代が甦る。
回想の中と今とでは、実菓子はあまりにもイメージが違う。
こんなにも実菓子が変わってしまったものは、なぜ?多聞との仲がこじれたのは何故だったのか。回想の中のふたりはあんなにも親密だったのに。
まるで昭和初期と錯覚しそうな旧家のどろどろした愛憎劇が現代に違和感なく繰り広げられており一気に読んだ。

2012年10月20日読了



ヒートアップ/中山七里★★★
内容(「BOOK」データベースより)
七尾究一郎は、厚生労働省医薬食品局の麻薬対策課に所属する麻薬取締官。警察とは違いおとり捜査を許された存在で、さらに“特異体質”のおかげもあり検挙率はナンバーワン。都内繁華街で人気の非合法ドラッグ“ヒート”―破壊衝動と攻撃本能を呼び起こし、人間兵器を作り出す悪魔のクスリ―の捜査をしている。暴力団組員の山崎からヒートの売人・仙道を確保するため手を組まないかと持ちかけられ、行動を共にして一週間。その仙道が殺される。死体の傍に転がっていた鉄パイプからは、七尾の指紋が検出された…。殺人容疑をかけられた麻取のエース・七尾。誰が、なぜ嵌めたのか!?冤罪は晴らせるか!?―。


感想

「贖罪の奏鳴曲」が面白かったのでこの本も読んでみたけど、シリーズものとは知らなかった。
七尾の人物造形をはじめ、警察内部の登場人物や、山崎と言う異色の暴力団員など、キャラクターはよかったし、物語りもリーダビリティはそこそこ高かったのだけど、そもそも、ヒートという薬物があまりにも強烈で、もはやSFの域。七尾の特異体質にしても。
という点でちょっと思ってたのと違って戸惑いがあった。
というのもそのせいで後半の急展開、どんどん話が壮大になって行ったので付いて行けなかった。ミステリーかサスペンスと思って読んでいたのだけど、終盤はもう「ダイハード」か「バイオハザード」かっていう感じになって、舞台が日本なので違和感を感じてしまった。これを「ぶっ飛んでて面白い!」とは思えなかった。
ただ、先にも書いたけど、キャラはみな良かったし、件のからくりもびっくりさせられた。
読み終えてみれば面白かったけど、まぁ個人的な好みではなかったかな。
「贖罪の奏鳴曲」のほうが好きです。

2012年10月17日読了



忘れられた花園 上・下/ケイト・モートン★★★★
内容(「BOOK」データベースより)
1913年オーストラリアの港に着いたロンドンからの船。すべての乗客が去った後、小さなトランクとともにたったひとり取り残されていた少女。トランクの中には、お伽噺の本が一冊。名前すら語らぬ身元不明のこの少女をオーストラリア人夫婦が引き取り、ネルと名付けて育て上げる。そして21歳の誕生日に、彼女にその事実を告げた。ネルは、その日から過去の虜となった…。時は移り、2005年、オーストラリア、ブリスベンで年老いたネルを看取った孫娘、カサンドラは、ネルが自分にイギリス、コーンウォールにあるコテージを遺してくれたという思いも寄らぬ事実を知らされる。なぜそのコテージはカサンドラに遺されたのか?ネルとはいったい誰だったのか?茨の迷路の先に封印され忘れられた花園のあるコテージはカサンドラに何を語るのか?サンデー・タイムズ・ベストセラー第1位。Amazon.comベストブック。オーストラリアABIA年間最優秀小説賞受賞。


とても面白かった。
ネルはいったいなぜ一人きりで舟に乗っていたのか・・という問題に端を発し、それを解き明かすためにネル本人が行動を起こし、また孫娘のカワンドラはネルの死後、ネルの遺志を引き継ぐようにその問題に対峙し、謎は謎を呼び、探究心を刺激される。
しかし読者は二人が知らない、ネルの母親世代の物語も見ることができる。
カサンドラが徐々に真実に近づくのと同時に、読者も真実が見えてくる。
それがじれったくもあり、ハラハラもし、どんどんと読み進める羽目になってしまう。
また、作中作として挿入されるイライザの「物語」がとても面白くて、本読みとしては二度美味しい。

