2006年の読書記録*1月



幽霊のような子/トリイ・ヘイデン(入江真佐子)★★★★★
早川書房
サブタイトルは「恐怖をかかえた少女の物語」
私立のクリニックをやめ、再び小学校の教育現場にやってきたトリイ。ある情緒障害児のクラスを受け持つ。そこには、「選択性無言症」のジェイディや、それぞれ何らかの問題を抱えるジェレミア、フィリップ、リュ―ビンの3人の男の子たちがいた。
選択性無言症の子供に対する取り組みに、トリイは人並みならぬ興味を持っていて、過去何人も見てきただけのことはあり、ジェイディはその日のうちにトリイに口を利くようになって、周囲を驚かせる。
しかし、問題はその後にやってくる。
ジェイディはいつも体を半分に折るかのような、前かがみの姿勢をしているのだけど、その理由を聞くと「わたしの中身がこぼれてしまわないように」と、言うのだ。
だんだんと、明らかになるジェイディを取り巻く環境に、トリイは恐れを感じ始める。
奇しくもクラスメートのジェレミアが言う。「こいつは黙ってるときはまともだったけど、話し始めたらだんだんまともじゃなくなってきたよ」
ジェイディの背後にあるものはいったい…。
トリイの本のなかには、残酷な虐待を受けている子供が多く登場する。たとえば「シーラという子」のシーラの受けた虐待などは、何を読んでもすぐに忘れるこのわたしも忘れられないほどのひどいことで、死ぬほどつらい虐待だった。
今回のジェイディも、彼女が語るところによると、受けている虐待は恐ろしくて、とてもここには書けないほどの陰惨で凄惨な凄まじさ。それが、なんと悪魔礼拝と関連しているような気配を見せるものだから(前任者は謎の自殺を遂げているし)物語は、どんどんとホラーテイストになっていくのだ。
もちろん、悪魔がジェイディを苦しめているとは、わたしも思わない。そこには人間の、大人の(ジェイディにとって身近な)手が加わっているはずなのだ。
それが何か。いったい誰が。

それとは別に、このクラスの中のジェレミアという男の子が、かわいかった。
トリイが語るところ、この小学校ほど、障害児クラスを分け隔てなく扱っている学校は稀有だとのことで、それが文章を通してよく伝わり、読むものの気持ちを朗らかにしてくれた。



ヴィーナスという子 /トリイ・ヘイデン(入江 真佐子訳)★★★★★
早川書房
サブタイトルは「存在を忘れられた少女の物語」
今回、トリイは昔馴染みのボブが校長をしている小学校で、学習障害児たちのための特殊教室を受け持つことになる。 タイトルのヴィーナスという名の子供、そして、4人の腕白…というよりも、むしろ凶暴と言ったほうが良い男の子達を相手に、例のごとく根気良く情熱と愛情を持って関わっていく。
今までに読んだトリイの本では一番と言っていいほど感動しました!!
今までのも、モチロン全部良かったんだけど。 これは特別!

今回の話では、タイトルのヴィーナスのほかにも4人の男の子がいる。 もちろん、ヴィーナスのこともものすごく気になるんだけど、ここではその男の子たちのことをご紹介したい。 彼らは、ビリー、ジェシー、ふたごのシェーンとゼーン。 これが本当にどうしようもなく どうしよーーーーーもなく!!凶暴なのだ。 何かと言うとすぐに殴り合い、蹴りあいのケンカになり、トリイがどんなに努力してもなかなかクラスはひとつにまとまらない。 その、どうしようもない混乱がトリイの文章をとおして、まじまじとと伝わってくるのだけど、ものすごい臨場感です。 もう、笑えるほどです。凄まじくって!! 努力することがバカらしく虚しくなるのではないだろうかと思うこともたびたび。でも、トリイはめげない。
男の子たちは、あるとき教室の中では靴を履くことを禁じられてしまう。靴さえ脱いでいれば、蹴り合いをしてもたいしたダメージを与え合わないだろうと言う、トリイの考えから。 そうして何度もの試行錯誤の取り組みの、ひとつふたつと功を相しはじめるときのスリリングな喜び、変わっていく子供たちの姿の感動的なこと! トリイでさえも、子供たちが変わっていくことで、教えられることがたくさんあると言うのが本文から生の迫力で伝わってくる。
ついにやってくる「靴の日」。 それは教室ではくことを禁じられた靴を解禁にする日。 その日の感動はもう涙なくしては読めなくて…。 是非とも、多くの人に読んでいただきたい!! 彼らの成長からどれほど教えられることが多いか。

