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2001年こんな本読んでます page 2




鬼子母神  幻冬舎  安藤能明 

工藤公江は保健センターに勤める保健婦。幼児の定期検診などのとき、医師の補助をしたりしている。 その公江のもとに、ある日一本の電話が入る。切迫した声で助けを求める電話だ。電話の発信者は 、先日センターで3歳児検診をうけた渡井弥音(みおと)の母敦子だった。実はその親子の事で センターに「子供が虐待されている」と言う通報が入っていたのだった。駆けつけてみると、 弥音は頭から血を流していた。内縁の夫江原昭二の存在により、事件は混迷していく。 物語の中で浮き彫りになる、公江と敦子の被虐待の過去。 物語が終わっても心の中に、大団円はない。くらくて、救いのない物語だった。 実はこの物語のケースと酷似しているケースを保坂渉氏の「虐待・沈黙を破った母たち」で 読んだ事がある。その本では、過去の自分と母親との 関わりを見つめなおすところから、自分が我が子を虐待してしまう原因を 探し当て、立派に克服すると言う例もあった。 決して救いのないことではないと思う。だからこの「鬼子母神」でも、子供が幸せになって欲しかった気がした。



そして粛清の扉を  新潮社 黒武洋 

あまりにも有名なこの作品について、わたしが言う事はあまりないように思う。 物語はわたしを引き込み、先を急がせぐいぐい読ませた。 小説としてはかなり面白かった。まだ読んでいない方にはお勧めしたい。 バトルロワイヤルよりは表現が緩やかだったようにも思う。 ただこの作品の持つメッセージを自分が受け入れられるかと言うと「否」。 この本の巻末の宮部みゆき氏の書評に共感した。 わたしが好きな宮部氏の言葉だから共感するのではなく 、こういう書評を書く宮部氏だからこそわたしは好きなのだと思うし 、絶大な人気を得ているんだと思う。この書評を読んで改めて納得した。その 宮部氏の書評までを含めてこの作品はわたしの中で完結する。 作品を楽しむということと、作品の持つメッセージを共有するということは 別の事だと思う。そのふたつが一致していなければならないかどうかは人それぞれだろう。 同じである事に越した事はないけど、わたしは違っていても作品を楽しめる。 この作品もかなり面白かったとは思う、けど、釈然としない気持ちが残ったのだ。



賞の柩  帚木蓬生

先日薬害エイズの第一審判決があり、件の人物は無罪となった。 全国の人々が納得できない思いを抱いたんじゃないだろうか。 この「賞の柩」もメディカルサスペンスではあるが 薬害ともエイズとも関係はない。でも、医療に携わる者の モラルや価値観はそれでいいのか?と言う問いかけは同じように感じた。 こちらはノーベル医学賞を巡る野心と欲望を描いた物語。 人類の健康と発展のための医療のはずなのに自分の名誉のために 手段を選ばないと言う魔力を与えるノーベル賞のもつ意味を考えてしまった。 津田という若い医師の正義感がまぶしかったのが救いであった。 日本推理サスペンス第3回の佳作受賞。この回の大賞は高村薫の 「黄金を抱いて飛べ」



大事な事はみ〜んなドラえもんに教わった
      飛鳥新社 久保田正巳

国民的アイドル、今では知らない人はいない(ほとんど) ドラえもんはのび太の子孫のセワシ君がのび太を少しでもましな大人にしようと 22世紀から遣わした教育ロボットなのです。 劣等性ののびたにドラえもんはどう接していくか、、、、、。 ドラえもんは実は万人が見習うべき教育者の理想像なのです。 全国の教育者が学校でこんな風に子供に接してくれたら 日本の未来はさぞかし明るいと思いました。 先生だけじゃない、私自身も反省する事だらけ。。。。。。 へたな育児マニュアルなんかよりずっといいよ!



青の炎    角川書店   貴志祐介

青の炎 とは主人公秀一の心の中にある怒りの炎の事だ。
その炎は、母親の前夫であり、秀一のかつての義父であった曾根が 何年かぶりに現れ、家に入り込み、そのいぎたなさ傍若無人ぶり無軌道さで、 平和だった家庭生活を脅かし始めた時からずっと燃えつづけている。
愛する母や妹を曾根から守るためには、その青の炎に身をゆだねるしかなかった秀一の心情は、 万人の共感を呼ぶことだろう。けれどその先に待つものは。。。。。。
秀一にとって本当の友人のひとりである「無敵の大門」(決して敵を作らない=無敵) の「一度火をつけてしまうと、怒りの炎は際限なく燃え広がり、やがては自身をも 焼き尽くす。怒りを抑えて生きていけば、悪いやつらにいいようにされる事もあるかもしれない。 それでも、自分の怒りで自滅するよりは、ましな人生だと思う。」と言う言葉が、 切な過ぎるラストで蘇ってきた。



