ギルバートグレイプ
出演者など 監督:ラッセ・ハルストレム
脚本:ピーター ヘッジス
出演者:ジョニー・デップ 、ジュリエット・ルイス 、メアリー・スティーンバーゲン 、レオナルド・ディカプリオ 、ダーレーン ケイツ 、ジョン C ライリー
あらすじ 父親の自殺以来過食症となリ、今では動く事もままならない母と、いわゆる知的障害の弟アーニーと、二人の姉妹を抱えるギルバートは小さな食料品店で寡黙に働いている。
母親は時限爆弾のようにヒステリーを起こすし、その口を養うのは大変だし、アーニーは高いところに上ったりして警察沙汰を起こして迷惑をかけるし、妹は自分勝手だし、何かと大変な暮らし振りだが、じっと耐えているのだ。
人妻ベティとただれた?関係を持ったりして、そのベティに「あなたは何処にもいけない人」なんてきつい事を言われたりしても反論もしない。
でも、 少女ベッキーの登場で自分の内面にスポットライトを当てられ家族への愛情と自由への渇望の中でもがきながらも自分と言うものを見つめなおしていく。
エンドーラと言う小さな田舎町の美しい牧歌的な風景の中で、目覚めていくギルバートとギルバートを巡る人たちの、切なく優しい物語。
感想 エンドーラの町をキャンピングカーの一団が通り過ぎる。
キラキラ光るキャンピングカーはギルバートにとって希望の象徴。
それはいつもエンドーラにもギルバートにも見向きもせずに通り過ぎていくだけ。
弟と二人で見送るギルバートの瞳は諦めに満ちている。

ところが今年に限って思わぬ展開が・・・。
キャンピングカーの故障で美少女ベッキーがエンドーラに滞在する事になったのだ。
キャンピングカーを駆って自由に生きるベッキーの登場で、にわかに色づくギルバートの生活。
でも、皮肉にも今までの生活が急に色あせて見えたに違いない。
自分の生活の不自由さとそれを打開できない弱さ、家族を背負って生きることの重圧感、そしてそれらが家族に対する愛情ゆえだとすれば、その愛情さえもが疎ましいと言う事も・・・今まで目をつぶってきた事がすべて見えて来たに違いない。

自由への憧れと家族との愛情との板ばさみになって苦しむギルバートがとても愛しい。
苦しむのは自分が「良い人」ではないからだと思ってる。
そんな彼に言って上げたい。「あなたは充分良い人だよ」と・・・。
ベティも言っているではないか。
「息子たちもあなたのように育ってくれたら嬉しい」と。
誰もが夫殺しを疑うベティをギルバートだけは優しい瞳で見送る。
わたしの好きなシーンのひとつだ。

でも、キャンピングカーが直って町を去ることになったベッキーをギルバートは冷たく突き放して傷つけてしまう。
ほかにどうすれば良いと言うのだ?残って欲しいとも一緒に行くとも言えないではないか・・・そんなギルバートの苦しみが胸に刺さる。ベッキーを傷つけた事で自分自身も傷つく事になって・・。

そして家でもギルバートにとって望まない展開ばかりがこれでもか!と言うくらいに待っている。
ついに大切にしてきたアーニーを殴ってしまうと「もう何もかも嫌だ!みんな勝手にしろ!僕も勝手にする!」とばかりに、すべてを捨てて家を飛び出してみるものの、どこにも行き場はなく、町の外れまで行ったところで引き返すだけ。
傷ついた痛々しいギルバートの姿に涙を流さずにいられないシーンなのだ。

その傷を癒すのはベッキー。
柔らかな広い心でアーニーもギルバートも癒され救われていく。
待ちに待ったアーニーの誕生パーティーの日に、家に戻ったギルバートをいつもどおりに迎える家族たち。家族たちもまた優しい。とっても・・・。
アーニーはふざけながらもギルバートを殴る。
何度も何度も殴る。
「これで相子だよ にいちゃん もう僕怒ってないからね」と言っているようではないか。
人が人を赦すと言う優しさが胸を打つワンシーンである。

何かを吹っ切れたギルバートとベッキーの別れはもう冷たいものでも悲しいものでもない。
サヨナラと言いたくないギルバートにアーニーが言う。
「ありがとうって言うんだよ」
そうだよね、「ありがとう」ほど、このシーンにふさわしい言葉はないよね、アーニー。

それからたった数時間後、家が赤々と燃えている。
呪縛も悲しみも重圧も何もかも炎となって空に上っていく。
ギルバートたちに残ったのは思い出と愛情だけ。
大きな炎の前に寂しさと清清しさをない交ぜにした顔で佇むギルバートたちが印象的なクライマックスだ。

そして1年後・・・。
キャンピングカーがまたエンドーラをとおる。
でも、今度は通り過ぎるだけじゃない。
自分たちも乗り込んで、エンドーラを走り去るのだ。
アーニーと同じようにはしゃぐギルバートの瞳はもう諦めに暗く沈んでいたりしない。
何処へでも行ける。何処へでも行こう。
キラキラ光る希望と言う名のキャンピングカーで・・・。
僕たちも夢見る事ができるのだから。