ヴィーナスのことも、サポートティーチャ―のジュリーとの確執も、自分がともかくヴィ-ナスのためにやっていることが、ボブやジュリーに理解されないばかりか、差別だとさえ言われる辛さや、地域の福祉との連携がうまく行かないもどかしさなど、そのどれもがじれったく、何とかならないのかとやきもきさせられてともかく読むのを止められない。
学年末は…(ネタばれあり↓)
みんなで、自分が一年間取り組んできたプリントを見返すんです。 一年前はこんなことをやっていたんだ!自分が格段に進歩したという驚きと、喜び、そしてそれらが自信となっていく。 そしてトリイは言う。 「1年学校で過ごしてきて、一番好きだったと思うことを書いて!」 と。 短くても、心を打つ文章と言うのはある。 トリイの本を読んで、これが一番泣けた!! 一番好きな本になりそうです!!



プルミン/海月ルイ★★★★
文藝春秋
やっと読んだ! 「子盗り」が、インパクト強かったので、「プルミン」も読むぞ!と思っていたのに、なんだかんだと今時期になってしまった。 プルミンというのはつまり、「ヤクル●」とか「ロー●ー」とかいうのをモデルとした小さいプラ容器の乳酸飲料のことで、このプルミンを飲んだ子供が死ぬと言う事件が起きる。 死んだ子供が、常日頃同級生をいじめていたボス的存在だったことから、物語はその関連性を背景にその住民たちの人間関係を浮き彫りにしていくという話です。
導入部から釣り込まれたし、物語の引力もかなりのものでした。 殺された子供と、その母親の目に余る言動は物語の冒頭で描かれているのだけど、ほんとうにこんな親子が同じ学区にいたら嫌だよねぇ!憤慨してしまった。そのあたりの、読者の気持ちをつかむ技量と言うのは「子盗り」の時にも感じたし、今回も一気読むさせられるだけの展開ではあったのだけど…。 ただ、結末が「痴情のもつれ」ではちょっとがっかりした部分はあるかな? それは特に唐突でもなく伏線の張り方も良かったと思うけど…。 もっと凄いなにかを期待していたので。 (なにをそんなすごいことを期待していたのだ、わたしは!!)



犬はどこだ/米澤 穂信★★★★
東京創元社
古典部シリーズも(しか読んでないけど)面白かったけど、これはもうひとつ面白さが上でした! さっと本の内容に入り込めて、スルスル読める。そして、ページを繰る手が止まらない、というかんじで一気読みしてしまった。
東京で銀行員をしていた主人公が、都会暮らしを断念し、故郷で始めた仕事は「紺屋R&S」。本人は犬の迷子を探すと言う仕事のつもりだったのだけど、舞いこんで来た2件の依頼は、どっちも「犬」とは無関係。友達の斡旋で「探偵業」としての依頼ばかりだった。
そこで、しぶしぶその仕事に着手したところ、高校時代の剣道部の後輩が雇ってくれとやってきて、結局ふたりそれぞれに、ふたつの仕事を受け持つことになるんだけど…と言う話です。
主人公も嫌な人じゃないんだけど、後輩の「ハンペー」がいい味です。
特に、この人が最近読んだ本というのが「オロロ畑」と来た日にゃ、好感持つしかないでしょう(笑)。 軽薄そうでたいして役に立ちそうにないという予想を裏切って、結構いい仕事をするんだけど、この人の活躍と頭の回転のよさがなかなか見応えあり。
二つの「事件」そのものは例によって血なまぐささを感じさせないライトな「事件」だし、一見無関係に見えるんだけど、ちょっとしたリンクがある。それが二人のコミュニケーション不足で、そのリンクが発覚しないあたりとか、やきもきしながら、事件の全容がわかってくるにつれ読むほうはのめりこんでしまう魅力があった。
途中チャットの場面があったり、HPのログやキャッシュのことにも触れてて興味深くもあり。
ラスト、ハンペーがフェードアウトしたのがちょっと残念だったけど、またこの二人の活躍を読んでみたいと思う!!



