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2001年こんな本読んでます page 5



光と影の誘惑 貫井徳郎 

表題作を含む 4編の短編集。
まず、表題作の「光と影の誘惑」について。賭け事が止められないある銀行員が競馬場で知り合った男に 持ちかけられた話とは、銀行のお金を奪う話だった。「じつは」と言う部分が、意表をついており、 表題になるのも納得の作品だった。
「孤独な誘拐者」著者さん、誘拐モノがお好きなのですね。 これも、タイトルどおり誘拐のミステリー。この前に読んだ「誘拐症候群」を読んでいれば なんとなくネタばれの感はあるけれど、ストーリー的には楽しめた。
「わが母が教えたまいし歌」これは、この本の中で私が一番面白かった作品。 ひょっとして、そうかな?という、ラストではあったけれどちょっと鳥肌ものの 不気味さがあり、読み応えのある作品だった。
全体的に見ても 短編集としてはまあまあ楽しめた作品だと思う。




崩れる  貫井徳郎  集英社

サブタイトル:結婚にまつわる八つの風景:
夫や妻に不信感を抱いたり、結婚生活が破綻したりするのはきっと、ホンの些細な事の積み重ね・・。 ほんの少し 言葉が足りなかったり、ほんの少し馴れ合いが過ぎたり・・。 それがミステリーのような事件を呼ぶこともある。 日常の中にその種がいくつも散らばっていると言う怖さがきっちり描かれていた。 短編集としてはタイトルのつけ方と言い、短さと言い、短い中にあるキレといい、申し分ないのでは? 普通1冊中に8作品もあると、正直飽きてしまうのだけど、この本に関しては飽きさせることなく 最後までイッキ読み。短編集ながら長編と同じくらい引きつけられた。




交通警察の夜  東野圭吾   実業之日本社

文字通り、交通事故に関する連作短編集。わりと前の作品のようだけど、相変わらずキレのよい作品ばかりだ。 というより、このころの作品の方が本当は好きかも・・。
「天使の耳」耳が聞こえない少女が、 事故でなくなった兄の身の潔白を証明しようと素晴らしい才能を発揮するが・・? うーん、こんな短編を読みたいんだよ、と言いたくなるような「ストン」と落ちるラスト。 ただでは終わらせないよ、という東野圭吾さんのひねりが効いてます。
「鏡の中で」マラソン選手が起こした事故は、スリップ痕と、事故の状況がどうにも一致せず、頭を抱える捜査陣。 スポーツ界といえば東野圭吾氏お得意分野。今回も東野圭吾さんらしいちょっぴり哀愁漂う ラストです。
「捨てないで」不倫カップルが高速道路を走行中に、なんと窓から空き缶を投げ捨てた!! その空き缶は巡り巡って・・?これぞミステリー、と言いたくなるような、交通事故はおまけについてる感じの、 ミステリー仕立て。天網恢恢租にして洩らさず!!←字合ってる?ミステリーにこれが加わると 小気味がいいんだよね。(他2編いずれも秀作)




失恋   鷺沢萠  実業之日本社 

この人の本は初めて読んだのです。失恋をテーマにした4つの作品集。 トップ「欲望」短編と言うよりは中篇と言ったほうがいい長さ。 ひそかに思いを寄せる同級生は、別の同級生と結婚。しかし、夫はいつの間にか 借金地獄に落ちていた。「ひとがひとを救いたかったり、信じたかったりするのは どれも自分勝手な『欲望』に過ぎないのではないか・・。」と、苦悩する 同級生の妻と主人公の二人。淡々とした文章の中に、主人公の切ない気持ちが こめられていて、痛いほど伝わってきました。
「安い涙」20年間たった一人で、都会で生き抜いてきた女主人公。 安い涙、の意味がわかると、同じ女性として怒りを覚えるほどでした。 ただ、ラストのタクシーの運転手の言葉でこの主人公はまた生きる気力を取り戻すのだけど、 その場面は感動的で思わずジーンとしてしまいます。(他2編)