ここからネタバレ





ネルが「誰か」ということに関しては、「やっぱり」と思った。
でも、ローズとイライザの友情があんな形で終わってしまったのが哀しかった。
そういう点では「荊の城」のほうが好みだったなぁ。
なんともあっけなさすぎた。寂しくなってしまったもの。
それから、ネル。。
結局育ての親に、最後まで感謝を言及する部分がなかった。
いや、少しあったけど、でも、個人的にはもっと深く描いて欲しかった。
あんなに大事に育ててくれたのに…と思ってしまう。
ネルとその娘(カサンドラの母親)との関係も、なんだかなぁ…である。


という不満な部分は感じてしまったんだけど、でもそのほかは本当に面白く夢中で読んだ。

2012年10月15日読了



どん底 部落差別自作自演事件/高山文彦★★★★
内容説明(Amazon紹介ページより)
現代の部落差別の実態と犯人の正体に迫る

03年12月から09年1月まで、被差別部落出身の福岡県立花町嘱託職員・山岡一郎(仮名)に対し、44通もの差別ハガキが送りつけられた。山岡と部落解放同盟は犯人特定と人権啓発のために行政や警察を巻き込んで運動を展開していったが、09年7月に逮捕された犯人は、被害者であるはずの山岡一郎自身だった。
 5年半もの間、山岡は悲劇のヒーローを完全に演じきった。被害者として集会の壇上で涙ながらに差別撲滅と事件解決を訴え、自らハガキの筆跡や文面をパソコンを駆使して詳細に考察し、犯人像を推測していた。関係者は誰も彼の犯行を見抜くことができなかった。
 被差別部落出身で解放運動にたずさわる者が、自らを差別的言辞で中傷し、関係者を翻弄したこの事件は、水平社創設以来の部落解放運動を窮地に陥れた。06年の大阪「飛鳥会」事件で痛手を負っていた部落解放同盟は、この自作自演事件で大打撃を被ることになった。
 なぜ山岡はハガキを出さざるを得なかったのか--現代の部落差別の構造と山岡の正体に鋭く迫りながら、部落解放同盟が”身内”を追及する前代未聞の糾弾のゆくえを追う。
 週刊ポスト連載「糾弾」から改題。



被差別部落出身者の山岡が自分自身と仕事先の役場にあてて差別葉書を送り続けた事件のルポ。
殺人などの凶悪犯罪ではないのにものすごい吸引力。
特に後半、山岡を糾弾する部分は圧巻。もともと連載中のタイトルは「糾弾」だったらしいけれど納得できる。糾弾とは、される側ももちろんきついが、する側も自らに相当の厳しさが要求されるのだな、ということが良く分かる。そういう経験がなければ分からないことだと思うけれど、いつの間にか差別してしまっているということを、とにもかくにも「気づく」ことが大事なのだと思う。
自覚がなければ「差別」に向き合うこともできないんだから。向き合わなければ考えることもないし、考えなければ差別はなくならない。してない・・のではなく、大半のひとは気づいてないんだと思う。
それを気づかせる、自覚させる、そのうえで次のステップに進む。
その厳しい道のりが垣間見えた。
山岡を糾弾した人たちのその厳しさ。
しかし同時に優しさもあったのだ。
ところが山岡がその優しさを踏みにじるものだから本当に哀しくなった。
しかし、部外者が何をも言えないのではないかと思う。山岡氏を責めることもお門違いの気がしている。
しかししかし、そう思うことすらも差別のひとつなのかも…。
本当に難しい問題だと思った。
最初の犠牲者の中学教師が、中高生のときに自身の母親を蔑み罵倒して日々暮らしたエピソードがあった。しかし、後に悔い改めてお母さんに頭を下げたという。涙なくしては読めなかった。
「橋のない川」を思い出した。
「水平記」も積んでいるのでちゃんと読まねばと思った。