霧のなかの子/トリイ ヘイデン(入江 真佐子訳 ) ★★★★★
早川書房
トリイ・ヘイデンのノンフィクションは、まだまだ4冊目ですが、殆ど同じですね。問題行動のある子どもと向き合って、辛抱強く介入して、そして子どもの状態が好転して、そして別れる。
でも、それでも、ものすごく読み応えがあり、読むのを止められないほどに鷲づかみにされる魅力があると思う。
魅力のひとつは、トリイの子どもたちへの取り組みがものすごく忍耐強く真摯で、けっして諦めない。どんな子どもにも、惜しみない努力を向ける。
子どもの状態も、そして、取り組み方も、取り組みによって現れる子どもの反応もすべてが千差万別で、同じようでありながら全然違う。
それらが、トリイの完璧に整理されたスマートな文章で、ものすごく読みやすく書かれているので夢中になってしまうわけです。
そして、トリイからの前向きなパワーが伝わってきて、読むものに生きることの大事さや命の愛しさを感じさせてくれる。
ときには落ち込んだり、抱えてるケースを投げ出したくなったり、子どもを好きになれなかったりという、人間らしさも却ってリアルで好ましい。

今回のケースは、

「カサンドラ」と言う少女。
幼いころに両親が離婚して母親と姉と暮らしていたが、就学前に父親に誘拐されてしまい、2年余りも父親の下から見つけ出されなかった。見つけ出された時には、以前のカサンドラとは全然違う子どもになっていて、手のつけられないような子どもになっていた。
「ドレイク」という男の子。
愛らしい見かけの、カリスマ的な人気者の小さな男の子だったが「選択性無言性」だった。家族(実は母親の前だけ)の前では喋るが、それ以外では決して口を利かない。
「ゲルダ」という老女。
脳溢血で倒れてから、話が出来なくなった。性格が頑固で家族が手を焼いている。

この3つのケースに関わるのです。
ゲルダはともかく、カサンドラもドレイクも、驚くような「原因」があった。 それを究明するまでのトリイの相変わらずの、努力!! そして、分かってからも、子どものために尽力する姿勢は、頭が下がるばかりだ。 最後は、ほっとする展開になっているので、読後感もよかった。 トリイのノンフィクション、もうちょっと読みつづけたいです。



月への梯子/樋口 有介 ★★★
文藝春秋
ボクさんは、41歳だけど、小学低学年の知能しかない。 ボクさんが自立できるように母親が、ノウハウをしっかり叩き込んだ「アパート経営」で、小さなアパートを管理して生活している。 そんなボクさんのアパートで、殺人事件が起きる。 第一発見者はボクさんだった…。
アパートでの殺人が密室であったので、本格ものなのか?と思ったり、ボクさんが知能障害と言うことで「閉鎖病棟」みたいな感じなのか、と思ったりしたけど。 ちょっと違うんです。 あのオチはわたしは好きではないけど、タイトルの意味が分かったときはちょっとシンミリしてしまった。 ちょっと期待しすぎたかな。



