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2001年こんな本読んでます page 7



蒼穹の昴   浅田次郎   講談社 

清朝末期の中国を舞台に、動乱の中で果敢に生き抜く若者たちを描いた感動の巨編!!
壮大なスケールで圧倒される。登場人物の多さもさることながら、冒頭に出てくる主人公の一人である史了が受ける試験の難しさ、それに上は皇族から下は糞拾いまで(もう一人の主人公、春児が糞拾いなのだ)の身分の上下の差、あるいは貧富の差。こんな事は日本にもあったと思うけど広大な中国では日本のどんなものよりもばかでかく感じる。
宦官と言う立場もまたく不思議。男性が○○をちょん切ってしまうのである。
なにゆえ?後宮に仕えるというのになぜ切らなくてはならないのか??まったくの謎だ。忠誠の証だろうか?それにしても・・・
前半は、主人公たちの立身出世を軸に、後半は清朝の末期を歴史物語的に描いてあるのだが、特にヨーロッパ各国とわが日本に侵食されていく悲しい清朝の運命を宇宙的視野で見つめる。
香港がイギリス領になる瞬間も、臨場感豊かに描かれていたので、99年の時を経て中国に返還される瞬間も見たのだから、すっかり感慨に浸ってしまいそうだった。
当時の立役者、李鴻章がかっこよかったし、西太后もかなり魅力的に描いてある。上手いのは文語調と口語調の使い分けで、建てまえを喋らせる時は文語調、本音を喋らせる時は口語調。本音を切実に話すとき感動して泣かせられた。長いけれどそれなりに読み応えがあった。いわば、中国版「ベルばら」と言えるかも。




13階段   高野和明 講談社 

よくぞここまでわたしたちの知らなかったことを書いてくれました!!と言う感じ。未知の世界を垣間見る事ができてとても興味深かった。
死刑囚の冤罪(かどうかは実ははっきりしない)を晴らすために活躍する、元刑務官の南郷。ここが一番読者としては大切なのだけど、「なぜ?どうしてそこまでするの?その情熱がどこから来るの?」と言う疑問に、強力な説得力でもって答えてあり、またその理由が描かれている章はそれだけで一遍の小説になりうるくらいの迫力と感動だった。
コンビを組む元服役者の純一も、機転が利き洞察力もあり多感な好青年で、南郷と息が合っているところやお互いを思いやるのがいい感じ。小さな場面だけど、南郷の兄もかっこいいね!
日本の裁判や法の抱える矛盾や疑問を提示しつつ本当に正義を行うのは法なのか人なのか、教育目的の刑か、応報目的の刑か、そもそも刑とは何かを深く問い掛けてくる。
自分で死刑を求刑しておきながら、南郷たちに何くれと協力する中森検事の「わたしは正義が行われるのが見たい」と言った一言がとても印象的だった。




虚貌   雫井脩介  幻冬舎

本筋への導入となる事件(これがすごく凄惨な事件で、関わる男たちの気持ちの荒廃ぶりもまたすさまじい)が起きるまでは、かなり読者を引き込む。そこまでの主眼だった「荒」と言う男が、どうという大きな理由もなく成り行きで事件に引き込まれていかざるを得ない様子がおかしくもあり恐ろしくもあり、気の毒にすら思えるのだ。
だから、この男が事件の後で主眼から外れ、主人公が刑事やその他の人間に移っていくと、「荒はどうしたの?」という欲求不満が起きた。そしてそれは最後まで続くのだ。
主眼が2つも3つもある割には、わたしが本当に知りたい人に焦点が合っておらずもどかしいままラストを迎えた。
小説の真のテーマはタイトルの「虚貌」ということばどおり、「わたしが信じているその人の顔は、本当の顔なのか?」というものだと思うのだが・・・。
実際にこの目で確かめてみなければ納得できないものがトリックに使われていて、わたしとしては大いに疑問が残りかなり消化不良だった気がする。




天使の屍   貫井徳郎  角川書店

中学2年生の息子に転落死された父親がその死に疑問を抱いて真実を求めていく話だけど、最初から最後までかなりキツイ感じだった。
この小説と同じく、思春期の子供(特に男の子)を持つ親なら、だれでもそう感じるのではないだろうか。子供の死、ドラッグ・・・そして・・・。
とにかく救いがない。あるとすれば、親を思う子供の気持ちとでも言うべきなのだろうけれど、そこに行き違いがあると居たたまれない気持ちになる。作者の言うところの「子供の論理」がそうさせたとしても、やはり居たたまれない。
ただしミステリーとして読むなら、最後の方ではっとさせられるあたり、けっこう秀作だと思うが。