2012年10月12日読了



彷徨い人/天野節子★★★
内容紹介(Amazonから)
ベストセラー『氷の華』『目線』の著者が描く、慟哭のミステリー

高級住宅地で起きたひき逃げ事件、そして旅行先で起きた失踪事件。全く別の場所と時間で起きた2つの事件のつながりが、二人の刑事によって明かされる。 なぜ、母親想いの人間が、人を殺めたのかーー。その犯罪の裏に隠された悲痛な犯人の動機とは?


前半は物凄いリーダビリティー。
ある夫婦から始まり、妹や姑やら順繰りにリンクしているのが面白いし、ふたつの事件に関連はあるのか、など…先が気になってぐいぐい引っ張られた。
でも後半、事件の説明に終始してしまっていて失速した。
謎解きのための会話分ばかりで…。
それに、半年前の隣の家の訪問者、同行の連れがお土産をどこに直したか、そんな細かい事って覚えているものか?話に都合よく記憶が蘇るのがありがちだが解せない(私は昨日のことも忘れる←自分を基準にしてはいけないかもしれないけど)。
刑事の推理も…想像力が豊か過ぎませんか。
個人的には、美香子VS淳子という、女同士の間にある確執というか対決をもっと見たかった。いや、この二人が対決しなければならない理由はひとつもないんだけども…(^_^;)。
認知症の親をどうやってケアしていくか、などはとても興味深いテーマで、そのことが家庭や夫婦に及ぼす影響など、とても興味深く読んだ。


2012年10月9日読了



腰痛探検家/高野秀行★★★
酷い腰痛に悩まされている高野さん。
その顛末を綴ったエッセイ。

さすがミャンマーを柳生一族に喩えただけあって、医師と患者の関係を恋人同士に喩えたり、腰痛をUMAに喩えたり、面白く読みました。でもやっぱりいつものUMA探しに比べると小粒な感じがした。劇的に治るわけでなく「これだ!!」という発見もないので、私もちょっとビミョーな感じはしたけど、高野さんの文章ファンなら楽しめる一冊でしょう。

2012年10月8日読了



秘密は日記に隠すもの/永井するみ★★★
永井さんの遺作となった本書。皮肉が利いていて面白かった。
収録は「トロフィー」「道化師」「サムシング・ブルー」「夫婦」の4篇。
日記という媒体を上手に使って読者を翻弄している。なるほど…と思う面白さがあった。
中にはあまり取りとめが無く、正直面白くないなぁ…なんて思いながら読んでいたら、最後にガーン…って言うのもあったりして。
もうちょっと詳しくご紹介したいけれど、いろいろ障りがあるので(^^ゞあんまり書けません。 ぜひご一読を。 もうちょっと続くはずだったんだろう。本当のオチまで読みたかった。残念です。

2012年10月4日読了



百年法 上・下/山田宗樹★★★★
内容(「BOOK」データベースより)
原爆が6発落とされた日本。敗戦の絶望の中、国はアメリカ発の不老技術“HAVI”を導入した。すがりつくように“永遠の若さ”を得た日本国民。しかし、世代交代を促すため、不老処置を受けた者は100年後に死ななければならないという法律“生存制限法”も併せて成立していた。そして、西暦2048年。実際には訪れることはないと思っていた100年目の“死の強制”が、いよいよ間近に迫っていた。経済衰退、少子高齢化、格差社会…国難を迎えるこの国に捧げる、衝撃の問題作。