かたみ歌/朱川 湊人 ★★★★
新潮社
昭和のよき時代。
東京下町のアカシヤ商店街。
「アカシアの雨がやむとき」が流れるレコード店、『流星堂』
芥川龍之介に似ている主人のいる古本屋『幸子書房』
サイケなママのスナック『かすみ草』
そして不思議な言い伝えを持つ『覚智寺』
そこで起きるちょっと不思議で切ない出来事を、著者お得意の昭和ノスタルジックに描く作品。
連作短編集ですが、それぞれに登場人物につながりがあり、まとまり感がある。特に最後の「枯葉の天使」は絶妙。
好きな物語は「夏の落し文」弟思いの兄に泣けた。
「栞の恋」古本屋を舞台にひそかで不思議な恋、これも切なくて泣ける。
「ひかり猫」マンガ家を目指した主人公が体験した不思議とは。
「枯葉の天使」無くてはならない章です。

あさみさんにお借りしました。ありがとう♪



わくらば日記/朱川 湊人 ★★★★
角川書店
不思議な特殊能力を持つ姉と、ともに過ごした少女時代。その特殊な能力ゆえに、平凡だけで終らなかった当時を、主人公ワッコは回想している。
ワッコのちょっとした不注意で、姉さまの能力が人に知られることになり、そこから5つの事件に巻き込まれるのですが、事件そのものよりも、物語の魅力はむしろその登場人物たちの人間関係。特に語り手のワッコちゃんとその姉さまとの優しい姉妹関係。ちょっとこわいところもあるけど毅然としたお母さん。そして、茜ちゃん。警官の秦野さん、刑事の神楽さん。味のある人たちばかりです。
そして物語の魅力はなによりも、情景が浮かんでくるような語り口。
言わば「サイキック」もの、と言えるのかもしれないけど、この物語にそんな言葉は全然そぐわない。 ノスタルジックな切なさを堪能しました。
「この話はまたこの次に」というフレーズが各所にあり、その「次」というのが本書内に無い場合もあったので、これは続編を期待するものです。

あさみさんにお借りしました。ありがとうございました♪



武王の門/北方謙三★★★★
角川文庫
1339年、後醍醐天皇の末の皇子、牧ノ宮懐良親王は九州征討の全権を受けて、3年間の忽那島生活を経て薩摩山川津から九州入りする。わずか14歳。朝廷からの命を受け九州平定を目指すうちに、懐良の胸にある「夢」が芽生える。その「夢」に向かって、長い戦いが始まったのだった。
あー。やっぱ、前半はかなり読みづらかったです。
上巻の半分ぐらいまでは、登場人物の相関や時代背景の把握に頭を使わねばならず、苦痛でありました。中盤、今度は高麗だの元だの明だのまで出て来て(倭寇の活発な時代であった)またもや混乱してしまったり。
が、九州で一番強力な力を持つ少弐頼尚と足利直冬を交えての戦いが始まるあたりから、面白くなってきた。
とくに、勇猛でカッコ良いのが、肥後の豪族菊池家の武光!この人の戦い振りが、ものすごくカッコ良い!(女好きなのがタマニキズです)このひとが、懐良の夢に自分をかけて(この場合、一族をかけてということになるのか)終生変わらぬ忠義ぶりなのだけど、親子や兄弟でも殺しあうこの時代に、こうして変わらぬ忠誠を持つ武将というのが、とてもカッコよく見える。
武士にとっては、自分の領地こそ命がけで死守すべきもの、そのためにはプライドも何もあったもんじゃない、という時代。(いや、領地を死守することこそがプライドであったのか)懐良と武光の関係は、物語の主人公と言っても過言でないと思うのだ。
針摺原の戦、長者原の戦、大保原の戦…緒戦を、圧倒的な強さで、勝って行く武光。敵を唸らせる乱れ無き陣形、血なまぐさいのはいや、と思っていたわたしも、この武光の戦い振りをこの目で見てみたくなった(遠くからね)。
九州での戦いも佳境に入り、武光ますますの活躍で、面白さは加速した。
歴史から見れば、懐良たちの「平定」はないというのは分かっているので、最後に近づくにつれ胸が苦しくなるような気になりつつも、読む手を止められず。最後の「加賀丸」には泣けた〜。
死を美徳とする武士の考え方は、受け入れられない。どんな時も生きる方向で考えて!と思うんだけど、でも、そこに潔さとすがすがしさを感じてしまうのも確か。
(でも、長い物語だと慣れ親しんだ登場人物が死ぬのは応えますね。)
いかにも骨太で、読み応えのある物語でした。