夜啼きの森 岩井志麻子   角川書店 

昭和13年、岡山県下で起きた大量殺人事件。横溝正史の「八つ墓村」のモデルとなった事件と言えば ご存知の方も多いと思う。まれに見る猟奇殺人事件で、これを題材にした小説もいくつかすでにある。 作者は岡山出身で、事件に対する生の声をふるさとの老人たちから聞いたりしていたそうだ。 そのことがこの小説を今までのそういう類のものとはひと味もふた味も違うものにしている。
主人公は犯人ではない。殺される人たちの側からの視点で犯人の行動を捉えている。 この村は夜這いの盛んな淫靡な雰囲気の村で、人はみな鬱屈したものを抱え、 暗い森を村にも自身の中にも持ちながら単調な生活をしていた。 そのなかで犯人となる青年糸井辰男がどのように捉えられていたのか、 自分の生活にどうかかわっていたのか、独特の暗い陰気な筆使いで物語が進行していく。
ちなみに、この事件を扱った小説でわたしが読んだ物は西村望の「丑みつの村」だけど、 これもまた忘れ難く恐ろしい話だった。また漫画だけど山岸涼子の作品にもある。 こちらはフィクション色はすくなく事実に忠実に事件を描いてあるような印象だった。 ところがタイトルは今は不明・・m(。−_−。)m申し訳ありません。




十二番目の天使  オグ・マンディーノ ■訳:坂本貢一 求龍堂

その町の名士である ある男性が突然最愛の妻子を同時に失う所から物語は始まる。 失意のため生きる希望を失い まさに生ける屍となって毎日のように死ぬ事を考えていたこの男性が リトルリーグの監督を引き受け(させられ)ある少年と出合った事で、再び生きる希望を見つけていく。 絵に書いたようなストーリー展開だけど、男性の悲しみ、少年のひたむきさがとても気持ちよく読者を包み込んでくれる。 諦めるな!!と、野球場に響く声が聞こえてきそう、一生懸命にボールを追う少年のぎこちない動きが まぶたに浮かびそう。悲しい中にも生きる事の美しさが見えてくる そんな作品だ。




夏の滴   桐生祐狩  角川書店

ホラーだ・・。本物の。物語は5年前の事を振り返った回想という形。 舞台になるのは主人公たちが小学校の4年生の時の事。急に一家ぐるみでいなくなる家族が ちらほらとでてきて、それと引き換えに周りの大人たちの羽振りがよくなってきた。そのことに疑問を抱いた主人公たちが真実を突き止めていく。 ボロ雑巾のように扱われるといういじめを受けている八重垣と言う少女が持ってきた「植物占い」の本が、大きなキーワードとなって いっそうの不思議さを加味している。
怖かったのは 町を支配する秘密。そしてもうひとつ。 自分たちよりも劣ったもの、自分たちが異分子だと決め付けたものを差別したり排除したりする事に 何の抵抗も感じず、当然と思うどころか、あまつさえ自分たちを不愉快にさせる相手の責任だという 勝手な理屈が浸透している 主人公のクラスの雰囲気だ。
一皮向けば人はみなエゴの塊なのかもしれない。
人間に対する価値観が根っこから崩れていく・・そんな怖さがこの物語には含まれているように感じた。 それにしても、主人公たちが4年生の割には 京極夏彦が愛読書だったり、パソコン通信で難しい会話をしてみたり 、話の内容が高度で、年齢的な設定に無理があるんじゃないのかな。 実際の4年生ってもっともっと子供っぽいと思うけど。