原爆が6個落とされて壊滅状態になった日本・・・日本共和国、と言う名前のパラレルワールドの物語だ。
そこには不老不死になれる「HAVI」と言う技術が確立されていて、全世界的に流通している。
不老不死の体なんて、望まない人間はまれなのじゃないだろうか。
いまも、世の中「アンチエイジング」「長生きする方法」などの情報がごまんと飛び交い、人々はそれに群がる。アンチエイジングの言葉には「年を取るのは悪いこと」という含みさえ感じられる。
本書はそんな、今の世の中に、大きな問題提起を投げかけていると思う。
不老不死の肉体を持った人間は幸せになれるのか?
手塚治虫の代表作品「火の鳥」も同じテーマだった。
不老不死の体になることをもとめて、火の鳥の生き血を奪い合う。
でも、マンガの中で、不老不死を手に入れてなお、幸せなキャラクターはいない。
自分だけが長い間を生きることで、孤独に陥ってしまうから。
だけど、本書では全世界的に誰もが不老不死になる。孤独という難点は除かれるように思う。
でも、長年若い肉体のままで生きることで、コミュニケーションにも色々とさわりが出てきる。
たとえば、家族間でも、親と子どもと、祖父母や孫の世代まで、全部20代前半ばかり。
それで家族という形を維持していくことが出来なくて「ファミリーリセット」なんて言う習慣が出来る。文字通り家族を解消してしまうのだ。
100年も生きれば、その間に何度も結婚、出産、離婚を繰り返す。血筋によるつながりは無く、しだいに人とのつながりも逆に希薄になっていく。
やっぱり孤独。
文明や化学が進歩しても、ちっとも幸せそうじゃない。

一番の問題は、誰も死なない社会ということ。人口が爆発的に増える。
だから、HAVIを受けたら必ずその100年後には死ななければならないという法律「百年法」が出来るのだ。
けれど、それを本当に納得できる人間ばかりとは限らない。
百年法を推進する政治家でさえ、わが身が可愛く、死にたくないと思ってしまう。
そこで、人間の命に対するがむしゃらな固執や、生老病死という大きな問題が浮かび上がり、読むものに問いかけてくる。生きるってどういうことかと。

でも、100年も200年も生きるって・・・・考えただけでしんどい。
やっと50まで来た・・・と思うのに。
この先50年も100年も生きろといわれたらどうしよう・・(誰も言わないけど)。
死があるから生が輝く。
生と死は抱き合わせなのだ。
なのに片方(死)がなかったら、もう片方(生)もいびつになるに決まっている。
老いない死なない、そうなったら人間はどう「生きる」のかなぁ。
そういう点では、深い書き込みは感じられなかったかな。政治的なことに終始してた?
ケンの存在が異彩を放ってはいたけれど…。

大長編だけあり、大風呂敷を広げた感があり、どう収束するのかとハラハラしたけれど(^_^;)うまくオチをつけたと思った。ただ、そのオチのつけ方はちょっと安易だったかなぁ・・という気がしなくもない。
あっけないというか拍子抜けというか。
かなり大評判のようで、私も面白く読んだけど、去年の「ジェノサイド」のほうが何倍も面白かったし好きだったなぁ。比べるものでもないかも知れないけど。



2012年10月4日読了



かわいそうだね?/綿谷りさ★★★
内容(「BOOK」データベースより) 同情は美しい、それとも卑しい?美人の親友のこと、本当に好き?誰もが心に押しこめている本音がこぼれる瞬間をとらえた二篇を収録。デビューから10年、綿矢りさが繰り広げる愛しくて滑稽でブラックな“女子”の世界。


「かわいそうだね?」はゆるゆるした三角関係の話でゆるさにイラっとしてしまう。最後も、だからといって爽快ってこともなく…主人公のアパレル販売員の描写は面白かった。全体としては特に何が面白いのか良くわからないけど、一気読みしてしまった。「亜美ちゃんは美人」は女同士の友情に潜む本人も無自覚の毒と愛情の相反性を描いてあり面白かった。どちらも女の子の内面をうまく描いてるとは思った。

2012年10月1日読了