なぜに★4個なのかと言うと、武光も懐良も、女の人が何人もいるのよね。ちょっと萎えるね。村上義弘(もっと活躍して欲しかったなぁ)みたいな人が、遊び人だったら「萌え」なのだけど、武光や懐良はストイックであって欲しいかな。物語の中だけでも。(笑)



怪盗紳士ルパン/モーリス・ルブラン★★★★
ハヤカワ文庫
●アルセーヌ・ルパンの逮捕
●獄中のアルセーヌ・ルパン
●アルセーヌ・ルパンの脱獄
●謎の旅行者
●王妃の首飾り
●ハートの7
●アンベール夫人の金庫
●黒真珠
●遅かりしシャーロック・ホームズ
以上の短編を収録した、ルパンシリーズ第一弾。
子どものころ、一時期はまったルパンですが、久しぶりに読んで懐かしさがこみ上げてきた!
ガニマール警部が宿敵なんだけど、この名前も懐かしかった〜。
短編集と言っても、第一話「ルパンの逮捕」と「獄中のルパン」と「ルパンの脱獄」まではひとつの流れの連作になっていて、ルパンがそのタイトルのとおり一旦逮捕されては脱獄するのだけど、どうやって実行するのか、読み応えがありました。
「王妃の首飾り」というのは、無論マリーアントワネットの首飾りのことです。ルパンは舞台がフランスと言うだけあり、そして、ルパンが古美術収集家であることから、昔のお宝なども、たくさん登場するので、子どものころは読み流していたけれど、今読めばもっと違う楽しみが沸いてきて、再びどっぷり物語りにのめりこみました。
ルパンの出生の秘密(秘密でもなんでもないけど)生い立ちなどにも触れてあり、なかなか、気の毒な少年期を過ごしているのも新発見で興味深かった。
私が子供の頃読む推理小説というと、すっごい読書小僧はさておいて、私程度の読書小僧は「ルパン」か「ホームズ」。国内で言うと「明智小五郎」ぐらいであったんじゃないかと思うんだけど、ルパンはホームズに比べて色気があって好きだった。ホームズはマジメ一辺倒で面白みが無かったけども、ルパンは子ども心にも、可愛い女の子とのロマンスがあったりして、その意味でもドキドキしたものです。
懐かしい思いに浸れ、また、新発見もあり嬉しい一冊でした。
らむちゃんにお借りしました。ありがとう♪



カリオストロ伯爵夫人/モーリス・ルブラン★★★★
ハヤカワ文庫
これまた、ルパンですが、この話は子どものころには読んでいません。
カリオストロというといわずと知れたジブリの「ルパン三世」で有名だと思うのだけど、映画ファンには「マリー・アントワネットの首飾り」(ヒラリー・スワンク主演)でも周知の名前。映画の中ではカリオストロ伯爵を我らが怪優クリストファー・ウォーケンが演じていて記憶に新しいところです。
この、カリオストロ、実在の人物なのだが彼の娘であると言うカリオストロ伯爵夫人、その名もジョジーヌ。また彼女は、かのナポレオンが夢中になった「ジョセフィーヌ」でもあると言うのだ。それどころか、フランス革命の時代から100年以上その容姿を保ちつつ生き長らえていると言う。
そのジョジーヌと秘宝を巡って対立するも、二人は互いにふかく愛し合い、そしてそれがゆえに哀しい結末を迎えるまでの物語がこの「カリオストロ伯爵夫人」である。
推理小説というよりも実のところ、美少女クラリスとの三角関係もあることから、ロマンス小説の要素も大きく、それでいて冒険小説でもあり、お得な感じが味わえる一冊である。
この設定は、ルパンの若かった頃、まだ「アルセーヌ・ルパン」を名乗る前のことなので、私が読み親しんだ余裕ある大人のルパンとは違い、血気盛んで性急な感じでそのうえ情熱的なところも、読み応えがありました♪
ちなみに、ラストは不気味な終り方をしていて、続編が読みたくなるようなラストになっている。
子供時代のわたしからは、こんな事件がルパンの身に起こってるとは思われなかった。⇒(ルパンはクラリスと結婚して子どもが生まれるのだけど、その子どもが行方不明に!!その犯人はカリオストロ伯爵夫人だというのだが確証は無い。「カリオストロの復讐」と言うタイトルの続編があるそうだ
これもらむちゃんにお借りしました。ありがとう♪