花探し   林真理子

舞衣子29歳。女優と見紛う美貌と、男の視線を釘付けにする美脚と、 男を夢中にさせるからだを持ち、ブランド品や貴金属を瞬時にして値踏みする 慧眼と男の瞳を見ただけで何を欲しているか何を考えているか自分はどう振舞えばよいのか その場で判断する智慧を持つ。自分の魅力を最大限に発揮して次のパトロン(3人目)を 物色中。なんと言う浅はかで浅ましい生方だろうかと思う。 まるでパラサイトそのもののような生き方であり、そういう生き方が舞衣子のポリシーのようなのだ。 舞衣子に言いたい。若さも美貌もいつかはなくなるんだよ、と。 そのときどうするの?と。でも、舞衣子は言うだろう。 「ぶすな女はそうやってひがんでいればいいのよ。私はそんな女と違うのよ。特別なんだから」と。



恐怖  文芸春秋社   筒井康隆

文化人がたくさん住んでいる準高級住宅街。そこに住む作家の村田勘市は 知り合いの女性画家が殺されている現場に出くわしてしまった。 第一発見者となってしまったのだ。その時から村田勘市の「恐怖」は始まる。 第一発見者は容疑者と疑われると言う恐怖。次に全国的に名の知れた 建築評論家が殺されると、どうやら犯人はこの界隈の文化人を皆殺しにするんじゃないか、 自分も殺されるんじゃないかと言う恐怖。そして、同じように怖がっている人が ついには恐怖のあまりに自殺してしまう。死が自分に近づいてくる恐怖。
主人公の恐怖におののく内面を克明に描いた(怖がる人をはたから見ていると 滑稽でおかしいものです)意欲作。でも、最近のものでは 「わたしのグランパ」のほうが面白かったかな。



ミス・キャスト 講談社   林真理子

男特有の身勝手なかんがえ方、価値観を全女性を代表して林真理子が 糾弾していると思われる。(笑)矢面に立たされたのはこの物語の主人公原岡である。(少し気の毒) 特別ハンサムでもないのになぜかもてまくる男。「男の浮気と女の浮気は違うのだ!」 と、いまどき誰も言わないような(きっと言わないと思う!!)古臭い理念を持ち 、女性から見れば愚にもつかない、許せない行動の数々。
その原岡に林真理子の鉄拳の制裁がくだるか???????
でも、どこかにほんのすこし持っている「結婚したら人を好きになってはいけないの?」と 言う素朴な疑問に答えが出るかもしれない、そんな一冊。林真理子はやめられない。



ジャンヌ・ダルクの生涯  講談社   藤本ひとみ

幼いときから神の声を聞き、その声にしたがってイギリス軍と戦い抜き オルレアンという町を救った奇跡のおとめ。フランスでいちばん有名な処女である。 その生涯は、異端の汚名を着せられ火あぶりの刑で終わってしまった。 どうして、たかだか17や18の田舎娘に軍を率いて勝利する事ができたのか? そもそも神の声は本当に聞こえたのか? 奇跡はあったのか? 現実主義の作者がするどい洞察力と、持ち前の想像力と、豊かな知識を駆使して その生涯を分析する。時にはごく個人的感情や、辛らつなユーモアを交えて。。 時の勢力の狡猾さ無情さと、ジャンヌの崇高でひたむきな精神とが あまりにもかけ離れているのがとても印象的でした。



PINK   柴田よしき

ただタイトルに惹かれて読んだのだけど、かなりよかった。。!! 最愛の夫がある日突然ぜんぜん違う人間のように感じるところから物語りはスタートする。 夫が変わってしまったのと時を同じくして、おかしなメールが届く。 ”そろそろ時間切れです。心の準備をしてください。” メイは常連のチャットルームでその事と関係のあるらしいことを聞き 元の夫を取り戻そうとするが、なんと夫が殺人事件の容疑者に。。。。 随所でメイに絡んでくるキーワード”PINK”の謎。 事実はどこにあるのか?それを探す事は、メイが生きることと真正面から向かい合う作業だった。 震災で傷つかなかったものはいない。 だけど自分は今生きていると言う事に気づいていくメイの姿が読むものの心を打ちます。 最後は感動の涙でした。 おすすめです!!!