摸倣犯   宮部みゆき  小学館

長かった!!けど、あっという間に読んでしまった。
すごくたくさんの登場人物の、それぞれの背景が丁寧にきっちりと描かれている事によって、 物語が現実味を帯びて、まるで本当の事件のルポでも読んでいるかのような錯覚すら覚えた。
それぞれのエピソードは無駄がなく、それ以前に出てきた部分の「裏」だったり、 やがて出てくる場面の伏線であったりする。
今の世の中は実際にこんな事件が起きても何にもおかしくない世の中だ。 自分がこんな事件にあったらどうするんだろう。そんな心配をするわたしの一番印象に残った人物は やはり、豆腐屋の「有馬義男」だろう。ストーリーの中心人物の一人でもある。 こんなに酷い目にあっても自分を見失わず、冷静で賢く思いやりもある立派な人物だ。 全編通してずっと、じぶんをしっかりと持っていたこの人が、ラストで取り乱すシーンは 感無量。「泣いてください」と、言いたくなった。無人の豆腐屋の描写も、寂しい様子が目に浮かぶようで 泣けた。
両親を猟奇事件で失った 真一やそのGFの水野美紀の苦しみながらもお互いを 理解しようとする健気さ、それを追いまわす樋口めぐみのエゴのひどさ、 ルポライターの前畑滋子、お人よしが悲しいほどの蕎麦屋の息子カズとその妹由美子 疲れ果てた刑事たち そしてなんといっても ヒロミとピース。
みんなとっても生き生きと描かれていて、わたしは本気で同情したり気の毒がったり、 腹を立てたり むかついたり そして泣いたりした。
長いといえど 最後は一気読み。そうせずにはいられない魅力あるストーリーだった。




誘拐症候群  貫井徳郎   双葉社

まったく違うふたつの事件がこの作品の中で起こる。 ひとつは ただのティッシュ配りの男の生まれたばかりの子供が誘拐されるという事件。 偶然知り合いになった虚無僧の武藤が身代金受け渡し人に指定された。 赤ちゃんは無事に戻るのか?
もうひとつの事件とは・・
咲子は寝たきりの母を介護するだけの毎日。友人もなく孤独な日々が、 インターネットのパソコン通信を始めてから、少しづつ変わってきていた。 「ジーニアス」というHNの相手にほのかな思いを抱いたからだ。 咲子はその ジーニアスという人間から、ある依頼を受けていた。 玩具モニターとして子供を預かるから、その子供の世話をしてほしい・・ というものである。その、ジーニアスの依頼の後ろには驚くべき犯罪がかくされていた。
作者の本を読んだのは初めてだった。わたしの好みのタイプの推理小説で○!! 小口誘拐というさもありそうな発想がなかなか斬新に感じてよかったが、 ↑の「摸倣犯」を読み終えたあとだったので、犯罪自体が小さく感じ (犯罪は大きくない方がいいのだけど、読物としては)迫力にかけた気がした。 でも、ネットというとっても身近な題材にはさすがにドキッとさせられる。 インターネットによって個人的な情報公開をすることの、無防備さへの警告を感じて、 怖くなってしまった。自分のページの写真なども子供の顔写真は止めようと思った。




孤独の歌声  天童荒太   新潮文庫

女性刑事 朝山風希と、ボーカル志望でコンビニアルバイトの芳川潤平。 どちらも暗い過去を持ち 特に朝山風希はいまでもそれが原因のトラウマに苦しんでいる。 ふたりはコンビニ強盗事件がきっかけで知り合うが、世間では一人暮らしの女性ばかりが被害に会う 凄惨な連続殺人事件が起きていた。 事件の背景にある犯人の心の闇と、現代人の孤独と、風希と潤平の抱えるトラウマを 軸にして物語りが進行する。一人暮らしの女性が失踪しても、だれも気に止めない。 恋人でもいない限り気づいてくれる人間がいないのだ。 事件に巻き込まれたとしても分らずに、捜索願がだされた時には時遅しで、無残な姿に変わっている・・ なんて、いかにも本当の話のようだし、都会での隣近所との付き合いの希薄さは独身なら当然だろうが、 現代の抱える問題点をこの作品に見たような気がした。


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