小説 上杉鷹山/童門冬二★★★★★
学陽書房
この本についてと言うよりも、この上杉鷹山(うえすぎようざん)という、その人となりに付いて感動した〜!!
これは、ちょっと前に読んだ同著者の「小説 直江兼続」と同じ米沢藩において、その兼続の時代から約200年ほども後の世の物語である。
上杉家は、関が原の合戦で徳川に敵対したために、合戦後、それまでの会津百二十万石から米沢三十万石に大幅に減俸、しかし、家臣の数は減らさなかったために、その後米沢藩は厳しい財政難に苦しみ、約200年後に上杉治憲(本名?)が家督を引き継いだ時には、藩政返上の危機に直面していた。
それを、類まれな資質で救ったのが、このひと、上杉鷹山(号)なのです!!

どうやって藩を救ったかが本書でよーくわかるのだけど、こんなすばらしい人がこの時代にいたなんて、今まで知らなかった。(お恥ずかしながら)これは、読んでよかった。同じ日本人として誇らしい気持ちです。
ケネディ大統領がこの人のことを知っていて「自分が尊敬する日本人はウエスギヨウザンだ」と言ったらしい。
一番声を大にして言いたいのは、フランス革命の人権宣言よりも5年ほども早く、この日本の僻地にて「主権在民」を説いた人なんです!
こないだ、わたし、「竜馬がゆく」読みました。この時、土佐藩の独特な身分制度(士族内で上士と郷士に分かれている。薩摩にもあったらしい)を知りその身分差別の凄まじさに驚いたのだけど、同じ武士同士でもあんなに、身分の違いを重視していたのにましてや、農民や商人と武士との身分格差は今のわたしたちでは想像出来ない物だったのであろう。
しかし、上杉治憲は、武士は藩民の「徒」であると名言。一番大事にしなければならないのは年寄りや子ども、そして身体障害者のような社会的な弱者であると言った。
このひとは先代上杉定重の娘を娶ったのだけど(治憲は養子だった)その妻となった幸は、先天的な身体・精神重複障害者であった。しかし、この妻をとっても大事にした。その様子が描かれたところでは、治憲のあまりの優しさに涙が流れましたぞな。
いつの時代も、どこの世界でも、こんな突拍子も無いことを言い出したら、家臣はなかなかついてきません。古い体質の米沢で、治憲は苦労の連続。どうしても改革が地に付かず、本当に長い年月を掛けてようやく定着させていくのだけど、これはもう涙なくしては読めないすばらしさ!!
時を同じくして、田沼政治、そして寛政の改革と行われ、天保の改革なども、すべて失敗に終った中で、この治憲の改革はみごとに成功!天明の飢饉の時にも、米沢藩では餓死者は出ず、江戸に逃れるものも無かったそうだ。そのうえ、うわさを聞きつけて流れ込んでくる他藩のひとたちにも、藩民と同じように援助をしたという。すばらしい!!

小説としては、くどいところがあり、また「火種」をみんなに分け与えてみんなが大事にするというエピソードなど、それは作りすぎでしょ、と、ちょっとひねくれものの私は白けた部分もあったのだけど、このすばらしい人物に対しても、★×5。
事実は小説よりも美しい。「小説 直江兼続」と合わせて読まれることをオススメします。鷹山自身、兼続の書いた「四季農戒書」を非常に重視したとの事。時代を超えて米沢の地に伝わる熱い思いに感動しました。