変身   東野圭吾  講談社文庫

世界的にも例を見ない「脳の移植手術」それによってもたらされたものは、幸か不幸か・・・?
ある意味「アルジャーノンに花束を」を髣髴とさせられる。主人公が変貌していく様子が上手く描かれていて、ひきこまれる。
どこまでも主人公の事を思いつづける恋人の存在も感動的だ。
実験台にさせられた主人公の戸惑いと怒りを通して、医学の進歩に警鐘を鳴らしているような感じのシビアでシリアスな作品になっている。 なにより医学的な難しい事柄を、わたしみたいな「理科系音痴」にもわかりやすく描いてあるのがいいと思う。こういう作品で東野圭吾ファンになった人も多いと思う。




深い河   遠藤秀作  講談社文庫

妻をガンで無くした磯部。妻はなくなる前に「生まれ変わるから探してください」と、言い残す。
美津子は二面性のある女性。ボランティアで病人の介護をする反面、心の中には悪意を持っていたりする。過去には大津と言う神父志望のまじめな学生をもてあそんで棄てた経験をもつ。
木口はビルマ戦線の生き残りだ。死屍累々と横たわる仲間の死体を掻き分けるようにして、またマラリアにかかりながらも生還したが、心に深い傷を持っていた。
それらの人がインドのガンジス川のほとりで触れ合いながらそれぞれの思いを癒そうとする。
カトリックの作者が、西洋の既成カトリックの考えに異議を唱え、仏教思想との融合に至ったかのような印象を受ける。
美津子がもてあそんだ大津の生き方を通して、カトリック、宗教のあり方を問う。




レヴォリューションNO.3    金城一紀  講談社

「偏差値が脳死と判定されてしまう血圧値しかない」高校の男の子たち、名づけて「ゾンビーズ」の冒険譚。登場する男の子達がとってもさわやか・・とは言いがたいはずなのに、やはりさわやかと言わざるを得ない。気持ちがさわやかなんだろうね。この男の子たちのする事に、声を出して応援したくなる。
物語の中心になるのはお嬢様学校の学園祭に突入する、ということなんだけど、それに付随して作者持ち前の「DNA諭」などでてくるあたり、やはり「GO」の前身なんだな〜。
「GO」の作者が「小説現代」の新人賞を取った作品と言えば、もうそれだけで充分!笑いと涙と切なさのギュッと詰まったすてきな物語を、独特のかっこいいタッチで読ませてくれる!
かっこいいよ!金城さま♪




鬼子   新堂冬樹  幻冬舎

まったく売れない作家の袴田。こんな文章ではわたしだって読まないよ!ッて言うくらい陳腐で気恥ずかしい文章だ。そのユーモラスから一転してシリアスになるのは息子の浩の登場から・・・。息をもつかせぬ急ピッチで家庭内暴力が描かれている。このあたりの描写は、作者のほかの作品にも色濃く出ているのだが、ここでも「これでもかっ!!」と言うくらいすさまじい描写なので、この場合同じ年頃の子供を持つわたしとしては正視できないものがあった。
ストーリー展開としては、意外性に富んでいると思う。最後まで読むとはっとさせられるようなラストが待っている。人物像もそれぞれ個性的で、特に編集者の芝野がよかった。こんなに憎たらしいキャラクターはそうはお目にかかれないと思う。こういう登場人物を描けるのも作者ならではだと思う。




白馬山荘殺人事件   東野圭吾

まだまだ若かりし日の東野圭吾さんの作品。このころは本格推理小説を書こうと思っておられたのだろうか・・。
これをいっちゃあおしまい!!ミステリ好きの方々から糾弾受けるのを覚悟の上であえて言わせていただけば、トリックが凝ってる割には殺人の動機がたいした事なかったりってことアリマセン?
そんなことする前に殺し屋さんでも雇った方が早いんじゃないの?
あ・・・禁句?やはり?(苦笑)ごめんなさい!!




プリズンホテル   浅田次郎

冒頭すごく嫌な作家が出てきて、しかもそれが第1人称で物語が進むので、「え?この視点にあわせないといけないの?」と、げんなりしつつ読んだら、溜飲が下がる構成になっており、しかもホテルのなかの面々が怖さが伝わってくるのに 憎めない人たちばかりで、笑いながらも心が温かくなるような物語だった。
作家が最後に心のうちを明かすのだが、その部分は涙!!
まさに笑いあり涙ありの一冊。オススメです。




プリズンホテル 春    浅田次郎

文庫ではシリーズ第1作には「夏」とついているので、第2冊は「秋」だと察しが着くのだけれど、図書館で借りたハードカバーには第一作はただの「プリズンホテル」だったので、2作目の見当がつかず深く考えもせずに「春」を借りた。結果、「春」は最終章だった。
ちょっと悔やまれるが、「春」は「夏」以上の感動だった。
ホテルという小さな限られた舞台の中で、よくまあ次々に登場人物や事件が不自然でなく沸いてくるものだと感心する。
一番最初にあれだけ嫌なやつだった作家が、最後には抱きしめたくなる(そこまでは行かなくても)くらいに切なさを秘めた存在になっている。








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